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ヴィンセントの奮闘

 思えば学園に入学する頃には既に父親は諜報活動の命を受けていたのかもしれない。父親に連れられて派閥関係なく出席していたパーティーには、いつもスカーレット伯爵の姿があった。その隣にはレイラ嬢の姿も。


 『お二人共綺麗な黒髪でお似合いですね』


 周りの大人達に全く嬉しくない褒め言葉をもらい、愛想笑いを返す。父親は『本当にお似合いだ』と乗っかる辺り、一応俺には婚約者がいるのにそれはどうなんだと内心思った。


 当時は結婚なんて義務だから婚約者は誰でもいいと思っていたけれど、ニーナと再開してその考えは覆された。そのニーナは魔力が無くなったから、フローレス伯爵が婚約解消の話をしにうちに来ると言う。


 (解消されてたまるか)


 先手を打ってニーナに好意を持っている事を父親に伝えると喜んでくれた。婚約者なんて誰でもいい、と冷めていた俺がそんな事を言い出したのが嬉しかったのだろう。父親は俺の意見を尊重してくれ、婚約継続になりほっとした。


 なのに今回の噂が出回った。根も葉もないとは言えない父親の行動に抗議した。


 『父さん、あの噂は何なんだよ!』

 『……噂に振り回されて本質が見えないのだったらまだまだだな』

 『?言ってる意味が分からない』

 『こちらから婚約破棄をする事はない。お前はお前が思うように動いたらいい』


 (ニーナの事は自分でどうにかしろという事か)


 今考えると王家から諜報を頼まれたのだろうと予想できたのに、ニーナが絡むと冷静に判断出来なかった。


 そしてニーナや家族もその噂を耳にする事となり、結果フローレス伯爵はうちの事情を周知してくれていたが、ニーナとは距離を置く事になってしまった。


 (一体いつまで…)


 スカーレット伯爵は中々裏の顔を見せず諜報は難解を極めているようだった。俺はこの状態を早く終わらせたくて行動に移す事を決意する。


 『俺も協力する』と父親に言うと、口の端を持ち上げて言い出すのを待っていたと言わんばかりだった。


 スカーレット伯爵の容疑は違法賭博経営、領地の税収の隠蔽や横領等、他にも色々あるがどれも別の人物が摘発されるよう調査をすり抜けているらしい。証拠となるものが一つでも見つかれば、との事だ。


 父親と一緒にスカーレット伯爵家へ招待される。悪事の証拠を掴む絶好の機会だと思った。父親同士が話をするからレイラ嬢と別室でお茶をしていろと促される。

 上手いこと席を外して屋敷内を探索しようと考えていた時だった。レイラ嬢が侍女達を退がらせる。


 『ヴィンセント様、目的のところまでご案内致しますわ』


 レイラ嬢からの発言に驚愕する。知られている?


 『何の事だ』

 『そういうのは結構ですわ。ついてきてくださる?』

 『………』

 『私は…疲れたんですの。私がこれからする事は独断です。父は何も知りませんわ』


 (父親の悪事を告発するつもりなのか?)


 『君は伯爵がしている事を知っているのか?』

 『いいえ、噂でしか…けれど父が()()()()()を保管している場所は知っていますわ。そこまでお連れいたします』

 『君が信頼できるという証拠は?』

 『ありませんわ。私は先程も申し上げましたが疲れたんですの。全て済んだ後は母と母の実家へ帰ろうと思っています。そうしてくださいますよね?』


 嘘を言っているようには見えない。これはレイラ嬢との取引だ。俺達は証拠を手に入れて、彼女達の身の安全を保障するというもの。


 『承知した』


 そこから先は簡単だった。俺の魔法の前では意味をなさない金庫から一部の書類を抜き取り持ち帰る。


 父親からは焦り過ぎだと説教されたが、これで伯爵を摘発する事ができる。




―――――




 「で、今日だったか?」

 「ああ、今頃取り押さえられている頃だろう。やっとだ」


 レオと剣術の授業後に防音魔法を張って会話する。

 ニーナと距離をとり皆に噂通りだと思わせる手筈だったが、レオを騙せるとは思っておらず早々に協力者になってもらった。


 「ニーナに早く会いたいんじゃないか?」

 「本当にな。ニーナに言い寄っていた奴全てどうにかしてやりたい」

 「…次はお前が捕まるなよ」


 思い出すと今でも嫉妬心が湧いてくる。あの時によく我慢できたなと自分でも思う。俺がニーナと距離を取ることでそんな弊害があるとは思わなかった。


 「何にせよ、スカーレット伯爵がニーナに何もしてこなくてよかったよ」

 「ああ、護衛も付けていたようだし杞憂だったな。ニーナに持たせた魔法石も使ってなさそうだしな」

 「分かるのか?」

 「魔法石の魔法が使われたら分かるように仕掛けたんだ」


 前にニーナが階段から落ちた時にすぐに駆けつけられなくて後悔した。怪我は治癒魔法で治せると言っても、駆けつけるのが遅ければ手遅れになる事もある。


 「相変わらず凄い魔法思い付くよな」


 そんな話をしたまさにその時。


 「……っ!」

 「どうした?」


 (魔法石の魔法?まさか!?)


 「ニーナが魔法を使った。第一体育館辺り…」

 「えっ!?」

 「先に行く!」

 「おいっ」


 レオを置いて転移魔法で移動する。とっくに帰宅している時間なのに何故体育館にいるのか。何かあったとしか思えない。


 転移した先で見たのは、


 「ニーナ!」


 男に髪を掴まれているニーナの姿――

 剣は転がってやり合った跡が窺える。


 (このっ!)


 怒りで頭がおかしくなりそうだ。頭の上から全身凍らせてしまいたいのを堪えて男の手足を拘束する。


 「ヴィンス!」


 名前を呼ばれて少し冷静になる。早くニーナの無事を確かめたい。もう一人の男の手足も拘束してニーナに駆け寄った。


 「ニーナっ!怪我は?」

 「…………」


 言葉が出てこないのか顔を横に振り応える。余程怖かったのか震えているニーナを安心させたくて、ぎゅっと抱きしめた。


 「もう終わった…大丈夫だよ」

 「……こわ………かった…………」


 男二人とやり合って怖くないはずが無い。俺は腕の中にいるニーナにもう大丈夫と繰り返し伝えた。



 

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