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2.第一回実力テスト「リンゴ」(1/2)



……学校中が、阿鼻叫喚の地獄と化していた。


「いやああああ!!?な、な、なんで!?どうして!?」


「ちょっとどういうことだよ!!意味わかんねえって!」


どこそかしこから絶叫が聞こえた。山口くんも和田の友だちも、腰が抜けた者を除いて、みんなその場から散り散りに逃げた。


「な、何が起きてるんだ!?」


「なにこれ……!?一体どうして……!」


震える声で狼狽える海斗と直樹の姿が、俺の目に飛び込んできた。


それを見てハッと我に返った俺は、彼らに向かって「二人とも!」と叫んだ。


「俺のところへ来てくれ!」


「ああ!?なんだよ優太郎!いきなり!」


「いいから!とにかくこっちへ!」


二人は怪訝な顔をしながらも、俺の元へと走ってきた。


「いいか、海斗、直樹。まずは落ち着くんだ。深呼吸しよう」


「深呼吸?」


「頼む、一緒にやってくれ」


「……………………」


「いくぞ?吸って、吐いて、吸って……」


俺がかけ声をかけながら、三人で深呼吸をした。何度か繰り返していくうちに、俺たちはさっきよりは落ち着いた表情になっていた。


正直俺も、和田が目の前で死ぬのはかなり堪えた。頭が吹き飛ぶ瞬間が、脳裏にこびりついて離れない。


自分の心を落ち着かせるためにも、二人に向かって冷静な口調でいることを心がけた。


「……なあ二人とも。今はとにかく、何が起きているのかきちんと理解しよう。パニックになるのが一番ヤバイ」


「「……………………」」


「まだ憶測だけど、このテストは……『悪いこと』をすると殺される」


「悪いこと……?」


直樹の問いかけに、俺はこくりと頷いた。


「和田は死ぬ直前、頭の上にある点数が0になった。この点数が無くなると、死ぬんだと思う」


「!マ、マジかそれ?」


「ああ、たぶんな」


「「……………………」」


二人は強張った顔で、自分の頭上の点数を見上げていた。


「ちょっと!私のリンゴ返してよ!」


そんな時、遠くの方でリンゴの取り合いをしている二人組の女の子がいた。


その子たちの喧騒が耳に届いた俺たちは、すっとそちらの方に顔を向けた。 彼女たちの点数は、どちらも1点だった。


「私が最初に見つけたの!返して!返してよ!」


「ウチが最初に見つけたんだし!はやくどっか行って!うざい!」


彼女たちは、髪の掴み合いになるほどに喧嘩がヒートアップしていた。そして、片方の女の子が「離してよ!ブス!」と叫んだ瞬間に、頭上の点数が0点になった。


そして。



ぱああああんっ!!!



頭は和田の時と同じように、粉々に弾けとんだ。


「うわっ!」


俺たち三人は直ぐ様、目を背けた。


「いやあああ!!いやあ!!いやあ!!」


生き残った方の女の子は、顔中が血にまみれて、発狂していた。


腰が抜けてその場にへたりこんでしまい、顔を地面に埋めてぶるぶると震えていた。そして、手に持っていたリンゴを小さくかじっていた。


「……やっぱり、それっぽいな」


俺は二人に向かってそう告げた。


「ブスと言ったら……つまり、悪口を言ったら点数が減点された。そして、0になった瞬間に……」


この時、俺は「死んだ」という言葉を口にできなかった。あまりにも直接的すぎる言い方で、 俺自身怖くて仕方なかった。


「……悪いことっていうのは、どういうことなんだろう?」


直樹が震える声で呟く。


「何をもって『悪いこと』と判定するんだろう?さっきのブスとかは間違いなく悪口なんだろうけど……。線引きがはっきりしてないと、うっかり口を滑らせて死ぬ……なんてこともあり得るよね」


「……そうだな、確かにその線引きは曖昧だ」


「あんまり無用心に喋らない方がいいかもね……」


「ああ」


「お、おい、優太郎!直樹!さっさとこんな学校からずらかろうぜ!警察に行って、この話をしなきゃよ!」


「……警察、か」


「なんだよ優太郎?こんな大事件、警察に言わないでどうするんだよ!」


「……いや、確かに海斗の言う通りなんだけどさ……」


「だったらちんたら迷ってる暇なんかねえぞ!さっさと抜けようぜ!」


「……………………」


俺はこの時、何か言い様のない不気味な予感を感じていた。


ざざざと背中に虫が這ってくるような、そんな気味の悪い予感。


だがそんな予感を感じつつも、今の俺には海斗の提案を否定する材料がなかったので、ひとまず三人で正門に向かうことにした。


「………………」


てっきり他の天使が見張りでもしているのかと思ったが、拍子抜けするくらいに、そこには誰もいなかった。


それどころか、正門には施錠がされておらず、広く開け放たれていた。逆にそれが、俺には不気味だった。


(……変だな、これは。嫌な予感がする)


