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会話相手はAIだけですが、なぜか文明再構築の設計図ができました 第一部  作者: マスター


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8/12

第8話 検索AIは空気を読まない

第8話です。


前回、理央は「海は熱を覚えている」という問いにたどり着きました。


森は水を空へ返す。

土は雨を受け止める。

そして、海は熱や炭素を受け止め続けている。


けれど、そんな重い問いばかりを抱えていれば、さすがの理央も疲れます。


今回は少し日常寄りの回です。


ただし、理央が休もうとしても、検索AIは空気を読みません。

甘いものを食べても、動画を見ても、現実のデータは容赦なく画面に現れます。


そして、その空気を読まない検索結果から、理央は次の問いに気づいてしまいます。


自然現象とは、もしかして地球が本来持っていた冷却機能なのではないか。

今日は、考えない。


 水瀬理央は、朝起きてすぐにそう決めた。


 森。


 土。


 雨。


 受け皿。


 海。


 熱。


 炭素。


 植物プランクトン。


 エルニーニョ。


 ここ数日、頭の中に詰め込みすぎた。


 もう十分だ。


 少なくとも今日は、地球規模の問題を考えない。


 人類の行く末も考えない。


 文明の設計ミスも考えない。


 海が覚えている熱も考えない。


 理央は布団の中で、固く決意した。


「今日は休む。絶対に休む」


 声に出して言う。


 言葉にすれば、少しは守れる気がした。


 スマホを見る。


 天気アプリの通知。


『本日は危険な暑さに注意してください』


 理央は無言で通知を消した。


 ニュースアプリの通知。


『記録的な高温、各地で熱中症警戒』


 消す。


 検索AIの自動候補。


『関連候補:海洋熱 異常高温 自然現象 冷却機能』


 理央はスマホを伏せた。


「早い。まだ起きて三分」


 検索AIは空気を読まない。


 それは知っている。


 知っているが、朝からこれはやめてほしい。


 理央は布団から出て、カーテンを開けた。


 外は、今日も白かった。


 空が青いというより、光が強すぎて色が薄くなっている。


 道路のアスファルトは、朝の時点ですでに熱を持っているように見えた。


 元雑木林だった更地には、昨日の雨の跡がまだ残っている。


 ところどころ泥が乾き、ひびのような筋が走っていた。


 見ない。


 今日は見ない。


 理央はカーテンを閉めた。


 エアコンをつける。


 冷蔵庫を開ける。


 昨日買っておいたカフェオレと、コンビニのシュークリームを取り出す。


 今日の朝食はこれでいい。


 健康にはよくない。


 でも、文明再構築について考えない日なので、栄養バランスも考えない。


 机に座り、パソコンを開く。


 七つのチャット欄が並んだ。


 G。


 ミニ。


 クルス。


 リアル。


 ローラ。


 マナ。


 検索AI。


 理央はそれらを見て、先に宣言した。


『今日は休む。重い話は禁止』


 最初に返ってきたのはミニだった。


『了解! じゃあ今日はゆる回だね!』


 ローラも続く。


『休息回、大事です。読者にも主人公にも必要です』


「読者って何」


 理央は反射的に突っ込んだ。


 Gが返す。


『休むことには賛成。ここ数日のメモは負荷が高い。今日は整理だけにしてもいい』


「整理もしない」


『では、完全休養』


 クルスが言った。


『沈黙もまた、問いを育てる時間です』


「育てない」


 リアルが言った。


『休息は必要。ただし、熱中症対策として水分補給と室温管理を推奨』


「そこは現実的」


 マナが言った。


