閑話 ニーナの見た夢
もう1つ閑話を挟みます。
時系列は、初めてのデート後〜喧嘩をする前です。
ニーナと入れ替わり、私はニーナの夢を見なくなった。
代わりに他の夢を見るようになったのか、と問われれば答えは『分からない』だ。何故なら夢を見ていると思うのだけれど起きたら忘れてしまっているから。
小学生の時にクラスメイトと夢の話をしていて、夢を覚えている子も覚えていない子も居たからこれは普通の事なんだな、と思う。
―――――
休日、ヴィンセントと街へ来た。前に約束した食べ歩きを楽しんでいる。
「ん〜!このお肉美味しいね」
「だね。シンプルに塩だけっていう味付けがいいね」
前の世界でいう焼き鳥のように、串に刺さっているお肉にかぶりつく。
「ニーナが肉にかぶりつくイメージ無かったな」
「っ!変…かな?」
私もニーナがお肉にかぶりつく想像は出来ない。
「いや、全然。一緒に食べ歩き出来て楽しい」
「よかった…」
所謂箱入りのお嬢様の様に家でお茶会を楽しむ、というよりは、外に出て自分の足で歩き回って美味しいものを食べる方が私の性に合っている。
「ヴィンセントも食べ歩きするイメージ無いよね」
「そう?世界には自分の知らない事が沢山あるのに、それを体験しないなんて勿体無いからね。自分で出来る事は色々したいな」
「なるほど」
ヴィンセントも私と同じタイプの様だ。
「ニーナ、この後行きたいところある?」
「この前みたいに、街が見渡せるところに行きたいな」
まだ少し時間があるから、と街の外れにある高台へと連れて行ってもらう。
「わあ、夕日が綺麗だね!」
「うん、この時間は絶景だね」
「ニーナ、今日も楽しかった。また来よう」
「うん!また来ようね」
前回に引き続き、ヴィンセントとのお出かけは楽しかった。彼もまた私と来たいと言ってくれてうれしい。
ふとヴィンセントを見ると、夕日に照らされて顔が少し赤くなっている。
「ニーナ…」
「うん?」
私の名前を呼び、私の眼を見つめる。
ヴィンセントの顔がゆっくり私に近づいてくる。
(えっ、なに?!)
ヴィンセントから眼を逸らせない。時間が止まったように動けなくなる。私の唇に、ヴィンセントのそれが重なりそうになる……。
「きゃーーーーーっ!」
がばっと私は叫びながら起き上がった。
(何?!今の!)
もう何がなんだか分からない。
「お嬢様?!どうされましたか?」
サラがノックをして部屋に入ってきた。
「サラ……。私…?今のって………」
「お嬢様。怖い夢でも見ましたか?」
「夢………?」
夢、を見てた?昨日はヴィンセントと街へ行って来て、それで…食べ歩きをして夕日を見て…楽しんで帰ってきたはずだ。
「私、昨日お出掛けしてたよね?」
「ヴィンセント様と街へお出掛けされてましたね」
「その後は?」
「帰って来られて、お腹いっぱいだからと夕飯は少な目にされてましたよ」
「そうよね…」
「ふふっ夢と現実が混乱しているみたいですね」
顔を洗うと目が覚めますよ、とサラに勧められいつもより少し早い時間だけど私は起きる事にした。
(夢…、なの?)
何処から夢になったのか、リアルな夢すぎてサラの言う通り混乱している。
「ニーナおはよう」
「リリー、おはよう」
「なんか…ニーナ疲れてない?」
「分かる?朝から変な夢を見ちゃって……」
夢というものを初めて見た。いや、初めて起きても覚えている夢を見た。
「自分の願望とか、不安な事が夢に出てくるって言うよね」
「!」
リリーの言葉に驚愕する。
「自分の…願望?」
「うん」
思わず机に突っ伏して思い切り頭をぶつける。
「ニーナ!大丈夫?!」
「大丈夫。じゃないかも…」
「どんな夢見たの?」
「…人には言えない様な夢見ちゃった……」
必ずしも願望とは限らないから、とリリーはそれ以上何も聞かずに慰めてくれた。
(私の願望?私が望んでる事なの?)
勝手にあんな夢を見て、ヴィンセントにも申し訳ない気持ちになる。
「ニーナ」
「きゃっ」
声楽の授業前、ぽんと肩を叩かれる。
「……ごめん。驚かせた?」
「〜〜ヴィンセント!ううん、ごめん何でもないの。昨日はありがとう」
「?こちらこそ。今から声楽だよね?」
「うん。ヴィンセントは選択授業無い日だよね、おつかれさま」
あの夢を見た後ろめたさに、じりじりと逃げる姿勢を取ってしまう。
「ニーナ?何かあった?」
「っ!何も!」
いつも通り接したいのに、あのシーンがフラッシュバックしてヴィンセントの顔を見られない。逃げ腰の私を見てヴィンセントが不思議に思うのも仕方がない。
「何もって感じじゃないけど?」
「〜〜!」
「俺、何かした?」
(どうしよう。勘違いさせてしまう)
「違うの!私が……」
「ニーナが?」
「夢を見て…」
「夢?」
「その夢の所為で、恥ずかしくて……申し訳なくて、ヴィンセントの顔が見られないだけ……」
「………」
(ああ、言ってしまった)
こんな事を言ってしまったら、どんな夢を見たのか突っ込まれてしまいそうだ。
「それは……その夢の内容が気になるな」
「!」
「教えてくれる?」
「っ!無理です……!」
その夢の内容がバレてしまった際には、私は羞恥で死んでしまうかもしれない。
「いつか教えてね」
「〜〜!」
ヴィンセントは楽しそうにそう私に耳打ちをする。
私は、夢に翻弄されて『ヴィンセントにいつか教える事』が増えてしまったのは言うまでもない。




