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サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。  作者: にいるあらと
二章『Noble bullet』『Practice of evolution』
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最後の砦


『あ……そ、そういえばロロ、盾の使い方知らないっ……』


「大丈夫だ! 俺も知らん! わかったこと共有してくぞ!」


〈試してなかったなw〉

〈どんなもんか使うべきだった〉

〈ここで慣れりゃいいのよ!〉

〈がんばとらいね〉


 これまでこのゲームで盾自体使ったことないし、大盾も同様。この場でいろいろ試して把握していくしかない。


 使ったことはないにしても、どうせ武器と操作感が大きく変わることもないだろう。


 俺の姿を捕捉したイノシシ型が、一度聞いたことのあるかすかに違う鳴き声を発する。突進の予備動作だ。


 武器を振るのと同じようにクリックする。大盾を構えたが、すぐ下ろしそうになったのでクリックし続ける。すると、大盾を構えたままになった。


 盾を構えた状態でイノシシ型の突進を受ける。


「ロロ、左クリック押しっぱで盾構えれる。でも盾構えたままだとスタミナが回復しねー。攻撃してくる時だけ構えたほうがいいぞ!」


『む、難しいこと言わないで!』


「言ってねーよ!」


〈スタミナ管理〉

〈回避優先に〉

〈立ち回り気をつけて〉

〈がんばれ!〉


 盾なし無防備で突進をもらうと瀕死状態になるらしいから、盾の効果はかなり大きい。だが盾を構えていてもアーマーゲージが少し減っていた。盾を貫通してダメージが入っている。


