ドレス
先に夜会に着いていた気心の知れた友達が声をかけてきてくれた。
「こんばんは、アリス」
「遅かったわね、アリス。――・・・あー、ドンマイ」
わたしが来たくなかった理由も、着ていたドレスでわかったようだ。
婚約者としてフェルナンドがドレスを送ってくれるのは、そう多くない。婚約者の義務など、誕生日とミラー家主催、王家主催の時ぐらいだ。それ以外の夜会やお茶会などは婚約者の義務にあたらない。
そうなると、ダヴェンフィールド家で用意したドレスということになる。
次期当主であるお姉様とは違い、わたしのドレスが新調されることはない。
お姉様のドレスを作るのは当たり前で、次女であるわたしのドレスはお姉様のお下がりである。
伯爵家の次期当主であるお姉様のドレスは布もデザインも仕立てもお母様より良いもので作られている。
お下がりになって宝石が外されても、非常に良いものだ。
ただし、お下がりなので流行から一年は外れた型落ちのドレスである。裾が一センチ短いやら長いやらの違いしかなくても、流行遅れは流行遅れ。更にはお姉様のお下がりなので既視感満載のドレス。
侍女がフリルやリボン、レースなどを取ったり付けたりしてくれても、色や形で既視感は残る。
お姉様のお下がりのドレスに手を加えての参加。
自分のドレスに手を加えても、ドレスも新調できない家の娘と思われるけど、お姉様のお下がりしか与えられない娘なんて惨めそのもの。
婚約者の義務でもらったドレスは流行に合わせて新調されたドレスだから、慶事や家格の高い夜会で着ても失礼にならない。その代わり、一年で三着貰えたこのドレス以外は流行遅れのお下がりのドレスしかない。
つまり、わたしはお下がりのドレスを着るしかないわけで。
デビュタントに着たドレスも我が家では仕立てる気がなく、お姉様のデビュタントに着たドレスになるところだった。婚約者の義務がなければ。
フェルナンドがエスコートの為に家まで迎えに来てくれた時に髪飾りをくれても、ドレスはお姉様のお下がりで。
お姉様の髪飾りもわたしにだけプレゼントするのは心苦しいとフェルナンドが贈ったもので。
わたしの髪飾りはお姉様にプレゼントする口実で。
今日のわたしはお姉様のお下がりだらけ、というわけ。
フェルナンドのエスコートも婚約者だからお姉様から借りているだけ・・・――のような気がする。