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安寧求むる君たちへ  作者: 形而上ロマンティスト
第一章:旅立ち

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2/17

アイデア

「おい、シャンティ、お前、俺の話聞いてんのか?おい、ぼーっとしてんじゃねぇよ、結構ヤバイこと言ったんだからな、俺。」


 昼下がりの授業中。教室の中に生温かい陽光が差し込む。食後の睡魔に身を委ね、俺はぼんやり虚空を眺めていた。

 そんな俺の霞む意識を現実に引き摺り出さんと、高揚としたサハの声がイヤホン越しに聞こえてくる。あぁ、せっかくの微睡を台無しにされた気分だ。


「ああ?なんだようるせぇな、俺のお昼寝タイム邪魔すんじゃねぇ。」


「お前なぁ、クラスのど真ん中でそんな堂々と昼寝できんの、もはや感心するぜ。」


「いや昼飯後の歴史の授業とか寝るだろ、普通。」



『…かったかぁ〜?ーーだから俺たちはこの戦争で…ーー覚えておくように。これはーーー』



 逍遥する意識にかろうじて届く歴史の授業。きっと、歴史とか言っといて、本質は俺たちが兵として戦争に駆り出されることが如何に光栄か、名誉なのかを謳っているんだろう。


 この星、ドーラムは現在戦争の真っ最中だ。戦争といっても、他国とか他大陸との醜い争いなんかじゃない。星間せいかん戦争、すなわち、俺たちは今、宇宙を跨いだ他星と争っている。


 ことの発端を語るには、俺たちの暮らす星、ドーラムについて少し説明しておかなきゃならない。

 遡ること20年ほど前。その昔、このドーラムに巨大な隕石が墜落した。その被害は凄まじく、当時最も大きな大陸であったサルヴァー大陸の三分の一を海に沈めた程であった。しかし、その災厄がもたらしたのはただ甚大な被害だけではなかった。

 どこからきたのか不明なその隕石からは、ドーラムに存在し得なかった未知の物質が多数発見されたのだ。不思議なことに、その隕石はいわゆる金属や半導体に近い素材で構成されており、そしてその大半が新発見の物質であったことから、これらは当時の科学技術の発達に大きく貢献することとなった。


 その発達における最たる例は、「意思」の理論化。つまり、「意思」を物理的に紐解く理論の完成だ。俺も詳しくはよく知らないが、たとえば重力は目に見えない力で我々を地に押し付けるように、我々の意思も目に見えないながら現実に物理的な作用を及ぼしているのだという。

 この「意思理論」は革新的な発見であり、それを利用する技術も次々に開発された。今では当たり前となった、「意思感受型自動翻訳機イシカンジュガタジドウホンヤクキ」なんかは、人が話す際に発される「意思波」なるものを感知し分析することで、言わんとしていることを瞬時に理解し翻訳する機器であり、ドーラムにおける言語の壁が一気に崩壊した革命であった。


 言語の壁が失われたことによる国、人種間の差分が徐々に失われ、同じ”種”としての団結を深めると同時に、我々人類は宇宙を超え、異星人との交流を始めた。

 ドーラムの周囲には俺たちと似たような生物学的進化を辿った星がいくつもあり、ある星はより高度な、ある星はより質素な文明を築いていた。


 さて、戦争の話に戻ろう。現在俺たちが対立している敵星てきぼしはドゥルバーという。とは言っても、実はドゥルバーとは十数年前までは積極的に交流していた星の一つだったと言う。文明レベルの近しい両星は協調し、互いに食や技術、文化などをシェアする関係となり、さらには両星間をつなぐ宇宙船トンネルを作る計画まであったそうだ。

 しかし、この関係性を一気に崩壊させたのは、ある事実の発覚。それは、新たな超巨大隕石がドゥルバーへ凄まじいスピードと熱を帯びながら接近しているという観測だ。そのサイズはかつてドーラムを襲ったものの雄に三倍はあるとされ、それがもし本当に実在し衝突を起こすというのならば、星の一つや二つなど、簡単に消し飛ばしてしまうほどの大厄災である。


 この事実発覚後、ドーラム-ドゥルバー間の関係は劇的に悪化。ドゥルバーの友好はもともと移住目的だっただの、彼らは隕石の接近を知っていておきながら黙っていただの、さまざまな憶測が立ち並び、最終的に戦争にまで発展したという顛末だ。

 初めの頃は隕石接近まで時間があったことから、それこそじわじわとドゥルバーを敵対するようになっていったドーラムだったが、近年はますます高まる緊張感。隕石衝突までおよそ残り2年という窮地に追いやられたドゥルバーは、何ふり構わずの体を示しているらしい。


 まぁ正直、俺にとってはこの星の安全も、隣星の存続も、全く興味はないのだが…。



「いやお前、いくら眠いっても先生の目の前で寝るって…心臓に毛生え過ぎだろ笑」


「平気平気。先生優しいし。俺、歴史得意だし。」


「先生、なんかお前にだけ妙に優しいよなぁ、羨ましいぜ〜。

 ってか、そんなことより俺、やばいこと考えついたんよ!シャンティ、聞いてくれよぉ〜!」



 ところで、このうるさい奴はサハ。俺たちは自分達の両親を失った、あるいは知らない、いわゆる孤児だ。

 とは言っても、この星では孤児というのはそんなに稀な存在じゃない。それもそのはず、二十年前の隕石衝突に近年の星間戦争。親を亡くしたり親元から離されたりする子供が多くいるのは理解に易いだろう。

 この孤児院『エーカンテ』はそんな孤児を大人になるまで面倒を見る施設の一つ。クラスは年齢ごとに大まかに区分されており、俺たちは今一番年長のクラス、A組に割り当てられている。A組は俺とサハ以外に5人、すなわち計7人で構成されており、割とみんな仲がいい。

 中でもとりわけ、サハとは俺がこの孤児院に入った頃からの仲で、俺にとって最も仲の良い友達だ。最も、見て分かる通り性格は真反対なのだが。



「分かったわかった、聞いてる、聞いてるってば。で、今度は何するつもりなんだって…?」


「マジお前これ聞いたら眠気飛ぶぞ〜、ゴホン。それでは改めまして。

 ーーーシャンティ、お前さ、俺と一緒にこの星から逃亡しねぇか?」


「……は?」




〜ドーラム豆知識その1〜

シャンティは現在17歳。黒髪で目つきは鋭く、シュッとした理的そうな面立ちをしているぞ。孤児院では勉学にも運動にもそこそこの適性を発揮しており、全体的に上の下くらいの成績だ。

ちなみに、この星の成人は18歳。だからシャンティはギリギリ成人前だ。

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