第26話 アタシ、魅力は平均値でって言ったよね!?
「――そっか。メイちゃんから、全部聞いたんだね」
歓迎会も無事終わり、週明けの月曜日の放課後。
俺は庶務の仕事に専念するべく、ラブリー☆マイエンジェルよこたんと中庭の花壇にパンジーを植えていた。
「おう。……まぁあまり聞いていて愉快な気持ちにはなれなかったけどな」
「う、うん。あまり気持ちのいい話じゃないもんね。でもそっか……だからなのかな? 今日のメイちゃん、やけにスッキリした顔をしているのは」
スコップ片手にザクザクッ! こぶし大の大きさまで土を掘り起こしていく爆乳わん娘。
喋りながらでも決して手を休めないのは流石です。
慣れた手つきでパンジーを花壇に植え直し、満足気に頷く。
「ししょーに話して心の整理がついたのかな? 今日のメイちゃんは『いつもの』メイちゃんだったね」
「あぁっ、代わりに俺がたくさんミスをしたけどな」
「あははっ! ししょーはもう少し生徒会の仕事を覚えないとね」
「が、頑張ります……」
ほんとに今日の古羊はいつも通り、いやいつも以上にすごかった。
今までのミスを帳消しにするかのように怒涛の勢いで仕事をこなしていく姿は、鬼気迫るものがあった。
これはこれで心配だが、一応生徒会の仕事は滞りなく進んでいるので文句はない。
むしろ今は俺が足を引っ張っているようなものなので、もっとしっかりしなければ!
俺は軽く自分の頬をピシャリッと叩き、気合を入れ直した。
「よしっ! ここから汚名万来してやるぜ!」
「それは恥の上塗りでは?」
「じゃあ俺、武道場の方の花壇を見てくるわ!」
「えっ? いや、ちょっと待って、ししょーっ!? まだここの鉢植えが終わって……行っちゃった」
俺は身体中から気合を溢れ出させながら、元気よく武道場の方へと駆けだして行った。
◇◇
ぱぴゅ~♪ と擬音が聞こえそうなほど軽快に中庭を去っていく士狼。
そんな彼の後ろ姿を洋子は『どうしたモノか……』と言わんばかりに眺めていた。
「行動力があるのは良い事なんだけどね」
そう苦笑を浮かべながら、洋子は中庭の花壇の手入れを再開した。
武道場の方の花壇はこの間、洋子が整備してばかりである。
おそらく、すぐ中庭の方に戻って来るに違いない。
洋子はそう判断し、ゆっくり士狼を待つ体勢に入った。
――そんなときだ。
彼女の耳を、甘ったるい男の声が優しく撫でたのは。
「あれ? ししょー、もう帰って来たのかな?」
洋子は土いじり止め、辺りをキョロキョロ見渡して、
「ふわぁっ!?」
変な声が出そうになったので、慌てて両手を使って口元を押さえた。
おかげで泥が少しだけ口の中に入って苦い。
でも、そんな事を言っている場合ではない!
(あ、アレはっ!?)
洋子の視線の先、中庭に備え付けられた小さなベンチの前には1組の男女がいた。
「今日は来てくれてありがとう……。正直、もうダメかと思ったよ」
「いえ、約束ですから……」
気恥ずかしそうに頬を染めながら、女子生徒に向けて必死に口をひらく男子学生。
間違いない、これは。
(こ、告白だっ!? 告白だよ!?)
洋子は慌てて近くの木陰に身を潜めた。
そのまま息を殺して、2人のやり取りを遠巻きに眺めはじめる。
正直、覗き見なんて趣味が悪いと自分でも思う。
本来なら何も見なかったことにして、静かに立ち去るのがベストなのだろう。
でも。
「そういうお前の律儀な所も、おれは好きだよ。古羊」
――告白の相手が実の姉なら話は別だ!
洋子は細心の注意を払いながら生徒会の仕事を放棄し、姉の青春の1ページを見学する作業に突入した。
(相手は……3年生か。大丈夫かな、メイちゃん……?)
