第197話:リディスVS白龍
「……すみません。少し取り乱しました」
「口調は普通でも構わないよ~。私の使徒でも無いしね~」
「し、しかし……」
「ずっとそれで話していくつもり~?」
「そ……ごほん。分かった。余としても此方の方が話しやすい」
やっとこさ落ち着いたアリシアだが、シルヴィーが居るせいで居心地が悪そうだ。
俺としても今回は助けられているので、邪険にする事も出来ない。
罪には罰を。そしてその反対も然り。
やる事をやったのならば報酬が必要だ。
ぶっちゃけると別に害になるほどでもないので、この程度は問題無い。
「それで、呼び出したけどどうするの?」
「話しておきたいこともありますが、まずはリディス様と軽く戦って頂こうかと。お互いに力量を知っておいた方が良いでしょうから」
「それは余と契約者がまともに戦えると受け取って良いのか?」
「勝負にはなるかと。リディス様。杖と剣の使用を許可します」
アリシアとしてはリディスの魔力や質については認めているが、強さについては認めていない。
使徒とは神の次に理不尽な存在であり、その強さはギルドでいうSSSクラスだ。
素のリディスではまだ無理だが、あの杖と剣があれば戦いの土俵に上がれる。
まあ中にはそんな武器が無くても、いつの間にかおかしい位強くなっているメイド長が居るけど。
魔改造されてしまったヨルムには勝てないが、改造前のヨルムとなら良い戦いになってしまいかねない。
カイルとかに何故か普通に勝てるようになってるし。
何がメイド長を駆り立てているのだろうか? 多分その内王国最強とかではなく、人類最強位になってもおかしくない気がする。
「えっ……本当に戦うの?」
「折角の相手ですからね。死にそうになればヨルムが止めますし、死ななければ私が治せますので。楽園の公園」
シルヴィーの張った結界の内側に新たに結界を生み出す。
リリアとアンリが戦った際に使った結界だが、少し改良を加えてある。
前回は単純に不可視とドーム状の硬い結界を展開するだけだったが、内部の空間を少しだけ弄り、結界内を広くしてある。
ついでに地面も保護してあり、強度もかなりのモノとなっている。
「これは……悪魔の癖に余よりも凄い光属性の魔法を使うとは……まあ良い。人の子よ。準備は良いか?」
「――今するわ」
「はっ!? ……いや、確かにそれならば有効だが、それが使徒のする事か!」
リディスは俺の作った剣と杖を取り出すが、それを見たアリシアはヨルムを見て怒鳴る。
言いたい事は分かるが、アリシアは勘違いしているようだな。
ヨルムの素材を武器として加工できる人間なんて早々居る訳がなく、ヨルムが自分で作って渡したと思ったのだろう。
多少の力を貸すのならばともかく、武器みたいな直接的な力を渡すのは世界のバランスを崩す可能性がある。
なんて感じだろう。
「我は関与しておらん。全てハルナが作り出したものだ。そもそも、我にこれだけの武器を作り出す方法はない」
「セーフティーはしっかりとしてあるのでご安心ください」
「いや……うむ……えぇー……」
困ったようにアリシアはシルヴィーに視線を送るが、シルヴィーはサムズアップを返すだけで何も言わない。
納得はしていなさそうだが、神が何も言わない以上は無駄なのだ。
グダグダな感じとなったが、リディスとアリシアは俺達から離れ、お互いに向き合う。
そして、戦いが始まった。
アリシアは先手を譲ると思ったが、リディスの持っている武器が武器のため、侮る事無く初手から潰しにかかる。
ソルアラマス……ソルの眷属なだけあり、光魔法が得意なのだろうが、リディスは光魔法との戦いに慣れている。
……いや、俺のはちょっと戦い方が変なので、あまり役に立たないかもしれないが、雰囲気位は理解してくれているだろう。
「シルヴィー様はあの方を知っているんですか?」
「どんな子位かはね~。最後に会ったのは数十年前だから、少しは変わっているかもしれないけど、基本はいい子だよ~」
「良い子とは人間相手に初手から上級魔法を使うのですか?」
「でもノーダメージでしょ?」
光属性のプリズムランスを剣の薙ぎ払いで吹き飛ばし、お返しに最上級クラスの氷の魔法をリディスは撃ち出す。
あれは予め用意していた感じだな……ちゃっかりしている。
更に空に飛んで逃げようとするアリシアをリディスは跳んで追いかける。
