第102話 池照陽伽という女
お待たせしました。
勢いで書きすぎてる感じがします。が、後悔はしていません。
「くっくっくっ、この日のために用意した好木幽ちゃん特製オリジナルトランプが火を吹くですよぉ!」
「吹かねぇよ」
どこからツッコめばいいのか。明らかにノートの切れ端をさらに千切って作られた、小学生とかが作ってそうなオリジナルトランプを見せられ、俺達はみんななんとも言えない気分になった。
というのも好木がどういう思いでこのトランプを作ったか分からないからだ。……しかし、どうしてこいつは自作のトランプなんて持っているのだろう。そうだな……もしかしたら……。
俺の脳裏に、誰もいない教室でせっせとトランプを自作する好木の姿が浮かんでくる……。
『よし、やっとできたです! えへへ、このトランプがあればみんな遊んでくれるですかなぁ……ゆうにも友達できるですかなぁ……』
好木はそう、夕日の差し込む教室で呟いた。彼女に友達はいない。ある日、クラスの女子が、『ねぇ昨日のテレビみたー? マジトランプマンイケてるよね~』と話している会話を聞き、もしも彼女がトランプを持っていればその輪に入れるのではないかと、勉強用のノートを後ろの方から千切って、せっせとこしらえたのだ。しかし……、
『何このトランプださーい!』
『や、やめてくださいですっ!』
『ええと、好木さん……だったっけ? こういうの一人で作ってるって陰キャって感じだよねー』
彼女のその夢は叶わなかった。同じクラスの池照陽伽は彼女のトランプを見て鼻で笑う。
『そもそもトランプなんて最早時代遅れっていうか~? やっぱり時代の最先端はUNOだよね、UNO』
そう言って池照陽伽はポケットからUNOを取り出す。結構カードの量が多いのでぽろぽろ零れ落ちてしまったのは萌えポイントだ。
『ええと、好木さん……だったっけ? あんたもトランプなんかじゃなくてUNO自作したら? ああ、でも無理か。ダイヤ、クラブ、スペード、ハート。4つのマークにつき、それぞれ13枚プラスジョーカー2枚の計54枚で構成されるトランプに対して、赤、青、黄、緑の4色に分類され、それぞれ数字の0が1枚ずつ、1から9が2枚ずつ、スキップ、リバース、ドロー2の記号カードが2枚ずつ、そして特殊カードであるワイルドが4枚、ドロー4が4枚の計108枚で構成されるUNOを自作するにはトランプの倍くらい時間がかかるもんねぇ。トランプを自作するだけでも時代に乗り遅れるくらい掛かったあんたにUNOを作らせたら時代に乗り遅れるどころか一周してまたブーム来ちゃってるんじゃないの? ギャハハハハ!』
『ぐうぅ~! ぐやじいです~!』
覚えてろですー! と言い残し、好木幽は教室を逃げ出した。
『うう、やっぱりゆうはどこまで行っても陰キャです。小さくて、ですですうるさくて、食い意地張ってて小さい、ぼっちの陰キャなんですです~!』
『そんなことないよ』
『誰です!? どこです!?』
『僕はここだよ!』
ぼわんっ、と音を立て好木幽の持っていたトランプから白塗りのおじさんが現れた。
『僕はトランプの精霊さ!』
『トランプの精霊です!?』
『僕が保証するよ! いつか、このトランプが本当の友達との絆を紡いでくれるって!』
『本当です!? いつ頃です!?』
『え、いつ? ええと、うーんと……18歳くらいまでにかな?』
『嘘吐いたらシュレッダーに流すですよ!?』
『あ、言い間違えた。80歳くらいまでには紡いでくれるよ!』
我が身大事にトランプの精霊は期間を延長した。
『このトランプが本当の友達との絆を紡いでくれるですか……』
『うん、だから大事に持っておくんだよ! 決して焼却炉に投げ捨てたり、トイレに流したり、シュレッダーにツッコんじゃいけないよ!』
『分かったです! 捨てるときはバラバラに千切ってヤギさんの餌にするですよ!』
それ以降、好木幽は自作トランプを持ち続けた。いつか友達とトランプで遊ぶために。真の絆を紡ぐために……。
「そっか……好木、お前色々あったんだな……」
「な、なんで生暖かい視線を向けてくるですか!?」
「なんか俺、同情しちゃうよ。池照のやつ、嫌な奴だったよな……」
「誰です!?」
おっと、あまりに妄想の出来が良すぎて正史にしてしまいそうになった。池照陽伽なんていうコテコテな名前のやつ、そうそう居るはずがないよ(フラグ)。
「幽ちゃん、でもこのトランプ駄目じゃない?」
「光ちゃん!?」
サイコパス光が好木特製トランプを眺めながら心のない発言をした。こいつ池照か?
