お父様の帰宅
「ニーナおかえりなさい。学園はどうだった?」
お母様がニコニコと笑顔で出迎えてくれた。お母様をみるとホッとする私がいる。
「ただいま戻りました。魔法の授業がとても楽しかったです」
初めて魔法を使えた事を言うと一緒に喜んでくれた。もう嫌なことは忘れてしまおう。そう思った私にお母様が少し言いにくそうな表情で告げる。
「ニーナ、もうすぐお父様とルークが領地から戻ってくるそうよ。着替えたら下に降りてきてちょうだいね」
「お父様とお兄様が……分かりました、ちょっと緊張しますね」
お父様とお兄様は私とニーナが入れ替わった事を知らないし、お母様と相談してその事を知らせない事にした。どう接したらいいか悩むが、お母様はそのままの私でいいと言ってくれた。
「お父様は真っ直ぐな人で、思い込んだら周りが見えなくなる所があるけれど…ニーナの事を可愛がっているから心配しないでね」
『思い込んだら周りが見えなくなる』のくだりは気になるところだけど、私は小さく頷いた。
「お嬢様、旦那様とルーク様がお戻りになられました」
「はーい!すぐ行きます」
部屋に戻って着替えていると執事のヘンドリーが呼びに来てくれた。私はサラに手伝ってもらいながら慌てて着替えを済ますと、緊張しながら下へと降りた。
領地からこの邸宅へは馬車で急いでも丸1日はかかるという。お父様は私の意識が戻らないと聞いて、急ぎの仕事だけ先に片付けて駆けつけてくれたそうだ。私の意図する所ではないが何だか申し訳ない。
「お父様、お兄様、おかえりなさい」
「ニーナ!起きていて大丈夫なのか?」
「もうすっかり大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
「ああ、顔色は良さそうだな。意識が戻らないと聞いた時は生きた心地がしなかったよ。学園も始まって疲れでも出たのかもな。あまり無理するなよ」
「はい、気をつけます」
ニーナはお父様にもお兄様にも愛されてるなあと、胸の辺りが温かくなる。と同時に私が2人の知ってるニーナではない事に罪悪感もある。ううん、そこはもう入れ替わる時にこうなると分かっていた事だから気にしない様にしなくては……
「さあ、立ち話もなんですからリビングへどうぞ」
ヘンドリーに促されリビングでの一家団欒となった。お母様はそこで私の今の事情について2人へ説明してくれる。
「ニーナ、そんな事になっていたとは………」
お父様は私の魔力が少なくなり魔法が上手く使えない事を聞いて明らかに動揺しており、それ以上言葉が続かない。
「まぁでも体調はもう大丈夫なんだろう?その内元に戻るんじゃないか?」
お兄様は明るく振る舞ってくれる。
「そうよ。ニーナの体調も良くなったのだし、学園にも今日から元気に通えてるのだからそれだけで充分よ」
「いや、しかし………」
お父様が言葉が出ないのも無理はない。お母様も以前言っていたが、私の魔法の才能を買って婚約を申し込んでくれている侯爵家まで問題が及んでしまうのだ。
「貴方が心配しているのはランフォード侯爵家の事かしら。正直に話をなさるのがいいと思うわ。その上で婚約解消になっても私はいいと思っているの」
「ああ…そうだな。王都にも戻ってきた事だし折を見て話をしに行こう。ニーナ、もし婚約解消になってしまっても落ち込む事はないんだぞ」
お父様は私がショックを受けると思っているみたいで気を遣ってくれている。けど、ショックを受けているのは明らかにお父様の方だろう。
お気遣いありがとうございます、私は全然大丈夫です。声には出さないけど。
「まあ、その話はお仕舞いにして領地でのお土産話を聞かせてくださいな」
お母様がナイスな切り上げ方をしてくれる。
その後は領地での話を聞くことができた。新しい鉱脈が発見されて、今現地では大盛り上がりらしい。
私とお母様へのお土産に領地で採れた鉱石を加工したネックレスを貰って、今日も貴族令嬢な1日を堪能したのだった。