 可能な限り避けて、避け切れない攻撃だけガードしたほうがいい。


「イノシシ相手は、離れすぎないように……」


 森の広場でジンがイノシシ型と戦っているところを観察していてよかった。パターンはまだ読める。


 イノシシ型の正面を避けて、横に回る。


「牙を振り回す……右、左、で……叩きつけるんだよなぁっ!」


 ジンが言っていたのを思い出して立ち回る。牙の叩きつけ読みでイノシシ型の脇腹に接近した。


 一応このゲームもアクションゲームなら盾を使う攻撃手段があるもんだ。


 イノシシ型の脇腹目がけて右クリック。大盾を突き出した。


「おらぁっ! シールドバッシュぅぅっ! 舐めんじゃねー! ロロ、右クリで盾で攻撃できるぞ!」


〈うまー!〉

〈壊斗!〉

〈やるやんえk!〉

〈壊斗だってやる時はやるんだ!〉

〈無茶言うんじゃない〉


 どっ、という鈍い音がした。それほどダメージを与えているようには見えないが、ヘイトを稼ぐことはできる。無視して拠点を破壊しに行かれると困るのだ。


『そんなのするよゆうないよぉっ!』


〈ロロ十分やれてる〉

〈無理すんな〉


 ロロの声がへろへろしている。本当に余裕がなさそうだった。


 クマ型の攻撃モーションも見ておきたいし、できるならロロの手助けもしてやりたいが、よそ見してイノシシ型にやられたら元も子もない。俺も一体を相手取るだけで精一杯だ。


「ジン! ヒト型は?!」


『九つ。終わりました。まずはロロさんのフォローにっ……増援です。今のところ見える範囲ではヒト型がワンパ。もう少し耐えてください。……一つ』


〈一人で片づけてるw〉

〈強すぎて草〉

〈弓矢との相性がガチ〉

〈悪いほう引いた〉

〈くそ難易度!〉

〈下振れ引いたか……〉


「増援?! 追加があんのかよ! っ……ああくそっ、三から四ってそういうことか!」


『ねぇっ、ねぇっ! ガードしてもっ、ダメージ受けるんだけどぉっ!』


「少しだけど入るぞ! なるべく攻撃避けて、避けられないのだけガードしろ! スタミナ持たないぞ!」


『そんなの言われたってぇっ! 怖いしっ、いっぱい攻撃してくるしっ、ガードしても後ろ下がっちゃうしっ、下がってる時動けないしぃっ!』


「ノックバックまであんのか……」


『もうっ……スタミナがっ……』


「ジンっ!」


『二つ……こちらもすぐ片づけます!』


『もうだめっ……ごめんっ、ごめんなさいっ……』


〈悪魔が合流するまで耐えろ!〉

〈がんばとらいね!〉

〈クマ相手はしんどい〉

〈盾構えずに〉

〈至難はプラスにだぞ油断すんなよ〉

〈スタミナ回復できんか〉

〈壊斗がんばれ!〉

〈よくがんばった!〉

〈ロロ頑張った!〉


 ちらとロロに視点を動かすと、腕を振った姿勢のクマ型と、その正面には倒れ込んだロロがいた。


 イノシシ型のモーションを少しでも知っている分、俺がイノシシ型を受け持ったが、これはミスだったか。どうやらクマ型のほうが攻撃手段や動きにバリエーションが多いようだ。アクションゲームに不慣れなロロには荷が重い。


『ナイスファイトです、ロロさん』


「そうだぞ! ナイファイだ、ロロ! もうすぐジンもヒト型を片づける。そこまで時間を稼げたのはでかい!」


『っ、うんっ……ぐすっ、二人ともがんばって!』


「オッケー! 任せろ!」


『三つ! 増援も終わりました! すぐそちらに合流します!』


〈ロロよくやった!〉

〈ロロがんばった〉

〈ナイファイ!〉

〈あとは壊斗と悪魔に任せろ〉

〈苦手なのによく耐えた〉


 馬防柵のラインの左端に物見櫓(ものみやぐら)は建てられていた。俺がいるのは馬防柵のラインの右側。合流までおそらく数十秒程度はかかる。その間は、イノシシ型とクマ型の相手を一人ですることになる。


「落とされねーように……」


 なるべく視界にイノシシ型とクマ型が入るように立ち回る。見えていれば、避けるのは難しくてもガードは間に合うはず。


 ここで俺もダウンしてしまえば、ジンは大盾も防具もない状態でイノシシ型とクマ型相手に一対二(ワンブイツー)を強いられる。戦うのなら、せめて一対一で戦わせてやりたい。


「クマっ、このクマっ……手数が多いのに一撃が重いっ!」


『パンチは防ぐの成功してもダメージ入って後ろに下げられちゃうよ! あと正面に立っちゃだめだよ! 掴んで噛みついてくる! 盾で防げない!』


「まっ、じかよっ……っ。報告ナイスっ……あ、でもこいつ、動きはそこまでっ……イノシシぃっ!」


〈範囲狭いぞ〉

〈うおおおおお〉

〈クマの攻撃力まじでバグだろ〉

〈ノックバックがうざいのよ〉

〈声出てる〉

〈ほうこくいいよ!〉

〈突進くる〉


 クマ型のパンチはガードしてもダメージが入るしノックバックも発生する。しかし予備動作は読みやすいし、攻撃範囲も広くない。一度攻撃を受ければノックバックから一気に押し込まれそうだが、受けないように立ち回れば対処はできる。


 そう思って、クマ型の攻撃範囲から外れたら、クマ型の脇からイノシシ型が瞬間移動じみた速度で突進してきた。


 少しクマ型に注意力を割いたらイノシシ型の突進の予兆を聞き逃す。ワンブイツーとかできる相手じゃない。


「突進一発でアーマー全損で肉まで削れたぞっ……ふざけんなっ!」


『お待たせしました、クマやります』


「ほんとに待ってたぞ! 任せた!」


〈アーマーあってよかった〉

〈威力おかしい〉

〈至難のダメージ頭おかしい〉

〈難易度調整間違ってんだろ〉

〈悪魔きた〉

〈ツーブイツー〉


『がんばって……っ。二人とも、がんばってっ!』


「任せっ……起き攻めは卑怯だろぉっ?!」


〈クマ倒すまで耐えおr〉

〈いけええええ〉

〈まっずい〉

〈やばーい!〉


 突進で吹き飛ばされ、俺が転がったところに突進で移動したイノシシ型がいた。イノシシ型の近く、かつ正面から左にずれたところにいたせいで近距離の攻撃モーションに入っている。


 盾を構える間もなく牙の振り回しを受けた。


『壊斗さん、生きてますか?』


「ぎりっぎりっ……ミリもミリなくらい残ってる! 奇跡!」


 一番多くキメラントを倒しているジンが防具なしで、なんで俺が二つも防具を装備しているんだという指摘がコメント欄でもあったが、答えはこれである。やはり俺が防具をもらっておいて正解だった。もらってなければここで終わっていた。