3年生を現す青いネクタイをした男の先輩をジロジロと観察する洋子。
身長はかなり高い。
多分ししょーと同じくらいかな?
と茶髪の男子学生を分析していた洋子は『ハッ!?』と息を飲んだ。
(この人、今年サッカー部の主将に選ばれたトクナガ先輩だ!)
春先の部活動紹介の際に打ち合わせしたので間違いない。
その甘いルックスに紳士的な優しい性格で女子生徒たちに絶大な人気を誇る、徳永勇樹センパイだ。
(そういえば部活動紹介の打ち合わせのとき、やたらメイちゃんの事を聞いてきてたっけ?)
当時はあまり気にしなかったが、よくよく考えれば、あれは探りを入れていたのだろう。
あれ?
でも?
(トクナガ先輩って、カノジョさんが居なかったっけ?)
確かテニス部の春風遥センパイと付き合っていたハズ。
何度か2人で一緒に帰っている姿を目撃したことがあるので間違いない。
それなのに、なんでメイちゃんに告白しているんだろう?
洋子の頭の中は「???」と疑問符でいっぱいだった。
そんな爆乳わん娘の疑問を解決するかのように、芽衣は申し訳なさそうに口をひらいた。
「『好き』だなんてそんな……軽々しく言っちゃダメですよ先輩。カノジョさんに失礼ですよ?」
「ハルカとは別れたよ。――本当に心の底から好きになった女性が現れたからね」
誰かは……言わなくてもいいよな? と情熱的に芽衣を見つめる徳永。
その視線を前に芽衣は居心地悪そうに眉根をしかめた。
そんな芽衣の些細な変化に気づくことなく、徳永は1人勝手にラブロマンスを加速させていった。
「好きだ、古羊。いや……芽衣ッ! おれと付き合ってくれ! 必ず幸せにする!」
「…………」
改めて『好き』と言われて、芽衣が申し訳なさそうな顔を浮かべる。
徳永は相も変わらず芽衣のその微妙な変化に気づくことなく、自分の思いを口にしていく。
「最初は単なる好奇心だった。なんか1個下にキレイな奴がいるなと思って……。それで興味半分で声をかけたのがキッカケだった。でも何度も声をかけている内にいつの間にか、おれの中でお前の存在が大きくなっていって……アハハ。気がついたら目で追いかけようになっていたよ」
徳永はたどたどしくも熱く、己の思いを言葉に乗せて芽衣に届ける。
芽衣もそんな徳永の本気を受け止めようと、真剣な面持ちで彼の言葉に耳を傾けた。
「ハルカには悪いが、もうこの気持ちを抑えることは出来ない。好きだ、古羊。おれの彼女になってくれ!」
「……申し訳ありませんが、先輩とはお付き合いは出来ません」
深々と頭を下げながら拒絶の言葉を口にする芽衣。
まさか自分がフラれるとは思っていなかったのだろう。
徳永は「えっ?」と目に見えて狼狽し始めた。
「な、なんで? どうして? あっ!? も、もしかして……もう誰かと付き合っているヤツが居るのか?」
「……付き合っている人は居ません」
芽衣がフルフルと首を横に振った瞬間、徳永の顔がパァッ! と華やいだ。
だが、そんな彼の希望をぶった切るように、芽衣は至極申し訳なさそうな表情で。
「居ませんけど……。でも、やっぱりわたしは先輩とはお付き合いは出来ません」
と言った。
「な、なんで……? お、おれにどこか不満でもあるのか!? あるなら直すから!」
「……先輩に不満なんてありませんよ」
「なら他に好きなヤツでもっ!?」
必死に食い下がろうとする徳永。
その姿を洋子はハラハラした様子で見守っていた。
何故か告白を受けている姉よりも緊張している。
そんな双子の妹の気持ちなんぞ、もちろん知らない芽衣は、その亜麻色の髪の毛を風に靡かせながらフルフルと首を横に振った。
「好きな人はいません。でも……ごめんなさい。わたしはもう誰とも付き合う気はありません」
『もう誰とも付き合う気はありません』
その言葉を聞いた瞬間、洋子は胸が締め付けられるほど悲しくなった。
やっぱりメイちゃん、まだ【あの日】の事を引きずって……。
洋子の脳裏に姉の人生を弄んだクソ野郎の姿が浮かび上がる。
結局、自分じゃ姉を救うことが出来なかった……。
その後悔が洋子の身体に重くのしかかった。
「ごめんなさい。生徒会の仕事が残っているので、これで……」
「ま、待て! 待て待て!? 1回待ってくれ!?」
――ガシッ!
