サルキアとランのティータイム(1)
その日、王城敷地内の庭で、サルキアとランはティータイムを楽しんでいた。
穏やかな空に見守られながら同じ時を過ごす両者の間に壁はない。
王の妻と王の妹、言葉にすれば少しばかり複雑そうな関係でも、彼女たちの間には今も確かな絆が存在している。
ティータイムのお世話をしているのはランの侍女アイリーン。
彼女は非常に器用な人物だ、それゆえ、テーブル周りの用事のほぼすべてを一人でこなしている。
サルキアの後ろには彼女の夫でもあるアンダーが立っているが、あくまで護衛のような役割だ。そのためティータイムのお世話には参加しない。サルキアの背中がちょうど真っ直ぐ見える位置にある一本の柱にもたれかかるようにしながら立っている。あまりやる気がないような立ち方をしているが、一方で、その双眸には以前と変わらない鋭さが宿っている。
「それでですねっ、わたくし、次回の全国医務官集会にて開会の挨拶を任されたのです!」
限りなく白に近い水色のドレスをまとったランは嬉しそうに話し出す。
サルキアが「準備は順調ですか?」と問えば、ランはさらに嬉しげな面持ちになり「はい……! 実は内容はもうできているんです。今はそれをきちんと話せるように練習しているところで……」と楽しそうに明かした。
それに対しサルキアはティーカップを僅かに傾けた後に「そうなのですね、頑張ってください」と落ち着きのある声で返す。
やがてサルキアのティーカップが空になったことに気づくと、アイリーンは速やかに紅茶を注ぎ足した。
特別な種類の茶葉で淹れられた紅茶から立ちのぼる果物のような甘い香りは、辺りの空気をそれ一色に染め上げる。
「それにしても良い香りですね」
サルキアがふと思い立ってアイリーンに話しかけると。
「輸入した茶葉を使っております」
「南の方の果物に似た香りです」
「まさにその通りで、こちらの茶葉も南の方に位置する国から輸入したものであると聞いております」
柔らかくもどこか淡々とした喋り方をするアイリーンにうっすらと微笑みかけながら、サルキアは「では、その国特有の香りなのかもしれませんね」と会話を締めくくった。
「このタルトも美味しいです……!」
「ラン様、こぼされないよう」
「……はっ。そ、そうですよね。喋らず、落ち着いて、慎重に食べます」
言葉を交わす三人を少し離れたところから眺めているアンダーは時折退屈そうにあくびをしていた。
「気を抜くとこぼしてしまいそうで少しドキドキします……」
ランが改めてタルトを口へ運ぼうとしたその瞬間。
テーブルの傍にいたアイリーンと柱の傍に待機しているアンダーがほぼ同時に同じ方向へ目をやった。
「どうされました?」
異変に気づいたサルキアが尋ねる。
しかし返事はなかった。
アイリーンは誰の姿もない場所へ視線を向けたまま、テーブルの上に置かれていた銀色のお盆を手に取る。
その面には警戒心が濃く滲んでいて。
表情そのものはそれほど揺れておらず落ち着いているが、そこには、最大の緊迫感が静かに宿っていた。
――次の瞬間、金属がぶつかり合うような音が響く。
姿の見えない何者かの攻撃をアイリーンはお盆で防いだ。
それが鋭い音の正体だった。
「ッ……やはり」
タルトを頬張っていたランは驚きのあまり手にしていたフォークを落としてしまっていた。




