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宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
98/135

目で分かり合う

 

 熱狂的な兵は扱いやすいが、扱いにくい。

 イシュはそう思っている。


 自分に付いてきた兵は自惚れでないがイシュのことに酔っている。

 力のあるものを崇拝することで、完全なる受け身になり、イシュが求める自ら集めた情報の連絡をおろそかにする。


 王城前でひたすら門を馬車で運んだ丸太などでぶつけ攻撃を繰り返す。

 内側からも補強のようなことはされているだろうし、王城の門は早い段階でとじられていたようだ。


 ヒビが入ってきているが、まだかかる。

 背後の王都が気になるが、それこそ熱狂的な兵が邪魔で察することができない。

 今更標的を変えるわけにはいかない上に、王城以外はあまり壊しすぎるなと言われている。


 まあ、王城が開かれるのも時間の問題だ。


「それに、俺に勝てる騎士は…いない。」

 イシュは誇らしげに笑った。


 イシュにとって、自身が皇国第二将軍であることは誇りであり、自信であった。


 面倒だが、将来性があり、使い勝手のいい後輩を連れてきたせいで頭が痛い展開になったことはあるが、思った以上に戦力が減ってくれている騎士団には満足している。


 ガキン


 門のヒビから、塊が飛んだ。

 どうやら、本格的に壊れ始めた。


「壊せ!!王城を落とすぞ!!」

 イシュは士気を上げるために、わざとらしく勇ましそうに叫んだ。


 回りの皇国兵は、熱狂するように叫んだ。


 ガキン

 ガキン


 丸太で何度も門を攻撃する音が響いた。


 ガゴン

 ドゴン


 壊れ始めたら早い。

 門のヒビが広がり、塊を地面に落としながら自重で徐々に壊れていく。


 ゴゴゴゴ

 そして、閉じられていた門からは、王城が見えた。


「王城を落とすぞ!!」

 イシュは馬に乗り、壊された門から王城の中に飛び込んだ。

 彼に続いて沢山の皇国兵が叫びながら飛び込んだ。




 

 ゴゴゴゴ

 という王城の門が崩れる音が王都に響いた。


「行くぞ!!」

 サンズは剣を掲げ走り出した。


 リランとマルコムのそれに続く。


 王城の前にいた皇国軍はどんどん王城に流れ込む。


 それによって露わになる王城前で警備に当たっていた騎士たちの遺体。


 踏み潰され、とてもひどい状況だ。


 王城が開いたからと言って、皇国軍がサンズたちの乱入を赦してくれるわけではない。


 門の前でだまになり、サンズたちを待ち受けるように刀を構え始めた。


「イシュ様の邪魔はさせない。」

 目を血走らせた皇国兵はサンズたちに叫んだ。


 明かに町に居た者達とは異質だった。

 どうやら先導している男に心酔しているようだ。



「…厄介だ。」

 頭に血が上っている者は戦いにくい。


 人数は圧倒的に向こうが上だ。


「全部切り捨てる。それだけです。」

 リランは両手の剣を構えた。


「全部潰す。」

 マルコムも二本の槍を構えた。


 三人は、王城前の皇国兵たちに斬りかかった。





 

