第154話:ハロルドとお昼ご飯
森の中へと入り適当な果実を採取していく。
……ふと、魔が差しそうになったが気にせずそれなりの量を収穫したところでやめる。
魔が差す……というか、通常の服で長々と歩いたのはかなり久々であり、少しだけ汗で気持ち悪い。
時間もあるので、いつもの山に転移して温泉でも入りたいと思ったが流石に臭いでバレてしまう。
パーティーで一人だけ小奇麗な奴が居れば、今以上に浮く事は間違いないだろう。
いや、案外バレないかも?
昼用に作った、そこそこ厚い肉を挟んだサンドイッチを食べながら森の中を散策するが、森なので木以外は何も無い。
自然を有難がるなんて性格ではないが、ほとんど気を張ることなく森の中に居られるというのは、初めての経験だ。
訓練用の山は開幕早々整地してしまったので、態々入りに行かなければ、自然を感じる事はない。
まあ入る事はあったが、その時はヨルムと戦う時なので、終わる時には周りから木が消滅している。
果物……ジャムにするか、砂糖に漬けるか……。
こんな風に実っているので、普通に食える程度の品種改良はされているはずだ。
そう言えば、スコーンとかは作った事が無かったな。
どこの文化までは忘れたが、スコーンにつけるのはジャムが先か生クリームが先かで、マナーがあった様な気がする。
スコーン自体はこの世界でもあるが、そのまま食べるタイプしかない。
最初からチョコや砂糖が大量に入っているタイプだ。
手軽に食べられるし、俺としてもそっちの方が好きだが、プレーンの奴にジャムや生クリームをつけて食べる方が、何となく優雅に感じる。
おそらくアーシェリアは微妙な顔をするかもしれないが、新しいお茶会のお菓子としては受け入れられるかもしれない。
大丈夫そうなら、実績の一つとして加算できるだろう。
詳しい作り方や作法は後でアクマから教えてもらおう。
「おや? ハルナさんですか。なぜこんな所に?」
サンドイッチを加えたまま歩いていると、何故かハロルドと出くわした。
気を抜いていた訳ではないが、やはりアクマの索敵がないと、気を抜いている時は駄目だな。
「折角なので森の散策と、果物を取っています。帰りも長いですから、軽く食べられるようにと。問題ありませんよね?」
「成る程。取り過ぎなければ構いません。しかしお昼は……一応取っているようですね。学園の準備してあるのを食べなくて良いのですか?」
それは俺だけではなく、ハロルドもだと思うのだがな。
いや、後で食べる気なのだろうか?
「口に合わないものでして。見ての通り作ってきたサンドイッチを食べています。良かったら一つ食べませんか? 来る途中に食べたクッキーのせいで、お腹が膨れてしまいまして」
「……一応目的のあるオリエンテーションなので、本当に遠足気分では困るのですが……」
ハロルドは叱るべきなのか、それとも言っても無駄だろうと悩んでいるみたいだな。
俺が本当に不真面目ならば、ハロルドは直ぐに叱って広場に戻るように言うだろうが、俺の実力ならばここに居ても問題ないと理解している。
とりあえずバッグから取り出したサンドイッチを一つ差し出すと、少し悩んでから受け取ってくれた。
サンドイッチと言っても、食パンを半分にカットして具材を挟んであるので、一つでも結構食べ応えがあるだろう。
「これは……」
「まずは食べてみてください。変なものは入れていませんので、ご安心を」
「そうですか。それでは……」
サンドイッチを一口食べたハロルドは、特に反応を示すこと無く飲み込んだ。
ふむ。しっかりと飲み込んだので口に合っていないってわけではなさそうだが、こうも無表情だとほんの少しだけ心配になる。
「とても美味しいですね。まさかアースドレイクの肉を、再び食べることが出来るとは思いませんでした。それに使われているハニーマスタードも、とても上品な味わいですね」
あまり表情が動かなかったか、気に入ってはもらえていたみたいだな。
しかし、まさかアースドレイクの事を知っているとは思わなかった。
「まさか具材を当てられるとは思いませんでした」
「研究の傍らですが、過去に食べる機会がありまして。しかし、よくアースドレイクの調理法方を知っていましたね。誰かに教わったのですか?」
「ブロッサム家の料理人に教わりました。その方は他国で教わったそうです」
本当は俺が教えた側だが、分かる筈も無いだろう。
「確かに王国ではアースドレイクの出現もですが、討伐出来るのも少数でしょうからね。ブロッサム家は良い料理人が居る様でなによりです。因みにですが、アースドレイクを狩ったのはハルナさんですか?」
「いえ、リディス様……失礼しました。アインリディスさんになります。ブロッサム領の辺境に出たのを、討伐しました」
「既にそこまでの強さですか……歴代の首席の中でも、頭一つ抜けていそうですね」
少し遠い目をしながら、ハロルドはサンドイッチを一口食べる。
二人で世間話をしながら、立ったままサンドイッチを食べる様は、仕事をサボって喫煙所に居るOLと言った感じだろうか?
