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【OLふたり、今日も明日も】  作者: 桜餅 詩音


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30/40

第30話「はじめの一歩」

火曜日の夕方。

澪の家に、ひよりがやってきました。

新しいエプロンを持って、目をキラキラさせて。

今日は、料理教室の日。

二人のキッチンに、笑顔が溢れます。

それでは、第30話、どうぞ。

火曜日の夕方。仕事を終えて、会社を出た。


今日は、いつもより早く帰らないと。ひよりが来る。


駅前のスーパーに寄った。今日、ひよりに教える料理の材料。


卵焼きと、味噌汁。


シンプルだけど、基本が詰まっている。


卵も1パック買い足した。


失敗することも考えて、多めに用意しとかないと。


それから、豆腐、わかめ、長ネギ。


味噌汁の材料だ。


レジを済ませて、マンションに向かった。


部屋に着いて、エプロンをつける。


時計を見ると、六時半。


ひよりが来るまで、あと三十分。


キッチンを片付けて、調理器具を準備する。


フライパン、ボウル、菜箸、まな板、包丁。


ひよりが使いやすいように、並べておいた。

六時五十分。


インターホンが鳴った。


早い。


ドアを開けると、ひよりが立っていた。

大きなバッグを抱えて、満面の笑み。


「澪さーん! 来たよ!」


「早いわね」


「うん、楽しみで楽しみで! 仕事終わってすぐ来ちゃった!」


ひよりは、靴を脱いで上がってきた。


「これ、エプロン買ってきた!」


バッグから、真新しいエプロンを取り出す。


ピンク色に、小さな花柄。


ひよりらしい、明るいデザインだ。


「可愛いじゃない」


「でしょ! 今日、お昼休みに買ったの! これで料理するんだって思ったら、ワクワクしちゃって!」


ひよりは、目を輝かせていた。


その顔を見て、私も嬉しくなった。


「じゃあ、早速始めましょうか」


「はい!」


ひよりは、エプロンをつけた。


私も、自分のエプロンをつける。


二人で、キッチンに立った。


「今日は、卵焼きと味噌汁を作るわ」


「卵焼き……日曜日に失敗したやつだ」


ひよりは、少し苦笑いをした。


「大丈夫。今日は、ちゃんと教えるから」


「うん! お願いします!」


まず、卵焼きから。


私は、卵をボウルに割った。


「まず、卵を割る時はね、平らなところで割るといいわ」


「平らなところ?」


「ええ。ボウルの縁とかじゃなくて、テーブルとかまな板とか」


私は、もう一個、実演して見せた。


コツン、と軽く卵をテーブルに打ち付けて、ヒビを入れる。


そして、両手で開く。


殻が入ることなく、綺麗に割れた。


「おお……」


ひよりは、感心したように見ていた。


「じゃあ、ひよりもやってみて」


「はい!」


ひよりは、卵を手に取った。


少し緊張した顔。


コツン。


テーブルに打ち付けた。


でも、力が弱かったのか、ヒビが入らない。


「もう少し、強くていいわよ」


「こ、こう?」


コツン。


今度は、少し強すぎた。


卵が割れて、黄身が流れ出た。


「あっ!」


「大丈夫、大丈夫。慌てなくていいから」


私は、流れ出た卵をボウルに入れた。


ひよりは、もう一個挑戦する。


今度は、ちょうどいい力加減。


綺麗にヒビが入って、割れた。


「できた!」


「上手よ」


ひよりは、嬉しそうに笑った。


残りの卵も、ひよりが割った。


少しずつ、慣れてきたみたいだ。


「じゃあ、次は混ぜるわね」


私は、菜箸を手に取った。


「卵を混ぜる時は、白身を切るように混ぜるの。あまり泡立てないように」


私は、ゆっくりと混ぜて見せた。


「こんな感じ」


「はい」


ひよりは、真剣な顔で見ていた。


「じゃあ、砂糖と塩を入れるわね」


私は、小さじで砂糖を計った。


「砂糖は、小さじ一杯。塩は、ひとつまみ」


「計るんだ……」


ひよりは、呟いた。


「日曜日、適当に入れちゃった」


「料理は、基本的には計った方がいいわ。慣れたら目分量でもいいけど、最初はちゃんと計る方が失敗しないから」


「なるほど……」


ひよりは、真剣にメモを取り始めた。


スマホで、写真も撮っている。


「じゃあ、混ぜて」


ひよりは、菜箸を受け取って、混ぜた。


少し力が入りすぎている。


「もっと優しく、ね」


「はい」


ひよりは、力を抜いて、ゆっくり混ぜた。


「そう、それでいいわ」


卵液ができた。


次は、焼く。


「じゃあ、フライパンを火にかけるわね」


私は、卵焼き用のフライパンを火にかけた。


