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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド

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6-15 彼女の事情と妹

 この街の権力層に限った話では、二十歳というのはまだ働く年齢ではない。これが農家や職人の皆さんならば、小さな頃から親の手伝いとか偉い師匠に弟子入りとかで立派に働くものだけど。


 しかし人の上に立つことになる権力者なら別だ。将来に向けて、知識や能力を磨く時期である。


 しかしターナやレガルテは、学校を辞めてまで城主を支える仕事をしている。さっきも商人と交渉してたし。

 自分で選んだ道とはいえ、辛いのは間違いない。


 しかしこの学校の人間からすれば、その苦しみはわからないのだろう。



 この学校を持っていたチェバルという名門は失墜した。つまり学校を運営する母体がなくなったというわけだ。

 都市に学校は必要だから、これからは都市で運営するってことになるだろうし、実際今はそうしている。


 ところがこの都市にはもう一つ学校がある。やはり失墜したサキナックの運営していた学校も、今は都市が預かっている。

 そして、ひとつの都市にふたつも学校はいらない。


 少数の人間しか学ばない学校であれば、統合してしまって問題ない。

 片方の学校を廃止してその生徒をもう片方に移してしまっても問題はなさそうだという方針が、新しい権力者の中では固まってきている。


 当事者である学校の生徒や教員にとっては、気が気じゃないだろう。


 学校が統合されるということは、自分達と競い合う相手が増えるということ。この学校ではそれなりの成績を維持できていた者でも、新たな生徒が入ってきたら途端に落ちこぼれになるかもしれない。

 教師に至っては、そんなに数は必要ないと判断されて職を失う者も少なからず出るだろう。


 そうでなくても、今まで慣れ親しんできた環境が激変するのは確実だ。廃止された方の学校の人間は自分達の世界が急に消え去るわけだし、受け入れる側も大量の部外者が自分達の領域に入るのを良しとするはずがない。

 そんな改革を行おうとする城の人間、すなわちターナにいい顔を向けないのは当然だろう。



 いや、ターナが非難されるのはもっと個人的な感情かもしれないな。



 チェバルが運営しているこの学校を卒業すれば、あとは都市の支配階級として一生を過ごすことができる。そんな未来が待っているはずだった。

 チェバルの一族の人間でもそれに親しい富裕層でも、あるいは引き抜かれた庶民出身の子供であっても、程度の差はあっても明るい将来の展望が見えていた。


 ところがそれが閉ざされた。そして、閉ざした張本人であるはずのターナだけは、城主に気に入られて一族の中に取り込まれた。

 そりゃおもしろく思う人間はいないよな。完全に嫉妬でしかないのだけど。



 それでもターナは気にした様子もなく校内を歩き回り、置いてきた私物を回収していきすれ違う生徒に声をかけてお世話になった先生達に挨拶をした。

 たとえ返ってくる言葉が、淡泊で感情のこもっていないものだとしても。



「どうしようコータ。わたし別になにも悪いことしてないのに、申し訳ない気持ちになってきた」

「そうだよな。いたたまれないよな」

「気にしない気にしない。これからはこの街に住む人間はみんな、わたしが守ってやらなきゃいけない市民だからな。こうやって声をかけていくのは大事なことだよ」

「そういうものですか…………」


 それにしてもポジティブ思考にしても程があるぞ。




 さて、ターナのやることはひととおり終わった。次は俺達の用事だ。というわけで揃って図書室へと向かう。捜し物にもターナは協力してくれるそうだ。ありがたい。


 さて。図書室へ向かう途中の廊下で、前方を歩くひとりの女子生徒にターナは気づいた。


「おーい、ミーナ」


 その子に駆け寄りながら声をかける。後ろ姿で顔は見えなかったが、ターナにはわかるらしい。そしてそれは正解だったようで、ミーナと呼ばれた少女は振り返った。


 歳はリゼと同じぐらいだろうか。リゼより少し背が低く小柄。釣り気味の目がターナに少し似ている。ゆるいウエーブのかかったセミロングの髪が、振り返った際に揺れた。



「こんにちは姉さ…………ターナさん。お仕事ですか?」

「姉さんでいいって。ミーナとわたしが姉妹なのはずっと変わらないだろ?」

「いえ。ターナさんはもう城主様の一族なので……」


 話しを聞くに、ミーナはターナの妹のようだ。確かに顔が似ているように思える。

 けれどこの少女、姉のことがそこまで好きというわけではなさそうだ。ていうか、明らかに邪険に扱っている。

 実の姉を姉と呼ばないのは、城主の身内になったってこと以外にも理由がありそうだ。


「まったく。素直じゃないなミーナは。でも勉強熱心なのは感心だ。よく学んで、将来のこの街のためにそれを活かしてくれ」

「…………はい、ターナさん。ではわたしはこれで」


 早く会話を切り上げだそうな様子でミーナは足早に図書室へと向かっていく。


 そういえばターナは、今回の件で自分の親きょうだいからも、裏切り者扱いされて冷たい目で見られてると言ってたな。仕方ないことかもしれないけど、やっぱり辛いって思うこともあるだろう。



 ターナはやはり、気にする様子も見せずに俺達を図書室へ案内する。当然ながら別れたばかりのミーナと目的地でまた鉢合わせしてしまったが、向こうは気づかないふりをしながら、わかりやすく避ける動きを見せた。

 まあいいや。とりあえずここで調査だ。



 本は高価なものではあるが、そこは千年の歴史がある名門の建てた学校だ。街の図書館には敵わないにしても、それなりの広さがある室内に多くの蔵書があった。


「禁書ってわけじゃないけど、普段は閉ざされてる資料室もあるよ。そっちの方が興味あるんじゃないかい?」


 ターナは必要な情報をよくわかっているようだった。そして司書に話をつけて、資料室の鍵を貰う。


 図書室の司書は、ターナに対して柔らかな態度で接してくれていた。もしかすると数日に渡って資料室の中を見たいと言ったところ、壁にかかっているだけの鍵だから好きに開けて中に入って良いとのことだった。


 別に立入禁止なわけではなく、学校の関係者ならば好きに入っても良い部屋らしい。

 一応は古くからの貴重な資料もあるから、夜間は鍵をかけて泥棒なんかが入らないようにしていた。それが普段から誰も使わないから、普段は鍵をかけっぱなしにしている状態が続いているとのこと。


 せっかくだからもう少し尋ねてみる。ここ最近鍵が開けられたことはあるかと。司書が応えるには、将来チェバルの家に仕えるためにと勉強熱心な生徒が入ることは時々あったという。


 他に特別な例といえば、少し前にチェバルの血筋の者が数人やってきて中を見ていたという。

 それはちょうど、ゾンビが暴れる夜の前日のことだった。

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