思い出
思い出の場所を、巡っていた。わざわざホテルに泊まって、有給を取って仕事を休んで。そこまでして、思い出の場所を巡っていた。
執着心の強い女だな、と思う。自分自身に対してだ。こんなことをする人なんて、早々いないだろう。
そもそもこんなことをしている理由というのが、彼氏にフラれたからだった。他に好きな人ができたらしい。でも実際のところ、そう報告してきたずっと前から、浮気していたみたいだけど。
彼は、優しかった。いつでもどこでも、周りの目など気にせずに私に「可愛い」と言った。私が体調不良だと言えば好物を買ってきてくれたり、少しでも症状を和らげようとしてくれた。突然私が泣き出すようなことがあれば、親身に話を聞いてくれて、泣くことを責めはしなかった。
良い人だった。浮気していたこと以外は、心の底から良い人だった。私には勿体ないくらいの、なんて言ったら負け惜しみのようだけど、本当にそうだった。
だからつい、思い出の場所を巡ってしまった。いつまでも引き摺る気は無い。その分、最後に彼との思い出を大切に箱にしまいたくて。
彼の影を追っていった。そして懐かしく感じ、心が温まると、それを記憶の中で鍵を掛けてしまうのだ。確かに彼は、私のかけがえのない人だった、と。




