第103話 勝負は最後まで分からないが9割程度は中盤時点で決している
神経衰弱とはッ!!
トランプという世界的に有名なカードを用いたゲームである!
4つのマークにそれぞれ1から13までの数字が刻まれた、計52枚のカードを使用して行う。このゲームにジョーカー、つまり冗談など無いという過酷なゲーム性を現しているのだッ!
プレイヤーは一巡に2枚のみカードを捲ることが可能。そして同じ数字のカードを揃えると得点としてその2枚を懐に入れられる。また、新たに2枚捲ることが出来るのだ……え? 一巡に2枚のみ捲れるって言っただろって? 言ったかな? 言ってないよなぁ? 言ってねぇんだよッ!!(嫌な上司三段活用より引用)
まあそんなことをひたすら繰り返していくゲームだけど、一番求められるのは自分及び他プレイヤーが捲った際にどこにどのカードがあるかというのをしっかり記憶すること。これが数枚ならいいが十数枚とかになっていくと頭の中でこんがらがったり記憶間違いが発生して文字通り神経を衰弱させることとなるのである。
以上、神経衰弱の説明でした。
「頼む……来てくれッ! 運命のドローッ! っと、外れか~」
「そりゃそうだろ」
「ちっちっちっ。甘いですねA先輩。伏せられたカードは52枚。1枚捲って残りは51枚。同じ数字は残り3枚ですから、大体5パーセントくらいの確率で引ける計算になります」
「だから何だよ」
「5パーセントですよ、5パーセント! それだけ確率があるなら全力で手を伸ばす以外の選択肢など有り得ません!」
「かっ、カッコいい……!!」
なんとも男前な奴だ、香月怜南……! 流石アスリート。これだからアスリートってやつは……アスリートってやつは……!
「次は私ですね。ええと、これ……あっ、この数字今怜南ちゃんが捲ったやつだね!」
「「リアルラック!!」」
神から選ばれたヒロインが如く、綾瀬光はファーストドローで先程香月が捲ったのと同じ数字を引き当てた。5パーセントを引き当てたのである。単発SSRである。笑顔で喜ぶ姿は正に配布石で引きましたとアピールする無課金勢の如く。いや、あいつらに比べると光はマシだ。可愛いし。可愛いは正義。お嬢ちゃん、プリペイドカードはいるかい、はぁはぁ。
とはいえ、神経衰弱のキモは残りカード数とは別に既に捲られたカードを記憶しておくことで候補を減らしていけるという点にある。例えば今まで52枚のカードが残っていた。一番手の香月が2枚捲ったことで52枚残っていつつも数字の分からないカードは50枚に減少している。ここで二番手の光が1枚捲れば残り49枚で、49分の3を引き当てればいい、となっていくのだ。
更に、今の光のパターンは最初の1枚で香月が引いた数字と同じカードを引き当てている。50分の3を引いたという形だ。これは運がいい。勿論2枚目は香月の捲った同じ数字のカードを捲るだけでペアが成立し得点になるのに加え、新たに2枚カードを捲れるからだ。香月の引いたカードと同じ数字を1枚目で引ければまたポイント獲得が出来ることになる。……が、今回は駄目だったようで、1枚目、2枚目共に新しい数字となった。
これで残枚数が50枚、開示されたカードが香月の1枚、そして光がペア成立の特典で新たに捲った2枚の計3枚となり、非開示カードが47枚となる。そして1から13の内、光が揃えた2のカードは残り2枚、それ以外の1と飛んで3から13までの12種のカードは残4枚となる。そこから既に開示された3,5,8のいずれかを引く確率は47分の9、約20パーセントまで高まった。僅か三番手にしてかなりの吊り上がり方だ。
勝負とは簡単だ。ここで20パーセントを引ける者が人生のあらゆる勝負で勝者となる分かれ道……選ばれし者の力……見せてやるッ!
