EX3 仏国ダンジョン⑤
誤字報告、感想ありがとうございます。
巨大カタツムリはモンスターとしてはそれほど脅威ではない。
相応に頑丈ではあるが鉈や薪割り斧があれば倒せるし、重機で踏み潰せば複数を一気に始末することも容易。逆に拳銃やライフルなど貫通力に優れた銃火器には強いとは仏国軍や仏国関係者の話。しかし基本的にダンジョンモンスターなので、きちんと倒し切ってしまえば肉体を構成する魔力が消え失せて塵になる。仏国がそれをしてこなかったのは、国を挙げて巨大カタツムリが高い知性を持ちよき隣人になれるという頭のおかしい運動があったからだ。
どれくらい頭おかしいかというと空港内に展示されている夥しい数のカタツムリオブジェに、プロモーション映像。いつぞやの五輪オープニングで見たような人達が極彩色のカタツムリと狂ったように踊りながら愛と平和を叫んでいる。雌雄同体であるカタツムリは性別を超越した聖なる動物であり、あらゆる性差別を過去に置き去りにする新時代文明の象徴……らしい。
うむ、難しい。
どう考えればそんな結論に至るのだろう。
それで国土を食い荒らされるまで放置したのだから、我慢強さを通り越して性癖なのではという疑惑さえある。主に自分とチーム【平常運転】でそんな話を割と真剣に交わした。
あ。
一応まともな話もしている。
ここまでやらかした場合、ダンジョンのお仕置きが発動している筈なのだ。日本なら餓鬼になる。仏国の場合、軍が隠していたけど身体が徐々に巨大カタツムリになる愛護活動家の下っ端達が保護されている。だが日本の事例に比べて変異のスピードが遅いので、ダンジョンそのものに何らかの仕掛けが施されている可能性がある訳で――どう考えても、ただのイかれた愛護団体に出来ることじゃない。厄介な相手が待ち受けている可能性は高く、仏国軍や米兵では対処できないだろう。なので自分が先行する当初の予定がそのまま採用された。
「しか」
現在、ブルゴーニュのダンジョンへと向かっている。
路面状況は最悪なので自動車での移動は不可能だ。
平均して仏国の国土1平方キロあたり2000体いるとされる巨大カタツムリ。
平均である。
エゾオオツノシカ君が雷を放つだけで数千の巨大カタツムリが弾けとんで塵になる。そして収納空間に勝手に増えていく金塊。先程から探索者組合と提携してる税理士さんから「帰国したら是非お話ししたいと銀行が」「税務署が」「市役所の出納課が」とメッセージを矢継ぎ早に携帯端末に送り付けてきている。あとこの短い期間に親戚が百人くらい増えてる。
とりあえず真っ先に税務署に行くしかないのか。
探索者組合経由の仕事だし、組合に全部上納するのも手だ。支部長が泣きそうな気がするが、一緒に泣こう。
真っ当な親族や知り合いからは脱税だけはするなよとの連絡が来た。探索者は油断していると勝手に税を増やされて追徴課税されるのが年中行事なので、気を引き締めねばなるまい。つい先頃も首都圏核ドラゴン復興税というのが制定されたし。
「五分御」
幕末ゴブリン族も元気だ。
巨大カタツムリの粘液に覆われた弾性ボディは刀剣類との相性は決して高くはないはずなのだが、彼等は適切な角度で刃を立てることで何の抵抗もなく巨大カタツムリを次々と細切れにしている。パリからブルゴーニュのダンジョンまでおよそ300キロ、突っ切っていくので全滅はさせないがスタンピード発生源に近付くのだから密度も高くなっていくわけで。
チャリンチャリンチャリン。
そんな効果音が聞こえそうなくらい、エゾオオツノシカと幕末ゴブリン族は巨大カタツムリを蹴散らしていく。わんこは自分を背中に乗せつつ、ときどきキャッチアンドリリースして楽しんでいらっしゃる。時速200キロくらいで。ぬわーっ。
