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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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六話 魔導士は勇者一家と交渉をする

「っていうか、やっぱり女の子で勇者なんじゃないか」

「それが?」

「いやだから……なんか疲れた」


 ついでに先ほどから漂っているトンコツスープの香りでお腹すいてきたとへたりこむ魔導士に、「腹が減ってるなら仕方がない」と、残りのラーメンを食べさせることにした。


「ああ、どうもすみません。居場所がわかってそのまま来たんで、城から何も食べてなくて」

「お城って昼夜飛ばしても五日はかかるんじゃないかい?」

「そこは魔法を使って一日に短縮したんですよ。ただこれ反動でものすごくお腹が減るんですよね……うっま!」


 話ながらラーメンをすする魔導士の言葉に、魔法って万能じゃないんだなあとなんだかガッカリする勇者。




 ラーメンを食べて少しは落ち着いた魔導士が、最初から気になっていたことを訊くことにした。


「なんでそんな格好をしてるんですか?」

「お城から『アリアっていう勇者を探してます』っていう通知を見つけたから」

「並みの包丁よりもよく斬れる剣のおかげで骨まで斬ってスープができることを考えたら、魔王退治になんてやってらんないだろう?」


 親子三人、慎ましく暮らしているのなら、あんなお触れを見たら隠そうと思うかと家の中をチラッと見たレインは頷いた。


「しかしここは魔物の影響がかなりある場所ですよ。アリアさんが魔王退治の旅へ行っている間、お城で過ごせるように手配してありますから行きましょうよ」

「それじゃあ畑の世話をする人がいないだろ。何年掛かるかもわからないんだから、土地を捨てるのと同じ意味じゃないか」


 「替え玉ください」「図々しいね」という会話も挟みつつ、娘を行かせる気はないと言っていく母親と、同じく替え玉を入れて四杯目のラーメンを堪能する父と娘も頷いていく。


「じゃあ腕のたつ騎士団を護衛につけますよ」

「金なら払わないよ」

「食事も寝床もこちらでなんとかしますから、お気遣いなく」


 むしろこちらが保証する立場だと、細かい予定表とともに一ヶ月いくらという一覧表を見せて説明していく魔導士。


「最近の魔導士は経理もするのかい」

「これは単純に性分ですね。キッチリ決まっていないと気持ち悪いんです」


 それでも世間を知らない坊ちゃん魔導士は、手練れな母親にガッツリ補償金と手当てを釣り上げられた。




「ブーブー!反対!」

「魔王が倒してって言うなら、もっと住みやすくなるってことだろう?それに最近は食料豊富なおかげで三年は軽くもつから、その間に帰ってきなさいよ」

「これも出稼ぎだよ、アリア。もう十五歳になるしね」

「はーい」


 こうなったら一年以内に帰ってきてやると、ぶちぶち文句を言いつつも魔王を倒す旅が決定した。




「はー、しかしかなり美味いスープですね。屋台でも出したら売れそうですよ」


 「ごちそうさまでした」と両手を合わせる魔導士の言葉に、商機を見出だした両親の瞳が輝いた。


「あんたもそう言ってくれるかい。でもこれ豚骨じゃないから名前を何にしようかねえ」

「え?」


 そう言って出汁の元となったやけに太い骨を見せられた魔導士は固まった。


 そういえば魔王が勇者について恐ろしいことを言っていたのを思い出したからだ。


「ああああの、その、骨は?」

「こんなデップリとした体格の動物の骨だよ。他にも変なのが前からたまにいたけど、最近は特に多いんだよね」

「大体が美味しいから助かるけど」

「でもこれ詐欺だよね?ステーキが食べられると思ったのに肉ちょびっとなんだもん」


 「ラーメン四玉食べといて文句を言うな」と怒られる声を聞きながら、次に持ってきた頭を見て魔導士は卒倒した。


「頭も食べられると思います?てかこれ、なんていう動物ですかね?」

「ゴブリン!!!」

「え?」

「あ」


 バターン




「「「……」」」


「ゴブリンて何?」

「さあ?」


 元々魔物についての知識がない親子は、魔導士の呟いた言葉に首を傾げるばかりだった。




「じゃあゴブリンラーメンにすればいいってことかい?」

「なんかゴロ悪くない?」

「うーん、トンコツ風スープでいいんじゃないの?」

「似てるしね」


 じゃあそれで決定と母親がパンッと一つ手を叩いてこの話は終わってしまった。


 床に倒れた魔導士は、それから三日三晩寝込んだ。


「ゴブリン……うーん……」


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