婚約者になりたくて①※ルードルフ視点
クラウディアと出会い四年の月日が流れた。
少しでも彼女に近づきたくて三日に一度の頻度で彼女に会いに行っていた。
会う度に、彼女の事を知る度に、自分の中に芽生えた気持ちは強まっていく一方だ。しかし四年間で彼女が私の婚約者になってくれる事はなかった。
周りには牽制をかけているが年々可愛らしさに磨きがかかるクラウディアを他の男子貴族達が放っておくはずもない。王族の目を盗み縁談を送ろうとしている家があると聞いて強い焦燥感に駆られた。
クラウディアを他の男に奪われたくない。
好きになってもらってから婚約者になるのでは遅すぎると思った私は良くない事だと思いつつ強硬手段を取る事にした。
とある本を準備して、私はクラウディアの元に向かったのだ。
「ディア、お久しぶりですね」
「ご機嫌よう、ルード様。一週間前に会いましたよね?」
『ディア』『ルード様』
そう呼び合えるようになったのは二年前からだった。私が一度言い出したら引かないという性格だと理解したのかクラウディアはすんなりと愛称呼びを許可してくれたのだ。
「一週間も会っていなかったのですよ」
「普通の貴族は一週間会わなくても平気です」
「相変わらずディアは冷たいですね」
一週間も顔が見られなかったのは本の貸し出しに手間取ってしまった為。準備している間も私の頭の中はクラウディアの事でいっぱいだった。
まさかここまで夢中になれる存在に出会えるとは思わなかったな。
「今日はどのような用件で?」
「ディアの顔を見に来ました」
いつも通りのやり取りを済ませて向かうのは普段使わせてもらっている談話室だ。四年間ですっかり私達のお茶会スペースとなったここはかなり落ち着く。
「これをどうぞ」
私の付き添いで来てくれている執事のマルコから本を受け取り、クラウディアに差し出す。
「本ですか?」
「はい。プレゼントですよ」
「プレゼント?」
首を傾げる仕草も可愛い。
なんて思っていると本の包み紙に触れて尋ねられる。
「拝見しても?」
「勿論。喜んでいただけると嬉しいのですが」
この本を見ればクラウディアは私の婚約者になってくれる。
高揚する気持ちが抑えられず頬が赤くなってしまった。丁寧に包み紙を開いたクラウディアはそれをエマに手渡した。
「それは取っておくわ」
「かしこまりました」
取っておく?ただの包み紙なのに?
もちろん彼女に贈る為の品を包んだ物だ。可愛らしい物にしてもらったがそれでも普通は捨てるだろう。
「取っておく?ただの包み紙ですよ、捨てないのですか?」
「その、可愛らしいので取っておきます」
こちらが尋ねると恥ずかしそうに頬を赤く染めて答えてくれるクラウディアの表情に鼓動が速くなる。
それは卑怯だと思いながら何とか言葉を紡いだ。
「そうですか…」
「やはり貴族らしくないですよね?」
「貴族らしくはないかもしれません。でも、ディアらしくて私は好きですよ」
確かに普通の令嬢なら絶対にやらない。しかしクラウディアは普通の令嬢とは違いすぎる。
私にとってはその違いこそ非常に好ましく映るのだ。
こちらの返答に狼狽えるクラウディアは照れた顔を隠すように俯き本を見る。
「中身を見させてもらいますね」
クラウディアに渡した本のタイトルは『王宮の秘密探検』だ。
これは姉の処女作であり大問題作。
内容は姉が王城内を探索した際に書いた手記のような物である。王城内部の様子が詳しく書かれすぎている為、当時かなり問題となり王族しか入る事が許されていない厳重警備が敷かれた書庫に保管される事になったのだ。
ちなみに焼き捨てられなかったのは姉が許さなかったから。
閲覧禁止の本をクラウディアに渡した理由は読んでもらう為。事細かに書かれた王城内部を彼女が知れば王族に嫁ぐか口封じの為に殺されるかの二択しかない。
卑怯な手だと分かっていても彼女を逃したくなかったのだ。
「本当に頂いても良いのですか?」
嬉しそうに本を抱き締めて聞いてくるクラウディアに罪悪感を覚えたが、それ以上に彼女を婚約者に出来る喜びが勝っていた私はつい目を細めてしまう。
「嬉しそうですね」
「えぇ、嬉しいです…」
本当に嬉しいのだろう。
早く読みたいというクラウディアの気持ちが声から滲み出ていた。
無邪気に喜ぶ姿に罪悪感が湧き上がる。謝罪なら一生をかけてしていくつもりだ。
「喜んでもらえて私も嬉しいです」
「本当にありがとうございます」
「読んだら感想を聞かせてくださいね」
「勿論です」
私の婚約者になってもらいますよ、愛しい人。
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