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サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。  作者: にいるあらと
二章『Noble bullet』『Practice of evolution』
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「一緒に出ねーか?」


 俺たち全員がダウンしている間にヒト型二体の手によって拠点を破壊された。リスポーン地点が消滅し、俺たちはゲームオーバーとなった。


 失意の中、タイトル画面に戻される。


 ロロは最初に倒されてしまったし、ラッシュ前から責任を感じていたみたいだった。ジンはずっと活躍していたが最後自分が勝てていたらという気持ちがあるだろう。


 せめて俺だけでも明るくしておかないと。


 間違いなくいい戦いだったんだ。誰も責めないし、頑張った俺たちは胸を張るべきだ。


「うわああぁぁっ! どんまい! いやぁ、ナイファイだった! マッジでナイファイ! 惜しかった!」


『スタミナ管理が杜撰(ずさん)でした……もう少しどうにかできたはずなのに』


「いや、動物型二体倒した後の増援はマジできつかった。ジンがいなかったらもっと早い段階で詰んでたんだから、気にすんな」


『悔しいですね……尽くせる限りの手は尽くしましたがそれでも勝てませんでした』


〈最後の最後に〉

〈ドンマイ!〉

〈ノーマルなら終わって勝ってたんだよな〉

〈いやナイファイだった〉

〈よくがんばったよ〉

〈難易度ゴミすぎんか?〉

〈あんだけやったあとに増援は無理やろ〉

〈詰んどるやんけ〉

〈過酷でプラス三体至難でプラス六体くる〉

〈三日目でさばける量じゃない〉

〈攻撃力も高くなってんのに数も増えるってどうなってんの〉

〈ないふぁい!〉

〈資源がたんねーのよ〉


「あー……なるほどな。運がよけりゃヒト型三パ、運が悪けりゃ四パで、動物型二体ってのは難易度が標準ならってことか。難易度によって増援ってのがあって、俺たちがやってる至難だとヒト型がプラス六体くるってことね。なるほどな。勝てるかぁっ! こんなもん!」


 そういえば前回やった時の三日目でもこういうことがあった。


 前回三日目のラッシュでは、サイレンの数は三回だった。リスナーからの情報では動物型が一体出てくるって話だったが、実際には動物型を倒した後にヒト型が一パーティ追加で襲いかかってきた。


 前回やった時の難易度は、今回よりも難易度が一つ下の過酷というモードだった。だからラッシュで攻めてきた動物型一体と、難易度による増援で追加されたヒト型一パーティだったということか。


 リスナーから教えてもらった情報の、難易度が標準(ノーマル)だったら、という注釈をしっかり確認していなかった俺の落ち度だ。


『動物型の突破力を過小評価していました。とんでもない攻撃力でした。……ごめんなさい、ロロさん』


『ジンさっ……ありがとっ……ぐすっ。壊斗くんもっ……ぃがとっ』


「悔しいよなぁ……悔しいなぁ。うまくいってた分、なおさらなぁ……」


〈クマとイノシシは最悪の種類だった〉

〈オオカミやトラならもうちょい壁も持ってたよ〉

〈いろいろ運悪かったよなー〉

〈ロロ泣くなよくやった〉

〈ロロ……〉

〈お家守りたかったよな〉

〈胸張れロロがんばってた〉

〈がんばったよ〉

〈悔しいよな〉

〈どうあっても無理だろあれは〉


『ロロがっ、んぐっ、ぐすっ……ロロがっ、わがまま言゛っ゛だがら゛ぁ゛っ゛……っ』


『わがままなんかじゃありませんよ。僕もロロさんが作ってくれたあのお家が気に入ってましたからね。あのお家を捨てるくらいなら、あの場所で骨を埋めたほうがいいくらいです』


