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学園祭の準備 2

 剣術の授業も終わりヴィンスと馬車に乗る。安定の隣に座ったヴィンスは私の顔を見るなり笑った。


 「ニーナ、今は何もしないから安心して」

 「……はい…」


 一体私はどんな顔をしていたんだろう。先程のやり取りもあって緊張していた事がヴィンスには見抜かれていたみたいだ。


 (うぅっ自意識過剰で恥ずかしい)


 「今週は明日学園行ったらまた休みだね」

 「本当だね。私休み呆けしてるから助かるよ」


 (あっそういえば)


 「そういえば私、次の休みから週一でダンスのレッスンを受ける事になったよ」

 「ダンスを?何で?」


 驚愕したヴィンスに聞かれる。貴族令嬢がこの歳で踊れないのは有り得ない事なのだろうか。


 確か()()()も対してダンスを踊れなかった筈だ。()()()が練習していたステップは私も少しだけ覚えている。


 「私踊れなくて、お母様に勧められて…」


 学園祭までに踊れるようにする為、というのは伏せておく。


 「……パートナー役は誰がやるの?」


 (パートナー役?確かに……誰が一緒に踊るんだろう)


 自分の事なのにあまり興味が無くてお母様に詳しく聞いていなかった。レッスンについての情報が何も無い。


 「執事のヘンドリーかな?」


 左程重要な事ではない為適当に答えるも、仕事に真面目で普段ニコッともしないヘンドリーが私とダンスする姿が想像できない。


 「無いな」

 「だよね」


 即答に即答で返す。まあ当日になれば分かる事だし誰でもいいかな、と。


 「ニーナは俺が誰が女の子と踊ってたらどう思う?」

 「ヴィンスが、女の子と踊る?」

 「そう」


 私の知っているこちらの世界のダンスは、手を繋いで腕や背中に手を添えて向かい合っている。考えたら距離も近いし好きで無かったとしても意識してしまいそうだ。


 それをヴィンスが、例えばリリーと踊る想像をすると……少しモヤっとしてしまう。

 じゃあ、あのレイラと踊っているのを想像したら?


 「………っ絶対いやっ」


 かなりリアルに想像してしまい、拒否の言葉を口にしていた。自分の発言に驚いていると、ヴィンスもまた驚いた表情をしている。


 「よかった。気にならないって言われたらどうしようかと思ったけど」


 ヴィンスが指の背で私の頬を優しく撫でる。前髪をサラッと梳かれ耳元のピアスを触られる。ヴィンスの一つ一つの動作にドキドキする。


 「そう思ってくれて安心した」


 そう耳元で囁かれて、耳にチュッというリップ音が響く。


 「んっ…」


 (っ!みっ耳にキスされた?!)


 耳はくすぐったくて心は――ムズムズする。


 「……何もしないって、さっき……」

 「さっきはね。ニーナ、そんな上目遣いで見つめられたらもっとしたくなるよ」

 「えっ」


 パッと両手で頬を覆う。どうやら私は知らず知らずのうちに『上目遣い』という技が使えるようになっていたらしい。


 「俺もニーナが他の誰かと踊ると思ったら、嫉妬してしまうな」


 両手で頬を覆った上からヴィンスの両手で更に覆われる。真面目な顔付きで瞳は真っ直ぐ私を見据えている。そして捕われたまま、額にも口付けをされた。


 「ヴィ、ヴィンス…」

 「だから、俺も一緒にレッスン受けさせてもらおうかな」


 何て言ったのか聞こえるけど頭に内容が入ってこない。


 「嫌だった?」

 「………嫌じゃない」


 (嫌じゃない、嫌じゃないけど……)


 ヴィンスは私の頬を、両手を覆ったまま離してくれない。

 絶対、嫌がっていないと分かってて聞いている。私はもう目線を合わせられない。


 「けど、逃げ出したい……です………」

 「ははっ本当、ニーナは正直だね」


 ヴィンスは嬉しそうに笑って、もう一度額にキスをするとやっと私を解放してくれた。


 「〜〜っ」


 いっぱいいっぱいの私にもう止めてくれと言いたいが、夢でみたような…唇にそれをしないあたり、私の気持ちを待っていてくれてるのかなと思うと反論できない。


 学園祭の劇とダンスのレッスン以外に『挨拶のようにスキンシップをとれるようにする事』も頑張ろうと思う。


 「ニーナ着いたよ」

 「……はい」


 馬車を降りてそのまま家の方にエスコートされる。いつもは降りたところで見送るのに。


 「ヴィンス?ここで大丈夫だよ」

 「ああ、ニーナのお母さんに俺もレッスンを受けられる様にお願いしようと思って、一緒に家まで行くね」

 「えっ」


 そういえば、さっきそんな事を言っていた様な気もする。


 (ヴィンスと一緒にレッスン?)


 ヴィンスと一緒に手を繋いで寄り添って踊る……想像しなくても無理なのが分かる。


 「私踊れないから、迷惑しかかけないよ」

 「いいよ。俺がしたいだけだから」


 こんな時こそ私の心の声を読みとって欲しい。お母様が私の意を汲んで断ってくれたらと思うけど、間違い無く喜んで受けるだろう。




 「パートナー役は、ヴィンセント様と同じ体格をしたお屋敷を警護している騎士にお願いしようと思ってたのよ。ヴィンセント様本人に相手役をしていただいたらニーナも喜ぶわ」


 お母様に色々と突っ込みたい。

 ヴィンスはヴィンスで「騎士に手を掛ける事にならなくてよかったよ」とよく分からない事を言っていた。業務外労働をさせられた上に手を掛けられたら可哀想すぎる。


 「ではまたレッスンの日に。ニーナとお待ちしていますね」

 「はい、またお世話になります」


 「ニーナ、明後日楽しみにしてるよ」と満足そうなヴィンスは帰ってしまった。とにかく、明後日は無になって踊るしかなさそうだ。




―――――




 「ニーナちゃん、楽譜持ってきたよ」

 「わっ手配できたの?」

 「家にあったんだ。もう一部あるから学園祭が終わるまで持っていていいよ」

 「ありがとう!お借りします」


 翌日、早速ウィルくんから楽譜を手渡させた。彼の家は音楽一家だ。両親は有名な歌劇団と楽団に所属しているらしく、ウィルくんが自然とその道に進むのも納得だ。


 印刷技術がまだまだ発展途上なこの世界では、楽譜は高額な為とても貴重らしい。暗譜するか自分で書き写すしかなかったから借りられて有難い。


 「劇とは別で練習した方がいいよね。学園の防音室借りれるらしいから予定合う日に一緒に練習しよう」

 「うん」

 「ニーナは嫉妬深い彼氏がいるから、二人きりで練習しない方がいいよ」

 「〜〜っリリー」


 横で話を聞いていたリリーに暴露されてしまった。けど前に、レオやリリーと魔法の練習をしていた事が原因で喧嘩をした事があるので否定できない。

 今回は事前に練習する事を言うつもりだ。


 「そうなんだ?じゃあ他に誰か一緒にいてもらおう。観客がいるのも良い刺激になるしね」


 ウィルくんのその深く突っ込まずにあっさり受け入れる感じ、有難い。


 「私、週の中日だったら選択授業も無いし練習付き合えるよ」

 「リリーいいの?」

 「週の中日は俺も空いてるよ。その日にしよう。来週からよろしくね」

 「ありがとう!よろしくお願いします」


 リリーが天使に見える。「私歌聴くのが好きだから」と言ってくれたリリーが好きだ。練習に付き合ってくれるリリーの為に家でも練習しておこうと思うのだった。


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