第27話 インスタントヒーロー
「お、おまッ!? お前はっ!?」
「どうもぉ~。通りすがりのモブマッチョでぇ~す♪」
「えっ? お、大神くん……?」
「し、ししょーっ!」
突然現れた俺に目を丸くする古羊姉妹。
徳永先輩も一瞬驚いたような顔を浮かべたが、すぐさま手負いのトラのような瞳で俺を射抜いてきた。
「喧嘩狼……一体何の用だよ?」
「いや、本当は首を突っ込む気なんてなかったんですがね? 先輩があまりにも勘違いしているようなので、ちょっと訂正をしに来ました」
そう言って俺は、今にも泣き出しそうな古羊姉妹の傍に寄り添う。
可哀想に……こいつら本気で身体が震えてるぞ?
古羊の「大神くん、なんで……?」という声を無視して、俺は先輩に声をかけた。
「男の顔色ばかり窺って、手ごろなバカの気を引いて、それで毎回近寄ってきたヤツは例外なく振るぅ? ……ハァァァ? 先輩のお目目は節穴ですか? だとしたら眼科に行った方がいいですよ? あっ、そうだ! 俺ちょうど良い腕をした眼科を知ってるんで、あとで紹介しましょうか? 性格はアレですけど、腕は超一流ですよ?」
「~~~~ッ!? 喧嘩狼テメェ、人をバカにするのも大概にしろよ!?」
顔を赤くし我を失った徳永先輩が、俺の襟首を締めあげてくる。
拳を固く握りしめ、今にも殴りかかってきそうだ。
最初に言っておくが、俺はガンジーも裸足で逃げ出すほどの平和主義者だ。
が、ここで暴力沙汰なんて誰も得しないのでマジで勘弁してほしい。
「も、もういいっ! もういいから!」
くいくいっ! と制服の袖を引っ張られる。
見ると古羊が震える指先を必死に動かして、俺の制服をチマっと握っていた。
「わたしの事はもういいからっ! だから大神くんは――」
「わりぃな、古羊。でも、少しだけ黙っといてくれや」
「えっ?」
「俺さ、今ひさびさにトサカにきてんだ」
古羊の息を飲む音が聞こえてきた。
構わず俺は先輩に視線を向ける。
正直、涼しい顔はしているが腸は煮え切り返る思いだった。
いやだってさ? マジで意味が分かんねぇんだもん
本気で古羊のことが好きなら、この男は一体今までコイツの何を見てきたんだよ?
「じゃあ100歩譲って徳永先輩の言う通り、コイツがそんなクソビッチだったとしましょう。でも、だとしたら――」
「なんだよ?」
「――先輩はそんなコイツの一体どこに惚れたんですか?」
俺の言葉に先輩が押し黙る。
これ以上の言葉は無粋かもしれないが、動き出した俺の唇はもう止まらない。
「コイツの笑った顔が好きなんですよね? 先輩さっき、自分でそう言っていたじゃないっすか。あの言葉はウソだったんですか?」
「そ、それは……」
俺の襟首を掴んでいた徳永先輩の手が、ゆっくりと外れていく。
「ごめんなさい、生意気な事を言って。俺、無関係だし、本当は首を突っ込んじゃいけないコトくらい理解してはいるんですよ」
でも。
「コイツは俺の大切な友達なんです。友達が裏でこうもボロカス言われてたら、流石に我慢できませんよ。先輩だって俺と同じ立場なら、まったく同じ事をしますよね?」
「…………」
徳永先輩が気まずそうに俺から目を逸らす。
本当は先輩だって分かっているんだ。
ただついカッ! となってしまっただけで、心にもないことを言ってしまっただけなんだろう。
だから。
「だから訂正してください。古羊はそんな酷い奴じゃないって。徳永先輩だって本当はちゃんと分かっているんですよね?」
「大神くん……」
力なく俯く徳永を前に、もう大丈夫だと確信する。
とりあえず最悪の事態だけは免れたようだ。
肺にたまった空気を緊張と一緒に吐き出すと、今度はマイ☆エンジェルに体操服の裾を引っ張られた。
「い、いつから居たの、ししょー?」
「割と最初の方から」
コソコソ耳打ちをしてくるラブリー☆マイエンジェルに同じく小声で返答する。
いやぁ、ビビるよね?
中庭に戻ってきたら会長閣下のラブストーリーが突然進んでいるんだもん。
そりゃ空気を読んで隠れますよ、普通。
――っとぉ、流石にここでお喋りしている場合じゃないよな。
「それじゃ古羊。俺このあと用事があるから先に帰るわ」
「あっ……う、うん。あ、ありがとう……」
血の気が失せていた古羊の顔に赤みが増していく。
あの様子なら大丈夫だろう。
ここから先は2人の問題だ。
これ以上、俺が首を突っ込んでいい話じゃない。
色々と偉そうなことを口にしてしまったが、古羊があれ以上傷つくよりは全然マシだ。
俺は素早くラブリー☆マイエンジェルにアイコンタクトを飛ばし、
(というわけで、気まずいので今日は先に帰ります。あとはよろしくっ!)
(えぇ……ボクだって気まずいのに……)
(ワリィな。今度ちゃんと埋め合わせするから、許してチョンマゲ☆)
(誠意を感じられないよ……)
苦笑を浮かべる爆乳わん娘をその場に置いて、俺は校舎の中へと消えていく。
制服に着替えるべく校舎の中を歩きながら、ゆっくりと頭を抱え込んだ。
……やべぇ、出過ぎたマネをしちまった。
なんて後悔しながら男子更衣室で制服に着替え終え、気がつくと校門の前に居た。
このまま帰っても自分のやったことを思い出して悶え死にそうだし、元気でも呼び出してカラオケにでも行くか。
ポケットからスマホを取り出して我が親友に連絡を取ろうとして、気がつく。
「うん? 誰だ、アイツ?」
校門の近くで身を隠すようにコチラを覗き見ていた男子学生を発見する。
どう見ても他校の制服だ。……でもアレ?
あの制服、どっかで見たような……。
「そうだ、そうだ。確か佐久間のクソ野郎が着ていた制服だ」
「っ!」
「あっ、おい!」
声が大きかったのか、男子学生は「佐久間」という言葉に反応して肩をビクッ!? と震わせると、そのまま逃げるように消えてしまった。
な、なんだったんだ?
「まあ、いいか」
別に大したことはないだろう、
そう思って、俺は再び元気に連絡しようとスマホを弄り出す。
……このときにして思えば、あのときに何が何でもあの男子学生を捕まえて、無理やりにでも事情を聞き出しておけばよかった。
それが出来ていればきっと、あんな最悪な事態にはならなくて済んだハズなのに。
あの男――佐久間の牙が、我らが会長を狙っているとも知らないで、俺は呑気にスマホを弄り続けた。