〈それだけ大事だったんだよな〉

〈さすあくいいこと言う〉

〈死ぬか守るかどっちかだった〉


「そうそう。そういう縛りがあったほうが楽しいんだ。リスナーも盛り上がってたしな」


『やざじい゛ぃ゛……ぐすっ、すんっ……こういう時に限ってっ、リスナーも優しいしぃっ……ぐすっ』


〈たしかに盛り上がったw〉

〈楽しかったわw〉

〈あれだけがんばっててきついこと言えんだろw〉

〈いつもなに言われてるのw〉


『あははっ、なんだかんだ言ってもリスナーさんは優しいですね。……僕の力不足でこんな結果になってしまって申し訳ないです』


『そんなことないよっ! ジンさん、一人でたくさんがんばってくれたのにっ! そんなこと言ったらっ、ロロなんてぜんぜん役にたてなくてっ』


『いえ、ロロさんはしっかり役目を果たしてくれて……』


「はいはい。おしまいおしまい。全員がんばったけどあと一歩力が及ばなかった。それでいいだろ。もともと三人でやる難易度じゃねーわけだし」


『でもっ、ジンさんはキメラントをみんな倒してくれて、壊斗くんもちゃんと時間稼いでっ…………ちょっと待って? なんて言ったの?』


 まずい、余計なことを言った。


〈悪魔で無理なら人類には無理やろ〉

〈ロロもできることやったろ〉

〈難易度的に無理があった〉

〈壊斗おしえてなかったんか?〉


「……全員がんばったけど」


『壊斗くんもそこじゃないってわかってるよね』


「……え、えーっと、三人でやる難易度じゃない、っていう……」


『は? ……えーっと、は?』


『あはは、やっぱりそうですよね? おかしいなあとは思ってたんです』


〈そうだよな〉

〈三人で至難はおかしいと思った〉

〈推奨は六人以上だったりする〉


『ふつうは何人でやるの?』


「一応推奨人数は……六人から八人って、書いてた……」


『か、壊斗さん? 僕たち半分以下なんですが……』


「いや、ちがっ、いけるかなーって思って……。てか実際、一発目のラッシュでレベル七を引かなかったらいけてたよな?」


『おかしいでしょっ!? アクション不慣れで戦えないロロがいるのにっ?! ジンさんの負担やばかったじゃん!』


〈正直レベル七は不運だった〉

〈あのラッシュは五、六人いても苦しかったよ〉

〈ラッシュ下振れ引くしクマとイノシシだったし手詰まり感はあった〉

〈悪魔が二人分以上活躍してもクリアできない至難がくそではある〉


「俺とジンでフォローしていきゃなんとかなるかなって……」


『なんともならなかった結果がこれだよ!』


『僕もバトルのひりつきは楽しめましたけどね。とても楽しかったですよ』


〈悪魔が楽しめたのならよかったけど〉

〈大変だったろ〉

〈壊斗そんなだったしな〉

〈壊斗は時々役に立った〉


『ロロも楽しかったは楽しかったけどっ! 建築とか、家庭菜園作ったりとか、っ……お家の、ぐすっ……まえ、で……ひっく、みんなでっ……ごはんたべたり……ぐすっ。たのし、かったなぁ……っ』


〈やめて泣く〉

〈声が刺さる〉

〈壊斗のせいだ〉

〈ロロ泣かないで〉

〈お家には思い出が詰まってたんだよ〉

〈もらい泣きしてる〉

〈だから逃げたくなかったんだもんな……〉

〈壊斗が悪い〉


「悪かったって! 俺が悪かった! ごめんっ!」


 上から下へと水が流れるように、リスナーのヘイトが自然の摂理のように俺に集まっている。仕方のないことではあるんだけど、でもロロがあんなに拠点を大事にするだなんて開始時点では思わないだろうよ。


『ロロさん、ロロさん』


『ぐすっ、ひっく……なに? ジンさん……』


『また今度、リベンジしましょうよ。同じところに建てても同じお家にはならないけど、また似たようなところにお家建てて、次はキメラントを駆逐しましょう』


「い、いいじゃん! リベンジしようぜ!」


 ここぞとばかりにジンの提案に乗っかる。


『でも、また三人だとっ……ぐすっ。ロロが(よあ)いがらっ……またおうぢっ、ごわ゛ざれ゛る゛ぅ゛っ゛……ひっぐ』


 まずい。ロロは心に傷を負ってそう。次なさそう。


〈悪魔ナイス〉

〈壊斗は慰めもなんもできん〉

〈これはモテない(確信)〉

〈俺たちもリベンジするとこ見てーよ〉

〈また鍋囲んでるとこ見せてくれ〉

〈たしかに三人はきつそうではある……〉

〈トラウマになってるじゃねーか!〉

〈壊斗のせいで!〉

〈また大事なお家壊されたくないもんな……〉

〈クマよりもお家壊されたことがトラウマなのかよw〉

〈壊斗のせいだな〉


 ここで再挑戦する約束を取りつけられなかったら、あとでリスナーからどれだけ叩かれるかわかったもんじゃない。


 これまでリスナーはロロのことをノリがよくて喋りのうまい女くらいのイメージしか持ってなかったはずなのに、今日のコラボ配信でやけに気に入ったようだ。ロロはお前らの姪っ子かなにかなのか。