 謁見の間は悲鳴で溢れた。


 正面に入り口で守りにあたっていた騎士が突入してきた皇国軍に押され始めた。


 ガキン

 ガキン


 と剣と刀がぶつかる音が響く。

 王族も貴族も使用人ももはや恐怖で抱き合うしかできなかった。


「守りに付け!!」

 アレックスは正面で応戦している騎士に叫び、交代するように前に出た。


 彼の意図を読み取り、騎士たちは奥で怯えている王族たちの元に向かった。


「お前らの攻撃はもう見た。」

 アレックスは振り上げられた刀を持つ手を狙い斬りつけた。

 血が舞い、叫ぶ皇国兵。


 ザシュ

 たじろぐこともせず、アレックスは追撃で首を斬りつけた。


 足を組み替え、さらに突入をするものに刀を向ける。


「…今は、見る暇も無いんだ。」

 アレックスは普段なら一度様子見のために攻撃を受けるが、今は構わず斬りこむ。


 皇国兵は帝国騎士団と違い身軽な格好だ。

 動きは厄介であれ、彼等とアレックスの力量は圧倒的に違った。


 斬りこみ、面白いくらい敵を屠っている。


 サンズやマルコムほどの力は無くても彼等に次ぐ力はある。

 マルコムほどの身体能力は無くても、彼に次ぐ身体能力はある。

 ライガやジンほどの反応速度は無くても、彼等に次ぐ反応速度はある。


 剣筋は平凡だが、アレックスは強い。


 精鋭の誰もが自分の力に自信を持つようにアレックスも自信を持っていた。


 ザッ


 謁見の間に突入を試みた十数人を切り捨てた時点でアレックスは、足を止めた。


 突入の動きが変わったからだ。


「止めろ…お前らだと敵わない。」

 皇国兵たちの後ろからなにやら止める声がかかっていた。


 アレックスは血だらけになった剣を血を払い、声の方を見て構えた。


 集団の中から出てきたのは、おそらくこの集団のボスだろう。


 弓を背中に持った、大剣を持った男だった。

 褐色の肌に黒い髪。


「その剣筋、お前がアレックスか。」

 男はアレックスを見て感心したように頷いた。


「…王城は渡さない。」

 アレックスは他の者と異質な雰囲気を出す男を探るように見た。


「俺は、皇国軍第二将軍イシュ・ガインだ。」

 男は名乗ると剣を抜いた。


 ヒュ


 ガギン


 素早くアレックスに斬りかかった。

 アレックスは剣でそれを受け止めた。


「つまらん男だ。だが、普通に強い。」

 イシュはアレックスを見て不敵に笑った。


「俺は帝国騎士団…団長代理だ。」

 アレックスはイシュに笑うとすぐに足を屈めた。


 イシュの大剣の重心をずらすことで一瞬の隙を狙い、距離を置く。


 ザシュ


 距離を置いたついでに、イシュの周りにいる皇国兵数人を斬りつける。


「裏口から騎士団兵舎に行け!!」

 アレックスは謁見の間にいる騎士たちに叫んだ。


 だが、その間も動き続け、数人の皇国兵を斬り殺した。


 周り全員が敵の良いところは考えずに剣を振れるところだ。

 ただし、ケガのリスクは高い。


 アレックスは存在を悟られるとすぐに体勢を変えて、壁を蹴り天井にぶら下がったシャンデリアを掴んだ。


 勢いづけて上までよじ登り、そこから吹き抜けになっている階の手すりに飛び移った。

 途中、空中で無理やり体勢を変え、シャンデリアを斬り付ける。


 ガシャン

 ドシャ


 シャンデリアに複数の皇国兵が下敷きになった。


「あの男さえ殺せば、王城は落ちる!!」

 イシュが叫んだ。


 どうやら、謁見の間にいる王族達よりもアレックスの方が殺すべきだと言っているようだ。

 いや、もしくは他の騎士たちが素早く避難させた可能性が高い。


 アレックスは後者に賭け、警備で知り尽くした王城の構造を思い浮かべた。


 隠れながらも、王族たちを王城の外へ逃がすのが一番だ。


 アレックスは謁見の間の裏口から騎士団兵舎に行くのなら通るだろう裏庭を目指した。


「いたぞ!!」

 だが、人数の差は大きい。


 どこにいても見つかる。


 すかさずアレックスは目についた皇国兵を斬りつけた。


 すれ違いざまに、刀を拝借した。


 飾られているやたらと高価そうな剣も、槍も取った。

 こうなったら王城全部使ってやる。


 アレックスはそう考えると気分が良くなった。

 今までずっと機嫌を窺って来た立場だが、今は…


「…って、いけないだろ…俺は帝国騎士だ。」

 アレックスは思い浮かんだ不穏な考えを切り捨てた。


 アレックスは2階部分まで降りて、外を一望できる渡り廊下に出た。

 そして、そこから飛び降りて外側から裏庭に回った。


 だが、騎士も王族もいない。


「…先に来過ぎたか…」

 アレックスは用心するように見渡した。


「ひいいいい!!助けてくれー!!」

 表の方から叫び声が聞こえた。


 アレックスは慌てて正面の方に出た。


「…嘘だろ…」

 その光景に、アレックスは愕然とした。


 どうやら耐え切れなくなった王子が一人だけで外に出ようと試みたようだ。


 あまりに危機にさらされすぎて感覚がおかしくなっているのだ。


 王子の周りに数人の侍女が付いていが、決して戦力になりそうではない。


 アレックスは周りを見渡した。


「王子!!」

 更に最悪の事態だ。

 息子可愛さに王が騎士を連れて出てきた。


 王子に向いていた皇国軍もこれには動き出した。


「ふざけんなよ。」

 アレックスは馬鹿らしくなってきた。