◇◇◇
かつてそこは一面のブドウ畑だったという。
今は一面のカタツムリだ。
隙間もなくカタツムリ。ぎっしりとカタツムリ。みっしりとカタツムリ。悪夢に出てきそうな光景である。地平線の彼方まで続くはずのブドウ畑が見る影もない。
地図で確認していたブルゴーニュダンジョンの場所を見れば、間欠泉のように噴き出すカタツムリ。
うわぁ。
思わず解体魔法を全力展開してしまった。余波はダンジョン内部にまで及んだようで、今までを越える勢いで金塊が収納空間にたまっていく。恐らくは稀少種を討伐したのだろう。
と。
ダンジョンの入り口から武装したアジア人集団が飛び出してきた。日本人ではなさそう。昔よく観光地で聞いた言葉に近い。ハングルではない。台湾っぽくもない。華僑系でもなさそう。
面倒だ。
面倒なやつだ。
これユニオンプロジェクトが関わってそうと頭の片隅で考えてたけど、もっと厄介な匂いがする。鉈のような大振りの片手剣や長刀を構えた兵士の後に現れたのは、映画に出てくるような道服を着た男。こちらを見て少々驚いたような表情を故意に見せている。
『瀛州いや蓬莱の方士よ。斯様な場所で相まみえるとは奇縁なれど今は貴様よりも西の蛮夷を滅ぼすが先。追わぬ故、疾く去』
「御武不侮臨」
呪符を手に威嚇していた道服の男が言語スキルを介して比較的友好的に話しかけてきた。しかし言霊にはしっかりと魅了系の呪詛が込められている。それを察したのか、男が言い終わらぬ内に即座に距離を詰めた幕末ゴブリンの一人が首を断つ。驚愕の表情のまま首を切り離された道服の男、それが煙となって消えると少し離れた場所に動揺した表情で再び姿を現す――も、別の幕末ゴブリンが今度は唐竹割にする。
魅了系の言霊を唱えていたのに問答無用で殺されるとは思わなかったようだ。逃げるか反撃するか迷っているようだが、その隙を逃す幕末勢ではない。
以下繰り返す事、十数度。
あまりに鋭い太刀筋にアジア人集団の戦意が失われた頃に道服の男はタネが尽き、最後は逆袈裟に身体を裂かれ血と臓物を噴き出して倒れた。一応受けた刀傷を此方に返す術を用意していたようだけど、それを込めていたと思われる法具はこっそり解体させていただいた。
何故か兵士たちに驚かれている。
はいはい、回復ポーション。
見た感じドロップアウトした崑崙真人国の道士崩れがアジアンマフィアと結託して、かな。崑崙真人国といえば中央アジアのダンジョン攻略して力を得た超人達を中心に独立した集団で、国と名乗ってるが承認してるのは英国くらいだ。承認国を増やすための資金稼ぎで後ろ暗い事をやってるとは同業者たちの間でも評判だよ。かつての中国の地方軍閥ともつながっていて、非合法な薬物や破壊活動を赤道近辺でやらかしている――というのが日本の探索者組合が把握しているところ。
モンスター愛護団体も君らの協力者? それとも君らがプロデュースしたかな。愛護団体の連中は一足先に逃げ出そうとして自爆してたからおかしいと思ったけど、仏国の上層部に鼻薬を嗅がせていたのが君らなら、まあ納得。
納得したけど、これ思いっきり国際紛争の火種だ。
どうしようかね。
「不分」
そうだね。政治ゲームは政治を仕事にしてる人に任せて、探索者はダンジョンの異常をなんとかするのがお仕事だよね。
『ま、まて蓬莱人。我等と手を組め、そうすれば――』
「しか」
ごめんね。話をぶった切って。エゾオオツノシカ君、あんたが物騒なもの隠し持ってるって気付いてたから。幕末ゴブリンも、わんこも気付いてたけどね。
あ、聞こえてない?
至近距離からのエゾシカコレダー喰らって原型保ってるだけ凄いと思うよ、はい回復ポーション。心折れるまでエゾオオツノシカ君と頑張ろうか。あ、兵士の皆さんは降参?