 ロロがこんな状態で配信終了、はい解散、ってなったら絶対DM飛んでくる。たぶんロロのリスナーからじゃなくて俺のところのリスナーから飛んでくる。『ロロが可哀想!』というようなDMで集中砲火されてしまう。


 どうにか、どうにか俺に汚名返上する機会をくれ。よし、後輩の名前を借りよう。なんか問題があったら頭を下げればいいだけだ。


「そうだ! 前回やった時の朱莉(あかり)美月(みつき)にも頼んどくから! 口ばっか動かす後輩たちだけど、頭数にはなるから! ロロ、リベンジしようぜ?! な?!」


『次やる時には僕も助っ人呼びます。礼ちゃんを、妹を誘っておきます。きっと力になってくれるはずです』


〈勝手にw〉

〈強制参加で草〉

〈後輩ちゃんずきた!〉

〈働き者だぞ口だけは〉

〈レイちゃん?〉

〈悪魔の妹か〉

〈妹悪魔もFPSうまいらしい〉

〈NTの二期生だな〉

〈戦力倍増やんけ〉


『ぐすっ、朱莉ちゃんと美月ちゃん、レイラちゃんも……?』


『今日ロロさんとまたコラボするんだよって伝えたら、礼ちゃんもまたロロさんと遊びたいなって言ってました。きっと喜んできてくれます』


「ジンの妹っつったらレイラ・エンヴィだろ? 前にジンと二人で貴弾やってたアーカイブ観たわ。FPS強えし、即戦力になる。ロロ! 六人だぞ! 次は負けねーよ!」


『うん……うんっ。ふふ、あははっ、次はご飯作るの大変そうだねっ』


『作る量倍ですからね。でも大丈夫です。僕と礼ちゃんで狩りしますから』


〈ロロは三人とコラボ経験あんのか〉

〈改めて人脈すげーな〉

〈大型コラボになるな〉

〈実現してほしい〉

〈兄妹そろってFPS強いのか……〉

〈かわいいぞ〉

〈後輩ちゃんずも日の目を浴びる〉

〈ロロ!〉

〈元気になった!〉

〈よかった〉

〈お母さんで草〉

〈みんなのご飯作らんとねw〉

〈悪魔兄妹頼りになる〉


 よかった。どうにかロロが元気を取り戻してくれた。俺のSNSのアカウントは焼け野原にならずにすみそうだ。


「それじゃ、そろそろ終わるか。貴弾やってからのプラエボだったから、そこそこ時間経ってるしな」


『貴弾も次はちゃんとカジュアルマッチやりたいけどね』


『二試合とも大変なことになってましたからね。いずれ貴弾もまたやりましょう』


「それもそうなんだよな。貴弾のバケモンたちに轢き殺されたから今日はプラエボに移住したわけだし」


『こっちでも大変な目にあったけどね。ゆっくりサバイバルキャンプ生活を送れるのかと思ったら、壊斗くんのせいで……』


「悪かったって! ごめんて!」


『あははっ。次はもっと賑やかなサバイバル生活になりますね』


『うんっ! すっごく楽しみだっ! それじゃあこのあたりで終わります! 長い時間観てくれてありがとね!』


〈めっちゃおもしろかったぞ〉

〈おつ!〉

〈リベンジ楽しみにしてる!〉

〈配信おつー〉


『概要欄にお二人のお名前も貼ってありますので、チャンネル登録や高評価、SNSのフォローなどしていただけたら嬉しいです』


「次いつやるとか日程はぜんぜん決まってないけど、いずれ近いうちにコラボもすると思うからそん時はまた観にきてくださーい」


〈聞き慣れなくて草〉

〈なんだどうした?w〉

〈敬語モドキw〉

〈敬語みたいで敬語ではないなにか〉


『……なんか壊斗くんの敬語、すごく違和感……』


「なんでだよ! ふつうに敬語使う時もあるわ俺だって!」


『ふふっ、きっと自分のところのリスナーさんにはふだん敬語は使っていないでしょうけど、今日は僕とロロさんのところのリスナーさんがいますから、そちらへ向けての敬語での挨拶だったんでしょうね』


