EX3 仏国ダンジョン③
感想誤字指摘ありがとう御座います。
自衛隊の輸送機が飛んでいく。
本来なら退役しているはずの旧式らしいが魔石ジェットエンジンなど新技術の試験機として活用しているものを引っ張り出したらしく、陸自の時とは別の技術士官が多数同乗している。
ちなみに離陸前にレーザーポインターや凧などのトラブルがあったが、定刻通りに出発できた。その分地上では見送りに来ていた探索者達が色々バイオレンスしていたので、平和活動家の皆さんは平和の尊さを噛み締めているだろう。
今回参加している探索者は7名の2チーム。
内訳としては自分とそれ以外。
古式ゆかしいRPGの法則に基づく6人は探索者のお手本とも言うべき優秀なチーム【平常運転】で、様々な環境にも即応でき幾つものダンジョンを踏破している凄腕だ。自分? 昔から基本ソロでたまにヘルプで臨時加入だよ言わせんな。
「巨大カタツムリがスタンピードで現れたのは、パリから約300キロ離れたワインの産地ブルゴーニュのダンジョン。件のモンスターは全土に拡散しているが、その供給源は一か所に限定されています」
機内で行われる作戦会議。
自分達の搭乗している機は先行部隊であり、本命の輸送機部隊は半日遅れで到着予定。この輸送機も本来の性能では途中幾度も給油しなければ仏国に到着できない筈なのだが、空間収納術を用いた変態的な給油方法により無着陸での現場到着を可能としたそうだ。技官の人を信じるならば。
補給方法?
今回は自分が担当している。その時になったら教えてください。はい。
脱出予定の日本人はパリに集まりつつある。救出用の自衛隊機もそこに降りる予定。国境付近など陸路で脱出できる人も相当数いるが、道路は事故と渋滞で詰まり気味。ギリギリのところで治安が保たれているのは奇跡的な状況で、暴れ出したり強奪に走る連中が塩の柱と化す姿が抑止力になっているのだとか。
「チーム【平常運転】には救出用輸送機が離着陸するまで空港滑走路周辺に出現するモンスターの駆除を行いつつ、可能ならパリ市付近のダンジョン攻略を。初期化できるならそのダンジョンを核ドラゴン攻撃から市民を避難させるシェルターとして稼働できるので」
「巨大カタツムリがどの程度の脅威なのか実際に戦ってみないと分からん点も多いが、空港の安全を最優先とした方が良さそうだな」
モニターに映されるパリ市郊外の空港は滑走路にも相当数の巨大カタツムリが現れており、その粘液によるものか離陸ないし着陸に失敗した小型機が幾つも大破している。空港職員が必死に対処しているが限界はあるだろう。
……
……
ところで自分らそこに着陸するんですよね。
あの路面で?
あの路面に?
……
……
先行してパラシュート降下っすか、自分?
「本官が肉屋さんと共に降りますので、ご安心ください」
笑顔で敬礼されたんですけど、ねえ。周り全員、目ぇ逸らしているし。
……
……
あ
ぁ
ああ
ぁ
ぁあ
◇◇◇
アラスカの雪原を犬ぞりで駆け抜けていた時、吹き飛ばされてわんこ達にキャッチアンドリリースされて随分と酷い目に遭った。
もう、あんな経験はしたくないと思ったよ。
思ったのにさ。
「おお……滑走路を埋め尽くしていた航空機の残骸やカタツムリ共の粘液が綺麗さっぱり」
周辺の様子を確認しながら無線機で上空と連絡付けている自衛官さんの声は元気だ。
この野郎、と思わなくもない。
しかし一気に綺麗になった滑走路に重機を動かしていた空港作業員達は歓声を上げ、そのついでに滑走路エリアを這っているカタツムリ達も問答無用で分解すれば待機していた旅客機が次々と離陸していく。それだけでも来た甲斐があった。
そして。
ダンジョンの外なのに問題なく解体魔法を滑走路全域に行使できたことから、ブルゴーニュのスタンピードで拡大したダンジョン領域は300キロ離れたはずのパリまで拡大している。おそらくパリ近郊のダンジョン群も飲み込まれているだろう。
悪いニュースである。
ブルゴーニュのダンジョンへ核攻撃したら、パリから核ドラゴンが出てくるかもしれない。その懸念を自衛官さんに伝え、携帯端末で日本の探索者組合にも連絡する。在仏邦人の脱出にかけられる時間は想定より短くなりそうだ。着陸する自衛隊の輸送機とこちらに向かってくる軍用車両を見ながら、わんこ達はパリの臭いを嫌がりそうだなと場違いなことを考えた。
重機に乗った空港職員とは別の、軍用車両に乗った、だけど軍人と判断するにはいささか不審な連中に絡まれた。
