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第9話 懐かしい顔

「久しぶりだね。――神様」


そう声をかけてきたのは、白いローブのような服に身を包み、高価そうなアクセサリーを身に着けた男だった。――クロア?


「まさか人の姿になられているとは思いませんでした」


そう言って微笑み、背後に視線を向けるクロア。今背後に居るのはヴァ―ジスだ。

振り返ると、ヴァ―ジスは怪訝な表情を浮かべ、クロアを睨みつけている。


「にしても、こんなところにいるとは思いもしませんでしたよ」

「――えっと、なんでここにいるの?クロア」

「まあ、色々ありまして。今は中立であるこの小国ヴェルノヴァに身を寄せることになりまして」


色々とは、あの後のことだろうか。……そうだ、僕は聞かなきゃならない。あの後のことについて。


「僕も、まあ、色々あって人の姿になっちゃったんだけど……。その話は後だ。ヴァルゼはどうなったんだ?」


僕はそのことがずっと気がかりだった。大きめの声で強い口調で聞いてしまったが、クロアは微笑んだ。


「それが私にもわからないんです。無事のようですが、あの後身を隠されまして」

「身を隠した……」


ヴァルゼの母、イリスが殺されて、灰色の鎧を着た男が殺した――。身を隠さない方がおかしいか。

心配事がまた増えたような気がしたが、取りあえず無事という言葉を聴いて安心した。


「おい」


安堵していると背後に居たヴァ―ジスが僕に多少乱暴な物言いで声をかけてきた。

ヴァ―ジスの表情は変わらない怪訝なもので、僕の腕を乱暴に握った。


「そういえば、そこの彼は?」

「ヴァ―ジス=ルインだ」


乱暴に言い放ったヴァ―ジスは、僕の手を取った。その手は微かに震えている気がした。


「ヴァ―ジス?」

「……」

「おや、これはまた随分と嫌われてしまいましたね」


クロアはそう言って笑う。その笑みに微かに違和感を感じたが、クロアはすぐに踵を返した。


「暫くこの町に滞在しようと思います。ですから、何かあればすぐに駆け付けますよ」

「うん。わかった、ありがとう、クロア」


去っていく後姿を見送りながら、僕はヴァ―ジスの方を振り向いた。ヴァ―ジスはクロアの後姿をじっと見ながら、姿が視えなくなるころ、ようやく震えが収まったようだった。


「クロアがどうかしたの?」

「……なんでもない。さっさと帰るぞ」


僕は腕を引っ張られながら、本部へと戻ることとなった。





「クロア様、先ほどの方は一体どういったご関係で……?」


クロアはクスクスと笑い、「秘密です」と答えた。ヴァルセリア様の気配は感じ取れていたが、まさかその傍に彼がいるとは思いもしなかった。流石は神というだけはあるのかもしれない。――運命を持つ者を全て巻き込んでしまうような、そんな力でも持っているのかもしれないな、と。クロアはなんとなく考える。

まあ、今は彼のことを考える前に自分の身を考えなければならないのだけれど。


「さて、取りあえず戻りましょうか」





「明日のことなんだけど、君たちにも手伝ってほしい仕事があるんだ」


本部に戻ってくるなり、アグナさんはそう言って、机の上に置かれてあった書類を一枚、僕らに見せる。

その書類には大きな判が押されてあった。――『王国騎士団の不審な動きを調査』……?