「んんっ……な、なんかっ、そこまで理解されてるとそれはそれで恥ずかしいわ! 解説すんな!」


『ああ……そういうこと……。ロロはてっきり、終わりだけでも礼儀正しく見せていればぜんぶ丸く収められるとでも思ってるのかな、って』


「印象最悪だなおい! そんな腹黒いこと考えてる時点でロロのほうが頭ん中汚れてんだからな!」


『壊斗くんと同じ扱いだなんてひどい! 撤回してよ!』


「言われたことにじゃなくて俺と同じ扱いが嫌って意味かお前?! ロロが先にその失礼な発言撤回しろよ!」


『はいはい、終わりまでこんなやり取りしてると締まらないです。少々強引ですが終わらせます。それでは皆様、長い時間ご視聴ありがとうございました。お……お疲れ様でした』


『はーい! おつかれさまでしたー! みんなばいばーい! おやすみなさーい!』


「はい、おやすみー。……そういやジンのとこのリスナーは……」


〈おつかれー〉

〈おやふみー〉

〈悪魔はおやすみ言えないからw〉

〈草〉

〈おやすみキャンセル草〉

〈おつかれさま!〉

〈リベンジ待ってるからなー!〉


『……ええ。その単語を発すると人間様は強制的な眠りに入ってしまうので、僕はもう寝かしつけ配信の時にしかその単語を口にすることができなくなりました』


『ちなみにロロもだよ』


「知っとるわ。コラボの時に寝落ちしてたの観たわ」


『寝落ちはしてないよ。ちゃんと起きたよ』


『起きた、ということは一度寝たことを自白しているようなものなのでは……』


『ジンさんから直接「おやすみなさい」をもらったのに眠りに落ちないなんて、そんなのはもう失礼に値するんじゃないかってロロは思ってる』


「なんで若干ドヤ感出してんだ……ただのASMR中毒者だろ……」


『不思議なことに、聴き込んでくれている人間様ほど眠りに落ちることを誇ってらっしゃるんですよね』


『うん。胸を張ってるよ』


「張るような胸もないくせに」


『見たことないでしょぉっ?! ロロが脱いだとこなんて見たことないでしょぉっ!?』


 やかましいロロに適当に相槌を入れつつ、配信がちゃんと終了されてるか確認する。


 たまに配信を切っていても、回線の不具合なのかプラットフォーム側の問題なのか、配信が終わっていないこともあるのだ。


 ここからはまだリスナーには聴かれたくない話をする。自分の配信も、ロロとジンの配信もしっかりと確かめておかないといけない。よし、大丈夫だな。


「……ジンはAPGのカジュアル大会のこと、知ってるか?」


 APG。プロゲーミングチームだが、元プロのストリーマーも数多く擁している事務所だ。ストリーマーとVtuberの垣根を越えてコラボ配信したり交流もしていて、定期的にいろんなゲームでカジュアル大会を開催している。


『はい? ええ、知ってますけど』


『壊斗くん、なに? 急に。あとにしてもらえない? ロロはジンさんと新しい寝かしつけ配信についてお話ししたいんだけど』


「それこそ後にしてくれ。……いやあとにする以前にそんな話すんなよ。ジンの好きにやらせてやれよ。厄介口でかリスナーかよ」


『セクハラ男に言われたくないけどっ!』


「は? いつロロにセクハラなんかしたよ」


『張る胸ないって言ったでしょっ?!』


「あれはセクハラじゃなくて指摘だろ」


『こいつっ?! 信じられない! 配信つけてればよかった! ねぇジンさんっ、壊斗くんがぁっ!』


『あー……そうですね。今回ばかりは壊斗さんに過失がありますね。身体的特徴を(あげつら)うのはいけません』


「おまっ、すぐジンを味方につけようとすんなよっ……はい、すいませんでした。……で、話は戻るんだが」


『絶対壊斗くん反省してないっ!』


「もうすぐAPGのカジュアル大会があるんだよ、貴弾の。それ一緒に出ねーか?」


 俺が最近真面目に貴弾をプレイしているのはそのためでもあるし、今回のジンとのコラボは一緒に大会に出られるくらいの腕があるかどうか見るためでもあった。俺よりはるかに強いのは望外の結果だったが。


