学園祭の準備 1
お母様は即行動に移す有言実行タイプだった。
「次のお休みの日からダンスの先生に来てもらう事になったわ。レッスンは週1回だけだから頑張りましょうね」
「は、はーい」
夕食時にお母様に告げられる。さっきの今でもう手配をしたらしい。
楽しそうなお母様に笑顔を返す。お母様もジンクスとか恋バナとか好きそうな乙女だからきっと私とヴィンスに踊ってほしいのだろう。
私は後夜祭のダンスには参加しない予定だけれど、練習して踊れるに越した事はないのでレッスンは頑張ろうと思う。
「そうだわ。ドレスも必要になるかしら?」
「えーっと……ドレス?」
「後夜祭で着るドレスよ。私の時と変わっていなければ制服でなくドレスを着てもいいのよ。新調しなくちゃね」
お母様は自分の事のようにウキウキとしている。
ドレス……学園の行事にドレスを新調するなんて流石貴族だ。でも、踊りもしないのに着るのはちょっと遠慮したい。踊らないとはっきり言ったらお母様ががっかりしそうなので、やんわりと断っておかなくては。
「私制服が好きなので、制服で大丈夫です」
「そう?気が変わったらいつでも言ってちょうだいね」
既に少しがっかりした様子のお母様に心が痛むが、きっとニーナであっても遠慮しているだろう。
代わりに今度お母様と街へ買いに行く約束をし、その日は事なきを得た。
―――――
次の日、授業を返上して学園祭の打ち合わせをクラスで行っている。
「演劇の役割ですが大まかに、脚本制作と監督、役者、衣装、大道具と演出、音楽があります」
「選択している科目によって役割が決まっている人を呼んでいきます。脚本は文学選択のシモンさん、マリーさん。役者は演劇、声楽選択のエマさん、ウィリアムさん、ニーナさん。衣装は裁縫選択の―――」
(……呼ばれてしまった………)
何か手違いがあって名前が呼ばれない事を期待していたけれど、しっかり役者のところで名前が呼ばれてしまった。
「以上、今名前が挙がった人メインで役割を遂行してください。名前が呼ばれなかった人は脚本が出来てから希望を聞いて配置していきます。活動は当分の間は放課後6時まで。質問が無ければ今から演劇の演目を決めていきます」
コメディやミステリー等候補に挙がるが、圧倒的多数で王道恋愛物に決まった。私はアクション系がよかったのにどうやら少数派のようで残念だ。
一から脚本を作るのは大変なので、この世界での王道の悲恋物語をハッピーエンドに変えて劇をするそうだ。
お昼時間、打ち合わせを兼ねて脚本と役者のメンバーでランチをする事になった。普段一緒に行動しないメンバーなので新鮮だ。
「王女が敵国の王子と恋に落ちて駆け落ちをし、途中戦禍に巻き込まれて命を落とす。2つの国はこの悲劇を繰り返さないよう和平を結ぶ。っていうのが本来の話だよ」
マリーちゃんが物語を知らない私に説明してくれる。前の世界でも似たような悲恋物があった。どの世界でも有名になるような話なのだろうか。
「最後ハッピーエンドにする為に、2人が戦いの前線に現れて歌と愛の力で戦いを終わらせるっていうのはどう?」
「実際にはあり得ないだろうけど、物語ならではって事でいいんじゃない」
「オッケーそれで脚本作っていくね」
(すごい。どんどん話が進んでいってる)
「あの、私演技はもちろん…歌もそこそこなので端役じゃ駄目かな?」
悲しい告白だけど、前もって言っておいた方がいいと思い打ち明けてみる。
「ニーナちゃん!最初は声量も全然無いし歌もそこそこかもしれなかったけど、びっくりするくらい上達したよ。皆で頑張ろう!」
「ウィルくん……!」
中々正直なウィルくんに励まされた。声量も全然無かったのか……。
多少ショックを受けつつも、同じ声楽を選択している彼の『びっくりするくらい上達した』という言葉も本当だと思うと嬉しい。
「じゃあ、ニーナは王女役で戦いの場に現れて歌う場面から出てもらうよ。そこまではエマに出てもらって、ダブルキャストでいこう」
「私も歌は歌えないからそれがいいな」
「うん。ダブルキャストいいね」
戦いの場で歌う場面はかなり終盤の筈。出番もまだ少なく、エマちゃんと一緒にダブルキャストなら頑張れる気がする。
「ウィルは演劇と声楽どちらも選択してるよね。最初から最後まで王子役で」
「頑張るよ」
トントン拍子で決まっていった。まだ学園祭に向けて始まったばかりなのに、私はもう満足感でいっぱいだ。
「ニーナ、打ち合わせどうだった?」
剣術の授業前にレオに質問される。
「お昼時間だけで割と進んだよ」
「もしかして学園祭の打ち合わせ?演目決まった?」
ヴィンスにも質問される。
「元々ある悲恋物をハッピーエンドにアレンジする事になったよ。ヴィンスのクラスは決まった?」
「うちはコメディに決まったよ。男は女役、女は男役って逆転して演じるって」
「面白そう!ヴィンスも女装するの?」
ヴィンスの女装姿は絶対綺麗だろうなぁと。もしそうなら何があっても観に行きたい。
「俺は大道具と当日の演出だよ」
「残念。女装姿見てみたかったよな、ニーナ」
「うん見たかった」
「……絶対したくないし、やっても見せたくないな」
「残念…」
ガッカリして肩を落とすと「そんなに残念がらないで」と苦笑された。
「ニーナは何の役するの?」
「恐れ多いけど王女役をダブルキャストでします」
「主演じゃん。王子との切ないシーンとかあるんじゃない」
「うーんありそうだね」
悲恋物だから切ないシーンもあるし、愛を語るシーンとかもありそうだ。出来ればエマちゃんの出番の時に集中させてもらいたい。
不意に、結っている髪の毛先をヴィンスにクルクルと弄ばれる。かと思ったらギュッと握られて髪先に口付けられた。
「えっちょっ…とヴィンス?」
「ニーナ、王子役の奴に可愛い顔しないでね」
「かっ可愛い顔って……」
「そういう顔」
また多分私の顔は赤くなっているだろう。というかこの顔はヴィンスだからなる訳であって、そうさせているヴィンスも自重してほしい。
「俺もいるんだけど」
「っ!」
レオにこのやり取りを見られるのは恥ずかしすぎる。ヴィンスは何故平然としていられるのだろう。平静さを分けて欲しい。
「ヴィンセントは周りに人がいても構わなさそうだよな。ニーナ、嫌だったら人前でするなってはっきり言っておいた方がいいよ」
「じゃあ2人きりの時にするよ」
(それも爆弾発言です)
2人きりになったら身構えてしまいそうだ。レオから「ニーナ頑張れ」と声援をもらった。