リディスの場合俺みたいに翼を生やして飛ぶなんて事は出来ないが、跳ぶ程度ならば出来るようになった。
風よの一言で、風を足の裏で爆発させる。
制御が難しいが、俺と違い才能のあるリディスは今では飛んでいるかの様に跳ぶ事が出来る。
ただその場に留まることは出来ないので、戦い方には注意が必要となる。
まあ空を飛んでいる相手と戦うなんて事はあまり起こらないし、普通は魔法の撃ち合いとなる。
だが間違いなく数百年生きているであろうアリシアに魔法戦を挑むのは、無茶以外の何物でもない。
どれだけリディスが優秀でも、先にリディスの方が力尽きるだろう。
アリシアが光属性を使えるって事は、回復魔法も使えるって事だからな。
いくら杖で魔力を節約できると言っても、純粋な魔力量はかなり劣っている。
消耗戦で勝てるわけがないのだ。
まあ短期決戦だとしても使徒に勝つのは人間には無理だろうが、今の所は良い戦いになっている。
ヨルムみたいに一定以下の魔法攻撃を無効化し、更に再生能力があるならば別だが、アリシアは単純に強い感じだな。
舐めないで本気では戦っているとは思うが、手心を加えているのは見て分かる。
そうでなければ俺やシルヴィーすら巻き込んで最上級や戦略級をバンバン使っているだろう。
使徒であるアリシアが使えないはずないだろうし。
「リディスちゃんも中々やるね~」
「随分と鍛えましたからね。装備有りなら見ての通りです。ですが、アリシアさんが全力なら既に終わっているかもしれませんが」
「うむ。本来の戦い方ならば、ここまで接戦にはならないだろう」
リディスは空を三次元的に動き、全方位から魔法を撃ちながら隙を見て斬りつけていく。
アリシアは受けに回る事を強いられ、光属性以外にも火や風の魔法で空を明るく照らす。
不可視の結界が張られてなければ、王都は大騒ぎになっていただろう。
「そろそろだな」
「そうですね」
戦いは拮抗しているが、そろそろリディスの限界が近い。
逆にアリシアは怪我こそしているものの、魔力もまだまだあり、回復魔法すら使っていない。
リディスはアリシアの下へと潜り込むと、竜巻を起して撹乱しながらアリシアの上を取る。
そして風属性と火属性の混合魔法を放ち、その魔法を目隠しにしながらアリシアに接近して剣で斬り付ける。
二人揃って地面へと衝突して砂煙が舞った。
形としてはリディスの勝ちとなるが、リディスとは違いアリシアは余力を残していそうだ。
「勝ったね~」
「あくまで試合としてはですね。これが殺し合いならリディス様の負けでしょう」
「中々辛辣だね~」
「試合に勝つ程度で満足しては、死んでしまうのがこちらの世界でしたからね」
俺とは違う格上相手の戦いはリディスの糧になっただろうが、やはり大型種の魔物との戦いはまだまだだな。
普通に暮らしていれば大型の魔物と遭遇する事なんて無いだろうが、リディスだしその内ありえるだろう。
しかしし、アリシアにヨルム。そしてテレサなんて過剰も過剰戦力がこも王都に居る訳だが、誰か一名居るだけでクーデター組は壊滅する戦力だ。
クーデター組に使徒や魔王クラスの戦力なんて居るはずもないだろうし、敵対した瞬間にクーデター組の負けとなる。
あまりにも出来レース過ぎるのはつまらないが、好き好んで向こうの味方なんてしたくもない。
この国としては出来レースの方が良いのだろうが…………ふむ。
俺としてはどちらにも肩入れをする気は無いが、流れ作業の様にスティーリアが落ちぶれるのはあまり面白くない。
あいつは俺に手を出してきているので、仕返しをしても問題は無い。
だが、このままでは勝手に潰れて終わるだろう。
……クーデター組には圧力を掛け、他国の力がかなり必要だと思わせる事により、戦火を拡大させる。
そうすれば面での勝負は良い感じになるだろう。
メリットとしては戦争が終われば、今まで以上の平穏が訪れる事になる。
デメリットは戦争の拡大による死者ってところか。
どうせ後々戦争にはなるだろうから、これを気に前倒しで始めてしまった方が、最終的な死者は少なく済むだろう。
まあクーデター組が諦めてしまえばそれでおしまいなのだが、そうはならんだろう。
「さて、様子を見に行きましょうか」
「そうだね~」
「うむ。次は我が戦っても良いか?」
「相手が納得したならどうぞ。この結界ならそう壊れませんので、誤射さえしなければ大丈夫です」