『大会……APGの』


『APGのカジュアル大会? ゲームうまい人ばっかり出る大会だよね。壊斗くんも出るの?』


「なんだよ、その『お前弱いのに出れるの?』みたいな言い方」


『弱いとまでは言わないけど、強くもないんじゃない?』


「言っとくけどなぁ! 俺だって強いほうなんだよ! GGの中じゃ俺はトップなんだぞ! ロロはジンのプレイ見てるから感覚おかしくなってんだよ!」


『壊斗くんは強いっていう話は匿名掲示板でも配信のコメントでも見たけど、ロロはそんなイメージないかなぁ』


「比べる相手がおかしいんだよ! Vtuberの中じゃ俺だってトップクラスなんだ! でもジンは配信者の中でトップクラスなんだ! ジンが抜きん出てるだけだ!」


『それで、その大会のメンバーにジンさんを誘いたいってことなの?』


「まぁ……そういうことだ」


 いくら俺がVtuberの中ではFPSがうまいほうだといっても、APGの大会の参加者の中だとどうしたって埋もれる。それは事実だが、ロロに言われるのはなんとなく認めたくない気分だ。


 俺は弱くない。ジンが異常に強いだけ。


『壊斗くんが勝手にパーティメンバー決めていいの?』


「ああ。俺がリーダー権をもらってるから、俺がメンバーを決めることになってる」


『壊斗くんが……リーダー?』


「おいやめろ! 『こいつ弱いのにリーダーなの?』みたいな言い方すんな! ……俺の場合は数字があるからリーダー権渡されてんだよ。強い人を誘うもよし、自分と同じくらいの強さのメンツで平均的に揃えるもよし。そんな感じだ」


『ほぁー、なるほどね』


「どうだ、ジン。一緒に出ねーか?」


 口数が減ったジンにもう一度(たず)ねる。


 APGの大会参加メンバーの選出はリーダー権を持つ人間が決められるが、かといって自由に決められるわけではない。


 貴弾で到達したことのあるクラスによってポイントが割り振られ、パーティごとにポイント上限があるのだ。パーティ全員を強いプレイヤーばかりで固めることはできないルールになっている。


 ジンは最高到達クラスは俺より下だ。もう一人誘ってるやつは違う箱のVtuberだが俺より一個上のクラス。このメンツだと、クラスポイント的な意味で言えばポイントが余るくらいだ。


 ただジンは個人的な理由からクラスマッチを回していないだけで、実力は到達クラス以上のものを持っている。あとからポイント詐欺だと文句をつけられないようにするためにも、余らせておくくらいがちょうどいいだろう。


 俺は何度かAPGのカジュアル大会に出させてもらっているが、毎回IGLの不在という弱点を抱えていて順位が伸びなかった。ジンのIGLでパーティを導いてもらえたらもっと高順位を目指せるはずだ。


 パーティに持ってこいの人材なのだ、ジンは。


『……僕は、遠慮させてもらおうかなと』


「……え? えっ? えっ?! な、なんで?!」


 カジュアルといっても最大級に大規模な大会だ。なんせ一定数以上のチャンネル登録者数やSNSのフォロワー数がなければ参加できない。界隈で有名なストリーマーやVtuberが集まる大会なのだ。


 多くの視聴者の目に留まる可能性がある。ここで活躍すれば一気に人気に火がつくこともある。あまり絡みのない人との交流の場にもなる。知名度を上げ、人脈を広げる絶好の舞台。出たいと思っても出られない配信者だって多い。


 ポイント調整で呼ばれてそんなにうまくないのに出たみたいな配信者だと、パーティの負けが込んだ時にいろいろ言われて苦しくなることもあるだろうけど、ジンはそうじゃない。実力がある。


 FPSの腕を見せつけて名を売るいい機会になるのに、まさか断られるとは思わなかった。


「おまっ、お前、大会だからって緊張するようなタイプでもないだろ?!」


『ジンさん嫌がってるんだから無理に誘うのやめなよー』


「うるせーロロ!」


 ロロはどちらかというと、ジンにはFPS分野よりも雑談やASMRのほうに比重を置いてほしいと思っている節がある。大会に出てジンの実力が知れ渡ると配信がFPS偏重になると感づいたのだろう。


