三十五話 魔王と勇者は今度こそ出会った
「ねえ団長、レインはいつ起きると思う?」
「自分は移動魔法を使ったあとのレイン様を見たことがありませんので……」
いつもさわがしい魔導士が死んだように眠っている周りを囲んで、そろそろ夕飯食べたいんだけどと言っていく勇者と団長。
【翌朝まで起きなければ叩けばいいだろう】
腹が減ったら起きてくるはずということにして、魔王と勇者と団長は一緒に夕飯を食べることにした。
「魔王って好き嫌いないの?」
【ないな】
普通に話し掛ける勇者に、魔王も普通に頷いて答えていく様子を最前列で見れる幸運を噛み締めていたミーハーな団長はそわそわしながら夕食をいただいていた。
【そっちこそレインに聞いていた話と違うな】
魔物は持ってきていないのかと、なぜか残念そうに呟く魔王に勇者も頷いていく。
「そのレインがうるさくてね。実家に送ってもらったからなんにもないよ」
だから普通の食事を食べているのだが、それでもいつも一人での食事な魔王は楽しそうにしている。
「魔王……様は普段も一人なんですか?」
思わず訊いてしまった団長の言葉に、先日似たようなことを尋ねられたなあと思いながら頷いた。
【ああ。たくさんの魔物と対峙したお前らならわかるだろうが、どちらかというとオレは人間側に近いからな】
変に角が生えていたり爪が長かったりもしないから、外見的に妙なところは全然ない。
ただこの国では誰も持っていない真っ黒い髪に、勇者と同じ金の瞳というだけの存在。
「勇者と魔王が同じ金の瞳って面白いですね」
片方はくりっとした無害そのものの目元の勇者と、夜空に鋭く尖りながら浮かぶ三日月のような目元の魔王。
同じなようで全然違うはずなのだが、他には誰も持っていない色でもあった。
やはり勇者と魔王は特別な存在なんだなと、ミーハーな団長が呟いた言葉に勇者と魔王はそろって首を傾げて否定していく。
「他にもいるよ?」
「え?」
【そうだな。オレはもう一人、金の瞳を持つ少女を知っている】
「ええー……じゃあ全然、特別感ないんですね」
これが魔導士だったら気が付いたかもしれないが、団長はまったく知らないので「なんだー」とガッカリするだけだった。
「じゃあ今日は、とりあえず休ませてもらいましょうか」
「はーい」
一人一部屋用意されていたにも関わらず、何かあると悪いからと律儀に魔導士と同じ部屋に入った団長に手を振って、勇者はお風呂に入ることにした。
「これが温泉……!」
魔王が封印されたら温泉入り放題にしてくれないかなとか考えながらのんびりと浸かって、あとは寝るだけだからいいかと、サラシを巻かずに風呂場から出た勇者は魔王とばったり廊下で出会った。
「お風呂までありがとう。すごく広いんだねえ」
【ああ、気に入ったなら朝も入ればいい……ん?】
茶色の髪に特徴的な剣が二つ、さらに男子ではありえない胸のふくらみを見た魔王は自分が誰でここがどこだかも忘れて普通に突っ込んだ。
【アリア、どうしてここにいる?】
「へ?」
自分の格好も忘れた勇者は、”アリア”と呼ぶ黒髪の魔王の前でやっと気が付いた。
「え、魔王ってリディだったの!?」
【魔王?……あ】
やっとここがどこで自分が誰に話し掛けたのか思い当たったがもう遅い。
【つまり勇者がアリア?】
二人はお互いを指差したまま固まって、そろそろあがったかなと様子を見に来た団長に声を掛けられるまでそのままでいた。
【勇者がアリア……】
「魔王がリディ……」
「どうしたんですか?」
勇者の格好も魔王が固まっている理由も知らない団長は、不思議そうに二人を見ながら首を傾げるだけだった。
「……とりあえず明日にしようか」
【そうだな】
じゃあとそのまま分かれた二人は、おかしなことになったなあと頭を抱えるだけしかできなかった。