「ッ!?」
徳永に手首を掴まれた芽衣の身体がビクッ!? と震えた。
(メイちゃんっ!?)
思考の海を彷徨っていた洋子の意識が数秒遅れて状況を把握する。
見ると、心なしか姉の顔から血の気が引いているように気がしてならない。
徳永はそんな芽衣の様子に気づいた風もなく、縋りつくような声で必死に彼女に声をかけた。
「せ、せめてチャンスを!? チャンスをくれないか!?」
「ちゃ、チャンス……ですか?」
あぁっ! と大きく頷く徳永。
「1度でいい。1度でいいから今週、おれとデートしてくれ!」
徳永は見ているコチラが恐怖してしまうほどの必死さで、
「今週がダメなら来週でもいいっ! おれとデートして欲しい! その最後におれ、改めてお前にまた気持ちを聞くからっ! だからそのときは正式におれの彼女になってくれ!」
「先輩、なんでそこまで……?」
「そりゃお前を心の底から愛しているからだよ!」
徳永が顔を上げ、まっすぐ相手を見つめる。
そのどこまでも情熱的な瞳を前に、芽衣は一瞬だけたじろいだ。
ドクン、ドクンッ! と耳を澄ませば2人の鼓動が聞こえてきそうだ。
「おれさ、お前の笑った顔が好きなんだよ。何ていうか、いつも自信に満ち溢れているって言えばいいのかな? そんな自分に自信のある強いお前が……古羊芽衣が好きなんだ」
「強い『わたし』……か」
徳永が想いの丈をぶつけると同時に、少しだけ紅潮していた芽衣の頬が一気にもとの白色に戻って行った。
洋子はそんな姉の瞳が悲しげにユラリと揺れたのを見逃さなかった。
「……徳永先輩は勘違いをしています。わたしは先輩が言うほど強い人間じゃありません。自分に自信だなんて……それこそ持って無いです」
ピシリッ! と固まる徳永を前に、さらに言葉を重ねる芽衣。
「デートの件ですが、ごめんなさい。承服しかねます」
「な、なんで!?」
「1度は期待させておいて後になってもう1度断るなんてことになったら……結局わたしは先輩を2度傷つけることになります。そんなの不誠実です」
「それは……っ!?」
なおも言い募ろうとする徳永。
芽衣はそんな徳永に向かって深々と頭を下げた。
「こんなわたしを『好きだ』って言ってくれた気持ちは嬉しかったです。でも、ごめんなさい。やっぱりわたしは……先輩とは付き合えません」
そう言ってキッパリと相手に断る意思を示した芽衣。
そこには洋子の知らない姉の姿があった。
猫を被っている姿でも、素がバレたときの姿でもない。
古羊芽衣という1人の人間が、そこに居た。
トクナガ先輩が真剣に告白してきたからこそ、姉は姉なりに本気で考え、真摯に向き合い、誠意を持って断った。
それはまったく関係ない第三者の妹から見ても、ハッキリ見てとれた事実だった。
「ごめんなさい。わたし、生徒会の仕事があるので今日はこれで失礼します」
そう言って踵を返そうとする芽衣。
その姿を見て、洋子は『ほっ』と安堵の溜め息をこぼした。
(はふぅ……よかったぁ)
ふにゃっ! と顔を破顔させながら、その豊かな双丘を撫でおろす洋子。
無事なにごともトラブルなく終わり、本当に良かった。
さてっ! 2人が去ったら花壇の鉢植えを再開し――
「……ふざけんな。ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!? なんだよそれっ!? なんなんだよ、それ!?」
(えっ?)
