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日めくりカレンダー  作者: 流美
10月の日めくりカレンダー
216/294

はないちもんめ


「勝って嬉しいはないちもんめ」

「負けて悲しいはないちもんめ」


 どこからか、子ども達の声が聞こえた。どこかで反響しているのか、エコーがかかっている。

 懐かしい遊びだ。幼い頃は、友人みんなで遊んだ。時にはクラス全員を巻き込んで、中々終わらない遊びをした。

 青空だった頭上は、いつの間にか橙色に染まっている。柔らかな光が、静かに沈んでいく。


「あの子が欲しい」

「あの子じゃ分からん」


 遊んでいる子達は、まだ帰らなくて大丈夫なのだろうか。あっという間に夜が来る。近所の子なら良いけれど、家が遠い子は危ない。

 帰宅を催促しにいく。といった勇気は無いが、様子を見に行こうと、声が聞こえる方へと歩く。段々と近付く声。子ども達は、階段を数段だけ登る、小さな神社の敷地内にいるようだった。


「相談しましょう」

「そうしましょう」


 楽しそうな無邪気な声を懐かしく思いながら、階段を登っていく。そして最後の一段に足を掛け、視線を前へ向けた時。世界は、子ども達の声を消した。


 辺りが、しんと静まり返る。何の物音も聞こえない。子ども達の姿も勿論見えない。

 一体何が起きたのかと、更に足を進める。私は、鳥居のすぐ側に置いてある、細長い花束が目に入った。


 あぁ。と思い出す。それから全てを理解する。

 私は幼い頃、ここで殺された。暗くなって帰ろうとした時、私だけがここで、殺人犯の標的になった。

 否、幼い頃じゃない。私が死んだのはずっと前だけど、私は今でも、幼い姿のままだった。殺された当初のまま。


 今まで普通に過ごしているつもりだった。でも今日、子ども達の声がどこか懐かしく、私の耳に飛び込んできたのは。私がようやく、現実を受け入れる準備が整ったからだろう。


 あの頃、私は。1番に欲しいと言われるような存在だった。奪われて、奪い返されて。

 でも今、私は。取り残されてしまった。もう、誰にも欲しいと言ってもらえない存在になってしまった。


 逝かなくてはならない。もう受け入れなければならない。花束に手を伸ばす。同時に、指先から光の粒になっていく。


 楽しげな子ども達の声は、あの頃の私達の声だった。私の、大切な思い出だった。

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