正門へと向かう足取りが、どんどんと重くなってきた。それに気がついた海斗が走りながら「何してんだよ!」と一括してきた。


「もっと走れよ!早くここから出ねえと!」


「……………………」


「おいって!優太郎!」


「……なあ海斗。やっぱりちょっと出るのは待とうぜ」


「なに!?」


俺は走るのを止めて、ついにその場に立ち止まった。 海斗も直樹も、俺の動きに合わせてその場に止まった。


「すんなりこの正門を潜らせるようにしてるのは……変だ」


「なんでだ優太郎?なんでそう言い切れる?」


「いや、なんつうか……こんな簡単に、出れていいのか?」


「……………………」


「この正門を通るのも『悪いこと』判定されたら、減点されちまう。もう少し慎重に……」


と、俺がそう二人に話していた時。


「うわあああ!!もう嫌だ!嫌だあああ!!」


俺たち三人の脇を、見知らぬ男子生徒が走り抜けて行った。


彼の背中は血にまみれて、真っ赤に汚れていた。彼の頭上の点数は、4点だった。


俺たちはみんな3点がスタートラインだ。だから4点である彼は、もう既にリンゴをかじってクリアしていることになる。


それでもこうして逃げてきたのは、あまりの悲惨な現状に耐えられなくなったからだろう。


「お母さん!お母さん!」


泣きくじゃりながら、その男子生徒は正門を超えて、学校の敷地外へと足を踏み入れた。


その途端。



パアアアアンっ!!!



……頭上の点数は一気に0にされて、直ぐ様殺された。


「うわあああ!!」


直樹が悲鳴を上げた。 彼の死体はその場にひざまづき、仰向けになって倒れた。


「……あ、あ、危なかった」


直樹はぶるぶると震える声で呟いた。


「い、一瞬で4点も減点された。3点の僕たちじゃ、絶対ここは、通れない……」


「ああ……」


「……………………」


海斗は、ギリギリと歯を食い縛っていた。そしておもむろにポケットへ手を入れると、スマホを取り出した。


「ここが通れないんだったら!通報すりゃいいんだよ!」


そう言って海斗が電話をかけた先は、110番通報だった。電話の向こう側で『はい、こちら東区警察署です』という受付の声が聞こえてきた。


「あ、あの!今学校で人が死んでるんでるんすけど!助けに来てください!」


『人が死んでる!?一体何があったのですか?』


「なんか、天使が突然やって来て!よい子テストだかなんだか言って!今やべえことになってるんすよ!」


海斗の荒ぶる声とは裏腹に、受付の警察官は『ああ!よい子テストですね』と、明るく元気な声で答えてきた。


『よい子テストなら、仕方ありません。お身体に気をつけて、頑張ってくださいね』


「は、はあ!?いやいや!頑張ってくださいじゃなくて!」


『それでは、失礼します』


「おい!ちょっと!ちょっと待てって!」


海斗は何回も何回も、警察へ電話を入れた。だが、結果は同じだった。


『では、頑張ってくださいね~。失礼します』


「おい!待てよ!待てってくれよ!人が死んでんだよ!人が……!」


三回目の電話を無慈悲に切られた時、海斗はいよいよ堪忍袋の緒が切れたみたいで、目にいっぱい涙を浮かべながら、「バカヤローーー!」と叫んでいた。


そして、自分のスマホを思い切り地面へ叩き付けた。


「か、海斗!待て!落ち着け!」


「落ち着け!?落ち着けだと!?こんな時に落ち着いていられるわけ……」


「いいから落ち着け!ほら!減点されてるぞ!」


「えっ!?」


そう言われて、ようやく海斗は頭上を見上げた。もう彼の点数は、既に1点になっていた。


「な、なんで!?いつの間に……!」


「……たぶん、今のが原因だ。バカヤローって言ったのと、スマホを地面に投げて壊したのが減点対象だったんだ」


「……………………」


彼はぼろぼろと涙を流しながら、その場にへたりこんだ。



ピンポンパンポン



『制限時間、残り30分。リンゴは、残り26個です』


天使の無慈悲なアナウンスが、学校中に響き渡った。






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