一転。
突然、徳永の纏っている雰囲気が変わった。
優しげだった眼差しは、これでもかと言わんばかりに敵意が込められ、鋭く芽衣を睨んでいる。
そのあまりの豹変ぶりに、思わず洋子は間の抜けた声をあげてしまう。
姉もこんなトクナガ先輩を見たことがなかったのだろう。
徳永の豹変に目をパチクリさせ、オロオロしていた。
「付き合っている相手が居ないんだろ? なら、デートくらいいいじゃねぇか!? 何で断るんだよ! そんなにおれじゃダメなのかよ!?」
「と、徳永先輩?」
フラれた腹いせか、それとも単に男のプライドの問題かは知らないが、烈火の如く怒り狂う徳永。
明らかに場の空気が変わっていた。
「コッチはハルカと別れてまで告白しているんだぞ!? それなのになんだ、お前のその態度は!? お高くとまりやがって! ふざけんなっ!? 気分がワリィ! いいよなぁ、お前みたいなモテる女はっ!? そうやって、おれみたいな男を何人も振ってきたんだろう!?」
徳永先輩は古羊を小馬鹿にしたように鼻で笑うと、自嘲気味の笑みを浮かべてこう言った。
「ふんっ! 特定の男と付き合うより、たくさんの男に囲まれてチヤホヤされている方がいいです♪ ってか? 気持ちワリイ、本当に気持ちワリィぜ! 最低だな、おまえ? 反吐が出るわ!」
「んなっ!? そ、そんな事思ってないです!」
「どうだが。あ~あ、マジ最悪だよ。見た目がいいからって調子に乗りやがってからに。普段からそうやって男の顔色ばかり窺って、手ごろなバカの気を引いて、それで毎回近寄ってきたヤツは例外なく振るんだろ? ほんと性格ドクズだなっ! 何が楽しいんだよ、ソレ?」
これでもかと悪態を吐かれ、上手く言い返すことが出来ず、萎れたヒマワリのように俯いてしまう芽衣。
そんな姉を目にした瞬間。
(ど、どどどどっ!? どうしようっ!? どうしよう!?)
洋子は1人パニックに陥っていた。
姉を罵倒する徳永の声を聴きながら、必死に思考を巡らせる。
(そ、そうだ! 先生を呼びに行こう!)
そう思って腰を上げたが、今から先生を呼びに職員室に行っても最低10分はかかる。
10分。
それはあまりにも致命的過ぎる時間だった。
10分あれば男子高校生の腕力なら女の子をどうとでも出来る。
今自分があの2人から10分も目を逸らすのはあまりにも危険すぎる。
「あぅぅ」
洋子は苦しそうな声をあげた。
「ど、どうしようっ!?」
意味もなくパタパタと手を動かす。
「どうしようっ!?」
いい考えが……思いつかない。
「どうしようっ!?」
だ、誰か近くの人に助けを求めようか?
洋子は辺りをキョロキョロ見渡して……ダメだ。
誰も通りかからない。
とても助けを期待できる状況じゃない。
なら誰が?
一体誰が?
誰が自分の大切な家族を助けてくれるというのだっ!?
洋子は地面に目を伏せた。
ぎゅぅぅぅ~っ!? と瞳を固く瞑り、ガタガタと震えた。
誰が助けてくれるというのだ?
あの怖い男の先輩から、誰が彼女の日常を守るというのか?
洋子はダンゴ虫のように身体を丸めた。
思い出されるのは姉との記憶。
地元を離れ、新しい土地でやっていこうと前向きになった彼女。
過去を振りきり、新しい自分として頑張っていた、もう1人の自分。
何年もかけて、やっと普通に笑うことが出来るようになった大切なお姉ちゃん。
そんな姉の努力が今、理不尽にも叩き潰されようとしている。
一体誰が、そんな彼女を助けくれるというのか?
