第一章 09 『曙光』
─『第三章を開始します』─
無機質なシステム音声が頭上から響き渡り、劇場の照明が、ゆっくりと、しかし確実な意志を持って落ちていく。
さっきまで空間を揺るがしていた割れんばかりの拍手は、もうどこにもない。数千の観客席も、まるで最初から誰もいなかったかのように静まり返っている。
いや、違う。誰もいないのではない。闇の中に潜む何かが、確実に俺を“見ている”。何もいないはずの暗闇の奥、その無数の輪郭から、刺すような視線だけがこちらへ向けられていた。
じっとりと嫌な寒気が背筋を駆け抜ける。第二章までとは明らかに空気が違っていた。もっと重く、もっと冷たい。まるで、この不気味な劇場そのものが、侵入者である俺を断罪し、裁こうと判決を下しにきているみたいだった。
そして、不意に。
舞台の中央、再び一本のスポットライトが撃ち抜かれたその場所に、道化師が静かに現れる。
白黒の仮面。だが今度は、これまで見せていた滑稽な狂気の笑みは一切なく、ただただ冷徹に、笑っていなかった。
『――問おう』
低く、地を這うような声が劇場に響く。
『お前は、“後悔”を持つか?』
「……後悔?」
唐突に突きつけられた抽象的な問いに、俺は意味が分からず眉をひそめる。
すると、道化師は感情の失せた動作で、ゆっくりこちらへ細い指を向けた。
『七年前』
その言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ね上がり、胸の奥がざわついた。
七年前? なんだそれ。俺が後悔するようなことなんて――。
『……忘れているのか』
道化師が、憐れむように小さく呟く。
『ならば、思い出させてやろう』
次の瞬間。
ズキンッ――!!
「っ……!?」
割れるような激痛が頭に走った。脳味噌を直接、冷たい金属のヘラで無理矢理掻き回されるみたいな凶悪な痛み。視界がグニャリと揺れ、足元がおぼつかなくなる。立っていられない。
「な、に……っ!」
何をした!? 今、一瞬で、脳のロックが――。
『思い出せ』
道化師の声が、遠くから響く。
『貴様の“後悔”を』
その呪詛のような言葉を最後に、俺の意識は、底のない暗い闇へと沈んでいった。
──────────────────
パチッ。
乾いた何かが爆ぜる音が、鼓膜のすぐ傍で聞こえた。
熱い。空気が薄く、息が苦しい。俺は重い瞼をゆっくりと開けた。
「……っ」
そこに広がっていたのは、見慣れた劇場ではなかった。一面の、焼け野原だった。
激しく崩れた民家。骨組みだけになりながらも赤黒く燃え続ける木材。天を覆い尽くすような濃厚な黒煙。
そして、その地獄の底から響いてくる、無数の助けを求める人々の声。
「たす、け……」
「誰か……! 誰か、中に……!」
耳を塞ぎたくなるような悲鳴が、直に脳へと刺さる。焦げ臭い匂いが鼻腔を満たし、立ち上る熱気で喉が焼けるように痛む。
「なんだ……これ……」
ガタガタと震える声で呟く。すると、すぐ隣から何の気配もなく声がした。
『何を言う』
見れば、炎の中に道化師が立っていた。燃え盛る火柱に囲まれながら、まるで最初からそこに馴染んでいたみたいに。
『貴様が、かつてその身で経験したことではないか』
「……は?」
意味が分からない。こんな地獄のような景色、俺の記憶には――。
ズキンッ!!
