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第12話 ノード=ルア

「それで、その神様に会いに行くのか?」

「うん。少し離れた場所だけど、ちょっと行ってくるよ」


鎖の長さなどを考えると、そうそう遠い所には行けないだろうが目的地までは問題ないだろうと判断し、ルーンに会いに行くことを伝えた。

それにしても、自分以外に神様がいたなんて知らなかった。確かに自分は万能ではないから、そういう役割別のような存在がいてもおかしくない。……もしかしたら。何か情報がつかめるのかもしれない。




「ここ……?」


エルフが住む森よりも深い場所に、その大樹は立っていた。

世界樹≪ユグドラシル≫。世界を支える、天まで届いているのかと思う程大きな樹。

そうか、これがあるからこの森は護られていて、許された者しか入れないような結界があるのか……。

それにしても、なんだろう。何だか懐かしい気がする。

僕はそっと、大樹の幹に触れてみる。――その瞬間、鋭い頭痛の様なものと、目蓋の裏に幾つもの映像が送り込まれたような感覚に襲われた。



「――……俺は護らなければならない。例えこの命尽きようとも、――全てをお前が奪おうとも」

そこに誰かがいた。表情は視えなかった。ただその握られた剣だけが、やけに鈍く輝いていた。

地はまるで地獄のような光景がただ墜ちていた。大切な何かを、護らなければならないと漠然と想っていた気がする。

足は既に動かない、手だって痺れたようになっていて、全ての身体機能が限界を叫んでいた。

骨だって、もう何本折れていて、何度治癒したかわからない。もうその治癒さえ効かないほど、身体はどうしようもなく停止しようとしていた。

延命処置ぐらいしかできない。残された時間はもうない。それでも、何かをしなければならないと、思って――。




「おや、こんな場所でどうしたんですか?ヴァルセリア様」


その声にハッとなって、僕は顔を上げた。

大樹の幹に背を向けて立っていたのは見知らぬ青年だった。


「君が、この森を護ってる神?」

「えぇ。そうですよ、ヴァルセリア様。――俺はノード=ルアといいます。噂のとおりお美しいですね」


足元を見れば、彼もまた地から足が離れていた。宙に浮いている。……本当に神なんだ、自分以外の。

風貌は僕と同い年くらいだけど、実年齢はどうなんだろう。


「えっと、僕、初めて自分以外の神様がいるって知って……、そもそも、僕以外の神様がいるなんてさっき知ったばかりだったから会いたくって」

「初めて知ったんですか?世界神なのに?」

「世界神でも万能の神様じゃないよ」


知識は恐らく彼よりも少ない。多分だけど、僕の欠けている部分はそれぞれ別の神様が補っているんじゃないだろうか、と思う。なんとなくだけど。例えばこの世界に関する知識を全て持つ神様がいたりするのかもしれない。


