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最後の砦2

「聖!」

維心が叫んだ。すると、その光は聖を捉えて、そのまま炎嘉と久島、志心をも捉え、輝きを増した。

「炎嘉!志心!久島!」

維心は、必死に中を見ようと目を凝らした。だが、神の目を失っている今は眩しくて何も見えなかった。

光が収まった後、四人はそこに、折り重なるようにして倒れていた。維心は、皆に駆け寄って叫んだ。

「何ということを…!ならば我が、このまま人のように生きても良かった。ならばこの気、分け与えることが出来たものを。共に、生きて行けたであろうに…!」

碧黎が、そんな維心に歩み寄って来た。

「…ほんにもう…。主は、我が信じられぬか。ま、信じられぬわな。我は偽りも申すし。」

維心は、碧黎を見上げた。

「我から友を奪って置いて、何を信じよと申すか!」

碧黎は、首を振った。

「主、まだ我を分かっておらぬようよな。」と、炎嘉を指した。「死んでなどおらぬわ。」

すると、久島と志心はまだ倒れたままだったが、炎嘉が目を瞬かせて気付き、慌てて身を起こした。

「炎嘉!」

維心が、思わず飛び上がらんばかりに歓喜の声で言うと、炎嘉は維心を見て不思議そうな顔をした。

「維心…」そして、ハッとして隣りに倒れる聖を見た。「おお聖!聖…愚か者が!このようなことをせず、逃げよと申したに…!碧黎!主は血も涙もないの!マシになったと思うておった我が愚かであったわ!」

碧黎は、呆れたように炎嘉を見た。

「確かでないことで我を責めるでないわ。これは、当身を食らわされただけで散るような軽い命。それが、なぜにまだこうして身を保ったまま倒れておるというのよ。」

炎嘉は、呆然と碧黎を見上げた。では、聖は?

碧黎は、苦笑して頷いた。

「死んではおらぬ。今、我はこれに確かな身を与えた。」

炎嘉は、聖の手に触れた。その手は、しっかりとした命を宿していて、炎嘉の手に命の波動を感じさせた。炎嘉は、また碧黎を見上げて言った。

「ではなぜに…あのようなことを。」

碧黎は、頷いた。

「まずは謝らねばならぬ。我は、主達三人を王として不適格だと思うてはおらぬ。」炎嘉と維心は、呆気に取られて碧黎を見た。碧黎は、その様に微かに笑った。「皆、我の芝居よ。主らの性質はもう、確認済みであったのだ。ここへ来るまでに、主らは充分に我に己の価値を証明して見せた。それよりも我が見たかったのは、聖、こやつが、一つの命として生かして行く価値があるのかどうかであったのだ。」

維心が、呆気に取られたまま碧黎を見て言った。

「では…気が枯渇するというのは?」

碧黎は苦笑した。

「あれは偽りぞ。我の気が新しくなったことで、むしろ命の気は溢れんばかりであるわ。」まだ呆然としている炎嘉と維心から視線を反らして、碧黎は聖を見た。「それより、こやつには驚かされた。炎嘉に良い様に言いくるめられたのには呆れたものだが、それからのこやつの動きを見ておって、こんな我が戯れに作っただけの人形が、真の個としての意思を持って動き始めたからだ。本来なら、用が済めば塵に還すはずのもの。それが、生きたいと望み、命の意味まで悟って最後には己の尊厳のために己の意思の元、主らを守って散ることを選んだ。」碧黎は、感慨深げに聖を見つめた。「ほんにの。命とは、不思議なものぞ。」

炎嘉は、呆然としていたが、我に返って碧黎に問うた。

「では…では、我が役に立たぬと言うておったのは?」

碧黎は、面倒そうに手を振った。

「あれも我の芝居ぞ。まあ、主の複雑な感情はさて置き、主が維心には無い能力でもって世を治めるのを十二分に助けることは、やはり前世より変わらぬことが分かった。主もやはり王の器。我は主が王であることに異存はない。」

炎嘉は、力が抜けたようにその場に座りこんだ。維心は、そんな炎嘉を気遣いながら言った。

「では、全ては聖に確かな身と命を与えるか否かを見るために打った芝居だったというのか。では、志心と久島は?」

碧黎は、二人を見下ろした。

「こやつらも、やはり王よ。あのような判断は、出来そうで出来ぬ。しかし普段、主と維月を取り合ったり、あのように地上を駈けずり回って争ったりしておるのを見ておると、我も不安にもなるの。しかし非常時には、しっかりと王として判断出来る。問題ないであろう。」

