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坊ちゃまのメイド 出会い編  作者: くまきち
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三十四話 勇者たちは魔王の城へ向かった

「そういうわけなんで、一気に飛ぶなー」

「はーい」

「わかりました」


 まだうつらうつらとしている魔導士の合図で、今後の予定が決まった勇者たちはすぐさま買い出しをするために街に繰り出すことになった。




「距離的に、まっすぐ行ってもまだ半月くらい掛かるよね?」

「そんくらいだな」


 魔王の城までの距離を話しながら、市場を物色していく勇者たちを街の人たちは遠巻きに見ている。


 そういう視線にも慣れたもので、さらに勇者一行として正体を明かしているのでこそこそしなくていいところも助かっていた。

 ぼかした会話では限界があるし、何より面倒くさい。




「それで、レイン様はいつもどのくらい食べるんですか?」


 とりあえず城にもたくさんいるであろう魔物を調理することは断固拒否されているので、魔導士が食べる分の食料を選んでいた団長が訊いてきた。


「五日の日程を一日にすると、大体フルコースちょい足しくらいかな」


 果物と野菜も欲しいという坊ちゃん魔導士の要望によって、次々と買い進めていく勇者たち。

 海が遠くても、そこそこ大きい街だと魚や海藻類が手に入るところもいい。


「トンコツ風ラーメンも替え玉したもんね」

「それは言うなっ」


 お城から飛んできて勇者の家に来た時のことを思い出しながら、あの三倍を最低でも用意しなくちゃと勇者が素早く計算していった。




 街では魔物が少しずつ追い返され、人々は平和を取り戻していた。


「じゃあ自分は街の修復の手伝いに行ってきますね」


 どさっと買い込んだ物たちを宿の部屋に置いたら、団長はそう言って被害のひどかった場所へと向かって言った。


「団長は元気だねえ」


 途中で買ったジュースを飲みながら休憩している勇者が呟いて、その隣りで人混みと歩き回ったことでぐったりしている魔導士はすぐに寝転がった。


「あー……ベッドサイコー」

「魔王の城にもベッドがあって良かったね」


 本当に、そこはとても感謝している。

 最悪、倒された魔物と一緒に床に転がされるところだったからだ。




「ああ、この街で今度こそ最後なんだから会わなくてもいいのか?」


 出掛けてきてもいいぞと、名前も姿も何も聞いていないけれどイイ仲になっているらしいヤツの話を向けていく魔導士に、金の瞳がじっと見つめていた。


「なんだ?」

「昨日会ったから大丈夫」

「そうか」


 それでもなんだかモジモジするいつもと違う勇者に魔導士がベッドの上でごろんと横向きになって、もう一度尋ね直した。


「何かあったのか?」


 ここに来て魔王が封印されたくないとか言ったこととは関係ないと思っているが、これ以上の計画の変更はしたくない魔導士は慎重に勇者に尋ねていった。


「うんとね、その、会っていた人に結婚の申し込みをしたんだけど」

「んあっ!?」


 モジモジと恥らいながら、勇者からプロポーズをしたと話していく。

 それでも昨夜聞いた話と繋げない魔導士は驚きながらも頷いた。


「そ……そうか。おめでとう、でいいのか?」

「うん、ありがとう」


 まだちょっと問題はあるということは言わないで、準備を終えた勇者たちはすぐに魔王のいる城へと飛ぶことにした。




「待ってくれ!」

「俺らも連れて行ってくれないか!?」


 街の修復もあらかた終わり、大量の食料も買い込んだ勇者たちを見送ろうと門のところに集まっている人ごみをかき分けて、街を守っていた冒険者たちが旅の最後の共にと志願してきた。


「今までもあったが、一緒に来たところで何か役に立つのか?」

「っ……一矢報いなければ浮かばれないんだ!」


 ひたりと静かに伝える魔導士の言葉に、それでも一太刀浴びせたいと言う冒険者たちに向かってピシャリと言い放つ。


「お前らが束になってもこの勇者と団長には勝てないだろう。魔物はそれ以上でここから先はさらに数も段違いだ。足手まといはいらん」


 しっしと手を振って出発の邪魔をするなと追い払ったら、絶対に追い駆けて来れないようにと目の前で移動魔法を唱え、一瞬で魔王のいる城まで飛んだ。


「消えた……」






「おぉー着いた着いた」

「さすが、国一番の大魔導士ですね」


 三人と馬三頭と荷物という今までで一番の大荷物を抱え、約半月の距離を初めて移動した魔導士は着いて早々、魔王の挨拶も聞かずにぶっ倒れた。


【お前が勇者か】


「レイン、大丈夫?あ、貴方が魔王?初めましてー」

「すみません、レイン様を運びたいんですが部屋はどこですか?」


 この国を長年支配してきた魔王が目の前にいるというのに、宿屋の主人に部屋を訊く時のように団長が尋ねていった。


【その魔導士は色々とうるさいからな。一番いい部屋を用意しておいたぞ】


「あーそれはどうもすみません。ウチのレイン様は坊ちゃまなんで……」


 隣りの部屋だという魔王の言葉に頷いた団長はサッサと魔導士を運んでいった。


 勇者はテキパキと荷物を抱えて馬と一緒に反対側の用意された部屋へと運んでいく。




「あ、そうだった」


 魔王のいる部屋から出る前に、振り返った勇者はこの城の主に頭を下げて別な挨拶をしていった。


「今日からしばらくお世話になります」


【……ああ】


 魔導士から計画の変更は聞いている勇者はちょっとの間、一緒に暮らすことになる魔王にニコリと微笑んだ。


「ご飯は一緒に食べようね」


 手を振って部屋から出て行った勇者を見送った魔王は、妙な引っ掛かりを覚えたものの頷いただけだった。


【ふむ、あれが勇者か】


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