 ここで、見捨てれば、王と王子は死ぬが王城は守れるかもしれない。


 正面の壊れた門の向こうから、数人の騎士が戦っているのが見えた。


 圧倒的な人数差なのに、その騎士たちはたじろぐことなく剣を、槍を振っていた。


「…リラン、マルコム…サンズ。」

 久しぶりに見たような気がする仲間にアレックスは思わず笑った。


「…ふざけているのは…俺だな。」

 アレックスは正面の王子の周りに集まった皇国軍に向かって走り出した。


 例えマルコムほど早くなくても、アレックスは速かった。


 王子に向いている皇国軍の背中から一気に斬りこんだ。


 一人の首に斬りこみ、二人の腕、足、数人の頭を踏み、道を作った。


「お前…」

 王子は縋るようにアレックスを見た。


「もう、お前に気は遣わない!!」

 アレックスは王子の襟を掴み、持ち上げた。


 重い。

 肥満体型の王子は小柄だが、重かった。


 アレックスは周りの侍女に目配せをした。

「隙を見て逃げろよ。」


 とはいえ、門近くの庭には皇国軍が溢れ、王城への入り口も塞がれている状況だ。


 どうやってここまで出てきたのか気になるレベルだが、今は逃げることだ。


 式典の時に見物人で溢れていた庭は、死体や敵兵でいっぱいだった。


 無理矢理道を作り、周りを見渡した。

 数人の騎士が王に連れられているが、彼等も皇国軍相手に精一杯やっている。


「受け取れええええ!!」

 アレックスは王城の門まで走った。


 剣を一心不乱に振り、目指すは向こうに見える。


「サンズ!!」

 アレックスは思いっきり王子を皇国兵の隙間に投げた。



「ぎゃあああああ!!」

 王子の悲鳴が響いた。




ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。母親は王族に嫁いだお宝様であり、表面上は王族の人間。その実、父は前団長であり、ライガの兄にあたる。副団長のヒロキに精神的に依存していた。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。ライガとの戦いで右頬から右耳にかけて残る傷を負った。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。力主義が強く、弱い者を尊重しない面が強い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことや、自分の父が騒動の黒幕に加担していると考えたことから、騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。その実元は左利きであり、かつては天才とまで言われていたが、ケガで右で使わざる得なくなった。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。自分よりも若い隊員の死や、それによって追い詰められている仲間達を見て心を痛めている。頑なに帝国騎士団としての行動にこだわる。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスは親友であると同時に命の恩人であり尊敬している。精鋭では数少ない戦場経験者。仲間の死で精神的に参っているのに加え、自分が面倒を見ていたアランの死で本格的に心を病むが、王城と王都の襲撃や母の言葉で騎士団として動き出す。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。双子の弟アランの死に精神的に崩壊し始め、マルコムと共に騎士団とは別に動く。兄。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の剣技に魅せられ囚われている。


イシュ(イシュ・ガイン第二将軍):

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。皇国二番目の軍人、将軍らしく腕が立ち、兵からの尊敬を集めている様子。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時にマルコムの攻撃を真に受け、ケガをしたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。皇国の襲撃犯などと接触をしており、黒幕に近い人物。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガとジンの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。最愛だったジンの母の死の真相を聞いて王族を殺害するなど、精神的に崩壊する。現在行方不明。



ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めていた。弟。リランと間違われ捕らえられ、その際に黒幕たちの会話を聞き、それが見つかり襲撃され死亡。サンズに看取られる。


キョウ:

鑑目の一族の族長。ライガたちを匿ってくれていた。ジンの祖父。一族の者によって殺害される。ジンに看取られる。



コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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