再び、脳髄を貫くような頭痛が走る。その瞬間、脳裏の引き出しが乱暴にこじ開けられ、断片的な映像が濁流のように流れ込んできた。
燃える家。響き渡る泣き声。肌を焼く熱。視界を遮る煙。
そして、その中を必死に、ただ必死に走る、一人の小さな子供の姿。
「……俺?」
そこにいたのは、紛れもない、幼い頃の俺だった。
キィィン――……
鋭い耳鳴りがする。いや、違う。これは耳鳴りじゃない。これは、俺の――。
「……思い出した」
忘れていたんじゃない。違う。あまりの恐ろしさと罪悪感に耐えかねて、幼い俺自身が“蓋をしていた”のだ。二度と、思い出さないように。
──────────────────
それは、俺がまだ九歳の頃の話だった。
あの日、俺は友達の家で遊んだ帰りだった。突然、大音響とともに火事が起きた。出火の原因は今でも知らない。だが、友人の家から出た火は、強風に煽られて一瞬で周囲の木造住宅へ燃え移っていった。
圧倒的に運が悪かった。俺の家はそのすぐ隣だった。
炎は瞬く間にこちらの壁へと迫ってきた。その時、家の中には、留守番をしていた俺しかいなかった。
怖かった。肌を焦がす熱がすぐそこまで来ていた。このままでは死ぬと、本能が叫んでいた。
だから。
俺は、逃げた。
助けを呼ぶため。自分が生き残るために。
背後や周囲の崩れる家々から聞こえてくる、数多の声を無視して。
「助けて!」
「お願い、誰か!」
「誰か――!」
その、泣き叫ぶ声から必死に耳を塞いで、俺はただ、走った。
前だけを見て、走って、走って、走って。
そして、火災の熱風と煙に巻かれ、住宅街の途中で力尽きた。
次に気付いた時には、白い天井の病院のベッドの上だった。
俺は運良く、発見されて助かったらしい。
けど。俺の周囲の結末は、まるで違っていた。
一緒に遊んでいた友人を含め。
あの火災で、近隣住民、およそ五十人が命を落とした。
もし。
俺が途中で、あの声に足を止めて誰かを助けていたら。
もし。
恐怖に竦まず、少しでも冷静に動けていたら。
何人かは、助かったのかもしれない。
俺は、他人を見捨てて、自分だけ助かろうとして逃げたんだ。
──────────────────
『思い出したか?』
道化師の冷徹な声で、俺の意識は強引に現実へと引き戻された。
気付けば、俺は再び劇場の、あの冷たい舞台の上に立っていた。
「……ああ」
口の中がカラカラに渇いていた。嫌な汗が、背中を冷たく伝っていく。
道化師は静かに、その仮面の奥から俺を見つめていた。
『では問おう。貴様の“眼”には、あの景色がどう映った?』
眼。恐らく、俺が持つ固有技能『演算眼』のことだろう。
つまり、この眼を持った今の俺なら、あの過去に対して“別の未来”が見えたか。そういう意味だ。
「……助けられた」
俺は、乾いた喉からゆっくりと口を開く。
「あの状況、あのパラメータ……なら、別の行動を取ってれば、少なくとも一人……多くて二人は、確実に助け出せた確率が存在した」
皮肉なことに、演算眼はその最悪の可能性を正確に理解してしまう。
あり得たはずの可能性を。生き残れたはずの確率を。“助けられた未来”の道筋を。
だからこそ、今の俺にはそれが余計に苦しかった。
「……胸糞悪い試練だな」
思わず口から漏れた、本音の呪詛。
すると、道化師はゆっくりと、どこか深く納得したように頷いた。
『そうか』
『ならば』
道化師が、一歩前へ出る。
その細い手には、いつの間にか一振りの細剣が握られていた。
白銀の美しい刃。それが劇場の深紅の照明を受け、まるで凍りついた血のように冷たく光る。
『死ぬがいい』
「――っ!?」
瞬間。俺の視界から、道化師の姿が完全に消えた。
速い。演算眼の処理が、その初動の確率を弾き出すよりも遥かに先に。
ズドッ――!!
「がっ……!?」
「死ぬがいい――」
道化師の細剣が、一切の躊躇なく、一直線に俺の喉元へ向けて突き出される。
眼球がその軌道を捉えきるよりも早く、空気を裂く鋭い風切り音が鼓膜を叩いた。速い。先ほど腹部を貫かれた絶望的なまでの速度が、今度は俺の命の灯火を直接刈り取りにきている。
だが。
「っ!」
俺は恐怖で麻痺しかけていた全身の神経を力任せに怒号で叩き起こし、咄嗟に上体を斜め後ろへと捻りながら、道化師の出現とともに近くに散らばった剣の古い柄を握り締めた右手でその銀閃を受け流した。
キィンッ――!!
