EX3 仏国ダンジョン②
感想、誤字指摘いつもありがとうございます。
政府による核自爆決定がなされた直後、仏国国民の脱出が始まったそうだ。
主に移民系を中心として。
「業腹ではあるが英仏海峡トンネルを封鎖した英国は慧眼だったとも言える」
探索者組合支部長の発言は身も蓋も無いが、その通りだと自分も思う。少なくない移民が暴徒と化して都市部を襲いかけたそうだが、仏国脱出よりも商店や富裕層への略奪行為に走った連中は軒並み塩の柱となった。48時間経っても生身に戻らないどころか現在進行形で塩のままらしく、正常な精神を保っての復活は絶望視されている。それを目の当たりにしたためか、空港や港の混乱は当局の想定よりも幾分かマシなものになっているそうだ。
「中近東ダンジョンへの再度の核攻撃時に、欧州では相当数の移民が心神喪失状態に陥っている。それでもまだ懲りなかったというか、強奪に走る欲が残っていたものだと感心もするよ」
日本でも特定地域で犯罪発生率が激減しているんだよねとか真顔で言われても返答しづらいなあ支部長。
「リモート会議とはいえ内閣が復活、表向きの理由としては在仏日本人の速やかな避難のため輸送機を派遣することになった。今回は君以外にも探索者を派遣したいと考えているんだが」
国内ダンジョンをどれか一つでも踏破してる探索者なら転移門を利用できるでしょうね。
そのためには仏国にあるダンジョンをどれか一つ、できれば核攻撃前に踏破する。そうすれば探索者が輸送機に乗れなくても最悪なんとかなる、多分。日本から幕末ゴブリン族やわんこ達を呼ぶことも可能になる。
……カタツムリを大量発生させたダンジョンを初期化させても、外で繁殖した個体が消えるかどうかは不明ですよ。勝算は低くはないですが。
「アラスカと中近東の二例を根拠に仏国でダンジョン初期化を試みるのは博打が過ぎると思う。思うんだが、それができるなら核攻撃は取りやめると仏国政府筋からの返答があった」
そりゃまあ、建前上は核兵器の行使を防げるものなら防ぎたいですよね。偉い人は。たとえ他国でも。中近東の時はほぼテロだったし、今回は相手が聞く耳持ってるだけマシですわな。そんな話をしている間に、秘書の人が作った覚えのない自分のパスポートを持ってきた。国が、大急ぎで。はあ、どうせ今後も海外に拉致されるんだろうからパスポートくらい持っておきなさいと。えー。
提示された報酬額といい、至れり尽くせりで逆に怖いですね。
「次に合衆国が君を拉致した時、国籍が日本から変更される可能性に気付いたんだよ。偉い人も」
はあ、それはまた棄民世代が随分とまあ評価されたもので。
◇◇◇
兵は拙速をの喩ではないが、承諾を伝えたその日の内に自分は最寄りの空港を経由して自衛隊の基地に送られた。アラスカや中近東を一緒に巡った顔がちらほら見える辺り、探索者と共同作業できそうな部隊構成のようで有難い。
そして今回、自分以外の探索者も作戦に参加する。
国内外の目がビキニ姐さんに釘付けとなっているため、地味だが実力を認められた者達に声がかかり参加となったようだ。東京での核ドラゴン討伐でも活躍した者が多く、国もよくもまあこれだけの探索者を海外に出したものだと感心する。
「肉屋ひとりに押し付ける状況は俺らにとっても都合悪いんだって」
笑いながら声をかけてきたのは知己のベテラン探索者。
自分が地元に引き込む前は幾度か一緒にダンジョンに潜ったこともある実力者だ。世代が近い事もあり、最初期の苦労を共に経験している。
「ビキニの姐さんもそうだが、探索者が目立つと脅威論をがなり立てる連中が湧いてくる。異能を得た探索者が支配層になって一般市民を虐げる超人社会への警鐘だとよ」
そういって差し出されたのは本日付の首都ローカル新聞。
普段は皇室や保守政権(先月復活した)へのゴシップや悪口で埋まってるような、普段ならフィッシュ&チップスの包み紙にしかならない情報誌なのだが。トップ一面ではないけれど数ページ使った特集は台頭する探索者たちの所有するスキルや魔法を脅威と捉え、法的に厳しく制限すべきだという主張だ。ダンジョン出現初期にも日本の探索者について非常時を除き収監すべきと主張した団体がいたが、それに通じるものがある。
自分らが、ねえ。
彼らが探索者を虐げたと自覚してて、報復を恐れていると。露骨だね。
「アラスカ解放で合衆国が肉屋の後ろ盾になったと考える奴は予想外に多い。核ドラゴン討伐で日本の探索者達の実力を思い知った一般人もな」
わあ、悪い顔。
仏国の核自爆を防げたら欧州圏に恩を売れるのは確実でしょうがね。成功すればもちろん、たとえ上手くいかなくても国と連動して動いた実績は間違いないし。
「俺らに政治が分かるとは言えんよ。だが盤面遊戯の駒扱いされるのも愉快じゃあない。後ろ指を指される毎日にも限度がある」
知己はちらと同行する取材陣を見る。
こちらに来そうなのを自衛隊の広報と探索者組合の職員がブロックしているが、マイク棒をこちらに向けて音声収録中のようだ。撮影用カメラではなく携帯端末をこちらに向けているのは盗撮のつもりか。勿論気付かぬ知己ではない。わざと危うい言葉を並べて釣り出したのだろう。
出発する自衛隊の輸送機は複数、取材陣とは別便なのでここしかチャンスはない。
「肉屋、お前さんへの扱い次第では日本を捨てる探索者が相当数出てくるぞ」
息を呑む音が聞こえた。
複数、様々な方向から。なんか自衛隊や組合職員さんも動揺してるんだけど。その場で報酬額倍増されてるし、知己は笑い転げてる。
自分としては、帰国した時に例の元ゴルフ場で暮らせるようになってたら……はあ、迅速に捜査してくださると。なんかすいません、催促しちゃったみたいで。
+登場人物紹介+
●支部長
元ゴルフ場の大量死体遺棄事件の発覚に頭を抱えている。クリーンな場所だったら肉屋に頼んで「わくわく幕末ゴブリン族ランド」みたいな催しを企画できたのに、と。時代劇好き。好きな幕末有名人は芹沢鴨。
●仏国政府筋
厳密には関係者ではない。関係者ではないが救ってくれたら命がけで約束を守ろうと思ってる。でも自国内に残ってる連中の性質の悪さを知ってるので困ってもいる。
●自衛隊の皆さん
わんこともふもふしたい。
●ベテラン探索者
最初期の探索者。肉屋よりも実力は上。チーム【平常運転】を率いて幾つものダンジョンを踏破している。最近は要人護衛をやっていた。
●取材陣
上からは肉屋関連のスキャンダルを探れと言われているが命は惜しい。探索者の海外移籍事情を調べており肉屋が狙われていることも知っている。




