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知りたい気持ち






 泣いていた?

 ああ、確かに私泣いてたなぁ。多分まだ目元が赤いから、返事をしなくても気付いただろう。


 みっともない、女は涙が武器っていうけどこの泣きはなんというか…子供の癇癪としか言えない。

 どう答えていいか悩んでいると、もう乾いているはずの頬にそっと指が触れた。




「……泣かせるほど、私の言葉は傷つけたか」




 アスナ?

 結構、私の大嫌い発言は影響を与えるものだったんだろうか?それ以前に、自分の言葉が言い過ぎたとでも思ったのかな?




「…確かに、傷ついたよ?」




 痛かったのは本当。

 悲しかったのも本当。




「でも、アスナの言ってたことも…分かってるつもりだよ?」




 私はまだこの世界に疎い。彼は陛下を大事にしてる。だからこそ、私の動きに慎重だ。

 頬に触れていた手に触れる。温かくて大きな手。





「まぁ仲良くなってきたなぁと思ってた矢先に尻軽的発言にムカムカしちゃって爆発したのも本当だけど」


「それは…悪かったな」


「うん、謝って。私は私でレナーガルに感謝してるし味方でいるつもり。何のためにバカップル計画立てたと思ってるのさ」




 言いたい事。泣いた原因をチクチク指摘すれば素直に謝罪された。これは反省してくれたらしい。

 そうそう、むやみやたらと人を疑ってはいけません。役職柄だろうけどね。






「あと…大嫌いって言っちゃって、ごめんなさい」






 嫌いじゃないし、頼りにしてるよ。貴重な純ツンデレ隊員としても身分としても美味しいですから。


 私がまさか謝罪するとは思ってなかったのか、アスナは目を見開き見下ろしてくる。握っていた手の力を強めれば、ビクリと震えが返ってきた。またラスナグとは違う反応だねぇ。



 もうちょっと、近付いても大丈夫?




「ね、アスナ。私はアスナのことが知りたい」


「私の?」


「うん。それに、この世界の事。国のことだってまだまだ分からないことだらけだし、一月しかいない客人状態だけど…ちゃんと知ってたい。そうすれば、アスナだって少しでも安心出来るでしょ?」




 彼が私の行動を制限したり疑うのは、知識がないせいもある。何も知らない田舎者が都会でキャッチセールスに絡まれるのと同じ。騙されて面倒なことになるのがオチ。


 知っていれば、回避出来る。

 アスナのことだって…知っていれば憎まれ口を叩くことはない。


 …いや、知ったら知ったで腹を立てるかもしんないけど。

 距離を縮めたい。






「教えて、アスナ」






 真っ直ぐ、赤い瞳を見て。

 繋いだ手は解かれない。




「……私は」




 彼の顔が歪む。どうすればいいか分からない、そんな顔。

 困ってるのかな?知りたいと思うのが迷惑なら止めるけど。




「私は、お前のことを知りたくない」


「え…」




 拒絶?!そんなまさかの?!


 そ、そこまで嫌われていたのか…地味にショックだ…。

 ガーンガーンと頭の中で響く効果音に紛れてアスナの言葉が続く。うぅ、追い討ちですかい?




「知れば…知ってまえば、信じるしかなくなるだろう?」


「へ?」


「お前は単純バカのようだしな」




 ちょ、最後のいらない!




「その単純バカを疑ったのは誰よ?!」


「可能性を考えただけだ。異世界人など…変化を与えるものなど、喚ばなければ良かった…」




 あ、れ?


 なんかデジャヴ。そうだ、イオン君の言葉。

 この世界に知識を与えるのが、神様だって。


 知識による変化。反対派の人もいるって言ってたけど、それってアスナのこと?

 だから、女神なんて呼ばずに異世界の客人って?




「アスナは、変化が怖い人?」


「!」


「神官の中で、異世界人は神様だって決められてるんでしょ?知識を与える存在を信じるのが怖い?」


「誰が……っち、イオンか。…怖いわけではない。違う、知識を拒むわけではい。私は国を変えたくないだけだっ陛下の愛した国を…守りたいだけだ…」




 そう言って強く目を閉じる。拒む。

 成る程。アスナは愛国心が強いな。この場合忠誠心かな?私が来たことで国と国との関係が崩れるのが怖いのか。




「あのねぇアスナ。私が召喚されたのは、その変化を求められてなんだよ?」


「…分かっている」


「私が子供の癇癪みたいって反省してたけど、なんだかアスナも子供みたい」


「なんだと?」




 あ、目を開けた。


 赤い赤い目に映る私は、笑顔で。





「変化なんて、時間が経過すれば嫌でもあるよ。なら自分の望む方向にする努力をしなきゃ。アスナは国が大事なんでしょ?陛下が大事なんでしょ?私を疑うよりは、利用した方が効率がいいよ」





 疑ってばっかりだと身動き取れなくなるからね。だったら最初から利用するくらいでいいと思う。サイシャとかね。あれは絶対私の動きを利用するぞ。踊らされるつもりもないけど。




「お前は、利用されてもいいと言うのか?」


「よりけりじゃない?ギブアンドテイク…持ちつ持たれつの関係ならドンと来いだし、明らかに私が不利になるんだったら拒否するけど」




 多分アスナなら酷い方向に利用はしないだろう。

 まぁこれも、まだ彼のことをよく知らない私の勘でしかない。




「…お前は、変わっているな」




 何故か疲れたように言われた。

 なんか腹が立つけど、さっきまでの顔よりは全然マシ。




「よく言われる」




 だから、生意気な返事だけしてみせた。


 ふいに伸ばされたアスナの手。握っている方とは逆の手だ。さっきとは違って頬を通り過ぎる。触れたのは耳元。

 こしょばゆい。目に入る彼の指は細くて長い。でも、角張って大きな手は男性特有のもの。


 顔が近いな。この世界の人達って目が印象深いからそっちに気を取られちゃうけど…改めて見るとやっぱりイケメンだ。

 睫毛長い…綺麗だなぁ。




「…出来た」


「え?」




 気をとられていたら完了宣言された。何が?と問いかける前にチャリリと耳元で音がする。

 ん?なんか重い?




「盗られたくなければ、常に身に付けていろ」




 左耳にそっと手を伸ばす。固い感触にピアスがつけられたのかと納得した。

 つけてくれたんだ。痛くなかったのに驚きだ。初ピアス!




「似合う?」




 よく見えるように髪を上げながら尋ねてみる。

 そうするとアスナが笑って…笑って?!






「ああ、似合っている」






 見たことのない、自然な笑顔。


 それを至近距離でされて…照れない女が何処にいるぅぅう!!




「あ、あああアスナっ」


「なんだ」


「近いっ!」




 未だ手も握っちゃってるし!すると気付いたように距離を取り、手を外してくれた。心臓バクバクだ。

 多分私の顔は真っ赤だ。それを見たアスナの顔も赤く染まる。




「アスナも照れないでよっ!」


「照れるかっ!つられただけだ!」




 お互い真っ赤になりながらギャーギャーと言い合う。その騒ぎを聞き付けてか、フィノアが迎えにくるまで口論は続いていた。



 顔の熱も、冷めないで。






ちょっとだけアスナの話。彼にも色々あったりします。

読んでくださりありがとうございます!

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