『ナイスです。死んでないなら安いです』


「お前格ゲーもやってんの?」


『同期が格ゲー好きで、対戦した時よく言ってます』


〈しなやす〉

〈しなやすだ〉

〈生きてりゃでかい〉

〈まだ舞える〉


 ジンの同期は全員女だったはずだが、女で格闘ゲームにどっぷり浸かってるやつがいるのか。格闘ゲームも性別比で言えば男ばっかりなのでめずらしい。


 というか『死ななきゃ安い』が出るということは、その同期の女が劣勢になっているということだろう。その同期の女がどれくらいうまいのかは知らないが、そいつといい勝負になるくらいジンは格闘ゲームもできるのか。FPSだけじゃないのかよ。


「っ、っ! っづあぁ! 怖え! 一発もらったらもう終わりだっ……っ!」


『壊斗くんがんばってっ! ジンさんがクマ倒すまでっ……』


「おけ、おけ……任せとけロロ。みんなで家守んだからな」


〈ワンミスでアウト〉

〈ダメージエグすぎる〉

〈こわいこわい!〉

〈壊斗お前輝いてるよ!〉

〈おうち守るんや!〉

〈かっこいいぞ壊斗〉

〈壊斗輝いてるぞ〉


『っ……ぅんっ……』


『……持ちそうですか?』


「こんなこと言いたかねーけどっ、自信はねーよっ!」


『急ぎます』


〈ロロ泣かないで〉

〈草〉

〈三秒前までかっこよかったのにw〉

〈輝き曇ったw〉

〈悪魔頼む!〉


 イノシシ型の攻撃のモーションとパターンはおそらく出切った。条件も掴めている。


 距離が離れていればプレイヤーが正面にくるように方向転換して突進、近くにいたら牙の振り回し。基本はこれだけだ。たまに距離を取るみたいにイノシシ型の近くにいても突進することはあるが、正面にいなければあたることはない。


 威力でも速さでも、脅威なのは突進だけだ。その突進は近くにいれば封じることができる。だが突進を喰らわないためとはいえ、牙が届く距離にまで近づかなければいけないのは本能的に怖い。


 プレイヤーがイノシシ型の左右どちらにいようと、牙の振り回しは右からだ。だからイノシシ型の左側にいればいい。牙の振り回しのモーションに入った瞬間に離れるなり移動するなりすれば回避は容易い。


 攻撃の条件は割れている。モーションにも慣れた。


「シールドバッシュは諦める……。今は生き残ること優先だ……っ」


〈無理しなくていい〉

〈タゲ取れたら十分〉


 動きは読めても、一発も攻撃を受けられないのはプレッシャーがかかる。


 後を託すことになるジンのために少しでもイノシシ型のヒットポイントを削っておきたいが、スタミナを消費するのも必要以上に近づくのもリスクが高い。牙振り回しの反応が遅れれば一発アウトだし、大事な時にスタミナが枯渇してしまえば動けなくなる。


