第153話:アクマとエルメスの喧嘩
「気付くって何の事だ?」
何も分かっていなさそうなシャナトリアが疑問の声を上げる。
「行きは案内があるけど、帰りは私達だけで帰る必要があるのよ。それに、行きの道はどうせ使えないのだから、帰れるように準備をしておく必要があると思わない?」
「……ああ、なるほど」
「あっ」
分かっていなかった二人は、一緒になって間抜けな声を上げる。
既に歩き始めて三十分位経っているので、今からこの二人が出来る事は何も無い。
「キアラさんは何か対策をしているのですか?」
「歩数と太陽の位置を確認しているわ。ヴィットリオにお願いしたのも、歩数を正確に調べる為よ。あなたは?」
ただの嫌がらせや楽をしたいからではなかったのか。
しかし俺はか……まあ何もしていないが、どう答えたものか……。
「何があっても良い様に、物資を持って来ています。それと、森から出る事については私から口を出す事はありません」
「――それはなんで?」
「森を出るだけならば、いくらでも方法があるので。しかし、それでは皆さんの経験にはなりません。オリエンテーションの趣旨からはみ出てしまうのはキアラさんとしても嫌でしょう?」
「随分と強気ね。Aクラスはみんな……ってそういう訳じゃないわね」
嫌悪を露にしようとするが、シャナトリアを見てスッと遠い目をした。
シャナトリアはそこまで頭が良さそうには見えないが、これでもAクラスなので、相応の点数を試験で出している。
馬鹿は馬鹿だが、最低でもキアラとヴィットリオよりは上なのだ。
不正をしていたら分からないが、こんな奴が不正を働いたとも思えないし。
「この場で理解されようとは思っていませんが……そうですね。魔物と遭遇した場合、最初は私に任せて貰えれば、証明できるかと」
「……クッキーに免じてその言葉を信じるわ。私は無事にこのオリエンテーションを無事に終えることが出来ればそれで良いわ」
溜息ついでに何やらキアラは手で印を刻む。
おそらく祈り的な物なのだろう。
それも無意識で行う程慣れた。
無事に終えられれば良いのは俺も同じなので、この事についてこれ以上話すのは止めておこう。
男二人はあまり役に立たないが、とありあえず頭脳系はキアラに任せておけば良いだろう。
「そう言えばキアラさんは、エメリナさんと知り合いだったりするのですか?」
「教会で少し話した程度ね。なに? 紹介でもして欲しいの?」
「いえ。教会の者だと言っていたので、少し気になっただけです。初日のオリエンテーションの際に教会へ誘われたりもしたので」
足を止めたキアラは驚きの表情を浮かべる。
そこまで驚く事だったのだろうか?
「エメリナ様が言ってたのはあなただったのね。なるほど、さっきの言葉を言うだけはあるのね」
「私について何か言ってたのですか?」
「ええ。名前までは出してなかったけど、昨日学園でお話した時に、Aクラスに才能溢れる子が居るって」
「そうですか。教えていただきありがとうございます」
軽く世間話程度だろうし、気にすることでもないな。
別段口止めをする程の何かをしたわけではないし、名を知られたからと困る事もない。
「良ければ、後で魔法を見せてくれないかしら? エメリナ様が褒める程だから、少し気になるの」
「魔物と戦う事がありましたら、その時にでも。態々光魔法を使う事態なんて訪れないでしょうから」
「……ならその時を楽しみにしておくわ」
光魔法を見せろと言われても、そもそも魔法を今使うのはあまりよくない。
この場でキアラが腕でも折れば別だが、流石にそこまで狂っていないだろう。
しかし話しているとはいえ、本当に暇だな。
ある意味仲を深めるならばもってこいかもしれないが、子供ではあるまいし……子供だったな。
『ひまひま言いながら、鍛錬だけはしてるじゃない』
(ソラか。お前だって暇だろうが何だろうが、訓練できる時は訓練していたんじゃないか?)