維心は、まだ呆けている炎嘉を見ながら、力を抜いた。

「なんぞ…我らは、何をしておったのか。本気で、主から逃れようとしておった。主は、話しても分からぬ以前の主に戻ってしもうたのだとばかり…。」

碧黎は、笑った。

「そうであろうの。十六夜や維月ですらそうであったからの。しかし、我は知らねばならなかった。主も、肝に銘じよ。我が本気になれば、こうして気を封じられ、神として生きることも敵わなくなる。命すら永らえることが出来ぬ。維月を取り合ってばかりおってはならぬぞ?我に妬いてみたりしおってからに。主など我の敵ではない。思い知ったの?」

維心は、渋々ながら頷いた。

「…考えておく。だが、やはりこの感情だけはどうにもならぬ。」

碧黎は、声を立てて笑った。そして、手を上げた。

「さて、帰るが良い。元の生活へ。いろいろ言うたが、目覚めたら主は此度のことを覚えてはおらぬだろう。あの、運動会とやらの終った夜の続きでしかない。しかし、魂は覚えておる。少しはマシになるだろうて。」

維心は、慌てて言った。

「碧黎!そのような…こんな目に合わせておきながら、全て記憶がなくなると申すか?!」

碧黎は、維心と炎嘉、久島、志心、そして聖を光に包みながら笑ったまま頷いた。

「そう、こんな目に合わせたからこそ、消してしまうのだ。」と、姿を光に戻して行きながら続けた。「覚えておったら、うるそうて敵わぬからの。」

「碧黎…!」

維心は、そのまま光しか見えなくなって、気を失った。

龍の宮の謁見の間には、誰一人残らなかった。


十六夜が、月の宮でホッとしたように肩の力を抜いた。

「ああ、やっと終わった。」と、維月を見た。「さ、お前もお迎えが来るだろう。将維も、運動会の日に泊まった客間へと移される。全ては、あの夜へと戻るんだ。全員無事で良かったな。」

維月は、驚いて十六夜を見た。

「え、私も記憶を消されてしまうの?!十六夜、そんなのはいやよ!」

十六夜は、困ったように笑うと言った。

「例外なく、皆元に戻すんだよ。蒼も、みんなな。」と、維月を抱き寄せた。「お前なんか嘘が下手なのに、維心にこのことがバレないとも限らねぇだろうが。大丈夫、何もなかったんだ。みんな元通りさ。」

維月は、それでも必死に抗議した。

「でも十六夜…!」

そこで、維月は急に力を抜いて十六夜へと倒れ掛かった。十六夜はそれを受け止めて、維月の頬に口付けた。

「お前はこういうことは知らない方がいいんだよ。親父に対して構えたりすると、オレも困る。親父の機嫌が悪くなったら、どうしてくれるんでぇ。今までの、維月で居な。」

維月は、気を失って十六夜の腕に抱かれている。そこへ、碧黎がスッと現れた。

「機嫌が悪くなるとは何ぞ。」

十六夜は、それには答えず言った。

「みんな、戻して来たのか。」

碧黎は、ため息をついて頷いた。

「ああ。目が覚めたら次の日の朝。あれらの臣下達も迎えに参るだろうて。」と、維月にそっと口付けた。「我の妃であったのは、数日であったの。だが、かわいい娘であるのは変わりない。とにかくは当分は、これで良いと思うておるよ。」

十六夜は、慌てて維月を碧黎から離した。

「何をするんでぇ!あの時は仕方ねぇから黙って見てたんだ!本当に維月を娶りたくなったらどうするつもりなんだよ!」

碧黎は、肩をすくめた。

「本当に娶りたくなったら、娶る。」十六夜が、眉を寄せるのに碧黎は声を立てて笑った。「決まっておろう!我は地よ。誰も敵わぬ力の持ち主。望んで叶わぬことなどこの世にないわ。」

そうして去って行く碧黎の背を恨めしげに見た十六夜は、維月を抱いて飛びながら、気を失う維月に呟いた。

「ほんとによ…親父まであんな風に見てるのかと思ったら、オレは落ち着かねぇよ。最近は維心の気持ちが分かるってんだ。」

そうして、十六夜は維月も元居た部屋へとつれて入って、寝台へと寝かせたのだった。

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