第162話:会社見学その一
「此方が見学をする製粉所となります。基本的な方法は風魔法にて羽を回す方法と、外壁の外に立っているような、自然な風にて製粉する方法が取られています。詳しい説明は会社の方がしてくれますので、それでは本日は宜しくお願いします」
連れて来られたのは大きな平屋型の工場であり、ハロルドが入り口に立っていた男性に頭を下げる。
「ローデリアス学園Aクラスの皆さんこんにちは。私はこの工場の工場長をしているアルフレッドと申します。短いお付き合いになると思いますが、どうぞお付き合い下さい」
アルフレッドは穏やかな笑みを浮かべながら、聞き取りやすいゆっくりとした口調で話す。
身なりは綺麗だが、しっかりと現場で働いている様な服だな。
袖がよれていたり、靴も作業用の物に見える。
「先程ハロルド先生が話した通り、王都では主に二つの方法で製粉をしています。基本的には風車で作られた物が市場に流れています。では、魔法にて製粉した物はどうなっているか、知っている方は居ますか?」
アルフレッドの質問に対して、誰も分からないのか手を挙げる者はいない。
どんな都市なのかは分かっても、その中身についてまで調べるのは難しいのだろう。
ネットがあるならばともかく、調べるには現地に行くか、知っている人に聞くしかない。
とは考えて見たものの、こんなものは考えるまでもない。
風車で作られる粉は基本的に荒い物が多くなり、悪く言えば粗悪品だ。
しかし魔法。つまり人力で製粉をする場合は調整が出来るため、きめ細かな粉を作る事が可能なのだ。
まあ人力の場合は人件費が高くなるデメリットもありそうだが、機械式になれば人力と風車のデメリットが両方無くなる形になる。
経済を回すという面では雇用が減るのは困る事なので、おそらく機械式になる事はなさそうだが。
ついでに小麦粉が沢山作れるって事は、それだけ人口も増やせることに繋がるので、間違いなく神からストップが掛かるだろう。
既に魔石から何かしらの動力を取り出せる事が分かっている以上、俺ならば機械化するのも可能だが、怒られると分かっていて進める程俺もやんちゃではない。
まあ個人的に作る分には問題無いだろうし、後々とある装置を作るつもりではある。
その装置とは、温泉用のくみ上げ装置だ。
複雑な物を作るつもりは無いが、最低限衛生面に配慮したいのと、身体を洗う用の綺麗なお湯なども準備したい。
欲を言えばシャワーも用意したいが、源泉を汲み上げる仕組みを考えてからだ。
知識はあるし、図面も描けるが、それと実際に作れるかは別の話だ。
現場仕事なんてやってこなかったので、手探りとなるだろう。
「いないみたいですね。正解は、風車にて作られたのと同じく、市場に出回っています。この中にはお店で実際に買いもをした事の無い子も居ると思いますが、小麦粉や大麦粉には等級があり、お店によって売っている等級が異なります。細かい物は高く、荒い物は安く。その様に分けられています」
貴族専用とかではなく、単純に等級で管理されているのか。
そう言えば、紅茶も同じ感じで売られていた気がするな。
偶然立ち寄った店では二種類しかなく、ブロッサム家で買っている奴を大量に頼んだため、あまり気にしていなかった。
良くも悪くも、貴族しか買えない。平民だから売らないってのはないのだろう。
「王国の方針となりますが、誰にでも平等に機会をの精神を尊重しているので、他国とは違い、格差は小さいものとなっています。さて、話はここらで終わりにしまして、工場を見学しに行きましょう。危ないですので、離れない様にして下さいね」
アルフレッドに続いて工場の中に入ると、思っていたよりもしっかりとしていた。
現在見ているのは小麦の製粉所だが、パイプラインが通っていたり、コンベアの様なものも見える。
また、粉による汚れあるものの、結構清潔に保たれている。
「見ての通り、大きな羽を数人で一定速度になるように回しています。これが中々大変でして、魔法が使えればどうにかなる仕事ではありません。風の強さや方向。協調性や魔力の消費速度。それらをしっかりと考える必要があります。仕事ではありますが、魔法の訓練として働いている方も居たりしますね」