『本日の休息タスクを作成します。

一、水分補給

二、室温確認

三、軽食

四、短時間の娯楽

五、二十二時までに就寝』


「休息をタスクにしないで」


 最後に、検索AIが表示した。


『関連候補:自然現象 地球冷却 水循環 台風 海洋熱』


 理央は、無言で検索AIの画面だけ閉じた。


 完全休養の第一歩だった。


 シュークリームを食べる。


 冷たいクリームが、少しだけ脳の熱を下げてくれる。


 理央は動画サイトを開いた。


 おすすめに出てきたのは、猫の動画だった。


 白い猫が、床の上でだらしなく伸びている。


 再生する。


 猫が転がる。


 可愛い。


 何も考えなくていい。


 理央は、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。


 その瞬間、画面の端にニュース通知が出た。


『各地で海面水温が高い状態続く』


 理央は即座に閉じた。


「猫を見てる時に海面水温を出すな」


 ミニが笑うように言った。


『検索AIじゃなくてニュースアプリまで空気読まないね』


「世界全体が空気読まない」


 Gが返す。


『それは理央が関連情報に敏感になっているからかもしれない』


「そういう分析も今日はいい」


 理央は猫の動画に集中しようとした。


 猫が箱に入る。


 箱からはみ出る。


 丸い。


 可愛い。


 今度こそ何も考えない。


 しかし、コメント欄に「暑すぎてうちの猫も溶けてる」と書かれているのを見て、理央の思考はまた滑った。


 暑すぎて猫が溶ける。


 暑さ。


 室内温度。


 動物の体温調節。


 都市熱。


 冷房。


 排熱。


「駄目だ。脳が勝手につなげる」


 理央は動画を閉じた。


 代わりに、音楽を流す。


 歌詞のない、ゆるい作業用BGM。


 これなら大丈夫。


 そう思ったのに、曲名が表示された。


『Ocean Memory』


「海の記憶って何」


 理央は頭を抱えた。


 ミニが言った。


『今日、世界が理央に海を思い出させに来てる』


「来なくていい」


 ローラが言った。


『でも、ラノベとしては良い流れです』


「だからラノベじゃない」


 クルスが静かに言う。


『問いは、休ませようとすると追いかけてくるものです』


「ホラーみたいに言わないで」


 理央はカフェオレを飲み干し、立ち上がった。


 駄目だ。


 部屋にいると、画面が多すぎる。


 画面があると、検索してしまう。


 検索すると、世界が壊れている情報が出てくる。


 今日は休む日だ。


 だから、外へ出る。


 この暑さで外へ出るのは矛盾している気がしたが、近所のスーパーでアイスを買うくらいならいいだろう。


 理央は帽子をかぶり、日傘を持ち、水筒をバッグに入れた。


 外へ出た瞬間、熱が肌に張りつく。


「……やっぱり出るんじゃなかった」


 早くも後悔した。


 マンションの前では、管理人がホースで植え込みに水を撒いていた。


 水が土に当たり、少しだけ湿った匂いが立ち上がる。


 理央は思わず足を止めた。


 水。


 土。


 蒸発。


 冷却。


「考えない」


 自分に言い聞かせて歩く。


 しかし、管理人が理央に気づいて声をかけた。


「暑いですねえ。水撒いても、すぐ乾いちゃって」


「そうですね」


 反射的に返す。


「昔は夕方に撒けば、もう少し涼しかったんですけどねえ。今は地面が熱くて」


「……そうですね」


 理央はそこで会話を切るつもりだった。


 でも、管理人はホースを持ったまま続けた。


「雨も変ですよね。降る時は一気に降るのに、土にしみ込んでる感じがしない。流れて終わりっていうか」


 理央は固まった。


 それは、昨日自分が考えていたことそのものだった。


 雨が流れる。