珍しくソラが話しかけてきたが、魔法少女だったソラならば俺がやっている事にも理解があるはずだ。
時間があるならば自分を鍛える。
俺と世間でのズレはあるだろうが、その様な魔法少女の方が多いはずだ。
『限度ってもんがあるのよ。魔力があるからって、寝てる時まで鍛えたりはしないわ』
(やっておいて損は無いさ相手が相手だしな)
『それで勝てるようなら苦労しないわよ。まあ、勝ったあんたに言っても意味はないんだろうけど』
まぐれでも勝ちは勝ちだからな。それに初戦よりも二度目の方が俺も強くなる。
一戦目では意表を突いての勝ちだったが、二戦目は真正面から勝てる様にしたいものだ。
まあ同じ魔女でも、大元が一緒とは言え性格は同じではないみたいだがな。
基本的にじわじわと嬲るように世界を壊そうとするのは変わらないが、戦い方には注意が必要だろう。
問題としては並行世界の魔女を幾ら殺したところで、焼け石に水な事だろう。
俺の強化には繋がるだろうが、本体を殺さない限り魔女はおそらく無限に増える。
星喰に紐づいているので、正確には無限ではないが、実質的には無限みたいなものだ。
(魔女にはあまり適用されないが、僅かな技量の差が勝利に繋がるのが戦いだ)
『適度に気を抜いているのは知っているから良いけど、身体には気を付けなさいよ。まだまだ完全じゃないんだから』
(見ての通り、今は大人しくしているから問題ない)
二度あることは三度あると言うが、出来れば子供の輪に混じることになるのは、これが最後であることを願いたい。
これならギルドとかで働いている方が楽だ。
魔物を殺すだけで金になるので、生活自体はかなり楽だろう。
面白味があるかと聞かれれば微妙だが、学校に通うよりは良い。
おまけに今回は、アクマから色々と制約を付けられているし。
『文句は言わない約束でしょ。悪いのはハルナなんだから』
(文句は言っていない。呆れているだけだ)
人が人であるためには、ルールが必要である。
悪いことをしたならば、罰を受ける必要がある。
これから先の未来を考えるならば、人間性を保つために必要な行為であり、俺とアクマ達で決めたルールである。
破ることは勿論あるが、守れるものは守る。
なので仕方なく此処に居るのだ。
『私は、ハルナ好きにすれば良いと思うですけどね』
『やり過ぎは身体に悪いって、同意したでしょ』
『アクマはあれもこれもと小姑の様に煩すぎです』
『エルメスは愛と甘いを間違いすぎだよ!』
『――やるですか?』
『やってやろうじゃないか!』
……また喧嘩を始めたか。
『仲が良いのか悪いのか……』
(ほっとけ。どうせ疲れれば勝手に止める)
既に両手では数え切れないくらいアクマとエルメスは喧嘩をしているので、もう慣れたものである。
予定では後二人アルカナが増える予定だが、その二人がこの二人を諌める事が出来ることを願おう。
無理だろうけど。
アクマとエルメスの戯言が聞こえないように回線を切り、森へと目を向ける。
木は結構な量だが、草については人が歩ける程度に全て低くなっている。
それなりに手を入れられているようだ。
森から出る際は、ダンジョンと学園を結ぶ街道を見付けるのが一番確実だろうが、流石に封鎖されているだろう。
果樹が生えているおかげか、動物が木の間を駆け回っている。
これならば森で遭難しても、餓死することは無さそうだ。
軽く散歩をしたり、リディスの訓練は……山の方が良いな。
ここでは人に会う可能性がゼロではない。
「……少し森とは違う匂いがするわね。時間的に、もうすぐ目的地かしら?」
「時間を考えればそうかと思います」
軽い休憩を二度程取り、ついに目的地……と言うよりは昼飯の時間となる。
クッキーを摘まんでいたのであまり腹は減っていないが、時間があるようなら果実を取りに森へ行くのも良さそうだ。
キアラとの会話から少しすると、視界が開けて大きな広場に出る。
地面はしっかりと均され、木製のテーブルや椅子が設置されている。
BBQ場……実物は見たことないが、そんな感じだ。
いや、妖精界でのなら見たことがあるが、もっと科学的というか、魔法的と言うか……自然的では決してなかった。
この歳になると自然による不自由さよりも、多少環境に悪くても楽な方を選びたくなる。
見た限りこの場でBBQをする訳ではなさそうだが、出来れば面倒なのは避けたい。
「皆さん集まりましたね。いない生徒は……大丈夫そうですね。これより一時間の休憩に入ります。食事に付きましてはこちらで用意してありますので、各員受け取って下さい。午後については改めて説明するので、一時間後にそちらの時計のあたりに集まって下さい」
退屈な事以外は問題なく、昼飯の時間となった。
俺の勘だが、今頃リディス達は大変なことになっているに違いない。
アクマ諸共回線を切っているが、ヨルムが向こうに居る以上、リディスが死ぬような事は起こらない。
二次災害でリディス以外が死ぬ可能性は捨てきれないが、そのレベルとなれば普通に俺でも気付けるだろう。
「やっと昼飯かー。みんなで食べるか?」
「私は学園の料理は口に合わないので、別になります。それと、少し森に入りますので、これで失礼します。集合時間までには戻りますので、それでは」
シャナトリアが何か言う前に、三人の前から逃げ出す。
さて、少しばかり休憩するとしよう。