 安全策を、と考え、牙を振り回すイノシシ型の背後に回った。


 イノシシ型は牙を右、左と振った後は正面の地面に打ちつける。予想通りだと思ったら、この大事な局面で動きが変わった。


 牙を打ち下ろしてから妙に動かないな、と眺めていたら、イノシシ型の尻が飛んできた。


「はあああぁぁっ?! ヒップドロップ?! そんなん知らねーって!」


〈は?〉

〈はw〉

〈草〉

〈こんなんあんの?w〉

〈死因プリケツ〉


 こういう攻撃なのかどうかもわからない。


 牙を地面に打ちつけた後に一定確率で発生する特殊なモーションなのか、それともイノシシ型の背後に立っていたら発生する攻撃なのか。


 いずれにせよ、原因はわからなくても結果はわかっている。


 どんな攻撃を受けても一発で死ぬくらいにミリだった俺のヒットポイントは、イノシシ型のでかい尻に踏み潰されてゼロになった。


『じっ、ジンさんっ、壊斗くんダウンした!』


「悪いっ! 知らん攻撃きた! イノシシの真後ろもたぶんダメなんだ!」


『っ、了解』


〈悪魔だけだ〉

〈クマイノシシ相手にワンブイツーは詰み〉

〈難易度終わってる〉

〈誰が勝てんねん〉

〈こんなん無理やんけ〉


 ダウン状態の視界の端が赤く染まった画面で、ジンの奮戦を見守る。


 ジンはうまく距離を取りながらクマ型相手に戦っていた。字面ではかわいくても威力はちっともかわいくないクマパンチをひらりひらりと(かわ)しながら、小さな隙を見つけてはクマ型の顔面に穂先(ほさき)を突き刺す。


 見ればクマ型は血まみれだった。ずっとジンはそうやって紙一重でクマパンチを回避し続け、その度にカウンターで攻撃を重ねてきたのだろう。


 時間を稼げていれば、ジンは一対一(ワンブイワン)なら勝てる。


 勝てていたはずなのに。


「ジン後ろだっ! イノシシっ!」


『これって……キメラント同士でフレンドリーファイアってあるんでしょうか?』


「わからん! ラッシュの時は一緒に行動してるし、ないと思っといたほうがいい!」


〈いつもは食い合ってるくせに〉

〈ラッシュの時だけ仲良ししやがって〉

〈FFあったらワンチャンあんのに〉

〈戦いにならんやろこんなもん〉


 ラッシュではヒト型も動物型も仲良く(くつわ)を並べているが、ラッシュ以外では全員敵同士だ。共通点はキメラントというだけで、あいつらは本来協力し合う生き物ではない。なのにラッシュの時だけはヒト型も動物型も手を取り合ってプレイヤーを襲ってくる。


 ラッシュを、対プレイヤー用のイベント、という意味で捉えるのなら、キメラント同士のフレンドリーファイアも期待できない。


 クマ型を相手にしているジンに、イノシシ型の面倒まで見る余裕はない。


 背後からイノシシ型の突進を受けて終わりか、と諦めかけた時、ジンは武器を切り替えた。


『……ここなら、当たらないはず……』


『弓っ?!』


 武器を槍から弓に取り替え、ジンはぐるんと勢いよく振り向いた。その状態で後ろ向きに走りながら、矢を放つ。矢は吸い込まれるようにイノシシ型の鼻先に刺さった。


 だがイノシシ型の突進はキャンセルされてないし、ジンが後ろ向きで走っているのはクマ型がいる方向だ。イノシシの突進がキャンセルされていたとしても、クマパンチでやられる。


「さすがに無理か……ってうおおぉぉっ! くぐれんのかよっ!」


『隙間があるようだったのでもしかしたらと思っていました。当たってたら死んでました。当たらなくてよかった』


〈反転速射でなぜあたる〉

〈弓矢!〉

〈この密集地帯で!〉

〈どっちか倒せたらあるぞ〉

〈頭上w〉

〈こええええ〉

〈上通ってったw〉

〈終わったかと思ったわ〉

〈なんで生きてんだ〉


 立ち上がっているクマ型が振るった左腕、その下にもぐり込むようにジンは入っていた。クマ型の脇の下をくぐり抜けて、クマ型の背後に回る。背後に回る間にもう一射してイノシシ型に矢を喰らわせていた。


『でもイノシシが……あれっ?! 曲がっていった!?』


『フレンドリーファイアはないようですが、進行方向に仲間がいた場合は迂回するようです。クマの懐にいる限りは突進されませんね。ずっと立っててくれないですかね、このクマ』


