最終話
ぐるり、と視界が反転し、そこには吸い込まれるような空と、芽依の笑顔だけがあった。
「……え」
「はい、これで引き分け」
呆けた様な声が溢れる。
「なん、で」
ドスン、と尻もちをついた衝撃が、思い出した様にジワリと広がった。
「なんでって、ほら、見て?」
芽依の目線の先から、薔薇の様な赤い光が水平線からのぞき始める。
……夜明け。ゆっくりと、しかし着実に広がる朝の気配。
「私、言ったでしょ。貴方が世界を殺すのが先か、私が貴方を殺すのが先か。”互いが持てるもの全て”を使って、先に目的を達成した方が勝ち。貴方が勝てば、世界は終わる。私が勝てば、貴方は死ぬ』って。君は、世界を殺せなかった。だから君は勝てない。でも、タイムリミットは夜明けって言ったでしょ?残念だけど、私が斗羽くんを殺す前に、朝が来ちゃった」
残念だね。そう言った彼女は、微塵も残念だとは思ってなさそうに笑った。
「貴方は私に勝てなかった。私も貴方に勝てなかった。だから、この賭けは引き分け。まあ、もし勝者を決めるとすれば……」
彼女が不意に空を見上げる。
「……”彼”かな」
夜が、明ける。
こうして一夜のうちに繰り広げられた、たった2人の世界を賭けたデスゲームは、幕を下ろした。
*
「僕、これからどうしようかな」
「急にどうしたの」
「だってテロリストだからな。バレたら無事じゃいられない……まあ、どこぞの殺人鬼のおかげで未遂だけど」
「よく言うね。私だって未遂だよ?……まあ、1つ私が言うならだけれど」
しかと朝日を見据えるその顔は、強くも繊細で、美しかった。
「君は、生き急ぎすぎている。これまでの何年間かで嫌というほど未来だけを目指し続けたんだから、少しは今のことも見てあげたら?」
未来だけを目指し続けた……その言葉にハッとする。
「……それもそうだな」
「ま、とにかく”生きてさえいればどうにだってなる”ってこと」
ビルの窓が、あざやかな緋色に輝く。
「何かあったら、私が助けてあげる」
「全く、よく言うよ。さっきまで殺そうとしてた相手を助ける?……よろしくな」
「馬鹿なことに拘ってないで、早くタワーから降りるよ、自/殺志願のテロリストさん」
「はいはい、殺人鬼さん」
誰もいなくなった西都タワーに、凪の様な風が1人、くるりと舞った。