「油を入れて、温める。煙が出るくらいまで」


フライパンから、煙が立ち上ってきた。


「よし、じゃあ卵液を入れるわよ」


私は、お玉で卵液をすくって、フライパンに流し込んだ。


ジュワーッという音。


卵が広がっていく。


「少し固まってきたら、奥から手前に巻いていくの」


私は、菜箸で卵を巻いた。


くるん、くるん、と。


ひよりは、じっと見ていた。


「おお……」


「これを何回か繰り返すの」


また卵液を流し込んで、巻く。


三回繰り返して、卵焼きが完成した。


まな板に移して、切る。


断面は、綺麗な層になっている。


「すごい……」


ひよりは、感動したような顔をしていた。


「じゃあ、次はひよりがやってみて」


「え、私?」


「そうよ。見てるだけじゃ、できるようにならないから」


「う、うん……」


ひよりは、少し緊張した顔になった。


フライパンを洗って、もう一度火にかける。


「油、入れて」


「はい」


ひよりは、油を入れた。


少し多い。


「もう少し少なくていいわよ。大さじ一杯くらい」


「あ、こんなもの?」


「ええ。じゃあ、温めて」


煙が出てきた。


「卵液、入れて」


ひよりは、お玉で卵液をすくった。


手が少し震えている。


フライパンに流し込む。


ジュワーッ。


「おお、いい音!」


ひよりは、嬉しそうだった。


「少し固まってきたら、巻いて」


「う、うん……」


ひよりは、菜箸を持った。


でも、どう巻いていいか分からない様子。


「奥から手前に、ね」


私は、ひよりの後ろに立って、手を添えた。


「こう、ゆっくりと」


一緒に、卵を巻いた。


「あ、巻けた!」


「そう、その調子」


ひよりは、一人で巻き続けた。


少し不格好だけど、ちゃんと巻けている。


「次の卵液、入れて」


「はい!」


また流し込んで、巻く。


二回目は、少しスムーズになった。


三回目。


もう、ひよりは一人でできている。


「できた!」


ひよりは、満面の笑みだった。


まな板に移して、切る。


断面は、私のよりは不揃いだけど、ちゃんと卵焼きになっている。


「できたよ、澪さん! 卵焼き、できた!」


ひよりは、子供のように喜んでいた。


その顔を見て、私も嬉しくなった。


「上手よ。初めてにしては、すごくいい」


「本当?」


「ええ。じゃあ、味見してみましょう」


二人で、卵焼きを食べた。


私のと、ひよりのと。


「美味しい……自分で作った卵焼き、美味しい!」


ひよりは、目を輝かせていた。


「これ、本当に私が作ったの?」


「そうよ」


「すごい……なんか、感動しちゃった」


ひよりは、もう一切れ食べた。


本当に、嬉しそうだ。


「じゃあ、次は味噌汁ね」


「はい!」


味噌汁は、もっと簡単だ。


鍋に水を入れて、火にかける。


豆腐を切って、わかめを水で戻す。


長ネギも、小口切り。


「包丁は、こう持つのよ」


私は、包丁の持ち方を教えた。


ひよりは、真剣に聞いている。


「反対の手は、猫の手ね。指を丸めて」


「猫の手……」


ひよりは、手を丸めた。


ちょっと不格好だけど、大丈夫。


「じゃあ、切ってみて」


ひよりは、ゆっくりと長ネギを切った。


少し太さがバラバラだけど、ちゃんと切れている。


「いいわよ。その調子」


「うん!」


鍋のお湯が沸いてきた。


豆腐とわかめを入れる。


「味噌は、お玉に取って、少しずつ溶かすの」


私は、実演して見せた。


「こうすると、ダマにならないから」


「なるほど……」


ひよりは、また写真を撮っていた。


「じゃあ、ひより、やってみて」


「はい!」


ひよりは、お玉に味噌を取った。


お湯に浸けて、菜箸で溶かす。


「そう、それでいいわ」


味噌汁が完成した。


最後に、長ネギを散らす。


「できた!」


「お疲れさま」


二人で、テーブルに料理を並べた。


卵焼きと、味噌汁。


シンプルだけど、温かい食卓。


「いただきます!」


ひよりは、嬉しそうに手を合わせた。


まず、味噌汁を一口。


「美味しい……自分で作った味噌汁、すっごく美味しい!」


ひよりは、目を細めた。


「なんか、泣きそう」


「大げさね」


「違うよ! 本当に感動してるんだよ!」


ひよりは、卵焼きも食べた。


「これも美味しい……日曜日のは、なんだったんだろう」


ひよりは、笑った。


「でも、分かった。ちゃんと計って、ちゃんと手順を守れば、ちゃんとできるんだね」


「そうよ。料理は、基本が大事なの」


「うん。今日、よく分かった」


ひよりは、また味噌汁を飲んだ。


「澪さん、ありがとう。教えてくれて」


「どういたしまして」


