公爵令嬢との出会い③※ルードルフ視点
近くの令嬢達から挨拶を始めるが興味が湧かない。
名前だけを聞いて立ち去るのを繰り返す。
ふと気になっている子を見ると私の事など見ておらずケーキに夢中になっていた。別に無礼な事ではないし、他の人間に挨拶をしている時まで見つめてほしいと私自身も思っていない。しかし実際にされると動揺が隠せなくなる。
ようやく一通り名前を聞き終えて彼女に近寄った。しかし気づかれない。
空いたケーキの皿を数えると三皿あり、今食べ終わるので四皿目だ。
本当に私が挨拶回りをしている間ずっとケーキに夢中だったのか…。
「ん?」
私の視線に気がついた彼女は私の姿を見るなり固まった。驚かせてしまったのだろう。と思っていたら彼女の視線は私の後ろに向いていた。
先程から痛いくらいにもっと話したかったという視線を向けられているがどうでも良い。
彼女の視線を私に向けてほしい。
「美味しかったですか?」
「え?」
「ケーキですよ。ずっと食べていましたよね」
どう話しかけようか迷った末につい嫌味な言い方をしてしまった。
嫌われたらどうしようか。それは嫌だな。
彼女に対しては出来るだけ印象は良くしたい。
「美味しかったですよ」
先程まで冷めた目ばかりだった彼女はふわりと笑った。
その笑顔が愛らしくて胸が高鳴る。
わざと私を煽るような言い方もまた可愛くてどうしようもない。
「そうですか…」
なんとか平静を装って彼女に言葉を返した。
「美味しすぎてすっかり夢中になっていました。殿下がお近くに居る事にも気づかず無礼な態度をとってしまい誠に申し訳ありません」
立ち上がり、謝罪の言葉と共にスカートを摘んで膝を折り頭を下げる。
その姿は高位貴族だと教えてくれるくらい優雅なものだった。
一体どこの令嬢なのだろうと考えたところでまだ彼女の名前を聞いてない事に気がついた。
話すのに夢中になり重要な事を失念するとは…。
「気にしなくて良いですよ。近くにいたのに声をかけなかった私も悪いですから」
「ですが…」
「それよりもお名前を伺っても良いですか?」
彼女も私に名前を告げていない事に気づいたのか慌てて礼を取る。それすらも優雅に出来るとはよっぽどの良家なのだろう。
「お初にお目にかかります。シーラッハ公爵家の長女クラウディア・フォン・シーラッハでございます」
彼女の名前を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
良いなと思った相手が勝手に嫌悪していた従姉だったのだ。
「シーラッハ公爵の娘…。叔母上の娘でしたか」
動揺を隠しながら言葉を返すがうるさい心音は聞こえてしまっているかもしれない。
しかし彼女は気にした素振りを見せなかった。
小さく息を吐いて彼女に笑いかける。
「お会いできて光栄ですよ、クラウディア嬢」
「こちらこそ光栄でございます、ルードルフ殿下」
優しく微笑むクラウディアを見て、胸が高鳴る。そして名前を知るまで彼女を嫌っていた自分を殴りたくなった。
「ところでクラウディア嬢はどんなご趣味をお持ちなのですか?」
もっと話がしたくて尋ねると後ろからの視線が突き刺さった。
当たり前だ。彼女達には趣味の一つも聞かなかった。名前だけ聞いて去っていたのだから。
「最近は本を読むのが好きです」
屋敷を走り回る勉強嫌いの我儘娘ではなかったのか。本を読むのが好きという事はどちらかというとお淑やかな女の子だと思うけど。
「最近読んだ本の題名を伺っても?」
「殿下に言うのは憚れる物なのですが…」
クラウディアが読む本が気になって尋ねると困ったように眉を下げていた。
その姿も可愛らしく見える。
「それでも構いません」
「屋敷にある図書館で読みました『逆賊のアリーセ』です」
周囲に聞こえないように声を落として答えられた題名に驚いた。
その本は歳の離れた姉が書いた物だったから。
兄が生まれるまで姉は厳しく育てられていた。
女王になるかもしれない存在だったからだ。
その姉の唯一の息抜きが小説を書く事だった。
『逆賊のアリーセ』は国に対して溜まった鬱憤を晴らす為に書いた物だと姉に聞いた事がある。
まさかそれをクラウディアが読んでいるとは思わなかった。
「それは面白い本なのですか?」
「私は面白いと思いました。ただ男性の方には向かない内容かもしれません」
内容は知っているが彼女がどう感じたのか聞きたくて尋ねると嬉しそうに話してくれた。
「そう、ですか…」
大切な姉の作品が気になっている子に褒められると言うのは何とも言えない気分になる。
「さっ、他のご令嬢達がお待ちです。行ってあげてください」
話を続けようとしたが彼女は私に対して礼をとる。しかも小さくしていた声を大きくして周囲に聞こえるよう進言してきたのだ。
後ろから期待に満ちた視線を向けられては応えるしかなさそうだと気が滅入る。
「………また会いましょう、クラウディア嬢」
「お会いできる日を楽しみにしております」
残念がる私に対してクラウディアは笑った。
しばらくして母のところに戻ると隣には先程と変わらずクラウディアの母である叔母上が座っていた。
「クラウディアちゃんと話してみてどうだった?」
「………悔しいですが、気になってます」
この悔しいは母の策に引っかかった自分に対しての言葉だ。
「うちの娘の事を気に入ってくれたみたいで安心しました」
「母上、私の婚約者はクラウディアになるのですよね?」
お茶会前の母の様子だと他の令嬢を望まなかった場合は自動的にクラウディアが婚約者になるはずだった。
蓋を開けてみればクラウディアが気になっている自分がいる。
是非とも彼女を婚約者にしたい。
それなのに母は叔母と一緒に苦笑いをした。
「それがクラウディアちゃんの方はルードに興味がないみたいなのよ」
母の言葉に固まった。
好かれているとは思ってなかったが、まさか興味すら持たれてないとは思わなかった。
「ルード様はディア…クラウディアを婚約者にしたいのですよね?」
「はい。でも、彼女が望んでいないのなら私も婚約を望みません…」
叔母上に尋ねられて頷くが無理強いをして嫌われたくない気持ちもある。
「それならルードがクラウディアちゃんを惚れさせたら良いのよ!」
名案だとばかりに言わないでほしい。
それからここはお茶会の席でもある。下手に他の貴族に聞かれるのはまずい。
「ルード様、しばらくディアには婚約者を作りません。どうするかは貴方自身が決めてください」
優しく笑う叔母はクラウディアの笑顔を彷彿とさせた。
また彼女の笑顔が見たい。
仲良くなりたい。
婚約したい。
どうか私を好きになってほしい。
「好きになってもらえるように頑張ります」
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