硬質な、そしてどこか悲鳴に似た高い金属音が劇場の空間に激しく木霊する。
だが、レベル1の貧弱なアバター(肉体)の筋力では、その一撃の威力を完全に殺しきることはできなかった。受け流したはずの刃の軌道がわずかにブレ、鋭利な切っ先が俺の左肩の肉を浅く掠め抜けていく。
「ぐっ……!」
焼けるような熱い痛みが走り、制服の生地が裂けてジワリと赤黒い血が滲み出した。
すると。目の前に立つ道化師が、その白黒の仮面の奥にある眉を不快そうに歪め、冷徹な視線をこちらへと注いできた。
『何故、潔く死なない? 己の罪深さを知り、後悔に胸を締め付けられながらも、何故そこまで醜く生に執着するのだ』
「……逆に、一つ聞いていいか?」
俺は左手で痛む肩を強く押さえ、傷口から溢れる熱を指先で感じながらも、視線だけは決して逸らさずに真っ向から奴を睨み返した。
「なんで、俺がここで大人しく死ななきゃいけないんだ?」
その問いかけに対し、道化師はしばらくの沈黙ののち、仮面の奥で低く、愉悦を孕んだ声で嗤った。その笑みは、この遺跡に入ってから向けられたどの敵意よりも冷たく、容赦のないものだった。
『救えたはずの命があった。その可能性をその“眼”で理解していながら、貴様は誰も救わなかった。それでいて、自らの罪を償おうともせず、ただ生き延びることだけを考えている。そんな身勝手な愚か者は、この高潔なる“劇場”の舞台に立つ資格などない』
道化師が腕を広げると、その声が増幅され、劇場の全方位から降るように響き渡る。
『どうせ貴様は、これから先もまた同じことを繰り返す。恐怖に怯え、独りよがりの保身のために、他者を見捨てて逃げ続ける。ならば、これ以上醜態を晒す前に、今ここで先に死んでいた方が世界のためではないか?』
「……なるほどな。お前の言う理屈は、システムとしては完璧に通ってるよ」
過去の俺は、あの火災の地獄の中で、誰かを救えたかもしれないポテンシャルを持っていた。だが、結果として恐怖に負けて逃げ出し、多くの人が死んだ。お前はそれを根拠に、俺がこれから先も“また同じ過ちを繰り返す”と、そう断定して俺の存在そのものを否定しているわけだ。
「でもな」
俺は痛む脚に力を込め、ゆっくりと、しかし確実にその場に立ち上がる。
こんな理不尽な断罪。こんな絶望的な問いかけ。
現実の世界でも、画面の向こう側の物語でも、昔から何度も何度も擦り切れるほど語られてきた話だ。後悔、罪、贖罪。どれもこれも、テンプレート(ありきたり)な絶望だ。
だからこそ。
その絶望に対する答えだって、きっと昔から、何一つとして変わらない。
「過去は、もうどれだけ足掻いたって変えられない。俺があの日逃げ出した事実も、失われた命も、システム的に巻き戻すことなんて不可能なんだ」
俺は剣の切っ先を床へと向けたまま、道化師の仮面をまっすぐに見据える。
「だったら、もう終わった過去の重さに押し潰されて消えるんじゃなくて……その消えない過去を、罪を全部背負ったままで、これから先『どう生きていくか』の方が、遥かに大事だろ」
沈黙。
その言葉が劇場の空間に溶けていった瞬間、すべての音が再び消失した。
数秒の静寂ののち、道化師が、肩を微かに揺らして小さく笑った。
『……フ。実に見事な、往生際の悪い屁理屈だな』
「かもな。自分でもそう思うよ」
『だが――』
道化師が、その細剣を再び胸元へと美しく構え直す。
その瞬間。劇場の空間そのものが、まるで見えない巨大な圧力を受けたかのように、パキン、パキンと不穏な音を立てて崩壊を始めた。赤黒い絨毯も、豪華な観客席も、まるで硝子の細工のようにひび割れ、世界が粉々に割れて剥がれ落ちていく。
『ならば、言葉ではなくその命で証明してみせろ! この俺に打ち勝ち、運命の舞台の上で、最高の“道化”として踊ってみせろ!!』
視界が急激に歪み、景色が一変した。
