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遅れてしまい大変申し訳有りません。諸事情で、一週間に一度の投稿にしたいと思います。

『長、これからコルシアと森に行く。ついでに何か狩ってくるつもりだが、伝えるべきことは何かあるか?』

『昼までには帰ってこい。盟友の長殿に会いに行く』

『わかった。行ってくる』


朝食の後、そんな会話を長と交わしたリィは家を出た。玄関の前には、もうすでにコルシアが待っていた。


[リィさん!やぁっと来たぁ!ね、早く行こ?]

『……待たせたな』

[大丈夫!行こ!!]


リィの手を握り、コルシアは駆け出した。薄い水色のスカートが翻るのをリィはぼんやりと見た。同じくらいの背丈の彼女は、自分よりもひどく幼く感じられた。




『何でこんなところに誘ったんだ?』


二人は森の奥の木の根元に座り込んでいた。辺りでは鳥がさえずり、大変賑やかだ。


[……あのね、私ね]


コルシアは暫しの沈黙の後、上を見上げながら口を開いた。リィもつられて上を見る。そこにはまるで自分たちを覆うような何重にも重なった木の枝や葉があり、その隙間からチラチラと陽の光が差し込んでいた。


[ずっとね、ヒトは怖い生き物だって習ってきたの。だからね、最初にリィさんを見たとき、すごく怖かった]


あぁ、とリィは首肯する。確かに初めて顔を合わせたとき、コルシアは母親の陰に隠れてこちらを怯えたように伺うだけだった。挨拶を母親に促されても、黙りこんだままだったので、リィから話しかけたのだ。


[でも、態度の悪かった私に話しかけてくれて、優しくしてくれて。このヒトは怖くないんだなって思った]

『……できれば俺のことは魔狼だと考えてくれたら嬉しいんだが』

[仕草とかは魔狼の長殿にそっくりで、ちょっとおかしかった]

『……そ、そうか』

[あのね、今日私は、リィさんに一つお願いしたいことがあってここに一緒に来たの!ここはね、私の秘密基地なんだよ。お母さんもお父さんも、里長だって知らない、私だけの場所なの]


そんな場所に会って数日の自分が来てもいいのか、とリィは少しばかりおののいた。

というか、そんな凄い場所に連れてこられてされるお願いとは一体どんなことなのか。リィは身構えた。


[あのね……]


リィは黙って続きを待つ。コルシアは少し顔を赤らめ、大きく息を吸った。


[リィさん、私のお兄ちゃんになってください!!]


勢いよく叫ばれたその声によって、一瞬森は静まり返った。ついでにリィの身体も思考回路も停止した。


『お兄ちゃんって……え?』


混乱しながらも辛うじて聞くと、コルシアは照れ臭そうに身を捩らせた。


[私ね、ずぅっとお兄ちゃんかお姉ちゃんがほしかったの。私は一人っ子だから、これから下が増えることはあっても上の兄弟はないじゃない……?でも、リィさんが来て、お兄ちゃんってこんな感じなのかなって思ったの。ダメだった……?]


悲しげな顔でこちらを見つめてくるコルシアに、リィは慌てた。


『い、いや別に、いけないわけじゃあ無いんだ……』

[じゃあお兄ちゃんって呼ぶね!!]


けろっと表情を入れ替えて、嬉しそうにコルシアは言った。さっきの悲しげな表情は一体何だったのか。リィは脱力するのを感じた。


次の瞬間。


リィは四つ足で立ち、頭を少し低くして、警戒態勢になった。


[り……お兄ちゃん……?]


コルシアの戸惑ったような声に反応することなく、リィは周囲を見渡した。

(近くで吐き気を催すような気配がする)

リィは更に、魔法を使って広範囲の気配を探った。この気配は、このちぐはぐさが気持ち悪い気配は知っている。


『……コルシア。俺は暫し辺りの様子を見てくる。近くにヒトが紛れ込んだみたいだ。できるだけ気配を消して隠れていろ』

[えっ……?]


そう言い残し、リィは素早く音を立てずに駆け出した。未だ状況をうまく把握できずに、戸惑うコルシアを残して。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


風の魔法も使い、リィはできるだけ早く地を駆けヒトの元に向かった。

(数はーー三。一番強そうなやつをまず潰すか)

走り続けているとすぐに、大柄な一人の男が見えてくる。壮年の精悍な顔つきをした男性だった。

リィは速度を緩めることなく、男の隣を駆け抜けた。


「なっ……今何か……ガッああアアァァァ!?」


鈍い音を立て、男の両腕が落ちる。一拍ののち男は絶叫し、崩れ落ちた。リィは二メートル程の距離を残しつつ、足を止めて男の方を振り返った。


「何用で此処に来た」


淡々と問いかける。しかし、男は切り落とされた腕の痛みに呻きながら、地面をのたうち回るだけだった。辺りには傷から吹き出た血で、生臭い匂いが漂う。気がつくと先程までよく聞こえていた鳥の鳴き声が消え、男のたてる音だけが静かな森に響いていた。


「何用で、来た」


リィは一歩、男に向かって踏み出した。その瞬間、男の頬に浅い傷がつき、血がたらりと垂れた。


「ひっ……ヒィイイイ!やめ……」

「何故、此処に来たと聞いている」

「ばっ……化け物ッ!!言う!!言うから傷を治してくれ!!死んじまう!!」

「早く言え」


怯え、痛みに呻く男の言葉を歯牙にもかけず、リィは一歩一歩、ゆっくりと男に近づく。足が地面につくたび、男に傷が増えていく。


「たっ……頼まれたんだよ!!この森の調査をしてきてくれって!!」

「誰に」

「しっ知らねぇ!ギルドの依頼だ!……来るなぁッ!!」


最後に大きく叫んだ男は、地面に力なく倒れこんだ。リィがもういくつか傷をつけても何も反応しない。どうやら気絶したらしい。

リィは、自分の衣服の端をちぎり包帯代わりにして、傷の止血をした。男の両腕は、肘の少し上から綺麗になくなっていた。そのあとリィは、男の腱を切り裂いた。これもきちんと止血を行えば、死ぬことはないだろう。将来歩けるようになるかはわからないが。


『……ッ!!』


その作業をしている最中に、コルシアのいる方に別の二人の男が向かっているのを感じ取り、リィはそちらに駆け出した。

辿り着けば、震え、うずくまるコルシアに白い鎧の男がナイフを振り上げていた。それを、近くの木に寄りかかった荒い格好をした男がニヤニヤと笑いながら眺めていた。


『やめろ』


唸りながら、リィはナイフを蹴り飛ばし、白い鎧の男に向かって風の魔法を放った。

誤字脱字等ございましたらお手数ですがお知らせいただけるとありがたいです。


読んでいただき有難うございます。

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