彼女の努力は、洋子が1番よく知っている。
彼女は本当にこの1年、一生懸命やってきた。
なら誰が?
誰がそんな彼女の努力を守るというのか?
誰が? 誰が? 誰が?
その一生懸命さに報いるのは、一体誰だ?
「……ボクだ」
いや『誰か』じゃない。
「ボクだ」
そうだ、メイちゃんの努力を一番知っているこのボクがッ!
――ボクがメイちゃんを守るんだっ!
「一体どんな教育を受けたら、こんな捻くれた性格になるのかねぇ!?」
言葉のナイフが芽衣を切り裂く。
そんな凶刃が吹き荒れる罵声の嵐を前に、
「や、やめてください……」
立ちふさがる者が1人。
「んっ?」
「め、めめ、メイちゃん! はっ! せ、せせせせっ!? センパイッ! のっ! 思っているような人、じゃっ! あ、ありません!」
芽衣を庇うように両手を広げ、へっぴり腰のまま立ちふさがる女の子が1人。
誰よりも臆病で。
誰よりも優しくて。
誰よりも家族想いの女の子。
「こ、これ以上っ! め、めめ、メイちゃんにっ! ひ、酷い事を言うのはっ! や、やめてください!?」
古羊洋子が覚悟を決めて立っていた。
「おまえは、妹の……」
「よ、洋子……」
なんでここに? と驚く芽衣の言葉を遮るように、徳永が口をひらいた。
「『酷い事』って、心外だな。おれは事実を言っているだけだろ?」
「め、メイちゃんはっ! そ、そんな酷い人じゃ、あ、あり、あり、ありま、せん!」
固い決意を秘めた蒼い瞳で、まっすぐ徳永を見据える。
呼吸は苦しいくらい荒いし、心臓は今にも飛び出しそうなくらい五月蠅い。
それでも気持ちは1歩たりとも引いていない。
「め、メイちゃんはっ! せ、センパイの言うような、は、薄情な人じゃない! そ、そんな事も分からないなら、い、今すぐこの場から消えてください!」
「~~~~ッ!? テメェ、こんのクソ女がっ!? 下手に出てりゃ良い気になりやがって!?」
徳永の右手が洋子の襟首を握ろうと乱暴に迫る。
殴られる!?
瞬間、やって来るであろう痛みに堪えるように瞳をギュっ! と固く閉じる。
例え殴られようが蹴られようが、絶対にメイちゃんには手を出させない!
そう確固たる決意と共に身を強張らせる。
……が。
「……?」
一向に予想していた衝撃がやってこない。
「……???」
あれ?
ナニかがおかしい?
そう思った洋子は、おそるおそる瞳を開け、
「ちょいちょい? ダメですよ、先輩? レディーは大切に扱わないと?」
「……えっ?」
――息を呑んだ。
いつだって古羊洋子のヒーローはテレビの中だった。
悪者をやっつけ、困った人を助ける、完全無欠のスーパーヒーロー。
でも洋子は知っている。
この世にスーパーヒーローなんて居ないことを。
いつだって現実は不条理で、悪意に満ちていて、悲しいまでに理不尽であることを。
彼女は知っている。
いくら困っていても誰も助けてくれない。
自分でどうにかするしかない。
ヒーローは自分のもとにはやって来ない。
やって来ないハズなのに……。
「お、お前はっ!?」
「は~いストップ、ストップ。怒らない、怒らない♪」
徳永の指先が洋子の襟首を握るよりも速く、彼の手を『とある』赤髪の少年が掴んで止めていた。
「レディーの扱いがなっていませんよ、センパイ?」
赤髪の少年の瞳がふいに洋子に向けられた。
ドキッ!? と心臓を高鳴らせる彼女に、少年は人懐っこい笑みを浮かべてこう言った。
「おう、大丈夫だったか?」
ニカッ! と笑みを深める少年に、洋子は何も言えなくなる。
洋子の目の前、そこには。
不敵な笑みを浮かべたヒーローが立っていた。
スーパーヒーローが立っていた。
大神士狼が――立っていた。