 だが邪魔はさせない。俺は交友関係が狭いんだ。ジンほど適した人材を俺は他に知らない。逃せない。


「な、なんで? パーティでのポイントも余らせてるし、あとから叩かれるなんてこともないぞ?」


『……取り立てて隠すことでもないのでお話ししますと、昔いたんですよ。APGに』


「はっ……はあぁっ?! じゃ、じゃあ、元プロってことか?!」


『いえ、APGがプロチームとして立ち上げされる前ですね。僕がいたのはゲーム好きが集まるサークルだった時です。大会には、出ていませんし……』


『ジンさん、ゲームうまいなーって思ってたけど、APGにいたんだ……なんか納得』


「でも、それでなんで大会には出たくないんだ? 前所属してたからって出ちゃいけねーって決まりもないだろ」


『……ただ僕が気まずいというだけです』


『それなら出ないほうがいいよね! 嫌な思いをしてまで出ることないんだし!』


「待て待て待て! ちょっと待とうぜ!」


『……なに? まだなにかあるの? 終わったよね、この話』


「APGの大会は注目が集まる! ジン・ラースを知ってもらえるチャンスだぞ? 知名度も上がる可能性がある。数字も増えるかもしれねー。まだお前のことを誤解している奴も多いはずだ。大会に出ればジンに悪い印象を持っている奴らのイメージを変えるいい機会になるかもしれない」


『誤解を晴らすいい機会になるかもしれませんが、それは大会に出なくても果たせますからね。事務所的にはチャンネル登録者数が増えたほうがいいのでしょうけど、僕個人は固執していません。ゆっくりマイペースに活動していけばいいかな、と』


『そうだよね! 今のままでもジンさんが活動し続けていれば評価は簡単にひっくり返せるよ!』


 ロロが余計な口を挟んでくれる。言い返したいけれど、承認欲求も自己顕示欲も薄そうなジンの心に響く大会参加理由なんて俺は持っていない。


 配信者ならふつうはチャンネル登録者数や同時接続数を増やしたいと思うものだろう。それは可視化された自身の人気であって、そのまま自分の収入にも繋がるのだから。


 まぁ、ジンは金銭に執着するようなタイプにも思えないんだけど。なんでこんなに無欲なんだこいつ。


「頼むって! お前と大会に出たいんだよ! お前となら優勝も狙える! 練習とかで拘束時間も長いけど、だからこそ熱も入る!」


 もうなにも手がない。素直に頼み込む以外に方法がない。


 ジンと大会に出たい。そうお願いするしかできない。


 絶対に楽しくやれるはずなんだ。ジンと出る大会なら。


 『practice of evolution』ではサバイバル生活一日目(一回目)をぶっ壊したほどのユーモアがある。


 でも真剣な時にはどこまでも真剣に取り組めるのがジンだ。貴弾のカジュアルマッチ一試合目に見た意気は本物だった。本気で、同じ熱量でがんばれて、技量に差があってもパーティメンバーを責めることなく、メンバー全員でどう戦えばいいかを考えてくれる。


 大会に出るなら、俺は、ジンと出たい。


「絶対楽しいから、出ようぜ! 俺はお前と一緒にやりたいんだよっ!」


『あ、まずい……』


 呟いたロロの声が、かすかに聴こえた。なんだ、まずいって。


『楽しい……楽しいんですか?』


「え? お、おお! 絶対楽しくなる! リスナーのコメントにあったけど、部活動みたいだって書かれてた。青春だって。パーティメンバーで一緒に練習して、作戦考えて、それで勝てたらすっげー楽しいぞ!」


『部活動、青春……。楽しいのなら、出たいです。僕』


「よおおぉぉっしゃああぁぁっ!」


『で、でもさ、けっこう荒れてることも多くない? 厳しいこと言われてる人もいたし……』


 ロロの言ってることは紛れもない事実なのだが、今言わないでくれ。ジンの意思が揺らいでるいいところなんだ。


「そりゃリスナーだって真剣に観てて、真剣に応援してんだ。熱が入ってくれば言葉も強くなっちまう。そんな中でもがんばって、工夫して努力するから勝った時うれしいんだろうが」