座れば良いのだろうが、何となく伐採して椅子を作るのも憚られる。
しかし女性なのにハロルドとは、俺の世界からするとかなり珍しい。
基本的にハロルドは男性名であり、確か導き手という意味があった様な気がする。
今は教師で、過去は研究職なのである意味名前通りに導き手みたいな人ではあるな。
真面目そうな人なのだが、髪の色がどうしても気になってしまう。
この世界の理だから仕方ないのだろうが、ピンク色……いや、ここは桜色と表しておこう。
その方が何となく良い。
「ご馳走様でした。話は変わりますが、先日のクラブの件を学園長に話した所、問題ないと判断を貰えました。来週以降に書類を頂ければ、直ぐに設立は可能です。設備や部室の準備もありますが、なるべく早めに準備をしておくことをお勧めします」
それはありがたい。ハロルドの行動力にも驚くが、もう少し問題が起こると思っていた。
さっさと一番上に話を持って行ったおかげだろうが、流れ次第ではたらい回しになっていた可能性もある。
まあスティーリアも、まさかリディスが新しくクラブを作るなんて思ってもいないだろうし、俺の杞憂かもしれないがな。
「教えて頂きありがとうございます。後程アインリディスさんに教えておきます」
「お願いします。ハルナさんに注意する事の程ではないと思いますが、三ヶ月後にある大会や、その前にクラス対抗戦等もあるので、あまりのめり込まない様にして下さい」
「忠告ありがとうございますクラス対抗戦はともかく、新人戦の方に出る気は無いので大丈夫です」
クラス対抗戦は名前の通りクラス全員参加しなければならないので仕方ないが、三ヶ月後にある一年生のみで行われる新人戦は出たい奴だけで良い。
俺やヨルムが出れば蹂躙するだけなので、出場するのはリディスだけだ。
まあそのリディスも、ほぼ間違いなく勝てるとは思うがな。
少々アントワネットが未知数だが、ただ強いだけでは経験のあるリディスには勝てないだろう。
見た感じ魔法はそれなりかも知れないが、近接戦は微妙そうだし。
「それは……いえ、そうですか。ハルナさんが決めた事ならばとやかく言いませんが、決めたのはハルナさんですか?」
「はい。出た所で、結果は見えていますので」
「……ではクラス対抗戦を楽しみにしておきましょう。因みSクラス以外が勝った場合、二名まで入れ替える事が出来ますが、Sクラスに行く気はありますか?」
「無いですね」
流石にハロルドも驚いたのか、ジッと俺の事を見てくる。
地雷原ってのは外から見ている分には笑えるが、自分がその上を歩くとなれば笑えない。
危険……はないが、面倒な事になると分かっていて、自分から飛び込もうとは思わない。
成績なんていっその事ゼロ点でも良い訳だし。
「ハロルド先生なら分かっていると思いますが、平民でSクラスに行っても、大変なだけですからね。既に二名も居るのに、これ以上増えれば何を言われるか分かりませんからね」
「それを言われてしまうと、教師としては頭が痛いですね。学園長も憂慮していますが、貴族の力が大きい現状では、意識の改革はほぼ不可能ですからね。さて、サンドイッチご馳走様でした。もう直ぐ時間になるので、戻りましょう」
おや、思いの外時間が経っていたようだな。
感情的にならず、淡々と会話が出来るのは昔を思い出すようで、思っていた以上に楽しんでいたようだ。
さて、アクマ達ももうそろそろ大丈夫だろう。
(向こうで何か問題は起きているか?)
『とくには無いね。リディスがクッキーをアーシェリアに強奪された位?』
ふむ。なら問題ないな。
「分かりました。戻ります」
これからまた数時間かけて帰ることになるが、早くシャワーを浴びたいものだ。