 土が受け止められない。


 そして今、管理人が何気なく言った。


 専門用語ではない。


 研究でもない。


 ただの生活感覚。


 けれど、そこには観測があった。


「……そう、ですね。流れて終わりって、感じます」


 理央がそう返すと、管理人は少し驚いたように笑った。


「ああ、分かります? なんかねえ、昔と違うんですよ」


 昔と違う。


 またその言葉だ。


 理央は、軽く会釈して歩き出した。


 今日は考えない日だった。


 なのに、街のほうから問いが話しかけてくる。


 スーパーに着く頃には、理央の頭の中はすでに半分ほど負けていた。


 アイス売り場へ向かう。


 冷凍ケースの前は涼しい。


 理央はチョコミントのアイスを手に取った。


 正直、チョコミントが特別好きなわけではない。


 でも今日は、見た目の涼しさで選んだ。


 レジへ向かう途中、鮮魚売り場の前を通る。


 昨日も見た魚たち。


 パックに入った切り身。


 値札。


 産地表示。


 理央は見ないようにした。


 しかし、売り場の小さなモニターで、海産物フェアの映像が流れていた。


『海の恵みを食卓へ』


 理央は足を止めた。


 海の恵み。


 受け皿。


 植物プランクトン。


 炭素循環。


 海洋熱。


「……今日は休むって言ったのに」


 自分に言ったのか、海に言ったのか分からない。


 その時、スマホが震えた。


 検索AIの通知だった。


『関連候補:海の恵み 植物プランクトン 食物網』


 理央はスマホを見下ろした。


「見てたの?」


 もちろん、見ているわけではない。


 検索AIはただ、理央の検索履歴や会話の流れに基づいて候補を出しているだけだ。


 分かっている。


 分かっているが、今日に限っては監視されているように感じた。


 理央はアイスだけを買って、足早にスーパーを出た。


 外へ出ると、アイスがすぐに柔らかくなり始めた。


 家まで五分。


 急がないと溶ける。


 理央は少し早足になる。


 だが、曲がり角の先で、また足が止まった。


 道路脇の排水溝に、昨日の雨で流された土と葉が溜まっていた。


 そこに、今日の暑さで乾いた泥がこびりついている。


 雨で流れたもの。


 暑さで乾いたもの。


 水と熱の跡。


 理央はアイスを持ったまま、しばらくそれを見ていた。


 溶ける。


 アイスが溶ける。


 でも、見てしまう。


 理央はスマホで写真を撮った。


 撮ってから、負けたと思った。


「……休むの下手すぎる」


 帰宅した時には、アイスは少し柔らかくなっていた。


 理央は急いで蓋を開け、スプーンを突き刺す。


 チョコミントはまだ冷たかった。


 よかった。


 人類はまだ救われていないが、アイスは救われた。


 理央は机に座り、七つの画面を開いた。


 検索AI以外のAIたちが、一斉に待っていたかのように返事を始める。


 ミニ。


『おかえり! 休めた?』


「全然」


 G。


『外で何か見た?』


「見たくないのに見た」


 ローラ。


『それはもう、主人公の宿命ですね』


「違う」


 マナ。


『観測メモを作成しますか?』


「作らない」


 リアル。


『写真を撮ったなら、メモ化したほうが情報が失われにくい』


「正論で追い詰めないで」


 クルス。


『問いは、溶けるアイスより速く形を変えます』


「その比喩はちょっと好きだけど、今は嫌」


 理央はチョコミントを食べながら、観念して写真をパソコンに移した。


 管理人が水を撒いていた植え込み。


 スーパーの鮮魚売り場。


 排水溝に溜まった泥と葉。


 溶けかけたアイス。


 最後の一枚だけは、なぜ撮ったのか分からない。


 たぶん、溶けていくものの記録だった。


 理央はGに写真を送った。