気がつけば、俺の足元は乾いた絨毯ではなく、どこまでも平坦に広がる静かな水面へと変わっていた。鏡のように波一つ立たない、冷たい水。頭上に広がる空は、永遠の光を放つ青色の空。。
そして、その周囲の果てのない空間には、文字盤の割れた巨大な時計塔の残骸、崩落した城の瓦礫、赤錆びて折れ曲がった無数の武器、そして、かつて誰かが綴ったであろう焼け焦げた本が、まるで墓標のようにいくつも突き刺さっていた。
世界の終わり、あるいは情報の墓場のような、ひどく静謐で荒涼とした場所。
「……果ての秘境」
思わず、その見覚えのあるフィールドの名称が口から漏れた。
すると、対峙する道化師の放つ殺気が、一気に向こう側の空間を圧迫するほどに強まった。
『――何故、貴様がその名を知っている?』
仮面の奥の瞳の光が変わる。今までのような、試練の執行者としての冷淡な目ではない。初めて、目の前にいる俺という存在を、明確に排除すべき一人の“敵”として本気で捉える目だった。
その瞬間、俺の視界の最前面へと、静かにシステムメッセージが浮かび上がる。
─『職業:道化師を一時適用します』─
(……なるほど。ここからが、本当の第三章のギミックというわけか)
ゲームの記憶が、そのシステム仕様を瞬時に補完する。
この第三章は、二段構成の特殊な試練だ。己の過去を受け入れ、精神的なエラーを修復すること。そして、その先の精神世界において、“劇場の主”へと、システムより与えられた『道化師』の職をもって完全な勝利を収めること。
つまり。ここからが、この遺跡の本当の本番。
俺は波紋一つ立たない水面へと視線を落とす。そこには、俺の足元に誂えたかのように、一本の古びた剣が突き刺さっていた。刀身のすべてが茶色い錆に覆われ、刃こぼれも酷い、一見すればただの使い物にならないゴミのような錆剣だ。
だが、俺は一切の躊躇なく、その柄へと手を伸ばし、一気に水面からそれを引き抜いた。
「……やっぱり、ベータ版の座標にあったか」
俺がその剣を手にした瞬間、劇場の主の仮面の奥の目が、不気味なほど細められた。
『それすらも、あらかじめ知っていたというのか。貴様、一体何者だ……!』
警戒。いや、もはやそれは、システム規約を逸脱したイレギュラー(不届き者)に対する、純然たる激しい敵意に近かった。
それもそのはずだ。俺が今拾い上げたこの錆びた長剣の真のデータ名は――クラウ・ソラス。
ケルト神話に源流を持つ、“不敗の光の剣”。【律鍵と世界の謎】におけるベータ版の仕様において、この果ての秘境という特殊エリアでのみ入手が許可されている、ゲーム内最上位武器の一つだった。
見た目こそただの錆びた鉄塊だが、本来の姿を解放しさえすれば、その性能は他を圧倒する別格の領域に達する。
対して。劇場の主は、自身の足元の水面に深く突き刺さっていた、刀身の半ばから無残に折れ曲がった一組の『双剣』を、静かにその手に取り立てた。
その武器の形状、そして表面に揺らめく禍々しい魔力の波長を見た瞬間、俺の背中に冷たい汗が伝う。
「……ベガルタ」
片方の銘は間違いない。そして、問題はもう片方の、酷く欠けた刀身の側だ。
「あれ、まさかモラルタか……?」
最悪の引きだ、と内心で毒づく。
神話における一対の魔剣。ベガルタは、装備者の攻撃速度を限界を超えて引き上げる『速度特化』の特性を持つ。そしてもう一振りのモラルタは、かすり傷一つからでも対象のHP上限を直接削り取る、最悪の“致命傷”を引き起こす、このゲームにおける最高クラスの呪剣だ。
今の俺のレベル1のステータスでは、あの一撃を数発掠め取られただけで、肉体が腐食して戦闘不能を迎える。
「っ……!」
─『劇場の主を打倒してください』─
非情なシステムメッセージのポップアップ。
それとほぼ同時に、視界の正面にいたはずの劇場の主の姿が、完全に陽炎のように掻き消えた。
「速っ――!」
ガンッ!!
