ニーナの将来は
「昨日少しお話しましたね。リリーといいます。ヴィンセント様、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。同い年だし敬語じゃなくていいよ。名前も呼び捨てで大丈夫」
「よかった。ヴィンセントよろしくね」
「リリー、切り替え早いな」と笑うレオ。
今日は4人でランチをしてから図書館へ行く予定だ。
「リリーの事はいつもニーナから聞いてるよ」
「えっ、ニーナ何て言ってるの?」
「優しくて癒されるって」
「っ!ニーナ大好き!」
「私もだよ、リリー」
リリーに抱きつかれて、私も抱きつき返す。
「羨ましいやり取りだな。って思ってる?」
「思ってない」
「今日は素直じゃないな」
ヴィンスとレオはいつの間にやら仲良しでうれしい。
「あっここだよ」
リリーに連れてきてもらったのはリリーのお家が経営しているカフェの1つで、私が行ってみたいと頼んで皆で行く事になった。
「ランチもしてるんだね」
「この店舗だけね。お試しでしてて、ここが軌道に乗ったら他の3店舗も始めるんだって」
「他にも店舗あるんだな」
「うん、今はイートインのお店だけだから、私が卒業したらテイクアウト専門のお店を出したいと思っているんだ」
「そこまで考えてるなんて凄いな」
ランチはメインであるお肉か魚かを選んで、夜よりも簡単なコースメニューが出てくるそうだ。私は魚を選んでみる。
「美味しい…!このソース、懐かしい味がする」
「それ、東洋の国から輸入した調味料を使ってるんだって。ニーナの口に合って良かった」
「そうなんだ。東洋から…」
(輸入した調味料を懐かしいなんて言ったらおかしかったかな…)
ニーナとして生きていく為に皆に疑問に思われないよう、うっかりした事は言えない。
「美味しかったな。今度はカフェの時間帯も来てみたいな」
「うん、来てきて。休日だったらたまに私も手伝ってるんだ。サービスするよ」
「手伝いまでしてるんだ。偉いね」
将来の事も考えていて、今からお手伝いもしていてリリーは凄い。私はまだ今の事で精一杯で考えられない。
「リリーは将来の事も今からちゃんと考えているんだね」
しみじみと思って思わず言葉に出す。
「ニーナももう将来決まってるじゃない」
「え?私?」
何だろう、と首を傾げる。前に声楽の授業の後『歌手になってしまうかも』と言った事はあるけど、あれは冗談だしリリーも分かっている筈だ。
「ニーナの将来は『ヴィンセントのお嫁さん』でしょう?」
「えっ!」
「っ!」
隣でゴホゴホっとヴィンスがむせている。私もその事実に改めて気付いて吃驚する。
(そっか…婚約は継続しているから、このまま何も無ければヴィンスと結婚…するのかな)
私の旦那様、と考えると今更ながら照れてしまう。熱くなる顔を両手で押さえて、この顔を見られないようこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。
「…ニーナめちゃめちゃ顔赤いよ」
「くくっ、ヴィンセントも、大丈夫か?」
ヴィンスは水を飲んで呼吸を整えている。リリーとレオは楽しそうだ。私は…いやきっとヴィンスも居た堪れない気持ちだと思う。
「っ私!お手洗いに行ってくる!」
「…逃げたな」
「逃げたね」
「………」
半ば逃げるようにヴィンスを置いてきてしまった。ごめん、と彼には心の中で謝っておく。
よくよく考えると、婚約者という関係はお互いに好きな人が出来るまでの筈。だから『私の将来はヴィンスのお嫁さん』と豪語するのは躊躇われる。まあ、どちらにしても恥ずかしいのだけれど。
(好きな人が出来るまで…じゃあ、お互い他に好きな人が出来なかったらどうするんだろう……)
また深い思考に陥ってふるふる首を振る。
(今は今を楽しまなきゃ)
席に戻るとリリーとレオの姿は無かった。
「あれ、2人は?」
平静を装って聞いてみる。心臓がドキドキしている音は聞かれたくない。
「先に外に出てその先の高台で待ってるって。俺たちも行こうか」
「うん」
ヴィンスは何事も無かったかのようにいつも通りに戻っている。
外に出ると目の前に高台へと続く階段がある。
「ここを登ると景色が綺麗なんだって。そこ見てから図書館へ行こうって。ニーナ、高い所からみる景色好きだよね」
「うんっ好き!見に行こう」
未だ止まない心臓の音に、ヴィンスと並んで歩かずに先に階段を上ろうと駆け上がった。
「ニーナっ!」
普段上り慣れていない石段に足を滑らせる。
(落ちるっ)
その瞬間…私はヴィンスに抱き止められていた。
「……ニーナ、走ると危ないよ」
「ごめん……ありがとう…」
またかぁっと顔が熱くなる。もう、この顔を見られるのは何度目なのか。ヴィンスはこの赤い顔を見てどう思っているんだろうか。
ふっ、とヴィンスが笑う。
「意識してくれてるのは嬉しいけど、怪我すると心配だから気を付けて」
「っ!………はい」
意識しているのはバレバレだった。
(もう、恥ずかしすぎて泣きそう…)
羞恥ついでに私はまた転びそうだから、とヴィンスに手を繋がれて階段を上った。
「お待たせ」
「手繋いで仲良しだね」
にこにこと微笑んでいるリリーにやっぱり突っ込まれる。
「うん、仲良しだからね」
笑顔で応えるヴィンスは開き直る事にしたらしい。私はもう転ばないから大丈夫、と手を離して景色に集中する。
(平常心、平常心…)
ここからの景色も圧巻だ。王都からその先の海まで見える景色に心が洗われる。
「明日から試験1週間前になるから、暫く遊ぶのはお預けだな」
「筆記試験は順位が掲示されるって言ってたね」
「掲示されるのプレッシャーよね…」
順位が皆に公表されるなんて何の罰ゲームだろう。私はこの世界の文字は読み書き出来るが、皆より圧倒的にそのスピードが遅い。問題の正誤より全問解ききれるかが課題だ。
因みに実技の方は順位など無く、上位クラスに上がれるかどうかの試験を行うらしい。私とリリーは基本の魔法が使えていたら初級クラスへと上がれるのだ。
「1学年300人強いるから…目指すは50位以内かな」
「具体的な数字が出たな」
私が目標を掲げたところをレオに突っ込まれる。特に理由はないが魔法の方はまだアレな為、筆記試験くらいは少し上を狙いたい。ヴィンスは目標があった方が頑張れるよね。と言ってくれた。