仏語で喋られてもなあ、とか思いつつ突き付けられた銃を前に閉口する。
あまり友好的ではないというか侮蔑と恐怖が両立するんだなと、引きつった顔の不審者達を見る。自衛官さんが英語で喋っても無視してるあたり聞く気が無いのか理解力が無いのか判断に困るが、銃口が自分だけに向けられてるのでその辺の嫌な分別はあるのだろう。
あ、殴られた。
銃床というのかな。長銃のストック部分で殴られた。顔面と喉と、鳩尾。モンスターに殴られることに比べれば大したことはないものの、鼻血くらいは出る。不審者を追っていたのか直後にやって来た別の兵士によってそいつらは取り押さえられたけど、自衛官さんの顔色が悪い。
「肉屋さん!」
その一言で、取り押さえられた兵士も含めて仏語で騒いでた連中が硬直する。アラスカの時のようにダンジョン転送門が出現し、8匹のわんこが珍しく牙を剥きだしにして唸りながら飛び出してくる。自分を守るように、不審者諸共仏語の兵士たちを追いはらう。その頃には輸送機も着陸しているが、そこから他の探索者や探索者組合の職員らが降りる頃には幕末全開のゴブリン達によって滑走路どころか空港自体が制圧されていた。軍用車両はエゾオオツノシカ君たちに踏み潰されている。
ステイ、ステイ。
特にゴブ、具体的には土方ホブ三。斬首しない、ハイクも詠ませない。不審者を無力化して、ちょっとアジア人蔑視がナチュラルに混じってただけだから。よろし?
「五分輪分」
「しか」
「わん」
そこ、輪切りは斬首じゃないとか屁理屈をこねない。エゾオオツノシカ君とわんこも同意しない。不審者たち、号泣してるから。周りの仏国兵士連中も十字切ってる暇があったら止めるの手伝って、お願い。
「でも事前通告して着陸前にも確認重ねたのに、【差別用語】連発しながら殴りつけてきたのは事実なので」
ちくしょう自衛官さんもアッチの味方だ。
国際協力しようよ、説得力ないけど。
+登場人物紹介+
●乗ってきた輸送機
本来のスペックでは航続距離3000キロに満たない旧式機だが、文字通り魔改造された上に空間収納持ちに燃料タンクになってもらって地球の裏側まで無着陸で到達した。音速は出ない。武装もほぼ無い。
●魔石ジェットエンジン
魔石戦車の魔石エンジンに触発されて開発中のシステム。名前は凄いがエネルギー効率など課題は多い。
●チーム【平常運転】
肉屋のサポートとして同行している探索者チーム。探索者組合としては一番無難な人材を派遣した。言語スキル持ちというのもポイントが高い。
●自衛官さん
肉屋と一緒に落下傘で降り立った。仏語も話せるが英語で対話を試みた。肉屋が殴られた瞬間、自身に銃口突き付けていた不審者数名を一気に叩きのめしている。
●重機に乗った空港職員
離着陸に失敗した小型機(主に富裕層のプライベートジェット)の片づけを命がけで行っている。消防車を「消火剤はカタツムリに有害だから」という理由で使用を禁止されてブチ切れている。肉屋が下りてくることは聞かされていたし、滑走路が綺麗になって喝采した。不審者にもブチ切れている。
●不審者
手遅れになってから愛国心に目覚めた人たち。避難民の誘導をしていたが落下傘で不審者が降って来たので愛国心が炸裂した。よりによって肉屋を相手に。肉屋の存在は名前だけ知ってた、いわく伝説のテイマーだと。そんな奴がモンスターも連れず落下傘降下する訳ないだろう。その通り。
●兵士
不審者の手を借りねばならんほど混乱した状況で、一発で国際問題のカードを引き当ててしまった。
●小型機
主に富裕層とか動物愛護団体とかモンスター愛護団体とかが貴金属や有価証券抱え込んで脱出しようとして滑走路のぬるぬるでオーバーランしたり離陸失敗して誕生した前衛芸術。死体は見つかっていないが巨大カタツムリが残骸の中から複数現れている。
●幕末ゴブリン族
肉屋が殴られたので攘夷した。その過程でカタツムリを蹴散らしていたので逆に感謝されているし進んで制圧されていく様に面食らってもいる。
●わんこ
肉屋が殴られたので転移門より飛び出した。唸ってるけど可愛い。
●しか
軍用車両を踏み潰して前衛芸術の仲間入りさせた。ドラゴン倒してるのは世界に知られているので仏国民は核ドラゴン作戦の失敗を理解した。
●肉屋
そりゃ民間空港に落下傘降下した現地語わかんない不審者居たら無力化するよなーと殴られたのに一番冷静。滑走路はともかく制圧された空港の惨事に内心頭を抱えている。