「一番の危険地帯だけどなぁっ! 防具もねーから一発くらったら瀕死だぞ!?」


『いえ。瀕死ではありません』


 クマ型のパンチを懐に入って回避しながらイノシシ型の弱点を的確に撃ち抜くジンは、寿命が縮まりそうな立ち回りをしながら続けて言う。


『一発もらえば即死です。すでに一発もらっているので体力ミリなんですよね』


「なおさら危ねぇっ!」


『あっ、ジンさんっ! それっ……』


『はい、報告ありがとうございます』


〈突進は防げるけど〉

〈どきどきなんだが!〉

〈離れたらイノシシにやられる〉

〈イノシシ邪魔すぎる〉

〈クマの腕すぐ横すぎてったw〉

〈こっちも瀕死w〉

〈クマ倒すのに急いでたっぽいしな〉

〈まずい〉


 ロロが言い終わる前に、ジンはクマ型の懐からジャンプして飛び出した。


 クマ型が両手を上に掲げていたのだ。それは大きな両腕で敵を叩き潰す攻撃と同時に、四足歩行に戻る予備動作だった。


 クマ型のモーションを見てすぐに反応して走ったジンは、ダッシュジャンプでクマ型の攻撃範囲を出て、視点を振って即座に空中でイノシシ型の鼻先に照準を合わせて矢を放った。


『っ! イノシシダウン』


『ないすっ……ナイスぅっ! ジンさんっ!』


「ナイスぅぅっ! ラスト!」


〈あぶねえええ〉

〈はんのうはあyい1〉

〈反応はえええ!〉

〈生きててくさ〉

〈イノシシとった!〉

〈ないすううううう〉

〈ないすううう!〉

〈エイムびたびたやんけ!〉

〈鼻にしかあてとらん〉

〈視界の外のイノシシに反転してなんであたんの?w〉


 これまで積み重ねてきたダメージが、ようやくイノシシ型の命を喰い尽くした。


 ふつうならクマ型一体の相手をするのも一人じゃきついが、そこはジンだ。二足歩行から四足歩行にスタイルチェンジしたクマ型相手でも、まるで動揺することなく冷静に対応している。


『頭が低い分……こちらのほうがやりやすいです』


「はっ……はっはっは! 手玉に取ってんなぁ!」


『ジンさんっ! すごいよジンさんっ!』


〈ワンブイワン!〉

〈いけえええ!〉

〈クマだけだ!〉

〈もはや余裕で草〉

〈当たる気せんやんw〉


 攻撃する時のモーション自体は、四足歩行の今のほうがわかりやすい。前足の片方を地面につけて、もう片方を振るうという性質上、地面につけているほうの前足に移動していれば攻撃範囲から逃れられる。


 だが、クマ型は二足歩行の時よりも攻撃のペースが速くなっている。ジンはその速さに惑うことなく、回避と同時にクマ型の顔面に槍を突き刺していく。


 何度か繰り返している時、バックステップで距離を取ったクマ型のモーションが変わった。両手両足で地面を掴み、姿勢を低くした。


「なんだっ?!」


『っ! 飛びついてくる! 横にも逃げられないやつだよっ!』


『っ……ありがとうございますっ』


 (たわ)んだバネが圧力から解放されるように、クマ型の巨体が宙に浮く。


 腕を左右に大きく広げ、大きく鋭い牙が並んだ口を開いて、怖気を震うような唸り声を上げてジンに飛びかかった。


「っ……」


『ひっ……』


〈おわった〉

〈一発〉

〈うあああああ〉

〈確定だ〉

〈一撃確定攻撃〉

〈あと一発だったのに〉

〈回避不能だ〉


 クマ型の目の前にいるのは俺じゃなくてジンなのに、俺は離れたところから眺めているだけなのに、それでも怖いほどの迫力だった。飛びかかってくるモーションだとロロが報告してくれてなかったら俺もロロと同じように悲鳴を漏らしていた自信がある。


