髪飾り
「よう、アリス」
「ブライアン」
お友達と挨拶をしていると、目敏く声をかけてきたのはフェルナンドの弟で将来の義弟となるブライアン。隣には見知らぬ金褐色の髪の青年がいる。
「兄貴はいつもの次期当主友の会か?」
お姉様たちと顔繋ぎをしているフェルナンドのほうを見て言う。
「次期当主友の会?」
「次期当主のお勉強会及びお友達及び結婚相手探しの会」
「お姉様たちと一緒に挨拶しているだけよ」
「だから、次期当主のお勉強会及びお友達及び結婚相手探しの会なんだよ。ダヴェンフィールド家の次期当主の顔繋ぎ兼お友達及び結婚相手探し」
「フェルナンドは結婚相手にならないわ。わたしと婚約してるもの」
ブライアンは私を鼻で笑う。
失礼だわ。
「よく見てみろよ。挨拶する相手と話しているお前の親父と俺の兄貴以外はダヴェンフィールド家の次期当主の求婚者しかいねーじゃねーか」
伯爵家次男にも拘らず、ブライアンの口は悪い。それでも、フェルナンドを兄と立てて、補佐の仕事を真面目にこなしている。でも、口は悪い。
女のわたしにはわからない話だからと、フェルナンドはお友達と一緒にいるように言ったけど、お姉様は追い払われない。お父様もそれを咎めない。お姉様はダヴェンフィールド家の次期当主だから。
けれど、次期当主だから殿方の話題がわかるからって、求婚者を引き連れているのはどうかと思う。
お姉様と同じようにまだ婚約者のいない淑女は求婚者たちとの交流が一番大切だ。淑女同士の交流は何年も前から参加しているお茶会で大体済ませている。居住地の関係でお茶会に参加できなかった場合は昼間に開催されているお茶会で仲を深め、夜会では殿方も加えて広く浅い交流をする。
そんな中で、婚約者のいない淑女は夜会で求婚者を探し、審査して婚約してもいい相手かどうか見極めるのが仕事だ。
次期当主という身分の淑女も少ないが、婚約者のいない方など、お姉様以外には一人しかいない。レティシア・カスター嬢。その方は求婚者を置いて顔繋ぎをしている。
お姉様は求婚者たちが話に付いて行けるかどうか、試しているのだろうか?
殿方なら、わたしのように領地の経営を学ぶことは禁じられていない。ブライアンのように補佐する為に学ぶこともあれば、文官として働くために学ぶ方もいるはずだ。
「フェルナンドを目安に使って求婚者の能力を測ってるだけだわ。お姉様の結婚相手はお姉様の話に付いていけないといけないもの」
ブライアンがげっそりした表情で言う。
「お前の姉を美化する癖・・・。ダヴェンフィールド家、こえーな。お前、兄貴と早く婚約解消してくれねーかな。あんな家と関わっていると、うちまで被害被りそーで、怖いわ」
「何、言ってんのよ、ブライアン。我が家のどこが怖いのよ」
「妹冷遇しておいて、可愛がってる姉美化するようにちょ、――躾けるなんて、異常だろ。マジ、異常。俺だったら、自分の婚約者独占する姉なんか、家出して二人でくっ付いてもらうわ。ざまあ」
「ざまあって、意味わからないこと言わないでよ、ブライアン」
理由がわからない。我が家が怖いと言い出すブライアンがまったく理解できなかった。
いくらお父様とお母様がお姉様を特別視しているからと言って、ざまあって、何?
「ブライアン、いくら言っても無駄よ」
「アリスはダヴェンフィールド家流の考え方しかできないんだから」
彼女たちはブライアンの言い分がわかるらしい。
「だからー。それがこえーんだって。本当だったら兄貴がドレスをプレゼントしなきゃいけないのに、キャロルの分も髪飾り買うからアリスは贈ってもらえないんだぞ。ふつー、婚約者の姉に贈り物なんかしねーよ。しても、婚約者より安い物か、安物だろ? キャロルの付けてる髪飾り、石こそ付いていないけど、細工は一流品だぜ。あれで母上のドレスだって二着は買える。それに引き換え、アリスのは石付いてたって、安物だし」
「・・・」
髪飾りに付いている宝石が屑石といってもいい安物だとは知っていた。でも、お姉様の髪飾りにはその石すら付いていない。いくら、見事な装飾が施されていても、所詮は石すら付いていないもの。わたしとお姉様の違いはそこにある。
けれど、ブライアンが言うように、一流の細工師に見事な装飾を施された髪飾りはわたしの石付きの髪飾りより高価な逸品だ。
そうか。お姉様に髪飾りをプレゼントしなければ、フェルナンドがわたしにドレスを贈ることもできたのか。フェルナンドの補佐として仕事をし始めているブライアンは、お母様のドレスの値段もわかるようだ。
わたしも領地の経営の知識があれば、お姉様の髪飾りがドレスが二着買える値段だってわかったかもしれない。
わたしがフェルナンドと話が合わないのもわかる。
物の値段すらわからないんだもの。
「そう、気落ちするなって。お前、前に領地経営の仕方が知りたいって言ってただろ?」
「?」
「ブライアン・ミラー主催の領地経営勉強会に招待してやる。講師は領地経営の補佐の俺じゃなく、領地経営責任者のクラレンス・クリフトンだ」
そう言って、ブライアンは隣にいた青年の肩を叩いた。
ブライアンは口は悪いけど、良い奴です。アリスの家とは縁が切りたいが、アリスを放置できないと心配してくれます。