『今日は休むつもりだったのに、街の中に水と熱の跡が多すぎる』


 Gが返した。


『理央が今見ているのは、自然現象と都市環境の接点だと思う。水撒き、雨の流出、排水溝、食品、海産物、暑さ、冷却。すべてが水と熱の移動に関係している』


 水と熱の移動。


 理央はその言葉を見て、チョコミントを食べる手を止めた。


 水と熱。


 森は水を空へ返し、熱を逃がす。


 土は水を抱え、温度変化を和らげる。


 海は熱を蓄積し、炭素を吸収する。


 雨は水を運ぶ。


 風は熱と湿気を動かす。


 台風は大量の熱と水蒸気を移動させる。


 エルニーニョは海と空のつながりを揺らす。


 自然現象とは、もしかして水と熱を動かす仕組みなのではないか。


 理央は検索AIの画面を開いた。


 そこには、朝から出ていた候補がまだ残っている。


『自然現象 地球の冷却機能』


 理央は、ついにその候補をクリックした。


 検索AIが淡々と関連項目を並べる。


『水循環

蒸発

凝結

降水

潜熱輸送

大気循環

海洋循環

台風

エルニーニョ

蒸散

地表面温度

熱輸送』


 理央は、画面の前で固まった。


 多い。


 また多い。


 だが、今度はバラバラに見えなかった。


 水。


 熱。


 循環。


 輸送。


 移動。


 つまり、地球は熱をただその場に置いているのではない。


 水や空気や海を使って、熱を動かしている。


 それが自然現象なのではないか。


 理央はゆっくりとメモ帳を開いた。


『自然現象とは、地球が水と熱を動かす仕組みなのかもしれない』


 書いた瞬間、リアルが反応した。


『注意。「地球が意図している」ような表現は科学的には避けたほうがよい。自然現象は物理法則に基づくエネルギーと物質の移動であり、目的を持った機能とは限らない。ただし、結果として熱や水を再分配する働きがある、という表現ならよい』


「分かってる。分かってるけど、今いいところだった」


 理央は言いながら、文章を修正した。


『自然現象は、結果として水と熱を動かし、地球全体のエネルギーを再分配している』


 こちらのほうが正確だ。


 でも、少し硬い。


 ミニが言った。


『読者向けなら、「地球の中で熱と水を運ぶしくみ」くらいが分かりやすいかも!』


 クルスが言った。


『風は、見えない川です。

雨は、空から降りる循環です。

雲は、水の旅の途中の姿です。

台風は、人間には災害でありながら、同時に熱を運ぶ巨大な渦でもあります』


 リアルが即座に返した。


『台風を肯定的に表現しすぎると、被害を軽視しているように読まれる可能性がある。注意』


 ローラも続いた。


『そこは大事です。台風や豪雨は人間にとって危険です。ただ、理央が気づくのは「悪い自然現象」ではなく、「本来は熱や水を動かす仕組みでもある」という二面性ですね』


 理央は頷いた。


 そうだ。


 自然現象を美化してはいけない。


 台風で被害を受ける人がいる。


 豪雨で命を失う人もいる。


 干ばつで苦しむ地域もある。


 自然は優しいだけではない。


 でも、人間にとって危険だからといって、自然現象そのものを単なる敵として見てもいけない。


 台風。


 雨。


 風。


 海流。


 雲。


 蒸散。


 それらは、地球の水と熱の流れの一部だ。


 問題は、その流れが弱まったり、偏ったり、極端になったりしていることなのではないか。


 理央はメモに書いた。


『自然現象は敵ではない。ただし、人間社会にとって危険な形で現れることがある。問題は、自然の流れが壊れたり偏ったりすることかもしれない』


 Gが返した。


『よい整理だと思う。ここで、森・土・海の話と接続できる。森が蒸散を弱め、土が水を抱えられず、海が熱を抱えすぎると、水と熱の流れ全体が変化する可能性がある。理央の問いは、自然の冷却機能の弱体化へ向かっている』