「最強神経衰弱ラーの神経衰弱は全て必然! そのドローカードさえも神経衰弱ラーが創造する! 行くぜッ!」
「な、なんて覇気……!」
「え、怜南ちゃん分かるの!?」
「A先輩がやはりただ者では無いということは……フフフ、鳥肌が立ってきました。まさか、こんな所でこれほどの強者と相見えることが出来るとは……!」
「シャイニングドローッ! ……んっ、あぁっ!!」
三者が見守る中、俺が引いた数字は……7。つまりハズレだ。幸運を現す数字だが、こと今この状況においては不幸の象徴に姿を変えていた。
「あれだけ大袈裟にやったのに……」
「う、うるさいなっ!? 確率20パーセントくらいだから! 5回に1回しか成功しない確率だから! これが普通なんだよ、普通!」
可哀想なものを見るような目を向けてくる光に言い訳しつつ、恥ずかしさから適当にカードを捲る。
「あっ、5ですっ!」
そう叫んだのは俺の次、四番手のゆうただった。俺の捲った数字が既に開示されていたのと同じ5だったのだ。これでゆうたは何もせずに無条件でカードを揃えることが出来る。
「くふふふふ。流石はシャイニング。ゆうの輝かしい勝利を導いてくれたですね! ……ハッ!? つまりはお兄ちゃん! お兄ちゃんはゆうを勝たせようとしているですか!? 即ちそれは自らゆうの奴隷になりたいということですね……? んもう、お兄ちゃんったら! そうならそうと始めから言ってくれればですのに~!」
「全くそんなつもり無いから」
「照れなくていいですよ。ゆうと輝かしい奴隷ライフ満喫するですよ!」
「奴隷と輝かしいって対極だろ……」
結果俺のアシストでゆうたがトップタイに躍り出ることとなった。光と香月の刺すような視線が痛い。やはりロリコン……と軽蔑されている気がする(被害妄想)。
そしてまた一番手の香月に戻る。以降また繰り返しだ。開示されたカードが増えていきペアも成立していく中で確率もどんどん上がっていく。
しかし、確率通りにいかないのが神経衰弱の怖ろしいところである。人間の頭は優れているが単純でミスも多い。もしも既に開示されたカードの数字、位置を間違えていたら? それは先で言う20パーセントの壁を乗り越えたとしても0パーセントにしてしまうような大失態となる。
「キングは残り1枚……このカードだぁ! ……バァッ!?」
「お兄ちゃん、ミスりましたですね。キングはその隣ですっ! はい、ゲットーっ! ご馳走様ですっ」
またもやゆうたにアシストする形となり、二人から冷たい視線を送られる。いや、違うねんて。わざとじゃないねんて。
……しかし、このゆうた野郎。自ら神経衰弱を提唱しただけのこともあり、中々に記憶力に優れている。ミスが少なく抜け目ない。運もある。強い。前半、中盤、後半隙が無いと思う……だけど俺は負けないよ。
残り半分を切りトップをゆうたが走っていようが、まだ逆転の目はある。希望がある限り、俺は諦めねぇ……!
「くふふふふ! お兄ちゃん! まだまだやる気みたいですが、ゆうには敵わないですよ! きっちりと引導を渡して、奴隷にして、転校なんてできなくさせてやるです!」
「……なんだって?」
転校をできなく? 何言ってるんだ、こいつ……。一瞬、ゆうたの言葉に頭がフリーズする。
……まずい。今ので頭の中に描いていたトランプ配置図が消えてしまった! このチビ、まさかこのタイミングで意図的な揺さぶりを……いや、諦めるな。ここで諦めれば俺は負ける。敗者必滅がこの世のルール、そう簡単に負けるわけには……!
「おい! お前ら何時まで残っているつもりだ! 部活動は休止期間の筈だが?」
突然バンッと勢いよくドアが開き、そんな厳しい声が部室内に響き渡り、そしてやはりと言うべきか、大門担任がそこに立っていた。