「ななな、なんで駄目ですか!?」
「だってマジックが濃すぎて裏に透けちゃってるもの。これじゃあ神経衰弱するために伏せても何のカードか分かっちゃうよ」
「オゥ……」
池照、池照らない関係無く、そもそもの問題として自作トランプに欠陥があったらしい。
「へ、へぇ~! き、気が付かなかったですぅ~。透けちゃってたですぅ~?」
あ、こいつ確信犯だ。ガンカードするつもりだったな? 誰から見てもどれがどのカードか分かるからある意味フェアだけど。
「流石にこれは駄目だよ。神経衰弱じゃなくてじゃんけんで先攻取った人が優勝しちゃうもん。イカサマはバレないようにやらないと」
「バレないようにやらないとじゃねぇよ、サイコ」
「さいこ? 光ですよ、鋼さん?」
「うん、そうだね……」
テンションが上がってるのかサイコに磨きが掛かってる。俺はこれ以上追及しないことにした。
「それではこの部室の片隅に転がっていた新品のトランプを使ってゲームといきましょう」
次いで前に躍り出てきたのは香月だった。手にはトランプの箱を持っている。こちらは自作ではなく市販のシンプルなデザインのものだ。
「なんで新品のトランプなんて転がってんだ。オモチャ屋かよ」
「いいえ、心霊スポットです。ここには卓上旅行に思いを馳せるがあまり早とちりしてトランプを買ったまま亡くなった部員の幽霊が……」
「ヒイっ!?」
「いんのかよ?」
「多分いません」
あー、ビビった。
人をいきなりビビらせたことへの抗議の思いを込めて香月をじっとり半目で睨むと、ニコニコと満面の笑顔を返された。こいつもこいつで随分と楽しそうだ。もしかしたら、その幽霊というのはこいつのことなのかもしれないね……。
腰に取り憑いてきた幽ちゃんをはがしつつ、俺はトランプを受け取る。なるほど、確かに開けられた形跡はない。
「ちなみに嘘を言ったわけではありませんよ? この卓上旅行部では伝統的に卒業を往生、そしてOBOGを幽霊と呼ぶんです。しゃれてますよね~」
「縁起でもねぇな。でも、お前がこの部に幽霊部員が多いって言ってたのはそういうことだったのか」
「いえ、幽霊部員は一般的な幽霊部員です」
「ややこしいな!?」
活動の実態は無いくせに訳の分からない伝統は残っているらしい。流石そもそもの存在理由自体よく分からない卓上旅行部……。
「ただ、旅行に憧れたまま結局叶わないまま卒業していった方はいらっしゃるみたいなので、その方の怨念は籠もってるかもしれませんね~」
「ひえええっ!」
「おいチビ。抱きつくならあっちにして。あっち」
「ひええええええっ!」
「ちょっ、幽ちゃん!?」
光にタックルを噛ましもみくちゃに倒れるゆうたと光。そんな彼女たちを楽しげに眺める香月。
まだ肝心の勝負とやらは始まりそうになかった。
いつもご愛読ありがとうございます。
102話まで読んで頂いているのだから愛読でいいですよね。愛感じていいですよね。
さて、段々と涼しくなってまいりましたが、突然新作を始めました。
この作品以来の連載になります。
「黄昏が夜に殺されるその前に」
https://ncode.syosetu.com/n7667fu/
ハイファンタジー作品です。大衆受けよりも我得作品になっているので趣味に合わないかもしれませんがご興味あれば是非ご一読いただければ幸いです。
書きたいものを書くのが一番!
というわけで、本作と合わせて二足のわらじでのびのびと連載していきますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします!!




