第5話「金曜日の告白」
第5話は、二人が揃う金曜日の夜です。
今回は、少し踏み込んだ話題。
ひよりの純粋さと、澪さんの大人っぽさが、
対照的に描かれています。
でも、どちらが正しいとか、
そういうことではありません。
それぞれのペースで、
それぞれの人生を生きている。
そんな二人の関係性を、
感じていただけたら嬉しいです。
少しドキドキする会話もありますが、
温かい気持ちで読んでいただけたら幸いです。
それでは、第5話をお楽しみください。
「ただいまー!」
金曜日の夜、いつものようにひよりが私の部屋にやってきた。
「おかえり。今日は鶏の唐揚げにしたわよ」
「わあ、最高! 今週、めっちゃ大変だったから、揚げ物が食べたかったの!」
ひよりは、コンビニの袋からビールを取り出して、テーブルに置いた。
「大変だったの?」
「もう、聞いてよ!」
唐揚げとサラダをテーブルに並べると、ひよりは堰を切ったように話し始めた。
火曜日にお客さんのところで納品ミスをして、怒られた話。でも、必死に挽回して、逆に新しい提案を受け入れてもらえた話。
「それでね、丸山部長が最後に笑ってくれたの! あの時は本当に嬉しかったなあ」
「よく頑張ったわね」
「うん! 先輩の言葉、思い出したんだ。『仕事はクレームから始まる』って」
ひよりは、ビールをグイッと飲んだ。
「澪さんは、今週どうだった?」
私は、少し躊躇した。
言おうか、言うまいか。
でも、ひよりには話せる気がした。
「実は……ちょっと面白いことがあったのよ」
「面白いこと?」
「昨日、仕事帰りに焼き鳥屋さんに寄ったの。一人で」
「え! 澪さんが!?」
ひよりは、目を丸くした。
「うん。なんとなく、ひよりだったらこういうお店に入るかなって思って」
「それで?」
「カウンターで飲んでたら、隣に男の人が座って」
「え、ナンパ!?」
「違うわよ。ただ、話が合って、気づいたら結構長い時間話してたの」
ひよりは、身を乗り出した。
「それで、それで?」
「それで……その後、バーに行って、もう少し飲んで」
私は、言葉を選んだ。
「彼の家に、行ったの」
一瞬、沈黙が流れた。
ひよりは、口をポカンと開けたまま固まっていた。
「え……ええええ!? 澪さん、それって……」
「そう。そういうこと」
「そ、そういうことって……」
ひよりの顔が、みるみる赤くなった。
「ちょ、ちょっと待って! 澪さんが!? えぇぇーー!?」
「たまには、そういうこともあるわよ」
私は、クスッと笑った。
「で、でも……その人とは、その後どうなったの?」
「連絡先も交換してないわ。一夜だけの関係」
「そ、そんなことってあるの!?」
ひよりは、完全に混乱している様子だった。
「ひより、もしかして……」
「あ、いや、その……」
ひよりは、顔を真っ赤にしたまま、唐揚げをつまんだ。
「別に、その、経験がないわけじゃ……いや、正直に言うと、ないんだけど…」
「そうなの?」
「だって、仕事忙しいし、彼氏もいないし! それに、そういうのって、好きな人とじゃないと……」
ひよりは、もじもじしている。
私は、少し意外だった。明るくて社交的なひよりだから、そういう経験も豊富だと思っていた。
「ごめんね。変な話しちゃって」
「ううん、変じゃない! ていうか……」
ひよりは、ビールを一気に飲んで、私を見た。
「澪さんも、そういうことするんだ」
「たまにはね」
「なんか……意外。でも、ちょっと……」
「ちょっと?」
「かっこいいかも」
ひよりは、照れくさそうに笑った。
「私も、もっと大人にならなきゃなあ。仕事のこと以外でも、色々経験しないと」
「無理にする必要はないわよ。ひよりは、ひよりのペースでいいの」
「うん……でも、澪さんの話聞いて、ちょっと興味持っちゃった」
「興味?」
「だって、どんな感じなんだろうって……」
ひよりは、また顔を赤くした。
「あ、でも、やっぱり私には無理かも! 知らない人と、その、そういうのって……」
「大丈夫よ。いつか、好きな人ができた時に、自然とそうなるから」
「そうかなあ」
ひよりは、唐揚げをもう一つ食べた。
「でも、澪さん、すごいよ。私、そんな勇気ない」
「勇気じゃないわ。ただ、その時の気分」
「気分かあ……」
それから、二人で黙々と食べた。
いつもより、少し静かな夜だった。
でも、悪くない沈黙だった。
「ねえ、澪さん」
ひよりが、小さな声で言った。
「また、そういうことあったら……教えてね」
「どうして?」
「だって、気になるもん。澪さんがどんな風に生きてるのか」
私は、ひよりを見た。
彼女は、本当に純粋な目で私を見ていた。
「分かった。でも、そんなに頻繁にあることじゃないわよ」
「うん、分かってる」
ひよりは、笑った。
「でもね、澪さん。私、今日の話聞いて思った」
「何を?」
「澪さんも、ちゃんと生きてるんだなって」
「生きてる?」
「うん。家で本読んでるだけじゃなくて、ちゃんと外の世界にも出て行ってる。それって、すごいことだと思う」
ひよりの言葉が、胸に染みた。
「ありがとう」
「これからも、色々教えてね。仕事のことも、恋愛のことも」
「ひよりも、色々教えてよ。外の世界のこと」
「もちろん!」
二人で、グラスを合わせた。
今夜は、いつもより少しだけ、特別な時間になった。
第5話、いかがでしたでしょうか。
今回は、少し踏み込んだ話題でしたね。
ひよりの反応が可愛かったでしょうか?
経験豊富な澪と、未経験のひより。
二人の対比が、面白かったと思います。
でも、二人は対等です。
お互いを認め合い、尊重し合っている。
そんな関係が、とても素敵だなと思います。
次回、第6話はひより単独回。
澪の話を聞いて、色々考えて...ひよりが一人で過ごす土曜日を描きます。少し大人な内容になりますので、ご了承ください。
第6話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