『あばばばばばばば』
「しか」
それじゃ、ちょっとダンジョン初期化して来るから後よろしく。
米軍さんも多分追いかけてきていると思うから、到着したら引き渡しておいてください。
◇◇◇
ダンジョンそのものは問題なく解決できた。
件の愛護団体と黒幕はやはり希少種の巨大カタツムリを大量発生させていたようで、ダンジョンの中は黄金色の殻を背負った巨大カタツムリがわんさかいた。必要ない通常種はポップする度にダンジョンの外へと転移させる仕組みのようで、おそらく例の道士服の男が仕掛けたものだろう。見た感じ秒50体くらいの割合で通常種が生まれてはダンジョンの外へと消えていく。ダンジョンコアに接続された八卦盤と符と壺を組み合わせたオブジェを解析魔法の指示通りに解体したところ巨大カタツムリの過剰な出現は止まった。ダンジョン内には今も沢山いるけれど、スタンピードは終了した。
【感謝します踏破者。地球人口に匹敵する数の巨大カタツムリを出現させては、流石に外への影響が甚大なのは必至。ですが怪しげな魔法でダンジョンの制御ができませんでした。よもやダンジョンの裁きすら防ぐなど、人を甘く見ておりました】
怖いですねえ、自称仙人達は。
とりあえずダンジョン初期化させて仏国内にいる数十億体のカタツムリには消えてもらいましょうか。
【ダンジョン初期化に伴い消滅した巨大カタツムリ8,511,101,050体の討伐ボーナスとして約851トン相当の金塊を踏破者の収納空間に移動させます】
……
……
待って、下さい。ちょい話し合おうではありませんか。
落ち着いて、落ち着こうよ。
ひっひっふー。
【ダンジョン初期化に伴い、先に流出した希少種討伐報酬は不正行為が認められたため没収となります。約1500トンを踏破者の収納空間に移動させます】
待って、ねえ待って。
自分いま冷静さを失いかけてるんですけれど。
話聞けよ。
初期化したなら金塊も一緒に消せよお。
【人間社会を学習したのでその辺は心得ております。フリ、ですね。押すな押すな、ですね。はい、ドーン。更に倍】
あぴゃああああああ。
+登場人物紹介+
●カタツムリPV
極彩色にデコった巨大なカタツムリの山車に乗ったカラフルな性別不祥の外見的に非常に個性的な(婉曲表現)人達が仏国の伝統文化を悪趣味に再現しながら狂ったように踊り狂う映像。股間に天狗面を装着したジャンヌダルクと首を斬り落とされたマリーアントワネットとランジェリー姿のナポレオンがポールダンスを披露したり凱旋門のミニチュアに極太アスパラガスを抜き差ししてアスパラの穂先から大量のカタツムリが飛び出す場面がクライマックス。
●チーム【平常運転】
上記のPVを見た後、無言で滑走路周辺のカタツムリ討伐を開始した。金塊は見てみぬふりをした。
●巨大カタツムリ
だいたい地球人口くらいいる。いた。ダンジョン初期化に伴い消滅した。人間由来の巨大カタツムリは消滅しなかった。金塊目当ての勇気ある人々が迫ってきているぞ、高度な知性を駆使して対話しよう。
●ブルゴーニュダンジョン
モンスター討伐報酬を豪華にすれば探索者も沢山くるやろ。モンスターもカタツムリ固定にすれば難易度難しくないし。という善意を踏みにじられた。悪用した連中を巨大カタツムリに変える裁きは中途半端に防がれたため、愛護団体などは軽くホラー映画みたいな最期を迎えた。
●アジアンマフィア
東南アジアの某国地域を根城としている。元中国や元ロシア系のマフィアとかもいる。道服の男に儲け話を持ち掛けられて今回の仕掛けを考えた。ブルゴーニュダンジョン初期化後、東南アジアにて巨大カタツムリの大量発生が確認された。
●愛護団体とか政財界上層部とか軍上層部とか
札束ならぬ金塊で殴られた人々。文字通り国を売った。ダンジョン初期化に伴い金塊は消え、自身は巨大カタツムリに変えられる運命が待ち受けている。
●道服の男
推定、崑崙真人国のチンピラ。自称仙人の弟子。強力なマジックアイテムを複数所有し、アジアンマフィアを唆してブルゴーニュダンジョンに人工的なスタンピードを起こした。ダンジョンの呪いをある程度防ぐ術を持っているようだ。
●崑崙真人国
国を名乗ってるが国じゃない。力を得た探索者が梁山泊みたいなことをやってる。場合によっては日本の未来の姿なので日本政府および探索者組合が注視している。英国が唆して独立宣言した。
●肉屋
仙人扱いされて困惑している。崑崙真人国は日本の探索者達を仙人と思い込んでいるのとは聞いていたが、本当に言われると思っていなかった。収納空間の中を確認したくない。