 そんな(おぞ)ましい殺戮者を前にしてジンは──


『……高いですね』


 ──至って平然と吐き捨てた。


 クマ型の真正面にいたジンは、その場で(かが)んだ。


 クマ型は顔をジンに向けて伸ばしていたが、その牙は屈んだジンには紙一重届かず、頭上を通り過ぎていく。


 晒け出されていたクマ型の腹に、ジンは落ち着いて槍を突き出した。


 深々と抉り込む穂先はその土手(どて)っ腹を切り開き、血飛沫が舞うようなダメージエフェクトをいっそ綺麗なほどに撒き散らした。


 攻撃して即座に立ち上がったジンは、背後に着地したクマ型へと瞬時に振り返る。


 追撃に移ろうとしたジンの足が、止まった。


『……クマ、ダウン』


「っ、おっ、おおぉぉっ! ナイスううぅぅっ!」


『っ……ないすぅぅ……ジンさぁぁぁん……っ』


〈うああああああ〉

〈うおおおお〉

〈ええええええええ〉

〈回避できんのかよあれ!〉

〈初見で?!〉

〈ないすううう〉

〈ナイスす!〉

〈勝ったあああ!〉

〈あくまあああ!〉


 着地したクマ型は、そこから立ち上がることなく(くずお)れた。


 倒した。倒し切った。


 たった三人で、ばかみたいな難易度で、ばかみたいな量が攻め寄せたラッシュを捌き切った。


『はぁっ……。勝った、勝てた……。ぎりぎりだ……』


「ナイスナイス! よく勝ったなぁっおいっ!」


『わああぁぁっ……っ、ジンさああぁぁんっ!』


『いや、本当にもう、全員死力を尽くしましたね……。疲労感が……』


「すげぇよ! マジで! イノシシもクマもどっちも……」


〈全員がんばった!〉

〈タゲ取ってなかったら悪魔でもできてなかったんだからみんなの努力だ!〉

〈まだ終わってない〉

〈ジンラースやばすぎんだろ!〉

〈悪魔いてよかった〉

〈サイレン鳴ってない〉

〈指南は造営る〉

〈ぞうえんあrぞ1〉

〈増援あるぞ!〉


 ラッシュを攻略できた歓喜に湧いていたが、ぞくりとした寒気とともに、不意に前回後輩らとやった三日目を思い出した。


 あれが終わった時は、たしか。


『すごいよっ! ジンさん一人でぜんぶ倒しちゃったよ!』


『いえ、ヒト型を片づけるまでロロさんと壊斗さんがクマとイノシシを引きつけていてくれたおかげです。筋力極振りみたいなクマ相手にロロさん、よく耐えましたね。壊斗さんも、イノシシのタゲ取りありが……』


「終わってない……まだ終わってねーぞ!」


『え?』


『でも、壊斗くん。ぜんぶ倒したよ? ヒト型十二体と、クマとイノシシで動物型二体。これでぜんぶだよね?』


「ラッシュが終わったらスタートの時と同じようにサイレンが鳴るはずなんだ! まだ鳴ってない!」


〈レベル七なら終わりだろ?〉

〈難易度によって増援がある〉

〈サイレン鳴ってないな〉

〈まだあるとか嘘だろ〉


 前回やった時の三日目。あの時はラッシュを(しの)ぎ切ったあと、サイレンが鳴っていた。ラッシュのイベントは始まりと終わりでサイレンが鳴る仕組みになっているのだ。


 ジンがクマ型を倒してから、まだサイレンは鳴っていない。


 まだ、ラッシュは終わってない。


 ジンは俺の言葉にすぐに反応して森の方角に目を向ける。


『っ……ヒト型、しかも二パーティ……っ!』


 ヒト型六体が、もうすぐそこまで迫ってきていた。


 完全に油断していた。クマを倒して、もう安全だと気を緩めていた。


 森のほうなんて誰も見ていなかった。


「迎撃間に合うか?!」


『ジンさんっ……』


『っ、回復……無理か。迎え撃ちます』


〈プラス二パ?〉

〈は〉

〈ふざけてる〉

〈難易度やばすぎ〉

〈至難はラッシュ増援でヒト型六体くる〉


 先に削れた体力を回復したかったようだが、あまりにもヒト型との距離が近い。回復が間に合わないリスクがあるくらいなら離れているうちに数を減らそうと考えたようだ。ジンはすぐに弓を構えて矢を放つ。


 一つ、二つと軽快にヘッドショットで落として、引き撃ちすれば間に合うペースで落としていたが、ここにきて矢が尽きた。


『もう、少しなのに……っ』


 ヒト型の群れに包囲されながらも槍を構えてうまく立ち回り、どうにか二体倒したがそこでとうとうスタミナが切れた。ダッシュができなくなり、槍も振るえなくなり、ヒト型の魔の手から逃れられなくなる。


 最後の砦であるジンが、奮闘虚しく崩れた。


次でコラボ配信終了です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石のジンさんも初見ボスラッシュからの増援には耐えられなかったか…。 とはいえ、このメンバーでは十分すぎるんですがねw 悪魔でも疲れることあるんだ(小声
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