はないちもんめ
「勝って嬉しいはないちもんめ」
「負けて悲しいはないちもんめ」
どこからか、子ども達の声が聞こえた。どこかで反響しているのか、エコーがかかっている。
懐かしい遊びだ。幼い頃は、友人みんなで遊んだ。時にはクラス全員を巻き込んで、中々終わらない遊びをした。
青空だった頭上は、いつの間にか橙色に染まっている。柔らかな光が、静かに沈んでいく。
「あの子が欲しい」
「あの子じゃ分からん」
遊んでいる子達は、まだ帰らなくて大丈夫なのだろうか。あっという間に夜が来る。近所の子なら良いけれど、家が遠い子は危ない。
帰宅を催促しにいく。といった勇気は無いが、様子を見に行こうと、声が聞こえる方へと歩く。段々と近付く声。子ども達は、階段を数段だけ登る、小さな神社の敷地内にいるようだった。
「相談しましょう」
「そうしましょう」
楽しそうな無邪気な声を懐かしく思いながら、階段を登っていく。そして最後の一段に足を掛け、視線を前へ向けた時。世界は、子ども達の声を消した。
辺りが、しんと静まり返る。何の物音も聞こえない。子ども達の姿も勿論見えない。
一体何が起きたのかと、更に足を進める。私は、鳥居のすぐ側に置いてある、細長い花束が目に入った。
あぁ。と思い出す。それから全てを理解する。
私は幼い頃、ここで殺された。暗くなって帰ろうとした時、私だけがここで、殺人犯の標的になった。
否、幼い頃じゃない。私が死んだのはずっと前だけど、私は今でも、幼い姿のままだった。殺された当初のまま。
今まで普通に過ごしているつもりだった。でも今日、子ども達の声がどこか懐かしく、私の耳に飛び込んできたのは。私がようやく、現実を受け入れる準備が整ったからだろう。
あの頃、私は。1番に欲しいと言われるような存在だった。奪われて、奪い返されて。
でも今、私は。取り残されてしまった。もう、誰にも欲しいと言ってもらえない存在になってしまった。
逝かなくてはならない。もう受け入れなければならない。花束に手を伸ばす。同時に、指先から光の粒になっていく。
楽しげな子ども達の声は、あの頃の私達の声だった。私の、大切な思い出だった。




