予期せぬ出来事
ヴィンスとは二月近く話をしていない。
学園ではなるべく出会わないように行動している。ヴィンスは私を全く気に留めていないフリが上手くて、出会った時にそれを目の当たりにするが辛いから。
私達の噂は形を変えて、最近はヴィンスとレイラが家を訪問するまでの仲になっていると耳にする。それが嘘でも…本当であっても聞きたくない。
そんな日々が続くと当然不安も募っていく。その不安を打ち消そうと剣術の練習やマナーレッスンに加えて、歌を唄ったり苦手だった裁縫にも励んでいた。何かに集中しているときは余計な事を考えなくて済むのだ。
剣術の授業でヴィンスと顔を合わせないよう行動するのも上手くなっていた。授業開始直前にグラウンドへ入り、授業後は片付け役を買って出て帰る時間を遅らせる。
今日も、授業で使った木刀や防具等を入れた籠を数人で片付けてから更衣室へと向かっていた。
その途中で廊下の端に落ちている木刀を見つける。
(なんでこんなところに?)
「もうっちゃんと片付けてないの誰!?」
先輩は怒っているが、先輩の言う通り誰かが片付け忘れて持ってきてしまい、端に放っておいたのだろうか。
「私片付けてきますね」
「一緒に行こうか?」
「いえ、一人で大丈夫です」
つい先輩上位だった前の世界の部活動の癖で、一人ですると言ってしまった。倉庫の鍵も私が持っているしサッと終わらせてしまおうと思う。
再び来た道を戻り倉庫へと急ぐ。授業が全て終わってしまうと、この辺りは誰も通らない為静かだ。夕暮れ時で暗くもなってきており、お化け的な意味で少し怖く感じる。
(やっぱりついてきて貰えばよかった)
後悔してもどうもならない。倉庫の鍵を開けて、ドアは開いたままにして中に入る。なのに『バタンっ』とドアは勢いよく閉まった。
「きゃっ」
倉庫の中は窓もなく真っ暗になる。見回すと倉庫から体育館へと繋がっている扉から少し光が差し込んでいる。
「――そこから動くなよ」
「っ!」
(誰かいる!)
動くなと低い声のするドアの方を振り向くと、小さなランプが灯って影が浮かんだ。見知らぬ男の人が2人――こちらに近づこうとしている。
顔は目より下を布で隠していて、手には剣を握っている。
暗がりの恐怖を勝る恐怖で、体に嫌な汗が伝った。
「誰…ですか…?」
「その質問に答えると思うか?……そうだな。お前がランフォード家嫡男の婚約者の座に居座っていて困っている者だ」
「……っ」
「なに、傷を付けるだけだ。殺しはしない」
「!」
(逃げなきゃ!)
木刀を持ったまま、じりっと体育館側のドアへと後退る。次の瞬間、一気にドアを開けて駆け出した。
この建物の扉は全部内側から鍵をかけるタイプだ。扉から外へと出られれば助けを呼べる。
「逃がすか!」
「きゃあっ」
風魔法を使われ足元を取られる。走っていた所為もあってバランスを失い転倒してしまった。恐怖で体が震えている。この男達が誰なのか分からないけど、今は起き上がって一刻も早く逃げなければ。
「待て!魔法は不味い。足がつく」
「くそっ」
男達の遣り取りを他所に、急いで起き上がるが追いつかれてしまった。男の1人が剣で斬りかかってくる。持っていた木刀でそれを受け流すが、相手の剣が木刀に食い込み剣が離れない。咄嗟にそのまま木刀をくるっと捻って男の体制を崩した。
その間に追いついた男もこちらに斬りかかろうとしていた。
「いやあっ!」
身を護ろうと手を前に出すと、爆風と共に男が吹き飛びドンっと壁に激突した。
(魔法石の風魔法!)
「この!」
「っ!」
先程の男の方に束ねている髪を掴まれ、引っ張られる。手加減なしの力に抵抗出来ず、痛みで顔が歪む。
「…うっ」
「大人しくしていれば傷を付けるだけで済んだのになあ!」
「いやっ」
こんな所で終わりたくない。もう一度魔法を放って逃げようと手を翳した時だった。
「ニーナ!」
誰かが私の名前を呼ぶ声と共に、目の前にいる男の人の手が凍っていく。
「うわあああっ」
私の髪は解放され、名前を呼ばれた方を向く。そこには――
「ヴィンス!」
来てくれた安堵で力が抜けていく。ヴィンスは怖い顔をして男の人を睨み氷魔法で手足を拘束した。もう一人の男も同様に魔法で手足を凍らせると、ヴィンスは私へと向き直った。




