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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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三話 勇者一家はお腹いっぱい

「んー……ハッ!」

「父ちゃん、そっち落ちたよ!」

「はいよ、母ちゃん」


 最近、前よりも珍しい動物が出現するようになった。

 でもそれも全部美味しくいただいちゃうので、このところ食糧事情は上々だ。


 だからって小さい物ばかりだったので、冬を越すには物足りない。




 一羽だけウロウロとしていた鳥を、いつものように剣を投げて撃ち落す。


「うん!?」


 やけに大きくめずらしい鳥は、上半身は鳥なのに下半身は魚という不思議な見た目をしていた。


「えっ、どういうこと!?」

「ラッキー。ちょうど魚も食べたかったんだよね」

「じゃあ上はいつものように絞めて下は刺身にしようか。新鮮だし」


 「なんか変なの落としちゃったけど、それはそれとして今夜はご馳走だね!」


 わぁい!とはしゃぐ一家を見つめながら、上半身が鳥で下半身が魚の魔物は呆然としていた。


「……魔物を食うのか」


 人間て怖い!と思う暇もなく、勇者によって仕留められた魔物はそのままカクッと事切れた。




 その頃、はぐれた仲間を捜していた魔物はどこにもいないことに気が付いた。


「どこ行ったんだよ」

「なんか下から攻撃されたみたいっすよ」

「なんて!?」


 魔王の命令によって、このあたりに住んでいるという勇者を探して決闘を申し込もうとしていた魔物たちは、仲間がいなくなったということで辺りを捜索していて見つけた。


「え、なんか食べられてねえ?」

「マジ?」

「俺らって美味いの?」

「……」




「鳥の部分は身が引き締まってるねえ」


 ジュウジュウと網の上に焼きながら、久しぶりの焼き肉を楽しんでいる一家。


 脂身が少なくても、歯応えがあって美味しいと母親が満面の笑みでほおばっていく。


 その隣りでは父親が刺身にしたお造りに舌鼓を打ちながら、海が遠いから生の刺身は久しぶりだと喜んでいる。


「魚の部分は赤身と白身がちょうどいいバランスって、サイコーだな!」


 もちろんそんな二人の子どもだって、肉に魚にとガツガツとご飯と一緒にかっこんでる。


「お腹いっぱい食べられるのっていいねー」

「けっこう量あるから、残りは保存しとこうか」

「「賛成ー!」」




 そんな親子三人を見つめる上空では、炭火焼きのいい香りのする煙を浴びながら呆然と見つめていた。


「身が引き締まって美味しいんだって」

「……」

「赤身と白身のバランスがいいらしいぞ」

「……」


 そうか、俺らって食料になるんだとなんだか納得する食べっぷりだった。




「てゆーか、アレって勇者っすかね?」


 髪は長いが冒険家にも魔導士にもよくいるし、何より少年というにはちょっと小柄だが、それだってあのくらいの人間ならそんなもんじゃないかという体格。


「魔王様の話では、勇者はアリアという名前で少女だという話だ」


 剣を投げつけて見事に仲間を斬り刻んだ腕前は見ていない。

 なんか母ちゃんたくましいから、そっちが処理したんじゃね?とか思っている魔物はじっと名前を呼ぶ時を上空で待っていた。


「アレク、野菜も食べな」

「ブーブー!おとーさんだって、さっきから刺身ばっかりじゃん!」

「魚はいいんだよ、魚は」


 「抗議する!」と言いながら箸を振り回している子どもの頭を母親が叩いていく。


「箸を振り回すんじゃない」

「はーい」

「父ちゃんも野菜を食べな」

「はーい」




「アレクってことは少年か」

「人違いだな」


 うんうんと頷いて、そもそも少年の頭を叩いて仕切っている母親のほうが怖いわと魔物は勝手に納得した。


 そうして仲間はもういないからと、帰ろうと翼を広げる途中で恐ろしい言葉を聴いてしまった。




 何杯目かのご飯といいカンジに焼けた肉をほおばっていた母親がポツリと呟いた。


「ねえ……鳥って大体、集団じゃないかい?」


 その言葉を聞いた一家のお腹にどんどん入っていく魔物だったものの仲間たちはギクッとした。


「はぐれたのが、たまたまいただけなのかなあ?」


 ポリポリと口直しの浅漬けを食べながらアレクと呼ばれている少年が首を傾げる。


「もう二、三匹いたら冬も楽勝で超せるんだけどなあ」


 赤身と白身を綺麗に並べて特製海鮮丼を作ってた父親は溜息を吐いていく。




「……」

「……」


 ここで音を出すとヤバいと思った魔物たちは息を殺して上空で止まった。




 けれど勇者が魔物を見逃すはずがない。


 さっきから気になっていた辺りをチラッと見上げて獲物が大量にいることにほくそ笑んだ。




「うふふ~……みぃつけた!」


「なっ!?」




「ハッ!」


 にこにこと満面の笑みを浮かべた少年が次々と魔物に剣を投げて撃ち落とす。


「ヒャッハー!大量大量!」


 同じように輝いた笑顔を浮かべた父親がすぐさま止めを刺して紐で縛っていく。


「助かったわー。絞めたら市場に売りに行こうかね」


 ウキウキと皮算用をしながら父親から受け取った魔物たちを母親が吊るしていく。




「アレクー……いや面倒くさい。アリア、これはすぐに保存するから細かく斬っといて」

「はーい」


 うっかり探し人である”アリア”と呼んだのに。


 その名を魔王に伝えられる魔物は一匹も残っていなかった。


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