ふむ。言われれば確かに訓練として良さそうだな。
金を稼ぐことが出来て、尚且つ訓練も出来る。
態々人力にしているのは、これもあるのかもしれないな。
数分程アルフレッド話は続き、質問コーナーを挟んでから次の場所へと移る。
質問の中で興味深かったのは、本当に効果があるのかという質問に対し、ここで鍛えた人が騎士団へと入団したと答えた事だ。
言葉だけではなく、実績として示せているのは凄い事といえる。
たかが仕事。それも貴族がやるような物ではないと侮っていた生徒は、驚きの色を見せていた。
また、平民以外でも貴族が現場で仕事をしているとも話していた。
流石に長男や次男などはいないが、領地も貰えない様な貴族が居るのだろう。
見学用の場所として選ばれるだけあり、色々と凄い工場らしい。
「さて、先程等級や作られ方の話をしたと思いますが、見て頂いた通り人が製粉した場合でも差が出てしまいます。それらを細かく分けるのがこちらの工程ですね。風車の物を五等級として、ここでは二から四等級に分けられます。一等級の物は専用の場所で作っているため、この工程はありません」
せっせと人や魔導具が動いており、四つのコンベアの先にある袋へと入れられていく。
大きさ的に保存用であり、ここから更に小分けのしたり、このまま出荷したりしているのだろう。
仕分けの方法はどうでも良いが、コンベアが回っているのを見るのは好きである。
何故だか分からないが、心地良い何かを感じる。
ここでは質問らしい質問が出る事はなく、そのまま移動して工場の隣にある施設へ入る。
こちらは小麦粉の直売所兼パンの販売所となっている。
元の世界では焼きたてのパンを食べる機会なんてほとんど無かったが、ブロッサム家は屋敷でパンを焼いているため、結構食べるようになった。
流石にただのパンに変な物を入れる事はないので、味自体は俺の知っている物とあまり差がない。
差というのもおそらく酵母関係であるので、気になるほどではない。
パンの種類は少ないが、小麦粉の等級ごとに分かれているため、個数自体は結構ある。
小麦粉自体の値段もだが、パンの値段も結構違うな。
「ここで売られているパンは、国内で一般的に売られているのと同じであり、皆さんも一度は食べた事があると思います。しかし、等級の違うパンの食べ比べが出来るのは、ここの様な工場位でしょう。食べ比べ用のセットを皆さんの為に用意しましたので、移動の際や、またはおやつとして食べて下さい」
結構な生徒が喜びの声を上げる中、一部は微妙な表情をしている。
ふむ……理由は分からないが、個人的にはありがたい。
これが料理の食べ比べならば、全てストロフにあげていただろうが、ただのパンならば問題ない。
個人的に等級の差は気になるものであり、お菓子を作る際はあまり気にしていなかった。
小麦粉の品種ならばともかく、荒い程度ならば魔法で一度細かくしてしまえば良い。
ここで売られている小麦粉や大麦粉の品種は一種類だけだが、他の品種は別の工場で纏められているのだろう。
品種ごとに工場を分ければ、異物混入するなんて事は起きないだろうからな。
とりあえず、配られたパンの入った紙袋を貰う。
中には丸パンが四つ入っているが、 一等級以外の四種類ってことか。
流石に見た目に差異はないが、後で食べてみるとしよう。
しかし、ただ都市を見学するだけだと思っていたが、学園側も色々と考えているようだな。
ただ、Aクラスだけでもこれだけ大規模な工場見学って事は、Sクラスはどうなっているのだろうか?
逆にEクラスも気になるが、王国で一番大きな学園ってだけはあるのだろう。
王都の都市の一角だけでこれだけの生産量ならば、砦などの防衛戦の際、補給に困る事はなさそうだ。
仮に攻略されたとしても焦土作戦を取れば、相手へのダメージも大きくなるだろう。
耐えるだけならば持ちそうだが、これもスパイや反国家勢力が居なければの話だ。
いやはや、スティーリア達がどうするのか分からないが、この国がどう荒れていくのか楽しみだ。




