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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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四話 魔導士は憂いている

 魔物と知らずに大量の食糧が手に入ったと喜ぶ勇者一家は早々に絞めて保存食を作り、残りは市場に売って次の冬も余裕で超せる大金と食料を手に入れた。


「助かったわ、本当に」

「なんで空に止まっていたんだろうね?」

「きっと年末に神様がくれたプレゼントなんだよ」


 のんきな親子はほくほくと懐を暖かくして、でも贅沢はしないでのんびりと冬を過ごした。






 このところ魔物の出現率が全国的に上がりっぱなしで、国一番の魔導士であるレインはあちこちから呼ばれていた。


 本格的な冬が始まる前に魔王から聞いた勇者の村へと行こうと思っていたのに。

 一人っ子らしいと聞いていたので、勇者を旅に借りる間、両親は城で過ごしてもらおうと考えて部屋を整えてもらっていたのに。

 さらに何年掛かるかわからないからと、補償金についても細かく一覧表にしておいたのに。


「とっとと魔王のいる城へ帰れやぁぁぁっ」


 自分の立てた計画が崩れることと、一度決まったことを邪魔されることを何よりも嫌う魔導士のストレスはマックスだった。




 冬の前からほぼ休憩ナシで魔物退治を連日頑張っていたところの寝入りばな。


 魔物を国中に配置させた元凶が声を掛けたのはそんな時。


【おーい】


「うーん……」


【おい、起きろ】


「はっ!?」


 「やっべ、今何時だっけ!?」と慌てて飛び起きたレインは机の周りに散らばっている書類を見て、自分の書斎には誰も入れないことを思い出した。


 そんな自分を呼ぶ人物も思い出し、そのままうとうとし始める。


 起きている時には繋がらないみたいだからだが、寝ているのに会話をしなければいけなくて疲れがとれない。でもこうしないと話せないし何より文句も言えないから仕方がない。


 早く終わらせて風呂入ろう。




「あー……魔王 リーデリッヒュ。どうしたんですか」


【起きたか、大魔導士 レインよ】


「そういうの、いいんで」


 律儀な魔王は必ずこの言い方で話し掛けてくるけれど、とっとと終わらせたい(ねむりたい)レインは手をパタパタと振りながら用件を言えと急かしていく。


 別段気にしない魔王はすぐさま本題に入った。


【勇者は見つかったのか?】


「……ええとですね、今のところ勇者は見つかっていません。名乗りを上げてくる偽物はいましたけど、『なんでも斬れる』という話の剣すら持っていないお粗末な偽物ばかりでした」


 とても情けない報告だが、勇者を探せと魔王に言われたんだから、こうして途中経過を報告しなくてはいけない。


 真面目過ぎる魔導士はそう思って話していくけれど、そんな報告義務はないことにいつ気が付くのだろうか。

 

 けれどツッコミ役はいないので、軽く頷いた魔王が新しい情報を与えていく。




【それは偽物だからだ。本物はいるぞ。この前なんて配下の魔物が何匹倒されたか】


「えっ、すでにどこかで活躍しているんですか!?」


 それは新情報だとばかりに立ち上がって書き留めるための紙を用意してペンを握り、うたた寝に戻りながらも魔王の次の言葉を待った。


 けれど次の言葉に今度こそ魔導士は固まった。


【それが魔物と知らずに普通に食料として処理されてた】


「なんて!?」


 魔物を食料とすることもおかしいというのに、騎士団の一個小隊を軽々と壊滅させられる力を持っている、鳥に見える魔物を一撃で仕留めたばかりか食べるとか……。


「あの、それは本当に勇者なんですか?」


【勇者だ。さらにそいつらはとても美味いらしい】


「そんな情報はいらねえよ!」


 「うおぉぉ……マジか」と頭を抱える魔導士に、さらに追い打ちをかけるように淡々と続けていく魔王。


 さすが魔王だ。弱っている相手にさらに攻めていくとか人間技じゃない。……まあ実際に頭を抱えられているのは勇者なんだけど。


【上半身の鳥の部分は身が引き締まっていて、淡白ながら出汁が出てどの料理にも使える万能性。下半身の魚の部分は赤身と白身のバランスがよく、しばらく置いても腐りにくいという素晴らしい物だと言っていた】


「そんな情報をもらってどうしろってんだよ!」


 食えっていうのか!?まさか、魔物をっ!


【あんな鳥もいるんだなあ、また会いたいなあとお願いされたのだ。次はどんな魔物が美味しいと思うか、魔導士として魔物と対峙したお前なら知っているんじゃないかと思ったんだがな】


「知らねえよ!つーか食べたことないからね!?」


 「人間は普通、魔物を食べませんっ」という基本情報を魔王に伝える大魔導士。

 その言葉になぜか「さすが勇者だな」と、うんうんと感心するように頷く魔王。




 思いっ切り疲れた溜息を吐いたレインが、他に何か有用な情報はないのかと尋ねていく。

 けれどまたしても魔王の次の言葉に今度こそ卒倒した。


【しかしその勇者と一緒に旅をしてオレのところに来るのはお前だろう?】


「そうだった!」


 魔物を平気で食べるヤツと何年掛かるかわからない旅に出なくてはいけない、そう遠くない未来を思い浮かべて魔導士は椅子ごとひっくり返った。


【おい?】


「うーん……」


【おーい】


 絞められた仲間を見た別な魔物から、ようやく勇者のくわしい居場所が聞けたというのに、その場所を話す前に魔導士が倒れては仕方がない。


【ではまたな、大魔導士 レインよ】


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