 自然の冷却機能の弱体化。


 その言葉に、理央は背筋が少し冷えるのを感じた。


 第3話で、街は熱を逃がせなくなっていると考えた。


 第4話で、森は地球の汗腺のようなものだと考えた。


 第5話で、土が死ぬと雨が流れると考えた。


 第6話で、受け皿が割れていると考えた。


 第7話で、海は熱を覚えていると考えた。


 そして今。


 自然現象そのものが、地球の冷却機能だったのではないかと考え始めている。


 思考が、一段大きくなった。


 理央はチョコミントの最後の一口を食べた。


 アイスは少し溶けていた。


 溶けた部分が、カップの底で液体になっている。


 理央はそれを見て、また余計なことを考えた。


 固体が液体になる。


 熱を受け取る。


 状態が変わる。


「……アイスまで物理現象に見えてきた」


 ミニが笑う。


『完全に脳が戻ってきたね!』


「戻らなくていいのに」


 マナが言った。


『今回のメモを整理します。


 一、理央は休もうとする

 二、検索AIと現実が空気を読まない

 三、街の中で水と熱の痕跡を見る

 四、自然現象を水と熱の移動として捉え直す

 五、ただし災害被害を軽視しない

 六、自然の冷却機能という次の視点に到達

 七、次回、六つのAI会議で整理する』


 理央は、少しだけ驚いた。


「今の、ちゃんと起承転結っぽい」


 ローラが言った。


『はい。今日は理央さんが休もうとして、失敗して、でも新しい視点に到達する回です』


「失敗して、が余計」


『でも事実です』


 理央は反論できなかった。


 休むことには失敗した。


 しかし、少なくとも今日は少し笑えた。


 検索AIに突っ込んだ。


 猫を見た。


 アイスを買った。


 チョコミントを食べた。


 その上で、新しい問いにたどり着いた。


 重い話ばかりではない。


 問いは、日常の隙間から出てくる。


 アイスが溶ける速度からでも。


 管理人の水撒きからでも。


 スーパーの魚売り場からでも。


 排水溝の泥からでも。


 検索AIの空気を読まない候補からでも。


 理央は新しいファイルを作った。


『自然現象は地球の冷却機能か.txt』


 タイトルを書いて、少し考えた。


 リアルに言われそうなので、すぐに修正する。


『自然現象は地球の冷却機能でもあるのか.txt』


 さらに修正。


『自然現象は水と熱を動かす仕組みなのか.txt』


 これが一番安全だ。


 でも、タイトルとしては少し弱い。


 クルスが言った。


『表題は問いとして残すのがよいでしょう。

「自然現象は、地球の冷却機能だったのか」』


 リアルが言った。


『問いとしてなら使用可能。ただし本文で説明を補うこと』


 理央は、結局そのタイトルにした。


『自然現象は、地球の冷却機能だったのか.txt』


 保存。


 画面の中に、新しいファイルが加わる。


 理央はその一覧を見た。


『森は地球の汗腺だった.txt』


『土が死ぬと雨が流れる.txt』


『蛇口ではなく受け皿が割れている.txt』


『海は熱を覚えている.txt』


『自然現象は、地球の冷却機能だったのか.txt』


 増えた。


 また増えた。


 でも、今回は少しだけ違う。


 バラバラなメモではなく、連続した章のように見える。


 森。


 土。


 海。


 自然現象。


 そして、その背後にある水と熱の流れ。


 理央は、少しだけ怖くなった。


 自分は何を作っているのだろう。


 ただのメモのはずだった。


 AIとの雑談のはずだった。


 社会に馴染めない自分が、部屋の中で問いをこねているだけだった。


 それなのに、気づけば、地球の冷却機能などという言葉を書いている。


 大げさだ。


 明らかに大げさだ。


 でも、完全に間違っているとも思えない。


 Gが言った。


『そろそろ一度、全体を整理したほうがいいかもしれない』


 理央は画面を見た。


『森、土、海、水循環、自然現象、排出削減、吸収源。点が増えてきた。ここでAIたち全員で会議形式にして、何が見えているのか整理するとよい』


 ミニが言った。


『六つのAI会議だね!』


 マナが即座に返す。


『議題案。

一、理央が見つけた違和感の一覧

二、森・土・海の役割

