第4話「いつもと違う帰り道」
第4話は、澪の視点です。
今回は、少し大人な雰囲気の物語。
いつもは家で一人、静かに過ごす澪さんが、
ふとした偶然から、新しい扉を開きます。
澪の、また違った一面を
感じていただけたら嬉しいです。
それでは、第4話をお楽しみください。
木曜日の夕方、定時で会社を出た。
いつもなら、まっすぐ駅に向かって、スーパーで食材を買って、家に帰る。それが私の日課だった。
でも、今日は少し違った。
駅前の路地を歩いていると、見慣れない暖簾が目に入った。
「炭火焼鳥 鳥心」
新しくできたお店らしい。ガラス越しに見える店内は、カウンターが中心で、落ち着いた雰囲気だった。木の温もりが感じられる内装。一人でも入りやすそうな空気。
私は、立ち止まった。
いつもなら、こういうお店は素通りする。家でゆっくり料理を作って、本を読みながら食べるのが、私のスタイルだから。
でも、今日は何か違った。
ふと、ひよりのことを思い出した。
彼女だったら、迷わず入るだろう。「澪さん、行こう行こう!」って、私の手を引いて。
私は、少し躊躇してから、暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
店主らしい男性が、笑顔で迎えてくれた。
「お一人様ですか?」
「はい」
「カウンターでよろしいですか」
「お願いします」
案内された席に座ると、目の前で焼き鳥を焼いている様子が見えた。炭火の音と香りが、心地いい。
メニューを見て、とりあえず生ビールと、おまかせの串を注文した。
「お仕事帰りですか?」
店主が、話しかけてきた。
「ええ。近くで働いていて」
「そうですか。ゆっくりしていってくださいね」
運ばれてきたビールを一口飲む。冷たくて、喉に心地いい。
焼き鳥は、シンプルな塩味だけど、肉の旨味がしっかりしていて美味しい。
一人で外食するのは、久しぶりだった。
結婚していた頃は、外食といえば夫と一緒だったし、離婚してからは、もっぱら家で食べていた。
でも、こうして一人でカウンターに座るのも、悪くない。
「お隣、よろしいですか」
ふと、横から声がした。
見ると、同じくらいの年齢の男性が立っていた。スーツ姿で、仕事帰りらしい。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
男性は、隣に座って、店主に「いつものやつ」と注文した。常連らしい。
しばらく、お互い無言で焼き鳥を食べていた。
「ここ、初めてですか?」
男性が、話しかけてきた。
「ええ。今日、たまたま見つけて」
「そうなんですね。ここ、美味しいですよ。僕は週に一回くらい来てます」
「常連さんなんですね」
「いや、そこまでじゃないですけど」
男性は笑った。
話してみると、彼も同じ食品業界で働いているらしい。年齢も近くて、話が合った。
「一人で飲みに来るんですか?」
「最近、そうしてます。家で飲むのもいいですけど、たまには外の空気も吸いたくて」
「分かります。私も、普段は家で料理して食べるんですけど、今日はなんとなく」
「料理するんですね。偉いなあ」
「いえ、趣味みたいなものです」
ビールが進んで、日本酒を頼んだ。彼も同じものを注文して、二人で杯を交わした。
気づけば、2時間近く話していた。
仕事のこと、趣味のこと、最近読んだ本のこと。
彼は聞き上手で、私の話にちゃんと耳を傾けてくれた。
「そろそろ、お開きにしますか」
彼が言った。時計を見ると、もう9時を回っている。
「そうですね」
会計を済ませて、店を出た。
外は、少し冷えていた。
「あの……」
彼が、少し躊躇いながら言った。
「もう少し、話しませんか。近くにバーがあるんですけど」
私は、少し考えた。
いつもの私なら、ここで断って帰る。
でも、今日は違った。
お酒も入っていたし、久しぶりに誰かと話すのが楽しかった。
「……いいですよ」
私は、そう答えた。
バーで、また少し飲んだ。
話は続いて、笑って、気づけば終電の時間だった。
「送りますよ」
「いえ、大丈夫です」
「でも……」
彼の視線が、私を見つめていた。
私は、自分でも驚くほど、冷静だった。
「あなたの家、近いんですか」
「……ええ」
「じゃあ、少しだけ」
その夜は、久しぶりに人の温もりを感じた。
お互いに名前も連絡先も交換しなかった。
それでいいと思った。
朝、彼が眠っている間に、私は静かに部屋を出た。
朝日が、眩しかった。
駅までの道を歩きながら、私は少し笑った。
一夜だけの関係。
それでいい。
私には、帰る場所がある。
静かで、穏やかで、誰にも邪魔されない部屋。
そして、明日はまた、ひよりが来る。
それが、私の日常だ。
でも、たまにはこういう夜があってもいい。
そう思いながら、私は家路についた。
第4話、いかがでしたでしょうか。
今回は、少し大人な展開でしたね。
澪は、一人で生きることを選んだ女性です。
でも、時には誰かの温もりを求めることもある。
それは、弱さではなく、人間らしさだと思います。
一夜限りで終わる関係。
それを割り切れる強さも、澪の魅力の一つです。
次回、第5話は二人が再会する金曜日の夜。ひよりは仕事での挽回を報告し、澪は昨夜の出来事をぶっちゃける!?
二人の距離がさらに近づく、ちょっとドキドキな第5話です。
お楽しみに!
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