「これから、ちょっとずつ練習するね。で、いつか澪さんに美味しいごはん作ってあげる!」


「楽しみにしてるわ」


私は、微笑んだ。


ひよりの、その前向きな姿勢。


一度失敗しても、すぐに立ち上がって、また挑戦する。


その強さが、ひよりの魅力だ。


そして、私はそんなひよりの力になれた。


それが、嬉しい。


食べ終わって、二人で片付けをした。


ひよりは、洗い物を手伝ってくれた。


「今日、すっごく楽しかった」


ひよりは、皿を拭きながら言った。


「料理って、楽しいんだね」


「そうね。私も、好きよ」


「うん。なんか、分かった気がする」


ひよりは、にっこり笑った。


「これから、いろいろ作れるようになりたいな」


「少しずつ、ね」


「うん!」


片付けが終わって、二人でソファに座った。


お茶を淹れて、ゆっくりする。


「そういえば、金曜日もまた来ていい?」


ひよりは、聞いてきた。


「もちろん」


「やった! じゃあ、金曜日は何作るの?」


「それは、金曜日のお楽しみ」


「えー、教えてよー」


ひよりは、甘えるように言った。


私は、少し笑った。


「じゃあ、ヒントだけ。秋の味覚よ」


「秋の味覚! さんま? きのこ? 栗?」


「金曜日まで、楽しみにしてて」


「もう、意地悪!」


ひよりは、笑った。


窓の外を見ると、もう真っ暗だった。


秋の夜。


二人でお茶を飲みながら、他愛もない話をする。


料理のこと。


仕事のこと。


週末のこと。


そんな、何気ない時間。


でも、この時間が、私は好きだ。


ひよりがいる時間。


賑やかで、楽しくて、温かい。


時計を見ると、もう九時を過ぎていた。


「そろそろ、帰らないと」


ひよりは、立ち上がった。


「ありがとう、澪さん。今日、本当に楽しかった」


「こちらこそ。また金曜日ね」


「うん! 楽しみにしてる!」


ひよりは、エプロンをバッグにしまった。


玄関まで見送る。


「じゃあね、澪さん!」


「気をつけて帰ってね」


「うん! おやすみなさい!」


ひよりは、手を振って階段を降りていった。


ドアを閉めて、部屋に戻る。


静かになった部屋。


でも、さっきまでのひよりの笑顔が、まだ残っている気がした。


私は、キッチンに立った。


綺麗に片付いたキッチン。


でも、さっきまでここで、ひよりと一緒に料理をしていた。


その時間が、温かい。


ソファに座って、お茶を飲んだ。


今日は、特別な火曜日だった。


いつもは金曜日にしか来ないひより。


でも、今日は火曜日に来た。


そして、一緒に料理をした。


ひよりの、あの嬉しそうな顔。


「できた!」って喜ぶ顔。


自分で作った料理を食べて、感動する顔。


その全部が、私も嬉しかった。


これから、ひよりは少しずつ料理を覚えていく。


そして、いつか本当に美味しいごはんを作れるようになる。


その成長を、見守っていけたらいいな。


私は、窓の外を見た。


秋の夜空。

 

星が、綺麗に見えた。


もうすぐ冬が来る。


季節は、どんどん変わっていく。


でも、ひよりとの時間は、変わらない。


これからも、ずっと続いていく。


そう思うと、なんだか安心した。


私には、ひよりがいる。


ひよりには、私がいる。


お互いに、足りないところを補い合いながら。


一緒に、成長していける。


そんな関係が、私は好きだ。


大切にしたい。


これからも、ずっと。


私は、お茶を飲み干した。


明日も、仕事。


水曜日、木曜日。


そして、また金曜日が来る。


ひよりが来る。


次は、何を作ろうか。


秋刀魚がいいかな。


それとも、きのこご飯?


考えるのが、楽しい。


ひよりの喜ぶ顔を想像するのが、楽しい。


私は、ベッドに向かった。


布団に入って、目を閉じる。


今日は、いい日だった。


特別な、火曜日。


そして、これからも続いていく日々。


ひよりと一緒の、温かい日々。


それを楽しみに、私は眠りについた。


静かな夜。


でも、心は温かい。


ひよりがくれた、温かさ。


それを胸に、私は夢の中へと落ちていった。

お読みいただき、ありがとうございました。

ひよりの料理チャレンジ、成功しましたね。

卵焼きができた時の「できた!」という喜び。

自分で作った料理を食べて感動する姿。

読んでいて、こちらまで嬉しくなりました。

澪も、ひよりに教えることで喜びを感じている。

二人の関係が、また一歩深まった回でした。

次回は水曜日。

また日常が続いていきます。

それでは、また次回お会いしましょう。

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