「最近王国騎士団が帝国領土で不審な動きをしているようでね。帝国軍より、直々に依頼を受けた。……受けてくれるね?」

「……もちろんです」


僕は力強く頷いた。少しでも手掛かりになるなら、なんだってする。


「じゃあ、俺も行きます」

「ヴァ―ジス。別に君は付いてこなくても――」

「一人より、二人の方が何かといいでしょう。なら、俺も行かせてください」

「……わかった。ただし、二人とも絶対に無茶はしないようにね」

「はい」


アグナさんはそういって微笑み、僕に仕事の依頼書のコピーを渡してくれた。

自室まで戻った僕はその書類に細かく目を通す。

王国騎士団の不審な動き。具体的に言うと、帝国領土内で何かを探す素振りをしているらしい。

それが何なのかはわからないが、その様子を見るにとても重要なもののようだ。

そういえば。と、ふと僕は気付く。精霊たちが、妖精達の気配を感じない。


「……?」

「どうしたんだ」

「なんでもないよ。……明日、頑張ろうね」

「ああ」


僕は風呂に入った後、明日の用意をしてから床についた。目を閉じ、ゆっくりと呼吸をし、眠りにつく。

眠るという行為は神様だった時にはなかった。最初は慣れないものだったけど、段々とそれも慣れていった。


「……――」


ここが夢の中なのだと気づいたのは、暫く道を歩いている最中だった。

先は白い扉があって、背後を振り返ると黒い光が追ってきていた。

白い扉を開けようとすると、扉には鍵がかかっているようだった。背後から伸びる手。その手には金色の鍵が握られていた。

錠に入った鍵は音を立てて解錠した。扉がゆっくりと開いていく。光が漏れている。

後ろを振り返った。そこにいたのは、誰だったのか。

思い出せない。





「とりあえず、よく目撃されているこの辺りを見回ってみるしかない」


情報を提供してくれた者の多くがこの場所で目撃したらしい。

国のはずれにある古い遺跡。およそ一千年程前に建てられたものらしいが、その目的は誰も知らない。

それにしても、探す素振り、ということは、此処で何かを探しているということだが、一体何を探しているというのか。

周囲は草花が生い茂り、古い遺跡や墓が並ぶばかりで、殆ど何もない場所に見える。


「もし見つけた場合、無理に出ることはせず動向を追うだけに留めること……か」

「深追いはするなってことだな」


ヴァ―ジスはそう言いながら、周囲を見渡し欠伸を漏らした。

暫く物陰に隠れ周囲を観察していると、やがて人が現れた。だが、その服装は騎士の服装ではなく普通の私服だった。

けど、なんだろう。仕草というか、そういう細かいところが一般人のそれではないというか。


「もう少し観察してみよう」


やがて男は探す素振りをし始めた。古い遺跡の中心部を探しているらしく、視線が幾度も泳いでいる。

……おそらく間違いない。あの男が例の騎士団の人間だ。

何を探しているのかはわからないが、慎重に、壊れ物でも扱うような手つきで遺跡を探っている。

そして、何かを見つけたらしい男は遺跡からそれを取り出した。

同時に頭痛のようなものが突然頭に響いてきた。


「……誰だ!」

「やばい、バレた!逃げるぞアルス――」


僕の腕を取ったヴァ―ジスの声に朦朧としかけていた意識が覚醒する。

立ち上がって、この場から離れようと走りかけたが、別の男が前に立ちはだかった。逃げ場はなくなる。

魔力のようなものを感じる。意識がまた、朦朧とする。


「なんだお前ら、帝国の兵士か?」

「お前たちの方が何者だ。王国の騎士か?」


ヴァ―ジスが挑発するように聞く。男たちは静かに、僕等へと近づいてくる。


「……ッ!?」


――瞬間。ヴァ―ジスを貫く一閃の光が飛んできた。

腹部を貫かれたヴァ―ジスは、その場に崩れ落ちる。


「ッゲホッ……」

「見られたからには仕方ねぇな。殺すぞ」


ぐらつく意識。ふと、男の手にある物体が目に入る。――剣だ。蒼い石で刃が造られた剣。

見覚えがあった。あの剣は――。


「ヴァ―ジスッ!」


僕は我に返ってヴァ―ジスを呼んだ。ヴァ―ジスはまだ意識がはっきりしているようで、顔を上げ、睨み返す。

どうにかしてこの場から逃げないと。そうしないとヴァ―ジスが。

混乱する頭の中、僕は腰に提げた剣に触れる。剣術なんてしたことないけど、出来るだろうか。いや、できないといけない。

何故か先ほどから声をかけている妖精や精霊たちは応えてくれない。その理由を考えている暇はない。

僕は、剣を鞘から引き抜く。


「“爆ぜろ閃光――。煌き揺らめく光よ”!」


パァン、と軽い音と共に飛び込む無数の光。剣でその光を防ぐ動作をすると、光は剣に当たって弾け飛んだ。魔法が斬れた……?


「あの剣、魔剣か!?」

「チッ、“爆ぜろ閃光、煌き揺らめく光よ”」


僕は走りながら、剣で光を斬っていく。弾ける光の向こう側。男たちに目がけて、僕は剣を振り下ろした。

剣術も何もない、ただの素振りに近い動作。


「な、ァッ……!?」


しかしたったそれだけの動作で、まるで魔法を使った時のような熱が両手に集まって、弾けた。

光は男たちに向かって飛んでいったが、当たることはなく空中で爆ぜた。その光に驚いたのか、男が持つ剣が地面に落ちた。


「くそ、こうなったら!」

「!?」


―ズガァン、

重い音が鳴った瞬間、身体に衝撃が伝わった。視線を下に落とす。

腹部に広がる朱いシミ。一体どこから。……背後からか。

倒れる身体。人の身体で初めて味わう激痛と衝撃。何とかヴァ―ジスの上に倒れこみ、これ以上彼に手が出せないようにする。


「……ルイン」


意識がなくなる寸前、視界に映ったのは懐かしい顔だった。

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