『僕は荒れていようと気にできないんでいいんです。観てくれてるリスナーさんには申し訳ないですけど、でも乱暴なこと言わずに応援してくれているリスナーさんも、きっと勝った時はその分喜んでくれるんじゃないでしょうか』


「そう! 戦況や相手パーティの動きを見て作戦を修正したり微調整したりして、それで勝った時の盛り上がりは半端ねーぞ! めちゃくちゃ熱いんだよ!」


『……出たいです。僕もその熱を感じたい』


「おおっ! 一緒に優勝目指そうぜ!」


『……はぁ。ジンさんに一番効果的なお願いの仕方をするなんて……』


 ロロめ。こいつ、わかってやがったんだな。


 そういえばロロとジンの雑談コラボの時、ジンの目標は友だちを増やしたいとかそんな感じだった気がする。チャンネル登録者数百万人とかでもなく、地上波のCMに出たいとかでもなく、有名企業から案件欲しいとかでもなく、彼女欲しいとかでもなく。友だち。


 ジンは金銭欲も物欲も、権力欲も名誉欲も、色欲もない。いや色欲はわからないが、表でも裏でもロロと話している時に下心がありそうな絡み方はしていなかったし、おそらくそれほどないんだろう。


 そんなジンが、数字も金も女にも関心を示さないジンが、唯一欲したのが友だちだった。きっとリアルが充実しているから、わかりやすい欲望なんか興味がないんだ。友だちと楽しく遊んで、それが配信活動に繋がればそれでいいという考え。


 他の奴らとは違う。数字があるからと近寄ってくる奴らとも、俺のところのリスナーは荒っぽいからと怖がっている奴らとも、事務所の中で人気が極端に高いからと勝手に優劣を決めて(へりくだ)って距離を置く奴らとも違う。


 他の奴らとは違う。


 欲も遠慮もないからこそ、純粋に楽しみたいという感情が伝わる。きっと、観ているリスナーにも伝わっている。


 ゲームや喋りのうまさ以外の部分にあるジンの魅力が、人を惹きつけるのだろう。


 なんでジンは『Golden Goal』にきてくれなかったんだ。きてくれてれば、もっと頻繁にコラボもできたし、グループ組んで活動もしていけたっていうのに。


 いや、事務所の垣根を超えてグループ活動していくのは不可能だって決めつける必要もない。さすがに移籍だとかって話は無理があるけど、事務所を跨いでグループを作ることくらいはできるはずだ。グループとしての認知度が上がって人気が出れば、GGのイベントとかにもゲストとして呼べるかもしれないし、もしかしたら案件も一緒にやれるかもしれない。


 夢が広がる。チャンネル登録者数百万人という目標を達成してからは配信活動に張りがなくなっていたところだったんだ。


「はっ、あっははっ! 楽しもうな、ジン!」


 やる気が出てきた。おもしろくなってきた。


ということで、貴弾『Noble bullet』からのプラエボ『Practice of evolution』配信でした。ご視聴ありがとうございました。


構想段階ではお兄ちゃんが発見した洞窟を探索したり、キメラミュータントのキメラの部分について触れたりしてたんですけど、半端じゃないくらいに長くなりそうだったのでサバイバル生活三日目で一区切りとしました。その他の部分はまたやる機会がもしあればいずれ、といったところです。なんだかんだでちょうどよかったかもしれません。


次からは悪魔兄妹による配信になります。お兄ちゃん視点です。『administrator』配信のおさらいというか、軽い振り返りを挟みます。おさらいしつつ、その他のお話もぱらぱらっとやる感じです。


一区切りということで、感想や評価などいただければ幸いです。


またここからもお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

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[良い点] 一区切りお疲れ様でした! 前の格ゲー以降ジンラスの狂った能力値がどんどんあらわになっていてビビり散らかしています。 最終的に自分の欲(非常に可愛いものですが)に素直な所にサイコパスの片鱗が…
[良い点] ナイスファイトでしたが、一人SNSの事前鎮火という延長戦してる奴いるなw 兄悪魔、攻略難易度が高いようで「一緒に楽しむ」が8倍火力くらい出るんだよなぁw しかし、壊斗が友達増やしにくい理…
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