第10話「不思議な導き」
第10話は、ひより単独回です。
今回は、少し不思議な雰囲気の物語。
日常の中にある、小さな奇跡のような出来事。
それは、偶然かもしれないし、必然かもしれない。
でも、大切なのは、その出会いに気づけること。
ひよりの素直さと行動力が、小さな幸運を引き寄せる。
そんな物語を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第10話をお楽しみください。
水曜日の午後3時。私は、駅から少し離れた住宅街を歩いていた。
今日の営業は、散々だった。
午前中に訪問した「サンライズスーパー」では、完全に門前払い。
「今のところ、取引先を増やす予定はありません」
その一言で、終わってしまった。
せっかく準備した資料も、見てもらえなかった。
午後に回った「グリーンマート」も同じ。
「うちは小さい店だから、大量発注はできないんですよ」
そう言われて、断られた。
私は、歩道の脇にあるベンチに座った。
ため息が出る。
今週は月曜日に新規のお客さんを取れて、いい調子だと思ったのに。
やっぱり、そう簡単にはいかない。
「はあ……」
空を見上げると、少し雲が多い。
このまま会社に戻っても、報告することもない。
もう少し、頑張らなきゃ。
そう思って立ち上がろうとした時、足元に何かが触れた。
「にゃあ」
見ると、真っ白な猫がいた。
きれいな白い毛並みで、青い瞳をしている。
「あ、猫……」
私は、しゃがんで手を伸ばした。
猫は、警戒する様子もなく、私の手に頭をすりつけてきた。
「人懐っこいね。飼い猫かな?」
首輪は、していない。
でも、毛並みがきれいだから、誰かに飼われているのかもしれない。
「可愛いなあ」
しばらく撫でていると、猫は突然立ち上がって、歩き始めた。
数歩進んで、振り返る。
「にゃあ」
まるで、ついてきて、と言っているようだった。
「え? どこ行くの?」
猫は、また少し歩いて、振り返る。
私は、不思議に思いながらも、猫についていくことにした。
猫は、住宅街の路地を抜けて、小さな商店街に入った。
昔ながらの商店が並んでいる。八百屋、魚屋、パン屋。
猫は、その中の一軒の前で止まった。
「ここ……?」
看板を見ると、「田村商店」と書いてある。
小さな雑貨屋のようだ。
猫は、店の中に入っていった。
「あ、ちょっと待って!」
私も、店の中に入った。
店内は、懐かしい雰囲気だった。駄菓子や日用品が、所狭しと並んでいる。
奥から、おばあちゃんが出てきた。
「あら、いらっしゃい」
「あの、すみません。猫が……」
「ああ、シロね。うちの看板猫なのよ」
おばあちゃんは、ニコニコ笑っている。
「シロが連れてきてくれたの? 珍しいわね」
「え?」
「この子、たまに気に入った人を連れてくるのよ」
おばあちゃんは、シロを抱き上げた。
「何か、お探し?」
「いえ、特には……」
私は、戸惑いながらも、店内を見回した。
その時、ふと棚の上に、小さなパンフレットが置いてあるのに気づいた。
「あの、これ……」
手に取ると、それは「ふれあい商店街」という地域のお店のパンフレットだった。
「ああ、それね。この商店街のお店が集まって作ったのよ」
「商店街……」
私は、パンフレットをめくった。
八百屋、魚屋、パン屋、お惣菜屋……色々なお店が載っている。
そして、ふと思いついた。
「あの、おばあちゃん」
「何かしら?」
「この商店街のお店、食材の仕入れは、どこからしてるんですか?」
「色々よ。八百屋は市場だし、魚屋もそう。お惣菜屋は……そういえば、最近、仕入れ先を探してるって言ってたわね」
「お惣菜屋さん!」
私は、目を輝かせた。
「そのお店、どこですか?」
「ここを出て、三軒隣よ」
「ありがとうございます!」
私は、お礼を言って、店を飛び出した。
三軒隣の「まごころ総菜」という店に入ると、エプロン姿のおばさんが出てきた。
「いらっしゃい」
「あの、突然すみません。私、食品メーカーの営業をしている朝比奈と申します」
私は、名刺を差し出した。
「食品メーカー?」
「はい。冷凍食品や調味料を扱っています。もし、仕入れでお困りのことがあれば、お手伝いできるかと思いまして」
おばさんは、少し驚いた顔をした。
「あら、ちょうどいいタイミングね」
「え?」
「実は、今の仕入れ先が、来月で取引やめるって言ってきたのよ。小ロットだから、採算が合わないんですって」
「それなら、弊社にお任せください! 小ロットでも対応できます!」
私は、すぐに鞄から資料を取り出した。
おばさんは、興味深そうに資料を見てくれた。
「へえ、こんな商品もあるのね」
「はい。お惣菜に使いやすい冷凍野菜や、業務用の調味料もあります」
「値段も、悪くないわね」
「ありがとうございます。それに、配送も週に2回できますので、在庫を抱える必要もありません」
おばさんは、しばらく考えて、それから笑った。
「じゃあ、一度試してみようかしら」
「本当ですか!」
「ええ。来週、詳しい話を聞かせて」
「はい! ありがとうございます!」
私は、深く頭を下げた。
店を出ると、もう夕方だった。
田村商店の前を通ると、おばあちゃんが店先に立っていた。
「どうだった?」
「成功しました! ありがとうございます!」
「よかったわね。シロのおかげね」
見ると、白い猫が、店の前で丸くなっていた。
「シロ、ありがとう」
私は、しゃがんで猫を撫でた。
猫は、気持ちよさそうに目を細めた。
「不思議な猫ですね」
「ええ。この子、時々こうやって、縁を運んでくるのよ」
「縁……」
「そう。人と人、人と場所。色々な縁をね」
おばあちゃんは、優しく笑った。
「あなた、いい子ね。また来てね」
「はい、必ず」
私は、商店街を後にした。
駅に向かう道を歩きながら、私は不思議な気持ちになった。
あの猫は、本当に私を導いたのだろうか。
それとも、偶然?
でも、どちらでもいい。
大切なのは、チャンスを掴めたこと。
諦めずに、一歩を踏み出せたこと。
携帯を取り出して、澪さんにメッセージを送った。
『今日、不思議なことがあったよ。金曜日に話すね!』
すぐに返事が来た。
『楽しみにしてる』
私は、笑顔で駅に向かった。
今日は、いい日だった。
白い猫が、私に幸運を運んでくれた日。
いつか、また会えるかな。
そんなことを考えながら、私は電車に乗った。
第10話、いかがでしたでしょうか。
白い猫・シロとの出会い、楽しんでいただけましたか?
不思議な導きと、偶然の出会い。
それが、新しいチャンスを運んでくる。
ひよりは、猫についていきました。
その素直さが、幸運を引き寄せたんだと思います。
シロは、これからも時々登場するかもしれません。
楽しみにしていてくださいね。
次回、第11話はまたまた澪の視点からお届け。
木曜日、澪が会社の地下にある古い資料室で、不思議な体験をします。足音、冷たい風、そして白いワンピースの女性...。少し怖いけれど、大切な物語が始まります。
第11話もお楽しみに!
最後まで読んでくださってありがとうございました。