「君は何の神様なの?」

「僕は護りの神です。守護を与える役目――使命を持っています」


守護を与えるのが役目。いつだったか、僕がルインに渡した守護の恩恵もその一つだった。けど、あの守護は言ってしまえば適当な恩恵だった。

ちゃんとした恩恵を与える役目を持つ神様もいるのか。


「ありとあらゆる、とまではいきませんが、他の神たちよりも強い恩恵を人々に与えることが出来ますね」

「……あ、じゃあ、一つお願いしていいかな?」

「なんでしょうか?ヴァルセリア様のお願いともなれば、何でも聞きますよ」

「君に、守護の恩恵を施してほしい人がいるんだ」





「それで、その神様はそこにいるんだな?」


ルーンは小声で僕に言う。

僕はルーン達が待つ小屋へ戻ると、二人を連れてノード=ルアの場所まで連れてきた。

僕と違って彼はどこへでも行けるわけではないらしい。まあ、僕も契約があるからどこでもいけるわけじゃないんだけど。

ノード=ルアの場合は、その地に宿る神ということもあって離れられないっていうのが理由らしい。しかも彼の姿はルーンには見えないようだ。


「貴方は契約で結ばれてますから見えますが、我々は極めて数少ない者にしか見えないんですよ」


と、ノード=ルアは言った。


「それでは、早速守護を与えますね」

「うん。ありがとう、ノード=ルア」


彼はルーンの頭に手をかざすと、静かに深呼吸をしながら目を閉じた。周囲の空気が変わっていくのがわかった。


「……?」


一瞬、ノード=ルアが怪訝な表情をした。しかしすぐに表情を戻して、数分経った頃に「終わりましたよ」と言った。


「何も変わらないけど、本当にこれで守護が……?」

「はい。幾らかの守護を重ね掛けしました。きっと役に立つと思いますよ」


僕は再度礼を言うと、ノード=ルアは姿を消した。ルーンの隣にいるエリスが不思議そうに首を傾げた。


「あの、王子。ここがどうかなされたのですか?」

「あぁ、いや。えーっと、……そう、この場所、エルフの長に勧められてさ。凄い綺麗だろ?」


言い訳を幾つか並べながらなんとか誤魔化すルーン。まだ納得はしていないが、まあいいか、というような感じで終わらせたらしいエリス。ルーンは空笑いをしながら言う。


「もう満足したし、戻るか」





「……一体どういうことか、説明してくれる?」


〈ハコブネ〉本部、アグナの書斎部屋にて。

アグナは出来るだけ平静を装いながら、内心は混乱した思考でアーシェに再度説明を求めた。


「だから、言った通りだ。アルスは死んだ。共に同行していたヴァ―ジスは行方がわからない」


アグナはアーシェがこうも冷静でいられることに違和感を覚えた。

昔からの長い付き合いになるが、こうも冷静を装える性格だったか?いや、そんなこと、できるはずがない。彼はもっと、感情に走るような男だ。ならなぜ今、アルスが死んだことについてこうも――。


「……アーシェ。お前は、……なんだ?」


なんだ、とは。何なんだろう。何故そのような表現の言葉が出たのかはわからなかった。言ってみればただの勘。アーシェは変わらない、表情のない顔で応える。


「なんだ、ってなんだ?何を疑ってるんだ」

「僕が昔から知っているアーシェは、こうも人の死に無頓着ではない。お前、本当にアーシェか?」


そういった瞬間、金属音が目の前で交差した。ぶつかり合う音はその一瞬で、もう一つの金属音の主は僕の腕を乱暴に引っ張ると、アーシェから距離を取った。


「無事ですか、アグナさん」

「へルア?」


僕を助けたのはへルアだった。へルアの手には剣が握られていて、その剣に見覚えがあった。


「それ、アルスくんの……?」

「はい。アルスさんが殺された場所で拾いました」


へルアはバイトの服のまま剣を手にして言った。……殺された?アルスが?


「アルスくんは殺されたのか!?」

「その話は後にしましょう。今はとにかくここから逃げることが先決ですよ」

「……」


へルアは目の前にいるアーシェへ視線を向けた。アーシェは何も言わず立っている。その手には短剣が握られていた。


「へルア。さっきの攻撃、君とアーシェ、どちらが先に手を出した……?」

「……アーシェさんですね」

「そうか。わかった」


僕は深呼吸をしてから“背後の者”を呼ぶ。鈍い音を吐きながら、背後の者はその手に持つ大鎌を振り上げた。アーシェは短剣を捨て、腰に提げていた剣を抜き、大鎌を防ぐ。


「跳ばせ、“背後の者”よ!」

「!」


アグナはへルアの手を掴み、背後の者にそう命じた。背後の者はその言葉に、身に纏う黒い衣を広げ、へルアとアグナを包み込んで姿を消した。



◇◇



「とりあえず、今後はこのエルフの森で暫く身を隠そうと思います」


事が収まるまで。と、エリスは言う。確かに、このまま外へ出れば危険なことが多い。エルフの森にはしばらくの間お世話になりそうだ。

それにしても不思議な種族なんだな、エルフって。姿は見えないものの、気配は感じるようで、至る所から視線を感じる。中にはぼんやりと見えているらしい者もいるようで、目を細めて視る者もいる。

特徴としては耳が尖っていて、殆どの者が緑色の瞳と髪を持っている。


「あー、それじゃあ、暫くこの森の中散歩してきていいか?あんまり遠くには行かないって約束するからさ」

「ええ。いいですよ。この森の中なら」


そう言うとルーンは小屋から出て散歩をし始めた。僕もそれについていく。

辺りに妙な気配はないし、此処はエルフたちが張った結界とノード=ルアが施した加護のお陰で安心できる。僕も、変な気を張らずに、ゆっくりできそうだ……。


「……アルス?」



◇◇



「×××。君は何故自分が神として選ばれたのかわかるか?」

「思いあがるな。貴様は自身の為したことを償うために神となったのだ」

「お前はこの世界の神をどういった存在としてとらえている?」

「アンタはその運命をどう捉えている?」

「貴方は、神様と為る前。その罪を償うため。彼を――護り、救わなければ――」




「アルス。どうしたんだ?」


まるで眠っていたかのように沈んでいた意識は戻り、ルーンは不思議そうにしている。


「なんでもないよ。ちょっと、ボーっとしてただけ」

「そうか。何かあれば言えよ」


再び歩を進めるルーンに僕も再びついていく。先ほどの夢のような光景を思い出しながら僕は考え込む。

神様に為る前。罪を償う。……あの声がなんだったのか、なんだか胸のあたりがざわつくような感覚がした。


「ん?」


唐突に、ルーンの足が止まる。


「……人か?」


僕もルーンが向ける視線の先を見る。そこには木の幹へ背をもたらせながら目を瞑っている青年がいた。

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