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崩れていく

 あれからレイラからの音沙汰はなく、平穏に過ごしている。


 (あ、27位に名前があった)


 「わっニーナめちゃめちゃ順位上がってるじゃん。すごい!」

 「ありがとう。割と手応えあったんだ」


 試験も終わり、今日はリリーと結果を見に来ている。


 順位が掲示されるというシステムが私のやる気を引き出しているらしく、勉強を頑張れていた。課題だったこの世界の文字を読むスピードも速くなっていると思う。


 リリーも前より順位が上がっていて2人で喜ぶ。ヴィンスとレオのも確認したら、不動の1位2位で流石としか言いようがなかった。


 私もリリーも実習クラスは初級のままだった。残念だけど、今の魔法レベルで中級に上がったらついていくのが大変だろうから納得しておく。


 「ニーナ、リリー」


 名前を呼ばれて振り向くとヴィンスとレオが来ていた。色々とハイスペックな2人が眩しくみえる。


 「おはよう。私もリリーも先に結果見ちゃった」

 「どうだった?」

 「2人共、頭が良すぎて怖いよ!」

 「凄いんじゃなく怖いんだ?」


 2人はリリーの悪態に笑いながら結果を確認している。


 「今回はいけると思ったんだけどな。またレオが1位か」

 「俺もヴィンセントと同じクラスに上がれるかと思ったけど、上級のままだわ」


 この羨ましい会話にいつか入っていきたい。


 「ニーナの伸び率凄いな。頑張ったね」


 そして、私を褒める事を忘れないヴィンスこそ讃えてあげたい。




 前回と同じく皆で『試験お疲れ様会』と称したランチを食べた後、ヴィンスと馬車に乗って帰路につく。


 明日の終業式が終わったら冬期休暇に入る。今回の休暇は領地に戻らないため、皆と休暇中も会えたらいいなあと思う。


 「ニーナ、もうすぐ誕生日だね」

 「………本当だ。忘れてた」


 ()()()新菜(わたし)と一緒で来週末が誕生日だ。最近レイラの事や試験の事で頭がいっぱいですっかり抜けていた。

 ()()()は盛大な誕生パーティーをするのを嫌がった為、家族でお祝いするのが毎年恒例になっている。


 「誕生日にお祝いしに行ってもいい?」

 「嬉しいっありがとう。いつも誕生日前にお父様がこっちへ帰ってきて、誕生日は家族で過ごしてるんだ。そういえば…………」

 「ニーナ?」

 「もうすぐお父様が帰ってくる……」


 話している途中で思い出す。

 もうすぐ誕生日という事は、お父様が帰ってくる。学園祭後にまた領地へ戻ったお兄様と一緒に。お兄様はともかくあの噂をお父様が耳にしたら、どうなるか分からないけど良い予感はしない。


 「お父様が帰ってきたらあの噂を耳にしそうよね…」

 「伯爵に弁明したいけど俺でなく俺の父親と話をするだろうから不味いな……」

 「不味いって何が?」

 「俺だったらニーナと離れたくない前提で話をするけど、父さんはきっと『スカーレット家と関係を絶たないけどフローレス家との関係も続ける』という言い方をすると思う。どっちつかずな返事に誤解もするだろうし、いい気はしないだろうな」


 どうしよう、と呟く私の手をヴィンスは上からぎゅっと握ってくれる。温かくて安心する手に包まれて少しほっとする。


 「どうしたら最善かを考えておくよ」

 「私も…」


 今のところ何も思い付かないけど、お父様が帰ってくるまでのあと1週間程で考えるしかない。


 家に着き、いつも通りヴィンスにエスコートされ馬車を降りる。


 「送ってくれてありがとう」

 「どういたしまして。休暇も会いに行くね」

 「うん」


 私が笑いかけるとヴィンスも笑顔で応えてくれる。今はこの幸せな時間を大切にしようと思った。のに――


 ガチャっと玄関が開き、私達のいる門扉まで歩いてくる人物に驚いて声が出ない。それはきっとヴィンスも同じでハッとした表情で固まっている。


 (……………お父様!)


 「2人共久しぶりだね」

 「ご無沙汰…しています」


 お父様からの言葉に先に口を開いたのはヴィンスだ。まだ領地にいるだろうと思っていたのに、まさかもう帰ってきてるなんて思いもしなかった。


 「ニーナ、父様に挨拶はしてくれないのかな?」

 「お父様…驚いてしまって……おかえりなさい。こちらに帰ってらしたんですね」

 「………ある噂を耳にしてね。予定より早く帰ってきたんだよ」


 お父様の言葉に、ヴィンスにエスコートされたままだった手に力が入る。


 (もう、噂の事を知って…………)


 緊張からか喉の乾きを感じる。お父様が何を思っているのか私は何を言えば正解なのか、どうしたらいいのか分からない。


 「その様子からすると2人も噂を知っているようだね」

 「……はい」

 「お父上にはもう会ってきた。お父上の意向がはっきり決まるまでニーナとの交流は控えてもらえるかな。送ってもらうのも今日限りで結構だよ」

 「っ!」

 「っお父様!」


 お父様はやんわりとした口調だけど実質拒否だ。有無を言わさない圧を含んだ物言いに抗議したくて口を挟もうとしたが、ヴィンスに手を握られてそれは制止された。


 「………分かりました」


 ヴィンスの返事に体がビクッと強張る。


 嫌だ…分かりたくない。


 「ニーナ、また………。失礼します」


 私の手とヴィンスの手が離れていく。さっきまでの幸せが一瞬で崩れ落ちていく。


 ヴィンスの乗った馬車が走っていくのを茫然と見つめる。


 「明日の終業式は休みなさい」

 「っどうして……」


 私が抗議しても、お父様の言葉は絶対で覆らないのだろう。それをひしひしと感じる。


 その後もお父様に声を掛けられた気もするけど、何も頭に入ってこず急いで自室へ駆け込んだ。


 「……………っ」


 我慢していたものが一気に溢れ、涙がこぼれ落ちていく。何も考えられずベッドに倒れ込み、声を殺して泣いてしまった。



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