第104話 大人は怖い
後書きにニュースありますです。
「またお前らか……!」
大門先生はこめかみをピクピク言わせながら、毎度お馴染みの悪役を見つけたときの主人公の如く言い放った。
また。アゲイン。そうなると俺じゃないな。
「椚木、好木! お前ら綾瀬と香月を巻き込んで何をしているっ」
ワーオ。まさかの俺とゆうたがセットだったぜ。ビックリだねチクショー。
「見た所トランプに興じていたようだが、テスト期間と分かってのことだな?」
テスト期間、テスト一週間前からテスト最終日までは自習を除き部活などの放課後活動は禁止されている。俺達のこれはどう見ても自習ではないですよね。
ん? 待てよ……?
よくよく考えるとこの状況、俺には美味しいんじゃないか?
そもそも良く分からない勝負を半強制的に受けさせられ、その結果劣勢に立たされている。最早俺が奇蹟を起こして残り全てを次ターンに全て攫う……なんてことをしなければ勝利は訪れない状況だ。
しかし、その僅か数%あった勝機も、実はこのやり取りの間に消えている。
その理由は当然……当然? 綾瀬光だ。
なんと光は先生が入ってきて注目が彼女に移った隙に、大胆にも伏せカードを捲り、把握するということを仕出かしていたのだっ! 目にも止まらぬイカサマ……俺でなくちゃ見落としてたね。
綾瀬は俺の前の番。俺が1枚もカードを捲るまでもなく彼女に全て浚われて負けは確定するだろう。そして、彼女のこれまでのムーブ……万が一にも記憶違いは無いのでしょうね……。
勿論告発も出来たが、そもそもこの勝負自体がアウェー。さらに先生のお怒りを無視してゲームに話を戻そうものならそれこそ余計に先生の怒りを買うってもんだ。
「おい、椚木。お前に言ってるんだ。聞いてるのか」
ほらね。
「ええ、勿論」
「ではなんと言ったか復唱してみろ」
オゥ……。追い詰められてる。追い詰められてんぜ椚木鋼。
前門の大門、後門の光って感じだ。前にどんだけ門があるんだよとか、後門の光って口に出したらセクハラなんじゃないのとか、そういうことは言っちゃ駄目だぞ。
俺は頑張って無い頭を回したが、残念ながら両方を打開する術は浮かんでは来なかった。下手すりゃ両門に挟まれ圧死する。ならばいっそのこと……!
「いっんやーっ! 流石先生っ! 俺もそう思ってたんすわーっ!」
俺は思い切って前門に突進した。
「やっぱり先生は違うなぁ! こんなチンチクリン共とはっ!」
「なあっ!?」
「むっ!」
「…………」
先生の手を取り、早口アンド大声で彼女を称え崇める。背後から聞こえた後輩達のリアクションは無視だ。
「もう素敵っす! 女神っす! ああ、俺が後10年老けてたら結婚を申し込むのになぁ!」
今までの傾向なら先生は俺のセクハラ発言を断罪し、怒りと共に解散を言い渡すだろう。それでゲームも有耶無耶だ。
俺はセクハラ野郎としてダメージを負うことになるが、敗北者になることは避けられる。肉を切らせて骨を断つ精神だ。
さぁ来い! パンチでもキックでもパイルドライバーでも!
「……まったく」
が、俺の決意とは裏腹に先生は呆れるようにそう言って微笑んだ。それどころか……
「なに、今からでも遅くはないさ。後数年もすればお前は私の生徒ではなくなり、私はお前の先生ではなくなるからな」
「「「「!!!???」」」」
そんな、先生らしくないこと言って優しく俺の頭を撫でたのだ。
その時の俺達に走った衝撃といったら何と言い表すべきか。というか、俺の中の衝撃は、突然空からロボットが落ちてきて、お前がパイロットになるんだと宿命を押し付けられるくらいに突拍子もなく、現実味のないものだった。
なんたって、あの大門香純先生(美人、面倒見がいい、カッコいい)がデレたんだぞ……!?
「ちょ、先生……?」
「ふふふ、散々人を独身だの売れ残りだのからかってくれたものなぁ。ここまでコンプレックスを刺激され、今の今まで碌に交際相手も見つからない有様になった原因の一端はお前にあるだろうし、責任を取らせるというのも悪くないかもしれない」
ええっ、なんだよこれ、もう……前門ヤベぇよ。なんていうか、その、ヤベぇよ……(語彙力消滅)。
「ま、まさかの展開……」
「鋼さん……先生……?」
「さ、流石お兄ちゃん……まさかあの鬼教官を攻略していたとは……これが憎まれっ子世にバルナバルという奴ですね!?」
何だそれ。新大陸で見つかった新種のモンスターかよ。
「……くくっ」
先生が楽しげに喉を鳴らす。ま、まさか今のゆうたのボケか何かも分からない発言がツボに……?
「なんてな、冗談だ。いつものお返しだよ」
先生はそう言うと、ニッコリと暖かな笑顔を向けてきた。
「本気にしたか、椚木。顔が赤いぞ」
「なっ……! あ、赤くないですし……」
むしろ今正に顔に熱が集まってきたといえる。からかわれたという羞恥からだ。
「意外と打たれ弱いんだな」
「うぐぐ……」
圧倒的劣勢に俺はただ唸ることしか出来なかった。何を言っても向こうにとって好意的に取られる状況だ。
しかも、後輩三名からの視線が痛い。そりゃあ先輩が年上にデレデレしてる姿なんて見ていて気持ちのいいもんじゃ……って、デレデレしてねぇーし!
「フフフ、椚木ぃ。結婚して欲しいんだったなぁ。子どもの言うことを無碍にも出来ん。お前がもうちっとばかり大きくなったら考えてやらなくもないぞ?」
「っ……! もういいですよ! 俺が悪かったですっ!」
やはり年上、いや大人は怖い。間違ってもからかうもんじゃない。
俺は後輩達の前で公開処刑をされながら身に染みてそれを実感するのだった。
いつもありがとうございます。
「親友モブの俺に主人公の妹が惚れるわけがない」
書籍版の第2巻が11/29発売予定です。
封入箇所の関係とか、個人的に直したい展開など諸々リライトしたため、連載版と色々違ったりします。校正どころじゃなくほぼ打ち直しです。すんごい頑張った。
というわけでなろうで読んでくださってる方にも是非読んで頂ければ嬉しいです。
情報も追って公開していきますので、何卒よろしくお願いいたします!!