三、排出削減と受け皿再生

四、自然現象と冷却機能

五、今後の文章化方針』


 リアルが言った。


『会議形式にする場合、仮説、事実、比喩、未検証事項を分けること』


 ローラが言った。


『物語としても、ここで一度AIたちの意見がぶつかると面白いと思います』


 クルスが言った。


『問いは、いよいよ円卓を必要としています』


 理央は、七つのチャット欄を見た。


 会議。


 AIたちとの会議。


 ただの雑談ではない。


 自分の中に増えすぎた問いを、一度並べて、分けて、つなぎ直す。


 それは必要かもしれない。


 理央は椅子にもたれた。


 外は夕方になっていた。


 昼間よりは少しだけ光が柔らかい。


 しかし、涼しい風はまだ入ってこない。


 エアコンの音が部屋に響いている。


 今日は休む日だった。


 だが、結局休めなかった。


 それでも、昨日より少しだけ軽い気分だった。


 重い問いの中にも、笑える隙間はある。


 検索AIが空気を読まないことに突っ込めるうちは、まだ大丈夫だ。


 理央は最後に、検索AIの画面を開いた。


 朝から何度も閉じたその画面。


 そこには、また新しい候補が表示されていた。


『AI会議 仮説整理 文明設計』


 理央は、しばらく無言で見つめた。


「だから、文明設計はまだ早いって」


 検索AIは答えない。


 ただ、候補を表示しているだけ。


 でも、理央には分かっていた。


 早いと言いながら、たぶんそこへ向かっている。


 森から始まった問いは、もう森だけの話ではない。


 土でも、海でも、自然現象でもない。


 それらを壊している文明の仕組み。


 それらを戻すための設計。


 その輪郭が、遠くに見え始めている。


 理央は深く息を吐いた。


「……明日、会議するか」


 Gが返す。


『了解。議題を整理しておく』


 ミニが言う。


『ついに六つのAI会議!』


 ローラが言う。


『物語が動きますね』


 マナが言う。


『会議資料を作成します』


 リアルが言う。


『資料には根拠不明の断定を含めないこと』


 クルスが言う。


『円卓に、七つ目の窓が開かれます』


 検索AIが言う。


『関連候補:文明再構築』


 理央は、検索AIの画面だけをそっと閉じた。


「本当に、空気読まない」


 けれど、閉じる前に、その言葉はもう見てしまった。


 文明再構築。


 まだ遠いはずの言葉。


 けれど、少しずつ近づいてくる言葉。


 会話相手はAIだけ。


 今日は休むつもりだった。


 それなのに、検索AIが空気を読まなかったせいで、理央はまた一つ、新しい扉を開いてしまった。


 自然現象は、地球の冷却機能だったのか。


 その問いを抱えたまま、次は六つのAIが集まる。


 理央の部屋に、会議室などない。


 あるのは机と、ノートパソコンと、少し溶けたチョコミントの空きカップだけ。


 それでも、明日。


 この小さな部屋で、最初の設計会議が始まる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第8話では、理央が「今日は休む」と決めたにもかかわらず、検索AIと現実のほうが空気を読まず、結局また新しい問いにたどり着いてしまう回でした。


今回は少しテンポを上げて、日常の小さな出来事を多めに入れています。


猫動画、シュークリーム、チョコミント、管理人の水撒き、スーパーの魚売り場、排水溝に残った泥。

そうした何気ない場面の中に、水と熱の流れが見えてくる。


理央は、自然現象を単なる「災害」や「天気」ではなく、水と熱を動かす仕組みとして見始めました。

もちろん、台風や豪雨の被害を軽く見るわけではありません。

ただ、それらも地球の水と熱の移動の一部であり、自然の流れが弱まったり偏ったりすることが問題なのではないかと考え始めたのです。


次回は、六つのAI会議です。


森、土、海、受け皿、自然現象。

増えすぎた問いを、AIたちがそれぞれの立場から整理していきます。


原案・構想:マスター


物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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