上空から、空間の距離を無視したような速度で双剣が振り下ろされる。
俺は『演算眼』の超高速処理によって、水面に描かれたわずかな光の軌跡を強引に読み取り、紙一重のタイミングでクラウ・ソラスの錆びた刀身を滑らせてその一撃を受け流した。
だが、重い。受け流した瞬間に、両腕の骨の芯までがビリビリと痺れるような強烈な衝撃波が伝わってくる。同じレベル1のステータス補正が適用されているはずなのに、向こう側の動きには無駄が一切ない。純粋な“戦闘技量の差”が、物理的な圧力となって俺の肉体を圧迫してくる。
それもそのはず、いくらゲームである程度攻略法を知っていたとしても、体は普通の高校生。
逆にここまでできているのが不思議なくらいだ。
「チッ……!」
俺は水飛沫を上げながら、一度大きく後方へとバックステップを踏んで距離を取る。
このまま泥泥の近接信地に付き合っていれば、確実に数手のうちに押し切られてモラルタの呪いの餌食になる。だったら、リソースをケチっている場合じゃない。
「――『職業:道化師』」
俺は静かに、システムへ向けて自身の現在のアカウント権限を宣言する。
そして、その特殊職業が有する『ベータ版固有のバグめいたシステム干渉効果』を、最速で起動させた。
「『職業効果を使用』――『職業:鍛冶師』の固有技能――【修繕】を、このオブジェクトへと一時的に強制発動する」
一時的に割り振られた『道化師』の職業特性。それは、“あらゆる役割(職業)をその身に模倣して演じる”という仕様の再現。つまり、道化師の権限を介すれば、今この瞬間に俺が持っていないはずの他職のスキルであっても、システム規約を騙して強引に発動させることができるのだ。
瞬間。俺の手の中で、ただの錆びた鉄塊でしかなかったクラウ・ソラスが、爆発的な輝きを放ち始めた。
刀身の表面を覆っていた茶色い錆が、剥がれ落ちる硝子のようにパラパラと水面へと零れ落ちていく。砕け、欠けていた刃の輪郭が、超高密度の光の分子によって網目のように再構築されていく。
そして。この灰色の死の世界のすべてを白生へと塗り替えるような、太陽そのものの質量を持った圧倒的な黄金の輝きが、世界の果てまでを眩しく照らし出した。
─『クールタイム:1時間を適用しました』─
完全修復。
神話の時代に数多の闇を打ち払ったとされる、真の姿を取り戻した光の剣、クラウ・ソラス。
その圧倒的な神威の光景を目の当たりにした瞬間、劇場の主の白黒の仮面が、初めて驚愕によって大きく目を見開かれた。
『……何だ、その光は。今はただの残骸であるはずのオブジェクトが、何故今……!』
「悪いな」
俺は黄金の光を放つ光剣を、己の身体の前に静かに構え直す。鏡のような水面へ、反射した目映い太陽の光が幾重にも重なって広がっていく。
「俺、こういう荒事はさ。できるだけ手短に、早めに終わらせたい効率主義なんだ」
『――ほざけ、不届き者が!!』
劇場の主が、その仮面の奥から激昂の咆哮を上げ、激しい水飛沫を周囲へと撒き散らしながら、一対の魔剣を交差させて再びこちらへと直線的に突撃してくる。
そして。
第三章、後半戦。
この理不尽な大勢の存亡を賭けた、本当の“最後の演目”の幕が、今ここに上がった。




